461 閉会式は大荒れにゃ~


 わしの貞操が守られた翌日……いや、関ヶ原の全ての出し物が終わった翌日……


 閉会式が執り行われる。


「おはようにゃ~」


 わしも閉会式に出席するように言われていたので、時間ギリギリに控え室にお邪魔する。


「遅い!!」


 ちびっこ天皇も公家装束の正装に着替えて待機していたので、出迎えてくれた玉藻は怒っているようだ。


「徳川ですら、とっくに来ておるぞ」

「にゃ!? ごめんにゃ~」


 さすがに、リータとメイバイに犯され掛けて寝坊したと言えないわしは平謝り。寝坊したのに、朝ごはんもモリモリ食べたとも言えないので平謝り。ちょっとした話し合いもあったから遅れたと言えないわしは平謝りだ。


「将軍だけでなく、ご老公も参加するんにゃ~。引退したのに忙しいんだにゃ~」


 巨大タヌキ家康の事を質問してみると、玉藻は説明してくれる。


「いや、ここ百年以上は出席しておらん。関ヶ原に参加したから、出ずにはおられんのかもしれんな」

「そうにゃんだ。珍しい事なんにゃ」

「ああ。それより、その者達はなんじゃ? わらわは、サンドリーヌ王女だけを出席させてくれと頼んだじゃろう?」


 閉会式には、猫ファミリー総出で来てやったので、玉藻は不思議に思っているようだ。服装もさっちゃん以外は普段着。普段着でも、日ノ本ではめったにお目に掛かれない代物で、武器も携帯している。


「最後にゃし、猫の国の王族をちゃんと紹介しようと思ってにゃ」

「しかしじゃな……」

「陛下もそれでいいにゃろ?」

「ああ。かまわないぞ」


 玉藻が渋る中、わしはちびっこ天皇に話を振ると、ふたつ返事で了承。なので、玉藻もそれ以上の事は言わなかった。



 そうして歓談していると、係の公家が呼びに来たので、わし達は控え室を出る。先頭は家康と秀忠。デカイから、ちびっこ天皇に被らないように、先を行く。


 続いて玉藻、家臣が前を歩く事は、露払いの意味もあるらしい。


 真ん中にちびっこ天皇。何やら後光が差しているところを見ると、玉藻がまた呪術を使ってるっぽい。後ろを歩くわし達が眩しいからやめて欲しい。


 ちびっこ天皇の後ろは、さっちゃんと猫ファミリー。さっちゃんをエスコートするわしを先頭に、一列に並んで最後尾はコリス。コリスはデカイけど、これだけ距離を開ければ、ちびっこ天皇に被らないはずだ。


 そうしてわし達は列を組んで歩き、関ヶ原中央の舞台に上がると、他国組はちびっこ天皇の右隣。逆側に、玉藻、秀忠、家康と、背の順で並んだ。



 わし達が所定の位置につき、観客が静かになると、玉藻に目配せされたちびっこ天皇がマイクの前に立つ。


『数日に渡って開催された関ヶ原……』


 ちびっこ天皇が厳かに喋り始めると、観客の視線が集まる。


『今回の関ヶ原は、例年に増して盛り上がった。これは、猫の国のシラタマ王が参加してくれた事も大きかったが、日ノ本の民が居なければ成り立たなかった。他国の者も、喜んでくれたぞ。よく盛り上げてくれた。ちんは、参加者だけでなく、民のひとりひとりに感謝している』


 ちびっこ天皇の感謝の言葉に、観客は感動しているように見える。


『では、今回の結果を発表する』


 ちびっこ天皇は一呼吸置くと、しゃくに書かれているカンニングペーパーを読みながら発表する。


『12対3、二分けで、西軍の勝ち……西軍が勝者だ。皆の者、西軍に盛大な拍手を……』

『ちょっと待ったにゃ~~~!!』


 ちびっこ天皇の発表の途中で、わしは音声拡張魔道具を使って割り込む。すると、大事な関ヶ原を汚されたと感じた、玉藻、家康、秀忠に一斉に睨まれた。

 しかしわしは気にせず、ちびっこ天皇よりも前に出て喋り続ける。


『関ヶ原って、新津にいつを取り合う試合にゃろ? じゃあ、わしにも権利がなくにゃい? 西軍が勝ったにゃ?? 違うにゃろ? 日ノ本が、わしたち猫の国に負けたんにゃ。そうにゃろ?』


 わしのセリフに、観客席がざわざわし出したが、すぐにブーイングに変わる。もちろん、近くに居る者からのブーイングは凄まじく、玉藻、家康、秀忠が詰め寄っていた。


「シラタマ~! そちはいったい何をしたいんじゃ!!」

「にゃにって……新津が欲しいだけにゃ」

「だから、どうしてそうなるんじゃ!!」

「呪力場にゃんて、誰でも欲しがるにゃろ? てか、わしが居にゃければ、西軍の物にならなかったにゃ。にゃにアレ……玉藻の用意した奴は、負けてばっかりにゃ。それにゃのに、西軍の勝ちでいいにゃ? わしだったら、恥ずかしくて新津を自分の物だと言えないにゃ~」

「ぐっ……それでも!」

「ご老公も、そう思うにゃろ~?」


 ぐうの音の出ないと思われた玉藻は、まだ噛み付こうとするので、わしは家康に助けを求める。


「言いたい事はわかるが、新津は日ノ本の財産じゃ! 西に使われるならまだしも、他国に使われては民の為にならんじゃろ!!」

「民の為にゃ? ご老公は、民の為に使っていたのかにゃ~??」

「何が言いたい!!」

「どうせ薬草やら鉄の改良に使っていたんにゃろ? それは誰の元へ行くにゃ? 全部、徳川の懐に入るんにゃろ? 徳川の一部の元しか懐が温まらないんじゃ、わしが使ったほうが、有意義に使えるにゃ~。違うかにゃ?」

「ち……違うに決まっておる!!」

「陛下もそう思わにゃい?」


 わしに言い負かされても噛み付く家康。なので、黙って聞いていたちびっこ天皇にも話を振ってみる。


「お前は、本当に馬鹿だな……日ノ本の土地が、他国の物になど出来る訳がない」

「馬鹿にゃのはそっちにゃ~。大使館って知らにゃいの? 祖国であっても、その国の者が立ち入れない地にゃ。これは、我が国にも他国にもあるにゃ。日ノ本は技術は素晴らしいけど、制度は古すぎるにゃ~。こんにゃ事も知らない馬鹿にゃガキが、王様じゃ仕方ないにゃ~」

「な、なんだと……」


 わしがちびっこ天皇を「馬鹿馬鹿」ののしると、玉藻達だけでなく、これまでの会話は音声拡張魔道具に乗って関ヶ原全土に届いていたので、観客からも殺気のこもったブーイングが飛んで来る。

 そんな中、他国の者であるさっちゃんやリータも、わしを非難する。


「シラタマちゃん! 何を言ってるかわかってるの! 他国の王様に失礼すぎるよ! すぐに撤回しなさい!!」

「そうですよ。酷すぎです。調子に乗らないでください」

「え~! わしは正当な権利を主張しているだけにゃ~。国が潤うようにする事は、王様としたら、当然の事にゃろ~??」


 わしは二人の意見に、二人には念話で反論し、同時に日本語を使って喋る。これで、さっちゃんとリータは日ノ本の味方をしていると思われたはずだ。



 場は騒然。皆はわしにだけ殺気を向け、ちびっこ天皇もこの場を収めようと、最終決断を下す。


「玉藻、家康……この者に言葉は通じない。朕が命ずる……この馬鹿を黙らせろ! 殺してもかまわん! 日ノ本の力を見せてやれ!!」

「「御意!!」」

「陛下、こちらへ!」


 玉藻と家康が力強く返事をすると、秀忠はちびっこ天皇を抱いてこの場を離れる。


「みんにゃ~。あとは頼んだにゃ~」

「「「「はいにゃ~」」」」

「えっ? なに?? モフモフ~!」


 わしが猫ファミリーに声を掛けると、さっちゃんはコリスに抱えられて嬉しそうな声を出し、観客席側に連れ去られて行った。

 その間も玉藻と家康は、わしを睨み殺さんばかりに睨み、戦闘の準備をしていた。


 玉藻は、九尾のキツネ耳ロリ巨乳から、大きな九尾のキツネの姿に戻り、咆哮ほうこうを響かせる。

 家康は、あまり変化は無いが、五尾のタヌキになって四つ足で咆哮を轟かせた。


「お~。日ノ本最高戦力を見ると壮観だにゃ~。二対一にゃし、それじゃあわしも、本気で相手してやるにゃ~」


 わしも玉藻達と同じく、四つ足の小さな猫又に戻って猫撫で声を出す。


「にゃ~~~ご~~~!」


 いや、威嚇の声を出す。その姿を見た玉藻と家康は、何やら念話で話し合っていた。


「見た目で騙されるでないぞ。あやつ、妾よりも強い」

「二度も負かされたんじゃ。わかっておる。しかし、二人でどう戦う?」

「……弱点を攻める」

「弱点とは?」

「打撃じゃ。呪術はまったく効かん。だから、妾が崩して家康が傷を負わす。これしか勝つ道がない」

「なるほど……」


 二人が話し合っているので、準備が終わって暇なわしは、念話で語り掛ける。


「まだにゃの~? 先手を譲ってやろうとしてたのに、もう待ち切れないにゃ~。先にやっちゃうにゃ~」


 わしの念話の届いた二人は、「はっ」として身構える。


「【四獣】にゃ~!」

「な、なんと……」

「これほどとは……」


 火の鳥【朱雀】、風の虎【白虎】、氷の龍【青龍】、各々10メートルの魔法生物を作り出し、20メートルはある土の亀【玄武】の背に乗って高らかに笑う。


「にゃ~しゃっしゃっしゃっ。どうしたにゃ? 怖じ気付おじけづいたのかにゃ~? にゃ~しゃっしゃっしゃっ」


 その高笑いは、巨大な魔法生物を見た観客にも届いて恐怖する。その時、こんな狂歌が読まれたそうだ。



――泰平の、眠りを覚ます笑う猫、たった一匹で夜も寝られず――


 あとで聞いて、「わしは黒船かい!」と、ツッコンだのは当たり前だ。



 わしの挑発に、玉藻と家康は、また念話で話し合っていた。


「……ただのデカイだけの式神じゃ。おくするでない! 妾が火の鳥と氷の龍を消す。家康は風の虎を頼んだぞ!」

「それぐらいなら、なんとかなる。すぐに助太刀に参ろう」

「助太刀などいらん。土の亀に向かえ。妾もすぐに向かうからな。行くぞ!!」

「おう!」


 ここでようやく二人は前進。玉藻と家康の共闘が始まる。


 わしはと言うと、高見の見物。二人が相手をしやすそうな【四獣】を向かわせる。


 たぶん、これで間違いないはず。お! 玉藻は早くも【青龍】を水蒸気に変えよった。わしに使った【狐火の術】ってヤツかな? たしかあの時も、九本の尻尾から火の玉が飛び出たはずじゃ。

 家康は……【白虎】にやや苦戦中。まぁ五本の尻尾を硬くして風を散らしているし、すぐに消えるじゃろう。

 その間に……いや、同時に終わりそうじゃ。玉藻は、【朱雀】を【氷牢の術】に閉じ込めたな。こりゃ出られん。家康も【白虎】を消した。

 ならば、次は【玄武】じゃ。行け~!!


 わしは後方に跳ぶと同時に【玄武】をドタドタと走らせる。これにも、玉藻と家康は上手く対応。玉藻は爪で引っ掻き、家康は頭を硬くしてタックル。ほぼ同時に【玄武】の前脚は粉々になり、前のめりに滑り込む。

 そこで、【玄武】の首を伸ばして玉藻に噛み付き。玉藻は凄い速度で宙を駆け、【玄武】の首を爪で切り落とした。

 その後は、家康が下から、玉藻が上から【玄武】を貫通し、中央まで侵入すると、【玄武】は左右に弾けたんだ。


「にゃ~しゃっしゃっしゃっ。隙だらけにゃ~」


 空中に浮く玉藻は、【突風】で地面に落とし、同じく家康には、ネコパンチで叩き落とす。

 当然二人にダメージは少なく、わしが目の前に着地するとキッと睨まれた。


「さあ、掛かって来いにゃ~~~!!」


 こうしてわし達の熾烈な戦いは、辺りに影響を出しながらも続くのであった。

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