460 閉会式前夜にゃ~


 百鬼夜行は日が暮れて来たら終了。玉藻が中央の舞台に上がって引き分けを宣言し、ちびっこ天皇から聞いたであろうお褒めの言葉を述べてから、妖怪とお化けは会場を二周して帰って行った。


 それからオクタゴンでも夕食となるのだが、門番のリンリーが血相変えてわしに報告にやって来たので、わしは慌てて入口に向かう。どうやら玉藻とちびっこ天皇が、百鬼夜行を引き連れてやって来たらしい。


「シラタマ! どうなっておる!!」


 リンリーに数人ぶん殴られて、百鬼夜行を潰された玉藻は激オコ。日ノ本の者が攻撃された事に怒っているようだ。


「すまないにゃ~。リンリーが驚いてしまったんにゃ~」

「あんなに強い女子おなごが、この程度で驚いたじゃと?」

「前に文化の違いの話をしたにゃろ? 日ノ本のお化けは、西の地では怖すぎるんにゃ。それに、よく出来すぎにゃ~。そんにゃの、夜にぞろぞろ連れて来たら怖いに決まってるにゃ~」

「そういう事か……こちらにも非があったんじゃな。わかった。今回の件は、不問としておこう。しかし、せっかく連れて来た者が無駄になったな」

「う~ん……慣れた人も居るし、ちょっと聞いて来るにゃ~」


 文化の違いで少し摩擦が生まれたが、お互いの非を認められたから、解決したはずだ。なので、わしは大食堂に走り、見たい人コーナーをオクタゴンの一角に作ると言って、見たくない人は大食堂から出るな脅しておいた。

 これで、百鬼夜行も無駄にならないし、王族達も楽しめるだろう。念の為、王族の安全の為に護衛を募集してみたが、あまり乗り気の者が集まらなかったので、宮本武志たけしと服部半荘はんちゃんにも頼んでおいた。

 まぁコリスもさっちゃんと一緒に見に行くみたいだから、もしもの時はなんとでもなるだろう。


「それで……にゃんで二人は、また晩メシ食ってるんにゃ?」


 いろいろと手配していたら、玉藻とちびっこ天皇が勝手に食っていたので、質問してみる。


「ま、まぁいいじゃろう。陛下もお気に召したのじゃから、光栄に思え」

「え? 玉藻が行こうって……」

「陛下!?」


 どうやらちびっこ天皇より、玉藻のほうが多国籍料理のとりこになっていたようだ。ちびっこ天皇の言葉にあたふたしているので、確実だろう。


「はぁ……いっぱい作ってあるから、好きにゃだけ……玉藻は手加減して食ってくれにゃ」

「さすがシラタマじゃ!」

「手加減してって言ってるにゃろ! 高級肉ばっかり食うにゃ~!!」


 わしと玉藻がケンカしていると、それを見ていたちびっこ天皇が笑い出す。


「あははは。二人は仲がいいな~」

「どこがにゃ?」「どこがじゃ?」

「ほら、息も合ってる」

「「むう……」」


 わしと玉藻は声が重なるのを嫌い、牽制し合っていると、ちびっこ天皇は真面目な顔に変わった。


「玉藻……いい友達が出来てよかったね」

「こやつは友などではない!」

「いや、どう見ても友達だよ。それも対等の友達。長年天皇家に仕えて、初めて対等の者と出会えたんだ。大事にしなよ」

「うっ……恥ずかしい事を言うでない」


 わしも恥ずい! 前に、玉藻にした話を他人から言われると、こうも恥ずかしいのか。そりゃ、そんな言い方されたら、ツンツンするってもんじゃ。


「シラタマも、玉藻と仲良くしてくれ」

「子供にそんにゃ事を言われてもにゃ~」

「この通りだ」


 嫌味を言ったにも関わらず、ちびっこ天皇がは頭を下げるので、わしは慌てて答える。


「わかったにゃ~。わかったから、頭を上げてくれにゃ~」

「頼んだよ。それと、少し二人だけで話をしたいんだけど、どこか案内してくれない?」

「にゃ? わしはいいけど……」


 わしは軽く許可するが、玉藻を見ると、不満があるようだ。


「それはならん。妾の目の届かんところに行かれると、陛下の身が危険じゃ」

「シラタマが居るから大丈夫。守ってくれるよね?」

「そりゃ、天皇の血を絶やすわけにはいかないからにゃ~」

「ほらね? じゃあ行こう!」

「にゃ? ああ」

「絶対、ついて来たらダメだからね!」


 わしはちびっこ天皇に押されて、大食堂の最上階に移動する。いちおうミニ玉藻がついて来ていないか、あらゆる手段を用いて確かめたが、そのような反応は無かった。

 塔の最上階までちびっこ天皇を背負って登ると、エルフの男が見張りをしていたので、しばらく一階で待機しておいてくれと指示を出し、離れて行ったらちびっこ天皇を降ろす。


「うわ~。高いね~。徳川の五重塔より高いんじゃない?」


 最上階からは、宿場町の明かりや徳川の明かりが見て取れ、ちびっこ天皇は子供のようにはしゃいでいる。


「どうかにゃ? 正確には測ってないからにゃ~」

「絶対そうだよ。いい景色だ~」

「にゃはは。玉藻が居にゃいから、羽を伸ばせているみたいだにゃ」

「ちょっとはね。でも、ボクは天皇だから、しっかりしないと。シラタマがうらやましい」

「わしにゃ?」

「だって、国で一番偉いのに、自由気ままにやってるんでしょ? 玉藻から聞いたよ」


 玉藻の奴……あることないこと言いやがって! わしに自由などあるはずがない。王様なんじゃぞ? 書類仕事は……全部奴隷に丸投げ。国の事は……全部代表に丸投げ。それでも、水撒きとか忙しいんじゃ!

 てか、そんな事を言う為に、二人で話をしたいと言い出したのか? いや……王様どうしの話がしたいって事かな? この歳では、さぞかし重圧があるじゃろう。


「やっぱり、日ノ本を背負って立つのは、つらいのかにゃ?」

「まぁ……そうだね。どうしてボクだけって、たまに思う事はあるよ」

「別に一人ってわけじゃないにゃろ」

「どういうこと?」

「家臣が居るにゃ。玉藻が居るにゃ。わしにだって、同じように助けてくれる人がたくさん居るにゃ」

「そうだけど……でも……」

「陛下と同じ立場の人も、いっぱい居るにゃ。みんにゃと握手したにゃろ?」

「握手……あ!」


 泣き言を言っていたちびっこ天皇が気付いたようなので、わしは笑顔で語る。


「世界は広いにゃ。陛下と似たようにゃ境遇、同じ悩みを持つ者は、少なからず居るにゃ。だから、決して一人じゃないにゃ」

「たしかに……そうだね! みんな同じように苦労してるんだね!!」

「そうにゃ。わしも大変にゃ~」

「シラタマも!? ……玉藻が言うには、当て嵌まらない気がする……」

「そこは同じ仲間にしてくれにゃ~」


 今度はわしが泣き言を口走るが、ちびっこ天皇は、結局最後まで仲間に入れてくれなかった。玉藻が「あんな王にはなるな」と、口を酸っぱくして言っていたんだとか……


「もういいにゃ! 話は終わったにゃろ? そろそろ戻ろうにゃ~」

「いや、話はこれからだ」

「にゃ~?」

「実は……」


 キレて食堂に戻ろうとしたが、ちびっこ天皇の険しい顔を見て、わしは最後まで話を聞いてしまうのであった。



 ちびっこ天皇との話を終えると、背負って食堂に戻る。

 そこで、心配した玉藻に「何かされなかったか?」とか、ちびっこ天皇に聞いていたが、何もするわけないじゃろ? 陛下も嘘つかないで! ほら、バレて怒られたじゃろう。さっちゃんと逢い引きさせるわけがなかろう!!


 どうやらちびっこ天皇は嘘を言って、わしとの話の内容をごまかそうとしたらしい。だったら前もって教えてくれていたら、合わせてやったのに……それぐらい察しろですか。そうですか。でも、お前もガキじゃからな?


 わしを「ガキガキ」ののしるので、またケンカに勃発。そのせいで、リータ達にこっぴどく怒られ、わしとちびっこ天皇は、同じぐらいのダメージを受けるのであった。


 そんな事をしていたら、外から「ド~ン! ド~~ン!」と、何かが破裂する大きな音が聞こえて来て、食堂に居た者が騒ぎ出した。なので、玉藻が安全だと皆に言い聞かせ、外に出る。

 オクタゴンの壁は高く作っているので、外に居た者も何事かと怯えていたようだ。しかし、お化けに安全な物だと教わっていたらしく、特別観覧場に向かう人達がいたのでそれに続く。

 その時、お化けを見てダッシュで走る人がいたところを見ると、やはり百鬼夜行は怖いようだ。


 特別観覧場に出ると、そこには、夜空に満面の花が咲いていた。


「「「「「おお~~~」」」」」


 王族一同、今度は感動で、上を向いたまま固まってしまった。だが、東の国の者は見慣れた景色。なので、さっちゃんがわしの元へやって来て質問する。


「これって、シラタマちゃんがやってた花火?」

「さあにゃ~? 似たようにゃ事を考える人も居たもんだにゃ~」

「またとぼける~……タマモ様~」


 また日ノ本出身と疑って来るさっちゃんの質問をいなすと、各国の王族に説明で忙しい玉藻の元へ走って行った。ただ、いろいろな形、様々な花火の種類の説明があるので、さっちゃんはわしの元へしばらく戻って来なかった。

 その間わしは、猫の国組とテーブルにて、かき氷を食べながら花火を見ていた。しかし、それを聞きつけたさっちゃんが大声で宣伝するので、わしはかき氷屋のおやじとなって、王族にかき氷を振る舞うハメとなってしまった。


 まぁそのおかげで、出身地の質問が来なくなったから、ラッキーだったかもしれない。リータ達も手伝ってくれたから早く終わったので、最後のフィナーレは、わしも大声を出して楽しむ事が出来たのであった。



 パラパラと最後の花火が散ると、玉藻達は宿場町に帰って行き、特別観覧場からは人は消え、各国の王族も部屋にて就寝となる。

 わしも猫の国の滞在する部屋に連れ込まれ、お風呂とブラッシング。コリスとオニヒメを寝かし付けると、リータとメイバイに挟まれて、ベッドに横になる。


「ゴロゴロ~。二人とも、にゃんか元気なくにゃい?」

「「………」」


 今日はリータとメイバイの撫で回しがいつもより覇気がないので、気になったわしは質問してみたが、答えが返って来ない。


「どうしたにゃ?」


 再度質問すると、二人は寂しそうな目をして返事をくれる。


「シラタマさんって……何年、生きるの?」

「タマモさんは、九百年も生きてるって本当ニャー?」


 あ~……ご老公に何百年も生きると言ったから、わしもそう受け取られてしまったか。しくったな……二人には、わしが千年も生きるとは知られたくなかった。

 絶対に、二人が居なくなった事を心配しておる。どう答えたものか……嘘をつくのも、二人に悪いか。


「転生した時に、神様から千年生きると言われているにゃ」

「「千年も……」」

「人間からしたら、長い年月だにゃ。でも、心配するにゃ」

「しますよ! 私達はいなくなっちゃうんですよ!!」

「そうニャー! シラタマ殿に、寂しい思いをさせてしまうニャー!!」


 リータとメイバイは涙ながらに訴えるので、わしは優しく頭を撫でて言い聞かせる。


「わしにゃら大丈夫にゃ。愛する者、大事にゃ友達……前世で何度も別れて来たにゃ。だからって、誰ひとり忘れた事はないにゃ。リータとメイバイだって、死ぬまで忘れないにゃ。いや、死んでも忘れないにゃ~」

「「うぅぅ……でも……」」

「それににゃ。コリスも居るにゃ。二人との子供も居るにゃ。孫も居るにゃ。曾孫ひまご玄孫やしゃご……猫の国の住人だって、みんにゃわしの家族にゃ。二人が居にゃくなって寂しい思いをするけど、家族が支えてくれるにゃ。だから、心配しなくても大丈夫にゃ~」

「「子供……孫……」」


 あ……やっちゃったかも? まだ、ヤッてもいないのに、やっちゃったかも??


「私、シラタマさんの子供をいっぱい産んで、寂しい思いをさせません!」

「私もニャー! 十一人は産んで、サッカーチームを作るニャー!」

「では、さっそく……ハァハァ」

「次は私ニャ……ハァハァ」


 ヤバイ……二人の目が、超怖い。このままでは、わしは犯される! えっと、こういう場合は……たしか、夫婦間でも同意が無い場合はレイプが成立するって聞いた事がある。

 ここは法律を説いて……ダメじゃ。ここは日本ではない。今まさに、パジャマを脱ぎ脱ぎしている野生の女に、そんな意味不明な法律は通じないじゃろう。


「待ってにゃ~! まだ心の準備が出来てないにゃ~!!」

「「ハァハァ……優しくするにゃ~」」

「それはわしのセリフにゃろ~!!」


 わしの言葉は聞く耳持たず。二人はわしに襲い掛か……


「話を聞いてにゃ~! 二人も、たぶん二百年ぐらい生きるにゃ~!!」

「「……へ??」」

「イサベレで百年生きてるんにゃよ? ヂーアイで三百年にゃ。まだまだ二人にも時間があるにゃ~!!」


 ようやくわしの言葉は二人の心に響いたのだが……


「私も、あんなにしわくちゃになるの!?」

「あんなのになったら、シラタマ殿に愛されないニャー!」

「「え~~~ん」」


 二人はヂーアイに対してかなり失礼な事を言っているが、さすがに梅干しみたいなババアになりたくないからか、想像しただけで泣き出して、性欲は消えたようだ。


「大丈夫にゃ。大丈夫だからにゃ。ずっと愛し続けるにゃ~」

「「え~~~ん」」


 しかし、宥めるのも時間が掛かり、この日はかなり遅くまで眠れないのであった。


 ちなみに翌朝わしは、ヂーアイに命の恩人かってぐらい感謝したのだが、ヂーアイのおかげでわしの貞操は守られたとは伝えなかったので、めちゃくちゃ不思議がられるのであったとさ。

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