652 アメリヤ王国の視察にゃ~
予期せぬ藤原恵美里との出会いに喜んだ次の日……
「にゃに~? どこに連れて行こうとしてるんにゃ~」
女王がわしの首根っこを掴んで離してくれない。
「ジョージ王が面白い物を見せてくれるのよ。あなたも来なさい」
「それにゃら自分で歩くにゃ~。猫みたいに持つにゃ~」
「「「「「プププ……」」」」」
わしの心からの訴えは、やや受け。皆、「猫なのに」と言いたいようだ。でも、女王は手が疲れたのか抱っこに変わったら、笑い声は消えた。
それからどこに行くのかと自分のバスを運転してジョージの乗るバスを追いかけていたら、海側の外壁に到着。ここの天辺に面白い物があるらしいが、長い階段を上るのは面倒だったので、全員【突風】に乗せて運んであげた。
「と、飛んだ……」
「ジョージ王。王がへたり込んでいては家臣にナメられるわよ。しゃきっとしなさい」
「は、はい!」
空を飛んだ恐怖に腰を抜かしていたジョージは、女王に注意されてせかせかと動き出したが、女王が面白いと言っていた物の正体はすでに見えている。
おいおいおいおい。兵器を見に来たんか~い。たしかに君主からしたら一番面白い物かもしれんけど、ジョージ君も軍事力を探られているんだから断らんか~い。
わしが心の中でツッコミを入れていたら、ジョージはアメリヤ軍トップの白髭の総督を使って兵器の説明をさせる。
そこはわしも聞いておかなくてはいけないのでメモを取りながら質問していたが、女王はメイドウサギにメモを取らせていたから、ジョージにまたわしが王様かどうか疑われてしまった。
「撃て~~~!!」
総督の発射の号令で「ドーン!」とロケット弾が海に放たれ、水柱が何本も立つ。その次には「ズガガガガ」と、口径の大きなマシンガンが火を吹いた。
「ふむ……なかなかの威力のようね」
女王は真面目な顔で兵器の評価をし、リータ達は花火でも見ているように楽しそうにしている。
そうしてサブマシンガンやピストルと言った歩兵が使うような兵器の試射に変わったら、苦虫を噛み潰したような顔で見ているわしの隣に女王が立った。
「なんて顔をしているのよ」
「別に……」
「この武器だと、戦争でかなりの死傷者を出してしまいそうね。未来の日ノ本では、こんな危険な兵器で戦争をしていたのね」
「そうにゃ。これよりもっと強い兵器が開発されて、民間人を含めて五千万人も死んだにゃ」
「そう……」
女王はわしの話を聞いて海の彼方を見つめる。わしも同じように黙って一分ほど見つめていたが、狭い額からダラダラと汗が流れて来ているのでそんな場合ではない。
「さ……さっき、にゃんて言ったにゃ??」
「え? ぶさいくな顔してるわね~……って、言ったかしら??」
「そんにゃ酷いこと言ったにゃ!? い、いや……未来の日ノ本とか言ってにゃかった!?」
女王が酷いとぼけ方をするが、わしの耳には確かに「未来」と言うワードが残っているので、全身の毛穴からドバッと汗が吹き出した。
「フフフ。まさかこんなに簡単に引っ掛かるとはね」
「やっぱり言ってたにゃ! てか、わしもいらんこと言ったにゃ~~~!!」
「ウフフフフフフ」
わしが焦っていると、女王は気持ちの悪い笑い方をしながら頭を撫でて来た。
「誰から聞いたにゃ! イサベレにゃ!? さっちゃんにゃ!?」
女王の手を痛く無い程度に叩き落としたわしは怒鳴る。
「ふ~ん……あの二人は知ってたんだ……」
「にゃ……」
ヤベッ……失言続きじゃ。やっちまった。女王のヤツ、自分で推理してただけじゃ……わしのアホ~~~!!
わしはやらかした事を悔やんで頭を抱えてしゃがみ込んでいたら、女王に首根っこをムンズと掴まれて立たされてしまった。
「さっきの質問に答えてあげるわ」
「にゃ?」
「二人から聞いていないわ。完全に私の推理よ」
マジで? どこに未来とわかる要素があったんじゃ??
「不思議に思っているみたいね。でも、私からしたら、シラタマは謎の塊よ」
でしょうね。猫が立って歩いているもん。
「猫のことじゃないわよ。いえ、それも含めてよ」
久し振りに心を読まれた~! でも、まぁ、いろいろ知識を披露していたんじゃから、謎の塊ってのはわからんでもない。
「謎解きのきっかけを作ったのは、日ノ本よ」
「そ、それだけにゃ??」
「ええ。まず、日ノ本出身ってのは確実でしょう。家、料理、祭り……隠す気があるのかってぐらい酷似していた」
「うぅぅ……玉藻にも言われたにゃ~」
「フフフ。観念したみたいね」
女王はまたわしの頭を撫でて謎解きを続ける。
「次は技術。日ノ本にも電車があった。それに刀に着物。どれも日ノ本を発見する前に、シラタマが東の国に持ち込んだわね」
「日ノ本があるにゃんて知らなかったんにゃ~」
「あんなに難しい言葉や文字をすぐに使いこなすなんて、出来るわけないでしょ」
「ぐうの音も出ませんにゃ」
女王に追い詰められるわしは涙目だ。
「最後に未来の話ね。これは平賀家の技術を遥かに先に行っていたから簡単だと言いたいけど、確証は持てなかった」
「じゃあ、にゃんで……」
「鉄砲よ。あなた、冷静な振りして必死に止めていたでしょう。私には、あんな単発の武器が驚異に思えなかったわ。つまり、鉄砲の先をあなたは知っていたってことよ。そう、ここにあるマシンガンやロケットランチャーのような物をね」
女王はわしを指差して決め顔。
「これらのことから結論付けると、シラタマは未来の日ノ本からやって来た猫よ! 母の名に懸けて!!」
「……にゃはっ……にゃはっにゃはははははは」
そのドヤ顔はわしを笑いの渦に突き落とし、笑いが止まらない。しかし、この反応は女王の意図していたものと違っていたらしく、わしの襟首を掴んで揺らしまくる。
「もう! さっきまでの驚きはどこに行ったのよ!!」
「にゃはっ。だってそのセリフ、未来で有名なんにゃも~ん。にゃはははは」
「笑うな~~~!!」
女王に笑うなと言われても、ツボに入ったわしはしばらく笑い続けるのであったとさ。
「はぁ~。笑ったにゃ~」
「驚かせようと思ったのに……」
わしが笑っていた理由のひとつに、女王がさっちゃんみたいになっていた事もあるのだが、わしも鬼ではないのでその事には触れないでおいてやる。
あと、元人間ってのも抜けていたが、言う必要もないだろう。日ノ本ではキツネやタヌキが歩いているし……
「まぁ女王の正解ってことにしておいてやるにゃ」
「何よ上から……」
「そりゃ上から言うにゃ。どんにゃに脅されても、兵器の輸出はわしが必ず阻止するからにゃ」
「ふ~ん……阻止できるものなら阻止してみなさい。必ずジョージ王を説き伏せてみせるわ」
笑いから一気に真面目な話に変わると、辺りの空気が張り詰める。
「そりゃ無理だにゃ~。もうすでに、猫の国はアメリヤ王国と友好条約を結んでいるにゃ」
「なっ……早すぎる……」
「あと、不平等条約も結んでいるにゃ。兵器、技術関連は、うちを通してじゃないと作らせないにゃ。さらに、世界の平和を乱すようにゃことは、あとから付け足しまくるからにゃ~」
「なっ……なな、なんて酷い条約を結んでるのよ!!」
「だってわしって未来人にゃも~ん。過去に大量殺人した兵器にゃんか、いの一番に潰すに決まってるにゃ~。にゃははははは」
女王が仕事を放り出してまでアメリヤ王国に来た事はわしの計算違いではあったが、こんな条約を結んでいたとは女王の計算外。一手先を打っていたわしの大勝利だ。
こうしてわしの高笑いが響く中、女王は八つ当たりでわしをめちゃくちゃモフリまくるのであった。
「あの~……もういいですか?」
わしと女王の戦いが決し、お互い撫で過ぎたりゴロゴロ言い過ぎたりで「ゼェーゼェー」息を乱していたら、ジョージが申し訳なさそうに声を掛けて来た。
「にゃに~??」
「そろそろ次に行こうかと思いまして……」
「ああ。そんにゃ感じでよろしくにゃ~」
外壁の天辺で「押すな押すな」と言うジョージ達を猫ファミリーで突き落としたら、全員【突風】に乗せてふわりと着地。それから次に移動する。
バスの車内でリータ達に、わしと女王の話は聞こえていたかと質問したら、前もって女王から離れているようにと言われていたとのこと。
わしの秘密が暴かれたので、どうして止めてくれなかったのかと聞いたら、国どうしの内緒話をすると聞かされていたそうだ。
やり手過ぎる女王のせいで、リータ達もやられたと肩を落として撫で回された。謝罪しているようだ。
そうこうしていたら、車工場に到着。工場自体は不平等条約のせいでしばらく稼働できないから製造はストップしているが、製造途中の物が多数あるので、女王はなかなか面白いようだ。
「これはなに?」
「エンジンにゃ」
「あっちの長いのは?」
「ポールシャフトにゃ」
工場長が居るのに、女王はわしにばかり質問して来てうっとうしい。ジョージより詳しく知り過ぎているので、工場長はわしの事を他国で車を作っている技術者だと勘違いしていた。
猫で王様だから、ヘッドハンティングしないでくれる? ま、給料しだいでは……はい。王様の仕事が忙しゅう御座います。
若い頃は車の整備なんかをやっていたので、ちょっとは働いてみたいと思ってしまったが、リータ達が睨んでいたので泣く泣く諦めるわしであった。
次の工場見学は、コーン油工場。トウモロコシの甘い匂いが立ち込めているので、コリスにかじられた。匂いで腹を刺激されたようだ。
ここも稼働していないので、ちょっと早いけどここで昼食。ジョージが城で用意してくれていたら悪いと思ったが、女王からわしが出してくれると聞いていたそうだ……
うまそうに高級料理をがっつくジョージを横目に見つつ、わしはモグモグしながら女王と喋る。
「ふ~ん……トウモロコシの油で、あの鉄の塊が動いていた、と……。電気もそうだけど、なんだか信じられない話ね」
「説明したにゃろ。燃やして爆発させるってにゃ。液体燃料は扱いやすいんにゃ。たぶんうちの車より馬力はあるはずにゃんだけどにゃ~」
「シラタマはやりたくない、と……」
「だって美味しいんにゃも~ん」
「そこは民の命の問題でしょ!!」
わしが焼きトウモロコシにかぶりつきながらボケると、女王は訂正のツッコミを入れる。どうやら女王も、食べ物からエネルギーを作る事は反対のようなのでわしは安心した。
しかし、次の場所で女王は前言を撤回しやがる。
「このヘリコプターはいいわね。軍事利用しないから、コーン油とセットで売ってくれないかしら?」
「さっきもったいないって言ってたにゃ~」
当然、魔法無しに空を飛べるならば、女王の財布は緩んでしまうのであったとさ。
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