651 話が尽きないにゃ~


「シラタマさん……どうして泣いているのですか?」


 わしが「にゃ~にゃ~」、ベティが「うわ~ん」と抱き合って泣いていたら、リータが近付いて来た。


「ちょっと嬉しくってにゃ。ぐすっ……」

「嬉しい??」

「またあとで教えてやるにゃ。ちょっと頼みがあるんにゃけど、女王達と観光して来てくれにゃ~」

「まさかその小さな子と……」

「大事な話があるんにゃ~」


 リータが浮気を疑って来るがわしはお金の大半を預けて、何やら疑いの目を向ける女王をバスに押し込んだ。運転手は三人も居るからリータ達に任せても大丈夫だろう。

 オニヒメが運転するバスを見送ったわしは、ベティの元へと戻るのであった。



「さっきのって、東の国の女王様に似てたんだけど……」


 イサベレには気付いていたベティは、今ごろ女王に気付いたらしい。


「本物にゃ。わしは女王と友達にゃから、多少の無礼は許してくれるんにゃ」

「ペットじゃなくて友達なの!?」

「ペットじゃにゃいし、王様にゃし。女王と友達でもおかしくにゃいし」

「あ……あはははは」


 わしが不機嫌にするとベティは空笑い。ちょっとはわしとの身分の差に気付いてくれたようだ。


「そうそう! エミリと会いたいんだけど、連れて行ってくれない? 迷惑にならないようにするから!!」

「連れて行くのはかまわないんにゃけど、親御さんは心配しないにゃ?」

「居ないから大丈夫!!」

「そうにゃの!? また辛い人生を送ってるんだにゃ。グズッ」


 わしが不憫に思ってオヨヨヨと泣いていたら、露店で料理を作っていた男女が近付いて来て、ベティを心配していた。どうやら娘が変な生き物と喋っているから心配になって、確認しに来たようだ。

 しかし両親はベティに頭が上がらないらしく、押し返されて露店の業務に戻って行った。


「すぐバレる嘘にゃんかつくにゃよ~」

「えへへ~」

「人間三回目にゃんだから、子供の振りするにゃよ~」


 どんな人生を送って来たかわからんが、幼女三回目なら、その笑いはあざといとしか思えん。


「だって、そうでも言わないと連れて行ってくれないでしょ?」

「親御さんの許可が出たらいいにゃ」

「こんなにかわいいんだから、それが一番難しいって気付いてよ。どれぐらい危険な旅をして、どれぐらい家を空けるかわからないんだから。最悪死ぬかもしれないじゃない」

「あ~。かわいいは置いておいてにゃ。ベティはどこまでこの世界のことを知ってるにゃ?」

「かわいいは置いておかないけど、そう言えば、なんで日本語なんて喋れるの?」

「そこからだにゃ~」


 まずは自己紹介のやり直し。わしの本名、日本に住んでいた住所、死んでからアマテラスのミスで森に住む猫に異世界転生した事を教えてあげた。


「そっか……同郷だったんだ」

「でにゃ。話を戻すけど、アメリヤ王国はどこにあると思っているにゃ?」

「私の予想だと、東の国から西か東の森を抜けたら、海があると考えているの。もしくは、海の先に大陸があるって感じ。そのどっちかの沿岸沿いに、アメリヤ王国があると考えているわ」

「お~。正解にゃ~」

「本当!? それでどっち??」

「海を越えたほうにゃ」

「うっわ……それじゃあ船旅になるのね。海には化け物も出るらしいし、大丈夫かな~?」


 ベティはこれからの旅を考えてウキウキしているので、わしはニヤニヤしながら取り出した地球儀を回しつつ説明する。


「東海岸のこの辺りが、アメリヤ王国にゃ」

「うん……」

「んで、大西洋を越えて陸伝いに行くと東の国にゃ。その東にエベレストがあって、山を越えた先がチベット……じゃにゃくて、我が国、猫の国にゃ~」

「ちょっ! ちょっと待って!!」


 わしの説明が飲み込めないベティは、地球儀をぐるぐる回していろいろな角度から確認している。


「東の国があるのって、ユーラシア大陸よね?」

「そうにゃ」

「アメリヤ王国があるのって、アメリカ大陸よね?」

「そうにゃ~」

「私のことからかってる?」

「そうとも言うにゃ~」

「だよね。異世界転生したんだから、地球と一緒なわけないよね~」

「一緒で間違いないにゃ~。にゃはははは」

「はあ!?」


 いつか同郷の者に会ったらからかってやろうと思っていたので、わしの笑いは止まらない。


「にゃはっ。にゃはは。日本の写真もいっぱいあるから確かめてくれにゃ~」


 ベティはめっちゃ怒ってわしの頭をわしゃわしゃして来るので、日ノ本のアルバムを出して1ページ目をめくる。そこには航空写真が張ってあるのだが、ベティはまず写真に驚き、次に日本列島に驚いた。

 そこからは無言で1ページ、1ページ捲り、涙ぐんだり涙が引っ込んだり。古き良き日本の風景が懐かしいのに、歩くキツネやタヌキがちょくちょく出て来るから邪魔なようだ。


「はぁ~~~……」


 ベティはアルバムを二周、目を通したら、大きな溜め息と同時にアルバムを閉じた。


「間違いなく写真ね。絵じゃないわ。日本も間違いなさそう」

「わかってもらえたかにゃ? つまりこの世界は、異世界は異世界なんにゃけど、平行世界だったんにゃ」

「平行世界……なるほど。でも、どうしてこんなに時代背景が違うの?」

「たぶん科学の進歩が遅いからにゃ。その原因が、生きるには過酷にゃ世界といったところかにゃ?」

「そっか。子供でも働いてるもんね。新しい技術は生まれにくいか」


 ベティは平行世界に納得したら、またアルバムを開いて懐かしむ。


「桜、綺麗だな~。あたしも見たいな~」

「来年になればまた咲いてるにゃ。ベティもきっと泣くだろうにゃ~」

「うん。泣く。このデッカイ白タヌキを見ても泣くと思う」

「それはにゃんと、元征夷大将軍、徳川家康様にゃ~」

「プッ……本当にタヌキだったんだ! あははは」

「にゃははは」


 しばし日ノ本の写真で話に花が咲き、自分達の元の世界での暮らしも話し込んでしまうわし達であった。



「そんなことがあったんだ~……あっ!」


 ベティは懐かしい話に盛り上がっていたが急に大声をあげた。


「どうしたにゃ?」

「エミリよ。エミリ! どれぐらいの期間で猫の国に着くか聞き忘れてたわ!!」

「あ~。一泊二日でも一週間でも、わしが連れて行ってやるにゃ」

「はい? ここからここよ?? 一日なんて無理でしょ??」


 ベティは小さな体でオーバーに身振り手振りで説明するが、わしに距離なんて関係ない。耳を貸してもらってコソコソと喋る。


「これ、ベティにしか言わない秘密だからにゃ」

「う、うん……」

「わし、魔法で瞬間移動が出来るんにゃ」

「うっそ……マジで??」

「マジにゃ。あと、三ツ鳥居って、どこでも行けるドアみたいにゃ魔道具も日ノ本にはあってにゃ。うちでも製造してるんにゃ」

「まるでアニメの世界ね……そう言えばシラタマ君って、何もない所から物は取り出すし、そのアニメに出て来そうね」

「わしは猫型ロボットじゃないにゃ~」

「あはははは」

「にゃはははは」


 元の世界でのボケやツッコミが通じる人が居る事は、やはり幸せだ。また笑いが絶えなくなってしまったが、そろそろ夕暮れだ。


「まだまだ話したりないんにゃけどにゃ~」

「わっ! もうこんな時間!? お店手伝わないと」

「いまさらにゃけど、その歳で働いてるにゃ??」

「そうなの。お金が入り用だったから、両親に飲食店を始めさせたのよ」


 どうやらベティは両親から神童として扱われていたので、神の舌を持っていると洗脳して、家計が良くなるから露店を始めてみないかとそそのかしたらしい。


「だからタコスだったんにゃ。おっかしいと思ってたんにゃ~」

「ウフフ。チートでしょ?」

「にゃはは。チートだにゃ~」


 うちだって藤原さんの料理チートで儲けさせてもらっているから笑えるが、ベティには笑えない事情があるようだ。


「て、本当のチートは貴族だけどね~」

「どういうことにゃ?」

「ここの貴族、守銭奴ばかりなのよ。あたしの料理の権利を奪っては税金要求して来てね。利益が出ないの」

「あらら~。そんにゃんでやっていけるにゃ?」

「だから、奪われたら違う料理って感じでイタチゴッコしてるのよ」

「にゃはは。さすがチートなベティにゃ~」

「毎回料理を考えるのは大変よ。あたし、かわいい幼女なのよ」


 たしかにそんなイタチゴッコは大変なので、いい情報をあげる。


「かわいいは置いておいて、もうイタチゴッコはしなくていいと思うにゃ」

「かわいいは置いておかないけど、どういうこと?」

「議員が大量に粛清されるからにゃ。そんにゃ意地汚い奴にゃら、必ずそん中に居るにゃろ」

「わ~お。そりゃまためでたいわね」

「わしからもジョージ君に進言しておいてやるにゃ~」

「ジョージ君って、ジョージ王のこと??」

「いまは城で厄介になってるからにゃ。ジョージ君も友達にゃ~」


 ベティは力強い味方が居ると知って喜び、両親の元へ走って行ったので、わしも改めて挨拶。「娘さんをください」とベタな事を言ったら父親に殴られた。


「いま治してやるからにゃ~」


 わしの頑丈な頭を思いっ切り殴ったら、そりゃ骨が折れる。わしが回復魔法で治している間に、ベティが笑いながらわしの立場を説明したら、両親はガクガク震えて尻餅をついてしまった。

 なのでさっきのは冗談と言いつつ、「娘さんは才能があるから留学させないか」と適当な嘘を言って考えさせる。ベティもその嘘に乗っかり「今後は料理の権利が奪われないから」と言いつつ説得していた。


「まぁもう数日ここに滞在するし、帰る前に顔を出すにゃ。それまでに答えを出したらいいからにゃ」

「うん! 絶対に行くからね!!」

「おっと。そうにゃ。ベティ、こっちに来てくれにゃ」


 両親から距離を取ると、わし達はコソコソと喋る。


「お米って食べたくにゃい?」

「食べたい! 持ってるの!?」

「米も味噌も醤油も、にゃんでもござれにゃ~。いまにゃら和菓子も付けちゃうにゃ~」

「全部ちょうだ~い!!」

「よくばりさんだにゃ~」


 ベティは元日本人だ。和の味に飢えていたのだろう。でも、二、三日分でいいじゃろ? 土鍋も付けてやるからな? うちに来てから死ぬほど食ってくれ~い!


 あまりに大量に要求するので、どうしても食べたい物の材料や調味料だけにして、追加で猫王様シリーズの小説もプレゼント。


「この本はなに?」

「わしが今まで旅した場所が書かれている小説にゃ。北極はまだにゃけど、日本と中国が出て来るから面白いかもにゃ~」

「うっわ~。凄い冒険の予感……なんだかんだ言ってシラタマ君って、異世界転生をめちゃくちゃ楽しんでるのね」

「まぁそれなりににゃ。それじゃあまた来るにゃ~」

「絶対に来てね~」


 転生者、藤原恵美里との出会いは話が尽きないが、いつまでも手を振り続けるベティに見送られ、わしは城に帰るのであった。



「さて……あの小さい女の子はなんだったか説明してくれるのでしょうね?」

「浮気だったらわかってるニャー?」


 ジョージ達との会食もお風呂も終わったら、寝室でリータとメイバイの浮気調査。なのでわしは怖くてプルプル震えながらベティの話を一から説明した。


「「うそ……あの子がエミリちゃんの……」」

「間違いないにゃ。だから話が弾んでにゃ~」

「凄い偶然ですね……エミリちゃんも喜んでくれます!」

「アメリカ大陸で一番の大発見ニャー!」

「にゃはは。エミリに最高にお土産が出来たにゃ~」


 途中まで殺されるかと思うほど怖かったが、リータとメイバイも藤原恵美里の発見は、自分の事のように喜んでくれるのであった。


「「おいしいの!!」」


 コリスとオニヒメも、美味しい料理を作ってくれると聞いて、自分の事のように喜ぶのであったとさ。

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