193 女王誕生祭 六日目 2


 女王誕生祭、六日目。昼食を挟み、ハンターと騎士との交流試合が再開する中、わしは女王やさっちゃん達に撫で回されながら観戦している。


 うるさいと言いながら撫で回す矛盾……なんとかならんかのう? もう、ゴロゴロうるさいと言って来ないって事は諦めたのか? それとも慣れたのか?


 わしがゴロゴロ言っていても試合が進み、勝敗は決して行く。


「あ! 騎士が負けちゃった」

「いまのは仕方ないにゃ。ハンターの変則的な動きに対応できてなかったにゃ」


 さっちゃんが残念そうな声を出すのでわしが見たままを説明すると、女王も会話に入って来る。


「そうよね。騎士は変則的な動きに弱いのよね。何か練習方法がないかしら?」

「にゃんでわしに聞くにゃ?」

「先の旅で、初めて見た動物でもどんな場所でも、シラタマは対応してたじゃない? サティのレポートには、その事は書かれていなかったのよね。変な事ばっかり書いて……」

「シラタマちゃんが戦う事が無かったからですよ~。それにシラタマちゃんが変なのはいつもの事です!」


 やっぱり、わしの秘密を探りに来ていたのか。いちおう兄弟と戦闘はしておったけど、ハンデ有りの兄弟のじゃれあいだから、さっちゃんには戦闘と思われなかったのか?

 しかし、わしはいつも変なのか? 猫じゃもんな~。はぁ……


「わしの強さの秘密にゃんて、たいした事じゃないにゃ。女王の国と戦争するつもりだったから、多種多様な動物と戦っただけにゃ。だから、ある程度の事には対応できるにゃ」

「戦争……一歩間違えば滅んでいたのね」

「まぁそこまではしてにゃかったと思うけど、嫌がらせはしたと思うにゃ」

「そ、そうなんだ……」


 女王がわしを怖がっているように見えたので、話を逸らして紛らわしてあげる。


「それより、騎士を訓練させるにゃら、元B級ハンターから習わせたらどうにゃ? クイスマって言ったかにゃ? あいつだって変則的な動きをしていたにゃ」

「それが、元ハンターと騎士は仲が悪いのよね。だから部隊を分けるしかないの」

「ふ~ん。どっちが悪いにゃ?」

「聞く限り、両方ね。騎士を率いているのは貴族が多いから、元ハンターを不満に思っているし、元ハンターは指揮が悪いと文句が多いわ」


 貴族はプライドが高いから、元ハンターを下に見て、不満を言っているように思うんじゃけど……。女王は根っからのトップだから、貴族の味方をしているのかな?

  この事で、ハンターのわしがとがめるのは角が立つか……猫じゃけど。


「さっちゃんはいまの話、どっちが悪いと思うにゃ?」

「う~ん。難し~い」

「そうだにゃ。でも、整理して考えるといいにゃ。どちらも文句を言っているにゃら、原因があるにゃ。それはどちらが先かわかれば、答えは見えるんじゃないかにゃ~?」

「う~ん。ちょっと待って!」


 わしの問いに、さっちゃんはぶつぶつ言いながら考え出した。すると女王が、わしの問いを否定する。


「私がわからないのに、サティには無理よ」

「そうかにゃ? さっちゃんは子供で、女王はしがらみのある大人にゃ。そのしがらみが、柔軟な思考を邪魔する場合があるにゃ」

「一理あるわね……シラタマは答えがわかっているの?」

「多少はにゃ。でも、わしの答えも正解かどうかは、聞く人によって変わるにゃ」

「答えはひとつでは無いって事なのね」

「そうだにゃ。女王は多数の答えから、ひとつを選ばないといけないから大変だにゃ~」


 わし達が話をしていると、さっちゃんは答が出たのか、声をあげる。


「わかった! 貴族が悪いんじゃない? 貴族はプライドが高いから。元ハンターを下に見ていると思うの。だから指揮に不満が出るのよ」

「サティ?」

「え? 正解じゃないのですか?」

「いえ……」

「シラタマちゃん?」


 女王がさっちゃんを驚きの目で見て、さっちゃんはそれを不思議に思って質問するので、わしはさっちゃんの膝から飛び降り、二人の前に立つ。


「わしもさっちゃんの答えに賛成にゃ。女王に失礼にゃ事を言うけど、女王は貴族の顔を立て過ぎじゃにゃいかにゃ~? それが当たり前だと思っていないかにゃ~?」

「シラタマちゃん……。お母様に失礼過ぎるよ!」

「サティ。いいのよ」


 さっちゃんがわしを怒鳴るが、女王が優しい声で止めた。


「お母様……」

「サティは貴族が悪いと考えたのよね?」

「……はい」

「たしかに、そんな指揮官に命を預けられないわね。そこに気付けなかった私が悪いわ。サティ。ありがとう」


 自分の非を認めるとは、やっぱり女王は出来たお人じゃ。わしをペットにしようとしなければ……。さっちゃんも、その答えに行き着くなら、女王になっても安泰じゃな。


「はぁ……」

「お母様?」

「ああ、ごめんなさい。これから貴族の意識を変えるのに、力を入れる事を考えると頭が痛いわ」

「……シラタマちゃん! 何か良い案ない!?」

「にゃんでわしが……」

「シラタマちゃんが、お母様を困らせたんでしょ! 責任取ってよ~」


 またわしを揺らすよ。いつもなんで揺らすんじゃ? さっちゃんより小さいんじゃから、勘弁しとくれ。


「わかったから揺らすにゃ~」

「本当!? じゃあ、撫でる!」

「いや、ゴロゴロ~。これから話すからやめてにゃ~。ゴロゴロ~」

「あ、あははは」

「にゃったく……」


 さっちゃんが笑いながら席に戻ると、わしは女王に改善点を進言する。


「貴族はプライドが高いから、意識改革は時間が掛かりそうにゃ」

「そうなのよね」

「どうせ時間が掛かるにゃら、下からやったらどうにゃ? 下の者が変われば、出世したあとも、元ハンターへの態度もそのままにゃろ? 世代交代が終われば、万事解決にゃ」

「なるほど……」

「とりあえず、騎士と元ハンターの合同チームを作って、身分で差別しない、どちらにも一目置ける人物を置いたらどうかにゃ? 一人ぐらい居ないかにゃ?」

「イサベレかオンニなら……」


 イサベレか……わしと話す時でも口数がめちゃくちゃ少ないのに、人とコミュニケーションなんて取れるんじゃろか?


「イサベレは向かないんじゃないかにゃ~?」

「そうよね。指揮官ってガラじゃないわ」

「じゃあ、オンニの合同チームで、森で獣の相手をしたり、騎士の演習をして行けば、おのずと協力して行くんじゃないかにゃ?」

「各々の得意分野をやらせるのね。いいわね」

「時間は掛かるけど、これで仲良くなるんじゃないかにゃ~?」


 女王が納得したように見えたので、解決したかと確認するように尋ねると、さっちゃんが先に褒めてくれる。


「さすがシラタマちゃ~ん。わたしが女王になったら、参謀おっとに雇ってあげるわ」

「いいえ。いまからでも、私の参謀ペットにしてあげるわ」


 おかしい……参謀が違う言葉に聞こえる。絶対、参謀じゃないよな?


「本当に参謀にゃ~?」

「「あははは~」」


 やっぱり違ったな。この似た者親子は……


「わしはハンターとして、自由気ままにやるにゃ~」

「そう。高ランクハンターは変人が多いって聞くから、シラタマにはピッタリね」

「変人枠に入れにゃいで~!」

「じゃあ、シラタマちゃんは猫枠ね」

「にゃ……」


 ここでも猫枠に入れられてしまった! 他に誰かいるのか? 兄弟達にメイバイ? わしもメイバイを猫枠に入れた事があるから、メイバイにも入ってもらおう。いやいや、そんアホな事考えていないで、拒否しなくては!


「あ! ソフィが出て来た」

「あの~? 猫枠って、にゃんですか? 変人ではにゃいですよね~?」

「もう! ソフィの応援するんだから、気を散らさないで!」

「にゃ……」

「ほら! シラタマちゃんも応援して!」


 くっそ……タイミングが悪かったか。猫枠の謎解きはあとにして、わしもソフィを応援しよう。


「わかったにゃ~。しかし、ソフィの相手はリスさんにゃんだ」

「どうしたの?」

「さっき話していた通り、ソフィの剣はまっすぐにゃ。片やリスさんの攻撃はトリッキーにゃ。やりづらいと思うにゃ~」

「たしかに……でも、わたしはソフィが勝つって信じてるもん!」


 家臣を信じるとはさっちゃんらしいな。わしの見立てでは、力だけならほぼ互角。戦闘方法でリスさんが、二枚上手ってところか。

 ソフィも従来の戦い方じゃ手も足も出ない。ここは自分の殻を破って、頑張って欲しいもんじゃ。



 わし達の観戦している中、ソフィ対リスの着ぐるみの試合が始まる。


 わしとの対戦は素手だったが、リスさんの得物は剣じゃったな。しかし、通常の剣より少し短い?


 リスは開始の合図と共に、ソフィに突っ込む。剣を縦に振り、ガードさせると、二本の尻尾に仕込んだ土の塊を土魔法で巧みに操り、ソフィを攻撃する。

 ソフィはその攻撃を剣や足捌きで、かろうじてかわしている。


 なるほど。剣はおとりで本命は尻尾か。鈍器じゃから当たれば痛いじゃろうな。


「ああ! 危ない!! よかった~」

「にゃんとか避けてるにゃ」

「もう、ひやひやするよ~」


 さっちゃんの額に汗が浮かんでいたので、わしはハンカチを渡しながら試合に目を移す。


「そうだにゃ。でも、だいぶ慣れて来たみたいだから攻撃に移りそうにゃ」


 わしの言葉通り、ソフィは一度距離を取ると、すぐに地を蹴り、何度も剣を振るう。


 リスさんのあの剣は、剣じゃないな。小太刀こだちじゃ。じい様が小太刀は防御に優れていると言っておったな。剣より短いから小回りが利いて、ソフィがいくら攻撃しようと防御される。

 そしてカウンターの尻尾か。リスの着ぐるみを着てるくせに、よく考えている。


「全然当たらないよ~」

「あの剣が厄介だにゃ」

「そうなの? 尻尾じゃないの?」

「あの剣は他の剣と比べて短いにゃ。盾として使っているから、なかなか崩せないにゃ」

「へ~……って、感心してる場合じゃない! ソフィ、頑張れ~!!」


 う~ん。残念ながら、攻め手も無しか……いや、わしのあげた魔道具を使えば肉体が強化されて、スピードを上げられるから楽に勝てるはずなんじゃが……。真面目な性格のソフィは、そんなズルはしないじゃろうな。



 わしもさっちゃんの応援に加わり、声をあげる。だが、ソフィの攻撃は全て防がれ、しだいにリスの攻撃の時間が増えて来る。

 リスはわしと闘った時のように、空いている手や足も使い出したからだ。ソフィも予想していたからか、なんとか対応するが、それでも手数が多く、攻撃が当たり始めた。


「うぅぅ。ソフィが負けちゃうよ~」


 まぁこれだけ劣勢になれば、さすがにさっちゃんでもそう思うか。じゃが、ソフィは劣勢だが、何かを狙っているようにも見える。


「ソフィはまだ諦めてないにゃ。それにゃのに、さっちゃんが先に諦めるのかにゃ?」

「……ううん! ソフィが諦めてないなら、私も諦めない!! ソフィ~~~!」


 さっちゃんは、また大きな声で応援を始める。それと同時に、二人の最後の攻防が始まる。


 リスは回転し、剣、拳、尻尾、足を使って次々と攻撃していき、ソフィを追い込む。ソフィは、リスの剣と尻尾の鈍器は、自身の剣で受け、軽い攻撃は捨ててダメージの低い箇所で受ける。

 その攻撃も痛みが蓄積され、ついにバランスを崩し、まともに蹴りを受けてしまった。


「ああ!!」


 さっちゃんの悲鳴があがり、リスもトドメを繰り出す。


 狙いはそれか。リスさんの大振りを待っていたんじゃな。だが、上手くいくかな?


 リスは最後の攻撃とばかりに、二本の尻尾と剣を同時に振るい、三本の攻撃が平行に頭、肩、腹に飛んで行く。


 おお! ソフィのスライディング。ついでに剣で足を払って行った。


 ソフィの決死のスライディングで、リスは回転しながらうつ伏せに倒れる。そこを素早く体勢を立て直したソフィが斬り付ける。


「やった!」

「まだにゃ!」

「え?」


 リスは待ってましたと言わんばかりに、二本の尻尾で迎え撃つ。


「危ない!!」


 が……ソフィはその攻撃を、ムーンサルト宙返りで避け、着地と同時にリスの首元に、剣をピタリと止めた。


「決まったにゃ」

「え……二人とも動かないよ?」

「まだ審判が勝利宣言していないから、ソフィはリスさんの反撃を警戒して、構えているんにゃ」


 しばらくして、ソフィの勝利が告げられる。ソフィとリスは、ひと言ふた言、言葉を交わし、リスはソフィの手を借りて立ち上がっていた。

 その姿に観客の皆が二人の健闘をたたえ、温かい拍手を送っていた。


「はぁ……すごかった~」

「そうだにゃ~」


 ソフィは最後まで気を抜かず、残心が出来ておった。予想外の攻撃に対応出来たのも、真面目なソフィがわしの教えを守っておったからじゃろう。


 わしがソフィの闘いを思い出していると、女王がわしを見る。


「ソフィが勝てたのって、シラタマが何かしたの?」

「にゃ? この前会った時に、少しアドバイスしただけにゃ」

「やっぱり……」

「どうしたにゃ?」

「ソフィじゃ、あれほど変則的に動く相手に対応出来ないと思っていたのよ」


 女王もそう思っておったのか。意外とよく見ておるんじゃな。さっちゃんを守る騎士だからか? ソフィは元は女王に就いていて、その態度を見てさっちゃんに就けたのかもしれないな。


「シラタマちゃ~ん?」

「にゃ? さっちゃん、にゃにか怒ってにゃい?」

「ソフィと二人っきりで会ったの!?」

「にゃ……」

「聞いてないよ!!」


 ソフィは大蚕おおかいこの糸を、さっちゃんに手渡しているはずなんじゃが……


「まさかデートしたの!?」

「いや、ちょっと狩りを手伝っただけにゃ~」

「してるじゃない!!」

「にゃんでそうなるにゃ~!」


 たしかにしたけど……


「やっぱりしてるじゃない!!」

「心を読むにゃ~~~!!」


 わしの訴えはすかさず却下され、ネチネチと何をしたか聞かれた。わしが無心になって対応すると、しつこく撫で回される事となってしまった。

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