194 女王誕生祭 六日目 3


「ゴロゴロ~。次はオンニかにゃ。ゴロゴロ~」


 ソフィの試合の後、二試合行われたが無心になってゴロゴロ言っていたら、さっちゃんだけでなく、女王や双子王女も加わりずっと撫で回された。


「オンニの相手は、B級二人なんだにゃ。ゴロゴロ~」


 今まで一対一の試合しかなかったので、不思議に思って王族に聞くと、双子王女が答えてくれる。


「シラタマちゃんに負けてから、厳しい訓練をしていますわよ」

「シラタマちゃんと言うより、イサベレが負けたからじゃなくて?」

「ゴロゴロ~。にゃんでわしがイサベレを負かすとそうなるにゃ?」

「シラタマちゃんは、イサベレとデートしてたじゃない?」


 はい? なんで双子王女が知っているんじゃ??


「イサベレをエスコートする男なんて、初めて見ましたわ」

「それで焦っているのかもしれないですわ」

「でも、女性を待たせるのは無礼ですわよ」

「にゃ……」


 つまりオンニもイサベレにホの字で、わしが倒したせいで、取られると焦って訓練しているのか。オンニにも頑張って欲しいもんじゃ。じゃが、その前にツッコム事がある……


「双子王女まで、にゃんで知ってるにゃ~! 見てたにゃ? わしをつけたにゃ?」

「ええ。つけましたわよ」

「それがなにか?」


 まったく悪いと思っていないのか……。この事を知っていると言う事は、イサベレと街中を歩いた時じゃな。双子王女もあの場にいたのか。この王女達は何をしてるんじゃ? やる事が無いからゴシップ好きなのかもしれんな。


「あら? もう終わってしまいましたわ」

「B級二人を相手取って、この短時間で終わらせるなんて、オンニにも可能性が出てきましたわね」


 チラッと見た時は防戦しておったように見えたが、最後はハンターがそろって攻撃をした瞬間に横一閃、大剣で弾き返していたな。


「アレはハンターが悪いにゃ。全然協力しないし、どっちが先に、オンニを倒せるか競っていたっぽいにゃ」

「そうなの? 普通に闘っていたように見えたわよ?」

「どっちもオンニの後ろから攻撃しようとしていたにゃ。それが出来ないから、功を焦って同時に飛び込んだにゃ。あんにゃに揃っていたら、同時に斬ってくれって言ってるようなもんにゃ~」

「ふ~ん。ゴロゴロ言ってるわりに、よく見てるのですわね」

「ゴロゴロは言わされてるにゃ~」

「「はいはい。よしよし~」」

「ゴロゴロ~」


 うぅ。どいつもこいつも撫でやがって!


 わしが双子王女のシンクロ攻撃でゴロゴロ言われていると、さっちゃんが意義申し立てる。


「お姉様。そろそろわたしに返してください!」

「あ、そうですわね。最後に……」

「「ギュー」」


 双子王女は、わしを大きなよっつのモノで挟み込む。


「ゴロゴロ~」

「また……シラタマちゃん! だらしない声を出さない!!」


 いつも通りのゴロゴロじゃと思うんじゃが、違いがあるのか? けっして柔らかいモノが気持ちいいわけではない。ホンマホンマ。


「もう!」

「髭を引っ張るにゃ~」

「シラタマちゃんが悪いんでしょ!」

「にゃんでにゃ~!」

「へ~。そんなこと言うんだ~?」

「にゃ!? そこは触らにゃいで~」


 さっちゃんと口喧嘩をし、さっちゃんがわしの下腹部をまさぐったその時、急にあの声が聞こえて来た。


「ハーハッハッハッハーーー」


 バカの……バーカリアンの笑い声だ。バーカリアンは前回と同じく、訓練場の外から、風魔法を使って登場した。


「にゃあにゃあ?」

「どうしたの?」

「あのバカの、あの登場は絶対なのかにゃ?」

「去年もそうだったわね。盛り上がっているから、いいんじゃない?」

「さっちゃんも、あの登場はカッコイイと思うんにゃ」

「う~ん。去年初めて見たときは、凝った演出だと思ったけど、あの笑い声が無ければかな?」

「そうにゃんだ」


 バカだけど、魔法の使い方が上手いのは認めよう。バカだけど……。あんな事に魔法を使うなんて、どうかしておるわ。はて? 誰かがお前が言うなと言っておる気が……。気のせいか。

 魔法の使い方で言ったら、オンニの前のちびっこ魔法使いは攻撃魔法が多彩で、魔力量もあったから強かったな。どこかで見た顔なんじゃが……


「イサベレ」

「はっ!」


 わしが考え事をしていると女王がイサベレに声を掛け、イサベレは返事をする。

 その言葉のやり取りだけでイサベレは理解したのか、【エアウォーク】なる魔法を使い、空気を蹴りながら訓練場中央に降り立った。

 イサベレの登場に観客席が「わっ」と沸きあがるが、わしは若干引いて女王に質問する。


「にゃあにゃあ?」

「どうしたのよ?」

「イサベレも、あんにゃ登場しにゃくていいんじゃないかにゃ~?」

「向こうもやってるんだから、派手さでも負けられないわ」


 女王の趣味だったのか。バカに張り合わんでもよかろうに……


「また変なこと考えているわね……」

「にゃ!? にゃんでもないにゃ~」

「今日はお祭りなんだから、盛り上げるのは当然よ。これで最終試合なんだから、なおさらよ」

「にゃるほど……」


 女王の説明に、わしは納得は出来ないが、無理矢理納得しようとしていたら、さっちゃんがわしの登場シーンに言及する。


「そう言えば、シラタマちゃんって、いつも下を向いてトボトボ登場してたわね。どうして~?」

「いつも無理矢理、見世物にされてるからにゃ。だからわしの気分は、開始前に盛り下がっているんにゃ」

「シラタマちゃんって、目立ちたいんじゃなかったの!?」

「目立ちたくないにゃ~。静かに暮らしたいにゃ~」


 さっちゃんが変な誤解をしているので訂正すると、話も変な方向に流れて行った……


「じゃあ、毛皮それ、脱いだらいいじゃない?」

毛皮これは、わしの正装にゃ!」

「正装なら脱げるんだ。どこから脱げるのかな~?」

「にゃ!? 背中に手を入れるにゃ~」

「ここから脱げるんじゃないの?」

「いにゃ~~~ん。ゴロゴロ~」


 さっちゃんはわしの着流しに手を入れ、背中のジッパーを……背中をわしゃわしゃするので、悲鳴をあげてしまった。そうしてゴロゴロ言っていたら、女王が低い声で注意する。


「二人とも、遊んでないで席に着きなさい。もう始まるわよ」

「「はい(にゃ)!」」


 女王にひとにらみされたわしとさっちゃんは素直に従う。だが、さっちゃんは椅子に座ったが、わしの椅子が消えていた。

 女王を見ると膝を叩いていたので、どうしようかと考えていたら、抱きかかえられて女王の膝に座る事となってしまった。


 う~ん。座り心地は悪く無いんじゃが、胸がな~。さっちゃんが睨んでいる気がするけど、横を向いても胸で見えないんじゃよな~。



 女王が撫で出し、わしがゴロゴロと言うと試合が始まる。

 開始の合図でバーカリアンが一礼すると、イサベレとバーカリアンの激しい剣の打ち合いが訓練場に響き渡る。


 お、いきなり縦横無尽に斬り合っておる。剣の耐久力もあるから、トップスピードから開始したのかな?


「はや~い!」

「よくあれだけの速さで、相手の攻撃をさばけるわね」


 素早い二人の斬り合いを見たさっちゃんは驚きの声を出し、女王は不思議そうな声を出す。


「まぁ慣れかにゃ? スピードを取り除いたら、いつもとやっている事は変わらないにゃ」

「そうなのね……でも、これだけ速いとどっちが優勢かわからないわ」

「シラタマちゃん。いま、どっちが勝ってるの?」

「まだ様子見ってところにゃ。お互い、去年との力の違いを確かめ合っているんじゃないかにゃ?」

「ほへ~。さすがシラタマちゃん。よくわかるね~」

「あ、イサベレの問いが始まったにゃ~」


 イサベレは平面の動きから、空気を蹴って、多角的な攻撃に切り替える。バーカリアンはわしと闘った時のように防戦となり、風魔法には風魔法で、剣には剣で防御する。


 その闘いの最中、さっちゃんがわしに質問し、女王も気になって聞いているようだ。


「シラタマちゃん。問いってなに?」

「おそらく去年、イサベレのあの攻撃でバーカリアンは負けたんじゃないかにゃ?」

「たしかそうだったわね。それでその答えはどうなってるの?」

「防御の合間に、たまに攻撃してるから、合格なんじゃないかにゃ?」

「それじゃあ、イサベレが負けるの!?」

「いや、イサベレはまだ本気じゃないにゃ。それに比べて、バーカリアンはギリギリに近いにゃ」

「じゃあ、イサベレは負けないよね?」


 さっちゃんはイサベレを応援しているようなので、わしの予想勝率を伝える。


「そうだにゃ~。わしの見立てでは、バーカリアンの勝率は20%ってとこにゃ。必ずしも、イサベレが勝つとは言えないかにゃ?」

「その勝率って高いの?」

「イサベレ相手では高いにゃ。オンニで15%ってとこにゃ。どちらも運が味方したら、十分届くにゃ」

「運しだい……」

「まぁイサベレは、百年の経験で、その運すらねじ伏せると思うにゃ」

「そうよね」


 さっちゃんは心配そうな顔をしたが、すぐに安心した顔に変わった。すると、女王はわしの強さが気になって質問する。


「ちなみにシラタマだと、イサベレの勝つ可能性は何%あるの?」

「そうだにゃ……3%ぐらいかにゃ?」

「そんなに……」

「にゃ!!」

「「え?」」


 女王とさっちゃんと話をしていても真面目に見ていたわしは、闘う二人の動きの変化に気付き、指を差して声をあげる。


 バーカリアンはわしとの練習で使った、土魔法の押し出しと脚力、さらに風魔法で加速し、右手に持った剣を、左から横一閃に振るう。

 だが、イサベレはレイピアを体の横に、縦に構え、左手を剣先に当て、力を込めて受ける。


 ここからじゃな。バーカリアンは何をするつもりじゃ? おお! 器用な奴じゃな。まだ止まらない。最後は上段か。


 わしが「うんうん」頷いて見ていると、さっちゃんが情けない声を出す。


「シラタマちゃ~ん」

「にゃ?」

「いま、何が起こったの?」

「見えなかったにゃ?」

「一瞬過ぎて見えなかったよ~」


 たしかに速かったな。見えた人は何人いたんじゃろう? 二人は……いまは止まっているから、説明できるな。


「バーカリアンが、わしとの闘いの時に、剣を横に振るったのは覚えているかにゃ?」

「剣が折れた時よね?」

「そうにゃ。その動きのあとに連撃があったにゃ。右手に持っていた剣を左手に逆手で持ち変えて、下から上に斬り付けたにゃ。イサベレがよけて後方に跳ぶと、さらに右手に持ち変えて、上段斬りに変化したにゃ」


 わしは言葉だけではわからないかと、身振り手振りで説明すると、さっちゃんや王族は口を開けて感嘆の声を出していた。


「うわ~! あの一瞬でそんなやり取りがあったの!? イサベレが、上からの斬り付けを受けたところしか見えなかった~」

「イサベレもちょっと危なかったみたいにゃ。にゃにか来ると読んで、肉体強化魔法を使ってスピードを上げていたみたいにゃ」

「凄いやり取りだったんだね!」

「そうだにゃ。バーカリアンはイサベレの本気を引き出したにゃ。でも、これで終わりっぽいにゃ」


 わしがイサベレ達に目をやると、さっちゃん達も二人を見る。


「あ! イサベレの剣が当たった。最後は呆気あっけないのね」

「そう言ってやるにゃ。バーカリアンは実力以上の力を出して、最後の攻撃をしたにゃ。疲れたところにイサベレの本気が来たら、避けるのも難しいにゃ」

「そうね」

「ほら。二人の健闘をたたえて拍手を送ろうにゃ~」

「わかった!」


 呆気なく負けたバーカリアンを見た観客は、拍子抜けした結果に静まり返っていたが、女王を筆頭に王族が立ち上がり、温かい拍手を送ると、観客からも拍手が津波のように起こった。


 こうしてハンターと騎士との交流試合は幕を引き、観客は皆、満足して訓練場から帰路に就くのであった。



 女王達はこれから何か予定があるらしく、わしはあっさり解放されたので、リータやアイ達の元へ戻る。すると……


「「「「どこ行ってたのよ!?」」」」


 全員に怒鳴られた。


「にゃ!? 女王の所に挨拶に行ったら捕まっちゃったにゃ~。てか、にゃにか怒ってますにゃ?」


 わしが恐る恐る質問すると、アイ、モリー、リータ、メイバイが口々に喋る。


「伝説卿の試合が、よくわからなかったのよ」

「最後はなんであんなに呆気なく、勝敗が決したんだ?」

「私も何がなんだか……」

「バーカリアンは何かしたように見えたニャ。でも、速過ぎてわからなかったニャー」


 ああ。こっちも見えて無かったのか。それで質問したかったのに、わしがいないから怒っていたのか。


「しょうがないにゃ~。見せたほうが早いし、スティナに訓練場を借りられるか聞いて来るにゃ。最近あんまり動いてなかったし、体を動かそうにゃ~」

「「「「「はい!!」」」」」


 その後、スティナから訓練場を借りて汗を流すわし達だったが、スティナがわしがハンターに訓練を付けていると噂を広めやがった。そのせいで、数多くのハンターが集まって訓練の相手をする事となった。

 それを聞き付けた街の者も多く集まり、わし達の訓練は見世物となってしまい、夜までわいわいと訓練場は騒ぎとなって、最後には大宴会となったのであった。


「しまった……入場料、取っておくんだったわ……」


 スティナの悔しそうな呟きは、皆、聞こえてない振りをした。全員、面倒臭いと思っているみたいだ。


 だからわしにからまないでくれる? 大きな胸で挟まれると迷惑なんじゃ。ホンマホンマ。


 こうして女王誕生祭六日目も、わしのゴロゴロと騒ぎ声の中、夜が更けて行くのであったとさ。

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