433 スペシャルゲストにゃ~


 前夜祭が始まると、各国の王や従者達の前に日本料理が並び、美味しく食べているようだ。多国籍料理コーナーは閑古鳥が鳴いているので、わしたち猫ファミリーが足を運び、めちゃくちゃ美味しいから自信を無くすなと声を掛ける。

 しかし、料理長やエミリ達も、日ノ本の皿を持って話し合っていたので、そんな事はまったく思っていなかったようだ。でも、仕事中じゃないの?

 とりあえず、日ノ本の料理人がテンパっていたので、暇なら手伝いに行ってくれるように頼む。大量に念話入り魔道具を作っておいたのが、さっそく役に立っているようだ。


 これで食事の問題は片付いたので、わしは多国籍料理の皿を持ちながら、そろそろ頃合いだと、玉藻に声を掛ける。

 二人でモグモグしながら食堂を出ると、オクタゴンも出てしまってモグモグダッシュ。そうして宿場町に着くと、ここでも走ってとある場所に向かうが、玉藻だけ。

 わしは大通りをブラブラしながら待つ。玉藻には通信魔道具を渡しておいたので、あとで落ち合う予定だ。


 こっちも前夜祭をしておるのか。盆踊りの音が聞こえておる。それに、金魚すくいに輪投げに型抜き。昔ながらの屋台が出ておるのう。

 あっちは……鉄砲? なんでこんな物があるんじゃ? 鉄砲の伝来は、千年前よりあとじゃろ? これも独自に作ったのか……て、エアガン。コルクみたいな物を飛ばしておる。この程度なら、平賀家なら楽勝じゃろうな。

 それよりも、玉藻が戻る前に、急いで買い物しなきゃじゃな。うまそうじゃ~!


 わしは目に映る飲食物を、片っ端から購入しては、次元倉庫に入れて歩く。わたアメ、りんごアメ、たい焼きに焼き芋。お好み焼き、焼きそば、たこ焼き、などなど。各十個ずつは購入してやった。

 ガンガン買い物をしていたら、通信魔道具が「にゃ~んにゃ~ん♪」と鳴り出したので、渋々宿場町の外で玉藻と合流する。

 来た道を戻り、大食堂にわしだけ先に入って下準備。正面にあるキッチンの前に、少し小さめの玉座を取り出してから大声をあげる。


『みにゃさ~ん! これから、スペシャルゲストが登場するにゃ~! 温かい拍手で迎えてくれにゃ~!!』


 わしの声を聞いて、一同振り返りって入口を見つめる。そこでわしは、次の言葉を発する。


『天皇陛下の、おにゃ~り~』


 すると扉は開かれ、公家装束にしゃく(細い木の板)を持ったちびっこ天皇が登場し、その斜め後ろに玉藻が続く。

 ちびっこ天皇の立ち振舞いは厳かで、見る者の心を掴み、六歳の子供とは思えないほど雄大に感じたそうだ。


 その光景を、わしはちびっこ天皇の為に用意した玉座の隣に立って、りんごアメを舐めながら見ていた。


 玉藻の奴……またやってるよ。ちびっこに後光を差すのはマストなのか? そんな事をせずとも、伝わると思うんじゃがな~。


 わしがペロペロしながら待っていると、ちびっこ天皇と玉藻に睨まれたが、気にしない。それからちびっこ天皇は玉座に座ると、厳かに語り出す。


「皆の者、よく参られた。ちんがこの日ノ本を統べる王。悠方ひさかただ。今日、この日に、皆と出会えた奇跡に、朕は誠に感慨深く思っている。名だたる各国の王と比べると若輩者だが、名を覚えてくれると幸いだ」


 ちびっこ天皇の言葉は、念話の魔道具で聞いていた王族達に伝わり、魔道具を持たぬ者にも、隣に立つ玉藻にすぐさま念話で通訳され、大食堂に居る全ての者に届けられた。


 ふ~ん。なかなかいいスピーチじゃな。上から過ぎず、かと言って自分を卑下せず……どっかの王様にも聞かせてやりたいぐらいじゃ。わしの事ではないぞ? メモは取るけどな。


 わしがりんごアメを落とさないように噛みながらメモを取っていると、三大国の王族がスタンディングオベーション。それに釣られ、小国の王、護衛や従者達までスタンディングオベーションでちびっこ天皇を称えていた。


 いいスピーチじゃったけど、そんなに褒める事なの? みんな、ちびっこの雰囲気に呑まれたか? それとも、子供が頑張っている姿が心に打たれたとかかな?

 ちびっこの中身を知っているわしは、到底拍手なんてできん。どちらかと言うと、この雰囲気に笑ってしまいそうじゃ。プププ。普段、ボクって言ってるくせに、朕じゃって……プププ。



 わしが笑いをこらえていると拍手の音が鳴りやみ、各国の者が着席する中、女王だけが立ったまま残る。


「私は東の国女王、ペトロニーヌだ。各国を代表して挨拶をさせてもらう。我ら西に住む者も、このような祭りに参加させていただいた事に、心より感謝する」


 ふ~ん。ちびっこを連れて来るとは前もって伝えていたが、女王が祝辞を述べる事となっていたのか。まぁわしには関係ない事じゃけどな。


「急に、これだけの人数を快く受け入れてくれた事にも感謝する。準備で大変であっただろう。少なからず、こちらの宝を用意したから、その足しに使ってくれ」


 女王が目配せすると各国の従者が数人動き、箱を持ってちびっこ天皇に近付く。


 は? 準備が大変だったのはわしじゃ! 百歩譲って、玉藻もわしの事を手伝ってくれたから大変だったと言えなくないけど、ちびっこは何もしておらんぞ!!


 わしがぷりぷり怒ってガリガリりんごアメをかじっていると、従者から箱の中身を見せられたちびっこ天皇は感謝の言葉を返す。


「けっこうな品をいただき、誠に感謝いたす」


 ちびっこ天皇の言葉に、女王は満足した顔で次の言葉を発する。


「こちらこそだ……でも、そこの猫!!」

「はいにゃ!」


 突如、女王に怒鳴られたわしは、驚きのあまりノータイムで返事をしてしまった。


「さっきから、ずっと食べ物を食べているわ、メモっているわ、笑っているわ、怒っているわ……邪魔なのよ! 邪魔するなら、そんな所に突っ立ってるんじゃないわよ!!」

「は、はいにゃ……すいにゃせんでしたにゃ」


 女王に凄い剣幕で怒られたからには、わしは平謝り。すごすごと猫の国のテーブルに逃げ帰り、涙目でリータに抱きつく。


「うぅぅ。にゃにも悪い事してないのに、怒られたにゃ~」

「してましたよ」

「うんニャ。してたニャー」

「うぅぅ。にゃ~~~……ムグッ」


 リータとメイバイも味方になってくれないので、悲しくて泣き出したわしであったが、静かにしろと強く抱き締められて口を塞がれてしまった。



 その後、玉藻が司会をして、しばしご歓談。ちびっこ天皇は玉藻と共に各テーブルを回り、個別に挨拶しているようだ。

 わしはと言うと、隣の東の国のテーブルに呼び出されていたが、ぶっちしようとしたけどリータに売られた。なので、女王の膝の上でグチグチ言われて撫でられている。


「まったく……せっかくの式典が台無しじゃない」

「もう勘弁してくれにゃ~。ゴロゴロ~。わしはマナーを知らない猫なんにゃ~。ゴロゴロ~。それに、わしは会食としか聞いてないにゃ~」


 そう。わしだって、式典をすると聞いていたら、りんごアメを舐めながら参加なんかしていなかった。どこかの誰かがわしをおとしめる為に、情報を秘匿にしたはずだ。


「あ……言ってなかったっけ?」

「女王にゃの!?」


 犯人はすぐに特定。立場は変わったが、わしは東の国王族女性陣から撫で回されて餌付けされまくって、怒る事もさせてもらえないのであった。


 そうして、お腹も頬袋も丸くなったわしをつつくさっちゃんが声を掛けて来る。


「それにしても、日ノ本の王様はすっごく幼いのに、しっかりしてるのね。シラタマちゃんと大違い」

「わしのほうがしっかりしてるにゃ~」

「……さっきのが?」

「あれは女王が悪いって事になったにゃろ~」


 わしが女王の罪をとがめると、さっちゃんは女王を守ろうと話を変えやがる。


「そうそう! さっき何を食べてたの?」

「ああ。りんごアメにゃ。デザートに食べるかにゃ?」

「うん!」


 終わった話をグチグチ言わない心の広いわしは、女王より心の広いわしは、東の国の王族、人数分のりんごアメを振る舞う。大事な事なので、二回言っておいたぞ。

 さっちゃん達はB級グルメなのに、かわいらしい見た目と珍しい味わいなので、意外と美味しそうに食べていた。



 ようやく和やかな雰囲気になったところで、ちびっこ天皇と玉藻が東の国のテーブルに、挨拶しにやって来た。


「おお~。この国は華やかだな! ……いや、なんでもありません!!」


 ちびっこ天皇は美人の集団を見て鼻の下を伸ばしたが、急に謝ったので、わしが不思議に思ってちびっこ天皇の視線の先を見ると、双子王女。どうやら、前回会った時のトラウマがあるようだ。

 女王達も気になっていたようだが、一人ずつ握手をしながら簡単に挨拶をし、最後にさっちゃんの番となった。


「この度は、お招き有り難う御座います。末のサンドリーヌです。よろしくお願いします」

「ほ、惚れた……」

「え?」

「朕のきさきになってくれんか!?」

「はい??」


 ちびっこ天皇は、顔が真っ赤。さっちゃんの美貌に一目惚れして、両手で手を握って求婚。さっちゃんはどうしていいかわからずに、わしに助けを求めて視線を送る。


「ていにゃ!」


 なので、わしはネコチョップ。ちびっこ天皇の手を叩き落とす。


「いたっ! 何をするのだ!!」

「さっちゃんが困ってるにゃろ。挨拶が済んだなら、どっか行けにゃ~」

「人の恋路を邪魔するな!」

「恋路にゃ? 双子王女にも同じ事を言ってたと聞いているんだけどにゃ~?」

「ふっ……振られたから、さっちゃんに求婚しておるのだろう」

「節操ないにゃ~。どうせ他の王女様にも、同じ事を言って来たんにゃろ。にゃ?」


 わしがちびっこ天皇の後ろに立つ人物に同意を求めると、低い声で答えてくれる。


「陛下……おたわむれは、その辺で……」

「玉藻!?」


 玉藻の額には、大きな怒りマークが浮かんでいるので、相当お冠のようだ。


「さっき、ビーダールのハリシャ王女にも同じ事をして、振られたばかりじゃろう。その癖は直してもらわんといかんのう……」

「ま、待って! お仕置きは嫌だ~! ムグッ……」


 ちびっこ天皇は玉藻の尻尾に包まれて、物理的に黙らされた。


「陛下が迷惑を掛けてすまなかった。ここで最後の机じゃし、そろそろ妾達はおいとまするとしよう。では、陛下。お仕置き部屋に急ごうかのう」

「ムグー!!」

「明日からの祭りも楽しんでくれと陛下は仰っておる。また明日、お会いしよう」


 玉藻はそう言うと、尻尾で拘束したちびっこ天皇を無理矢理お辞儀させ、食堂の入口で帰る挨拶をし、再びお辞儀をさせて去って行ったのであった。


 残されたわしとさっちゃんはと言うと……


「お仕置きって、何されるんだろう?」

「さあにゃ~? 女王みたいに拳骨落とすんじゃないかにゃ?」

「あはは。それは怖いね~」

「ホントにゃ~。にゃははは」

「あなた達……」

「「にゃ!?」」


 こそこそと悪口を言っていたのにも関わらず、地獄耳の女王に筒抜け。わしは本日二度目の説教を、さっちゃんと共に受けて夜が更けるのであったとさ。

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