029 侵入するにゃ~


 やっと解放された……ローザ達はどんだけわしをわしゃわしゃするんじゃ。毛並みが乱れてしまったわい。どうせならブラッシングしてもらってから出発すればよかったな。

いやいや、ローザ達のせいで、時間を取られてしまった。急がねば!



 わしは決意を胸に抱き、王都に向けてひた走る……事はしないで、王都方面に向かう馬車の上に乗っている。

 昨日の夜は見張りが代わる代わる抱き締め、気持ち良かったから眠れなかった……もとい、女性ばかりだから、寝ないで見張りをしていたから眠っていなかった。

 だから、しばらく走ったら眠気が来たので、眠ろうかといい場所を探していたら前方に屋根が木製の馬車を発見した。これ幸いと飛び乗って今に至る。

 眠気には勝てん。わし、悪くない。


 しかし、馬車とは揺れるのう。昨日は途中から女性の膝に乗っておったから、さほど気にならんかったんじゃが、これでは眠れん。いい方法は無いかのう……閃いた!



 わしは次元倉庫から以前作ったネコハウスを引っ張り出す。ネコハウスは屋根付きの箱に毛皮が敷き詰めてある。

 毛皮だけでは揺れは軽減できないから、土魔法でネコハウスがすっぽり収まる箱を作り、そこに鉄魔法で作ったスプリングを取り付けてネコハウスを入れ込む。スプリング内蔵ネコハウスの完成だ。


 うん。揺れも抑えられていい感じじゃ。逆に、このわずかな揺れが眠りを誘うのう。ふぁ~。小一時間ほど寝させてもらおう。おやすみ~。



 わしは眠りに就くが馬車は進む。どれぐらいか時間が経った頃に馬車が止まっている事に気付く。


 ふぁ~。なにか騒がしいのう。人(猫)が眠っておる時ぐらい静かにしてくれんかのう。


 わしは欠伸を噛み締め、ネコハウスから顔を出す。


 うお! もう夕方じゃ。寝過ぎてしまった。これは起こしてくれた人に感謝せねばならんのう。夕暮れに止まっているって事は、野営の準備をしておるのか?

 う~ん。違うっぽい? ガラの悪い奴らに囲まれておるわ。また盗賊か……この国は治安が悪いのかのう。森の中にも二十人の盗賊がいたし。それとも中世ヨーロッパなんかは盗賊だらけだったのかのう。

 税が重すぎて払えなくて仕方なく、盗賊になったとか? 王族が腐敗して悪政なんかしておったら増える一方かもしれん。

 そんな王族に兄弟達はとらわれておるのか。ちょっと心配になってきた。ローザのように民を大事にしている領主もいるんじゃから心配し過ぎか。あの金髪の姫さんみたいな少女も、兄弟達を嬉しそうに見ておったしな。


 それはそうと、さっきから騎士っぽいのが戦っておるけど多勢に無勢か。八対三じゃ無理みたいじゃな。防戦一方じゃ。頑張っておるが騎士の実力はこんなもんじゃったかのう?

 もっと強いイメージじゃったんじゃが、わしの気のせいか……それともわしが強くなり過ぎたせいか。

 騎士って事は、この馬車には貴族様が乗っておるのか。そろそろ騎士も疲れが見え始めたし、目立ちたくはないが運賃ぐらいは払っておくかのう。



 わしはネコハウスを次元倉庫に仕舞うと、馬車の屋根の上から臨戦態勢に入る。


 う~ん。どれから行こうかな? 三人の騎士が二人ずつ相手にしてるから……後ろの二人からやるか。【風玉】×2じゃ!

 「ぐあっ」とか言って簡単に吹っ飛びよった。残りの盗賊よ。後ろなんか見てる場合じゃないぞ? ほら見たことか。騎士に二人斬られたじゃろう。

 もういいかな? あっちの騎士はまだ二人相手にしているし、サービスの【風玉】じゃ!



 わしは三発目の【風玉】を放つと、屋根から飛び降りる。飛び降りた時に馬車の窓から人の顔が見えたが、そのまま草むらに移動し、馬車の動向を確認する。


 よしよし。一対一になったら、二人の騎士はすぐに盗賊を斬り殺したな。もう一人は弱かったのか、駆け付けた騎士が最後の盗賊を殺したか。三対三なんじゃから捕らえるぐらいしたらいいのにのう。無駄な殺生をしよるわ。

 騎士達は屋根の上を見ておるが、もうそこにはおらんよ。ん? 女の子が出て来たな。キョロキョロ何かを探しておるが……窓から見られたか? まぁ運賃も払ったし、さっさと逃げよう。



 わしは王都に向けて走り出す。寝ていたせいで馬車の方向が変わって、知らない街が見えていたが、太陽の沈む方向に街道を走っていたら前回通った道に出て、ホッっと胸を撫でおろす。

 知らない街に馬車は向かうと思えたが、念の為、馬車に追いつかれないように日が沈んでも走り続け、追いつけない所まで走ると眠る。朝になり、また走り続け、昼過ぎに王都が見えて来る。



「王都よ。私は戻って来た!」


 孫の「こんな時のセリフ集」。これで合ってたかのう?

 一年前と比べるとかなり速く走れるようになったから、もっと早く着くと予想しておったんじゃが、道草を食ったから思ったより時間が掛かってしまったな。

 別に本当に食べたわけじゃないぞ? 猫だからって……。生まれてすぐの時は、虫とか食べるのが嫌でよく食べてたけど……わしは誰に言い訳してるんじゃ。

 しかし昼か……侵入するなら夜を待った方が良さそうじゃのう。昼飯食ったら仮眠して、夜に行動開始じゃ!



 わしは適当に人に見つからない場所を見付け、ネコハウスを出して仮眠を取る。そして日が沈むと王都の壁に向かう。


 前回登った場所は……あったあった。ここじゃったな。前回と同じように魔法を……使わないでぴょ~んっと! はは、いけたわ。重力魔法を解除しておれば10メートルぐらいチョロイな。さて、次の目的地に向かうか。



 わしは民家の屋根をぴょんぴょん飛んで、目的地である鐘の付いた高い建物に辿り着く。てっぺんまで登ると、次元倉庫からある物を取り出す。


「テレレ、テッテレー。望遠鏡・改~」


 説明しよう! 望遠鏡・改とは、前回使った土魔法で作った筒に、水魔法をレンズの代わりに使った望遠鏡ではなく、レンズに硝子がらすを使った普通の望遠鏡である……って、わしは誰に説明しておるんだか。さらに言うと、劣化してね? 

 元の世界の望遠鏡より精度は落ちるが、この距離なら問題無いじゃろう。さっそく覗いてやろう。どれどれ……うん。問題だらけじゃ。暗くてよく見えん……お城なんじゃから、もうちょっと明かりを使ってくれんかのう。

 部屋はポチポチ明るいが、外は松明か。見張りは幽かに動いて見えるが、探知魔法の方が精度が高い。望遠鏡・改が泣いておる。もちろんわしもじゃ!


 探知魔法で調べたところ、前回と違い、城壁の上を歩いている兵はおるが、数が少ない。ザルじゃのう。どっからでも入り放題じゃ。問題は、あの白髪の女騎士じゃな。

 前回は女騎士のせいで近付かせてもらえんかったからのう。まぁ今のわしなら二人の化け物騎士相手にしても楽勝じゃろう。なんなら十人ぐらい来ても倒してやるわい。

 よし。方針も決まったし、侵入場所も決まった。待ってろよ、兄弟。長いことわしが行かずに悲しませていたかもしれん。わしが死んだと思い、泣かせてしまったかもしれん。いま、助け出してやるからな!



 わしは見張りの兵士が近付かず、かつ、城の屋根に登りやすい場所へ移動する。そして、堀を飛び越え城壁に着地する。


 とう! 侵入成功っと。簡単過ぎて拍子抜けじゃ。魔法の世界なんじゃから、結界ぐらいは無いのかのう? 結界があったらお堀に落ちていたから助かったけど。

 しかし、探知魔法をこまめに飛ばしておるけど、兵士の動きが変わらんのが不可解じゃわい。あの屋根に乗っとる人物も何をしておるかわからんし……

 白髪の女騎士なら、ここまで侵入したら気付いて、なんらかの騒ぎになってもおかしくないんじゃが……静かなもんじゃ。寝てるのかのう? なんにしてもラッキーじゃ。じっくり捜させてもらおう。

 とりあえず、屋根にくっついておる輩は邪魔じゃし、眠ってもらおうかのう。



 わしは静かに屋根に飛び乗り、音を立てずに忍び寄る。そして屋根にいた黒装束の男に、後ろからネコパンチで殴り、意識を刈り取る。


 よし。力加減もバッチリ! ピクリとも動かん……死んどらんよね? うん。息はある。よかった~。

 それより、この男はここで何をしておったんじゃろう? この手に持っているのは吹き矢っぽいし、黒装束は忍びっぽい。

 あのバルコニーを見ていたから、あの部屋から出て来た人物を暗殺するとか? 考え過ぎか。あの部屋の人物を守っておったんじゃろう。

 それほど守りを強化する人物か……王様じゃろうか? のぞいてみよう。



 わしはバルコニーに着地すると窓に近付く。窓は少し開いており、その隙間から懐かしい匂いが漂ってくる。


 兄弟じゃ! 兄弟達の匂いじゃ! 女猫の匂いも男猫の匂いもするぞ。二匹とも生きておる! この中に囚われているのか。窓は開いておるから檻に閉じ込められているか、首輪でもされておるのか……どっちにしてもわしが壊してやるわ!

 いや、ちょっと待て。今すぐ突入したいところじゃが、簡単過ぎて逆に怖い。女騎士がいる以上、罠の可能性がある。ひょっとして屋根の男は、わしがここに近付いたら吹き矢でわしを捕らえる役目とか?

 それなら排除したし、何よりわし、強い! 罠もろとも、この城を吹き飛ばしてやるわ~……やり過ぎか。さっさと中に入ろう。



 わしはこっそり部屋に入ると、すぐに探知魔法に女猫が引っ掛かる。わしは罠の事など忘れ、涙を流して駆け寄る。ソファの上にいる女猫も涙を流して、わしに抱き着いて……来なかった。


「何しに来たのよ?」


 え~~~! 思ってたのと違う~~~!!!



 ソファーでふんぞり返る女猫の辛辣しんらつな言葉に、わしのHPは0になってしまった。

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