626 モノンガヘラ族の集落に向かうにゃ~


「とりあえずお前達は、わしの奴隷になってもらうから、それまで楽しみに待っていろにゃ」


 猫を神様とは信じられたアメリヤ兵であったが、王様とは信じられないようだから現実を告げたら反論して来た。


「奴隷!? これほど協力しているのに、それはないんじゃ……」

「お前達の神は、邪教徒を奴隷にすることを容認しているんにゃろ? じゃあ、猫神様も容認するにゃ。お前達の王は奴隷を狩って来いと言ったんにゃろ? じゃあ、猫王様も、アメリヤ王国に住む全ての人間を奴隷にしてやるにゃ」

「そ、そんな非人道的なことを……」

「していたのはお前達にゃろ! どうして自分達には返って来ないと思えるにゃ! 力があるからにゃろ! それより強い力に出会ったにゃら素直に従えにゃ! わかったにゃ!!」


 人道を説くアメリヤ兵に怒鳴り散らしたわしは、きびすを返してリータ達の元へ戻るのであった。



「どうしたのですか?」


 駆け足で戻ったわしは、リータに飛び付いた。


「ちょっとの間、こうさせてにゃ~」

「はい……」

「ゴロゴロ~」

「いいニャー」


 いくら相手方が酷くとも、同じ事を口走ったのならばわしの心にこたえる。しばらくリータの胸の中でスリスリし、人の温もりを感じてたかぶった心を落ち着かせる。

 少し落ち着くと、メイバイの胸に移ってスリスリ。別に二人にセクハラをしているというわけではない。メイバイがして欲しがったからなのだ~!


 そうして甘えていたらお腹が鳴ったので、二人に餌付けしてもらい、先ほど得た情報を皆に説明した。


「国があったのですか……」

「まぁまだ見てにゃいけど、確実にゃろ」

「酷い国ニャ……」

「だにゃ。とりあえず、モノンガヘラ族が奴隷で連れて行かれる前に救助しようにゃ」

「はい!」

「わかったニャー!」


 リータとメイバイから返事をもらい、イサベレ達も頷くと、お腹をさすっているテナヤ達の元へ近付く。


「あ、怪我した人も起きたんだにゃ」

「はい! ありがとうございました!!」

「体調は大丈夫そうにゃ?」

「一人はまだ痛いみたいですけど、動くには問題ないそうです」

「にゃ? 完全に治っているはずにゃんだけど……ちょっとわしが見るにゃ」


 わしが肩を押さえる男に近付くと「ピューマ!?」と驚かれるが、少年少女に諭される。その喋っている間に、触診と体内への探知魔法。これで痛みの特定に至った。


「あっちゃ~……弾丸が体内に残ってるにゃ。コリス~。オニヒメ~。みんにゃももこっち来てにゃ~」


 どちらが治したかわからないが、銃創なんて治し方を教えていなかったので、これから必要になるかも知れないから二人に治療講座。まさか治っていなかったと知った二人は、真剣に聞いている。


「骨に鉄の塊が食い込んでいるから痛いんにゃ。一度切開して弾を抜かないことには、痛みは消えないにゃ。わしを信じて、少し切らせてくれにゃ~」


 男は拒否したが、少年少女の説得で治療を受けると言ってくれた。なので、コリスに男の体を押さえてもらい、刀を走らせる。


「切れてるのに痛くない……」

「これからにゃ。歯を食い縛れにゃ!」

「ぐっ! ぐああぁぁ!!」


 変な名前だが、さすがは神剣と言っても過言ではない【猫撫での剣】。パックリ肩が割れても痛みを感じないようだ。だが、わしがほじくるように弾丸を除去したら、やはり痛いみたいで悲鳴があがった。

 弾丸さえ取り除けば、あとはわしの回復魔法で傷を塞げば綺麗さっぱり。男も痛みが無くなったので、感謝して来た。


「「「「「はは~」」」」」


 それも、神でもあがめるように……


「さてと、次はあいつらに奴隷紋にゃ。みんにゃも手伝ってくれにゃ~」


 モノンガヘラ族にからむと面倒臭そうなので、さっさと移動の準備。アメリヤ兵の背中をまくり、コリスとオニヒメと一緒に奴隷紋を刻みまくる。

 耐え難い苦痛のほうで縛ったので、悲鳴が凄かった。モノンガヘラ族もわし達を見る目が凄かった。まるで、悪魔でも見るかのように……


「あ、そうにゃ。お前達って、この子達を皆殺しにしようとしてたにゃろ?」

「はい! ……え? なんで口が勝手に……」

「もうわしから逃れられないってことにゃ。嬉しいにゃろ? にゃら笑えにゃ~」

「「「「「ははははは……」」」」」


 奴隷紋のおかげでアメリヤ兵が皆殺し発言を認めたら、モノンガヘラ族から殺気が放たれたが、無理矢理笑わせたら殺気が引っ込んだ。殺気だけでなく、わしにも引いたみたいだけど……


「あとは~……足をどうするかだにゃ~」


 諸々の準備が済んだら、移動の話し合い。アメリヤ兵は全員ヘリコプターに押し込むとして、モノンガヘラ族が問題。馬が二頭足りないので、テナヤと少女をジープに乗せる事となった。

 トラックには、奴隷となったアメリヤ兵の一人が乗り込み、集落まで走らせる。リータ達は、オニヒメの運転でわしのバス。

 これで移動問題は解決。わしと一緒に乗り込んだテナヤに道案内させ、ジープを走らせて皆が続くのであった。



「あの……」


 わしがギヤチェンジをしながらジープを運転していると、助手席のテナヤが話し掛けて来た。


「シラタマさんは、どうしてそこまで僕達によくしてくれるのですか?」

「ただのおせっかいにゃ」

「おせっかいで命を懸けるなんて……」

「命にゃんて懸けないにゃ~。その気になれば、瞬殺できるから心配するにゃ」

「瞬殺……そんなにお強いのですか……」


 テナヤが青い顔をしているので、違う話で恐怖を逸らす。


「それより、これから集落に戻るんにゃけど、心の準備は大丈夫かにゃ?」

「準備……ですか?」

「たぶん、仲間はにゃん人か死んでいると思うにゃ。婦女子も犯されているかもしれないにゃ。最悪、皆殺しにあっているかもしれないにゃ」

「あ……そ、そんなことが……」

「まぁ君達には、すぐに見せないつもりだけどにゃ。……いいにゃ? にゃにが起こっていても、わし達の邪魔になるようにゃことは絶対するにゃ。もしも守れない場合は、どうなるかわからないからにゃ」

「はい……」


 少し脅すような事を言ってしまったが、これから銃弾が飛び交う戦場に向かうのだ。下手な行動を取られたら、流れ弾一発で死にかねない。いちおう返事はもらえたけど、集落に着いたら拘束したほうが良さそうだとわしは考える。

 しかし、ジープの中は空気が悪いので、少し換気。後部座席に乗っていた少女に「撫でたくない?」と聞いてみたら、めっちゃモフられた。

 けっこう運転の邪魔だが、これでわしの喉がゴロゴロ鳴ったので、リラックス効果が期待できる。



 そうこうジープを走らせていたら、テナヤがそろそろ集落に着きそうと言って来たので、ブレーキを小刻みに踏んでスピードを落とし、皆も釣られてスピードが落ちて来たら完全に停止する。


「は~い、集合にゃ~。ゴロゴロ~」


 ジープから降りてリータ達を呼び寄せると、わしが少女に撫で回されていたので、誰とは言わないがめっちゃ睨まれた。


「君はあっちにゃ~」

「あ……はい……」


 あまりに撫でて来るので、モノンガヘラ族の集まる場所に少女は追い払い、リータとメイバイにスリスリしながら作戦会議に移る。


「ゴロゴロ~。作戦は、救出優先にゃ。わしが一人で軍隊を惹き付けるから、リータ達で人質を救出してくれにゃ」


 わしのアバウトな作戦に、リータとメイバイの撫でる手が止まった。


「シラタマさん……大丈夫ですか?」

「あんなに震えていたニャ……」

「まぁ心配するのはわかるにゃ。でも、シャーマンが言っていたにゃろ? これはわしの試練にゃ。必ず乗り越えてみせるにゃ~」


 わしが笑顔を見せても二人は心配そうな顔をしている。二人だけでなくコリス達も心配そうにするので、モノンガヘラ族を一秒でも早く救出したいと急かした。


「そんじゃ、ま、君達はここで待機にゃ。終わったら呼びに来るから、ゆるりとしているにゃ~」


 わしは笑顔でテナヤ達に念話を使って語ると、土魔法で檻を作る。もちろん地面からいくつもの柱や壁が出現するものだから、テナヤ達は焦って檻に張り付いた。


「な、何をするんだ!!」

「さっきも言ったにゃろ? 邪魔にゃからここで待っててにゃ。おやつとジュースあげるから、大人しくしててにゃ~」


 さすがにこんな扱いされては大人しくしていられないらしく、テナヤ達は騒いでいたが、どちらかというとポテチとポップコーン、ジュースに騒いでいる気がする。

 わし達は、お菓子が無くなる前に、檻から足早に離れるのであった。



 トラックの裏に座らせたアメリヤ兵には動くなと命令して、武器を漁って丸い物体を何個も懐に入れる。それから集落に走ると、ギリギリ見えた所でリータ達は別行動。大回りして、わしとは逆側に走る。

 リータ達の走りは速いから待つ必要はないだろう。なので、小走りで村に近付き、徒歩に変えてゆっくりと進んだ。


「なんだあれ?」

「ぬいぐるみか??」


 わしを見付けたアメリヤ兵は見た目が気になって、敵とは受け取れないみたいだ。まだ遠い事もあり銃すら構えないので、わしから攻撃。丸い物体を投げて、アメリヤ兵とわしの中間地点に転がしてやった。


 ドンッ!


「あ、あいつ手榴弾持ってるぞ!」


 アメリヤ兵が言い当てて騒いでいるようなので、もうふたつポイポイ投げて爆発を引き起こす。

 これでアメリヤ兵は臨戦態勢。音に気付いたアメリヤ兵は、わらわらとわしの前に集まり、状況説明を聞いたであろう上官らしき男が、何度も何度もわしと最初から見ていた男を交互に見てから、一斉にサブマシンガンを向けてくれた。


『やっとにゃ~。遅いから、いまにも殺してしまうとこだったにゃ~』


 わしが音声拡張魔道具で語り掛けると、アメリヤ兵は驚きの声が凄い。

 英語で喋り掛けた事に驚いているのか、猫が喋っている事に驚いているのか、ぬいぐるみが喋っている事に驚いているのか、どれに驚いているかわからないが、また混乱してしまった。


『騒いでいていいにゃ? わしはいつでもお前達を殺すことが出来るんにゃよ? ……もういいにゃ。お前たち全員、この剣の錆びにしてくれるにゃ~~~!!』


 一向に騒ぎが落ち着かないので刀を抜いて脅したら、アメリヤ兵は恐怖におののく……


「ぶはっ……剣で銃に勝てるわけないだろ! ぶはははは」

「その前にぬいぐるみが剣って……わはははは」

「「「「「ぎゃはははは」」」」」


 いや、アメリヤ兵は大爆笑。わしの見た目と、古典的な武器のせいでなかなか戦闘が始まらないのであった。


『あ、こ~んにゃ物も持ってたにゃ~。ポイッとにゃ!』

「わは…は……手榴弾だ! 散開! 散開しろ~~~!!」


 ちょっとイラッと来たので、アメリヤ兵のド真ん中に手榴弾を投げ込むわしであったとさ。

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