388 悪巧みにゃ~
キツネ店主の商売はグレーだったが、わしのせいで捕まり掛けたので、詫びる事にする。
「わしのせいで迷惑を掛けて、すまなかったにゃ」
「いえいえ。わても細心の注意を払ったのに、情報を漏らしてしまったので、お互い様ですがな~。まさか、
キツネ店主は駆け出そうとしたが、立ち止まって振り返る。
「そや。お侍さんも、一緒にどうですか?」
「どこに行くにゃ?」
「あの品を買い取ってくれる人のところです。
「たしかに……じゃあ、案内は頼むにゃ~」
「へ~い!」
こうしてわし達は、小走りで街を行くキツネ店主のあとに続くのであった。
それからしばらくすると、ビルのような建物に到着し、キツネ店主が店員と話している間に、わし達は商品を物色する。リータ達は装飾品を手に取り、わしは案内板を見付けたので、そこで何が売っているかを詳しく見る。
ふ~ん……一階は反物が主軸で、
案内板を見終わったわしもリータ達に加わり、わいわいと商品に触れていると、キツネ店主に呼ばれたので、店の奥へと進む。
キツネ店主は自分の家のように進み、障子を開けて入った部屋には、立派な着物を着た細いキツネ、大旦那の厳昭が座っていた。
「大旦那。こちらが先日お話したお侍さんです。
キツネ店主が厳昭に耳打ちすると目がかっぴらき、ドスドスと歩いて部屋から出て行ったすぐあと、怒鳴り声が聞こえて来た。しばらくして戻って来たら、笑顔になっていたので、リータ達は念話でコソコソと話をしているようだ。
なに? 逆に怖いんじゃけど……ヤクザは使わんとは言っていたけど、このキツネ自体がヤクザなんじゃね?
わしが厳昭をジロジロと見ていたら、張り付けた笑顔のまま喋り出す。
「お見苦しいところを見せましたな。私がこの店の当主、厳昭です。大変よい物をお持ちのようですが、お名前をお聞きしてよろしいでしょうか」
「ああ、そうだにゃ。わしはシラタマ……今日には立て札が街に立つと言っていたし、話してもいいかにゃ……」
わしが独り言を呟くと、厳昭とキツネ店主は首を傾げた。その顔を見ながらわしは立ち上がり、自己紹介を始める。
「海を越えた西の西、遥か西にある猫の国、わしがその国の国王……あ、シ~ラ~タ~マ~にゃ~~~!!」
足を大股に開き、両手を開いて見えを切る。ご存じ、歌舞伎っぽい仕草で自己紹介をしてみたが、一同ポカン。リータ達ですらわしの行動に、呆気に取られて反応を示さない。なので、座って咳払いをする。
「ゴホン! 異国からやって来たシラタマにゃ」
「「ええぇぇ~~~!!」」
普通に自己紹介をしたら、厳昭達はやっと驚いてくれた。なので、しばしアレやコレやと質問に答えてから、厳昭との商談に入る。
「毛皮を買ってくれるんだってにゃ」
「へ、へえ。それはもちろん買わせていただきます。ただ、少々高価な品なので、金策に時間が掛かっております」
「あ~。それにゃら、分割でもいいにゃ。それとも、捌いてから払うって手もあるけど、好きなほうにしてくれにゃ」
「本当ですか!?」
「いまのところ、金に困っていないからにゃ」
「ありがとうございます。では、国宝級の品を見せていただいてもよろしいでしょうか?」
わしは売る予定だったホワイトタイガーと黒フェレットの毛皮を次元倉庫から取り出し、広げて見せる。厳昭とキツネ店主は何も無い場所から現れた毛皮に驚いたのも一瞬で、毛皮の確認をし始めた。
「本当だ……国宝と言っても過言ではない……」
「でしょ? こんな物見せられたら、商売人の血が騒ぎますがな~」
「この目で見て、触っても、信じられん……」
「手元に置いておきたい気持ちはようわかります。ですが、これを売れば……」
「たしかに売れば……」
「「コ~ン、コンコンコン」」
悪い顔で笑っておるな……リータ達が怖がっておるからやめて欲しい。しかし、いまさらじゃけど、キツネって「コンコン」と笑うんじゃな。鳴き声すら聞いた事がないのに……いや、「ル~ルルル」じゃったか? これは邦衛の鳴き声か。
しばらく厳昭達の笑い声を聞いていたが、一行にやまないので止めさせてもらって、違う話に逸らす。
「ここは服を取り扱っているにゃろ? その毛皮から差っ引いて売ってくれゃ」
「は、はい! それは願ったり叶ったり。用意させていただきます!!」
「……割高にしようとしてるにゃろ?」
「ギクッ」
やっぱり、叩けば叩くほどホコリが出そうじゃ……
「そんにゃ事をしたら、奉行所に垂れ込むからにゃ~」
「「はい……」」
何故かキツネ店主まで尻尾を下げていたけど、気にせず別室に移動する。そこで全員の着物をキツネ女に着付けてもらうのだが、最高級の物ばかりが登場して来た。
リータ達には買っていいのかと聞かれたが、物自体は確かにいい物で、綺麗な織物だったから、全て買い取る事にした。
双子王女やフレヤのお土産にしてもいいし、柄を猫の国でパクってもいい。職人の勉強になるだろう。
ちなみに、巨大リスサイズの着物もあったので、コリスも着付けてもらった。
「コリス。似合ってるにゃ~」
「本当ですね~」
「かわいいニャー」
「う~……くるしい~」
わし達がコリスを褒め称えるが、服自体が苦手なコリスは、すぐに脱いでしまった。なので、もうちょっとゆったりした服を要求すると、相撲取りが着るであろう大きな浴衣が登場し、帯もゆるく締める事でコリスには我慢してもらった。
わしも綺麗な羽織の
「リータ達も、髪まで上げてもらってよく似合ってるにゃ~」
「こんな髪型初めてで、よくわかりません」
「そうかニャー? かわいいニャー!」
「私もイサベレさんぐらい髪が長かったらよかったな~」
「私もニャー。こんなに変わるんニャー」
たしかにイサベレのうなじはグッと来るものがあるな。まるで見返り美人。元が美人じゃから、絵に書いたようじゃ。
でも、リータ達もかんざしを差して似合っているから、負けておらん気もするんじゃが……ん?
「にゃあにゃあ?」
「どうかしました?」
「リータとイサベレの耳って、そんにゃ形だったにゃ?」
「私の耳??」
リータとイサベレは鏡の前に立ち、見比べて耳を触る。
「なんか尖っているような……」
「ん。気持ち、長くなった気がする……」
「エルフの人達みたいニャ……」
「「「「にゃ~~~!!」」」」
わし達は同時に驚く。
「どどど、どうなっているのですか!?」
「わしに聞かれても……いや、出産の準備が出来た人は、耳が横に向くとかにゃんとか言ってたにゃ……」
「え……それってどういう意味ニャ?」
「つまりだにゃ。イサベレが子供を産むと死ぬ症状があったんにゃけど、リータにも、その症状が出たのかも知れないにゃ~!!」
このあとわし達は「にゃ~にゃ~」騒ぎ倒すが答えは出ない。もちろん、皆まで「にゃ~にゃ~」騒いでいる理由も答えが出ない。
「それじゃあ、私も……」
「リータだけじゃないにゃ。メイバイは見た目がわからないけど、症状が出てるかも知れないにゃ」
「そんニャ……」
「強くなり過ぎた弊害かも知れないにゃ。その点を、エルフの里のババアに相談してみようにゃ」
そうして皆が落ち着いたところで、綺麗な着物を着たわし達は、元に居た部屋に戻り、悪巧みをしているキツネ二人、厳昭とキツネ店主の前に座る。
「おお! 見違えましたな~」
「いい物を用意してくれてありがとにゃ~」
「いえいえ。こちらこそです」
「せっかくだし、面白い物を見せてやるにゃ」
そう言ってわしは、
「「こ、これは!?」」
「にゃにを悪巧みしていたか知らにゃいけど、わしとの縁は、繋いでおいたほうが得策だとは思わにゃい?」
「「は、はは~」」
厳昭達がわしに
「これは、どれぐらいで取り引きされそうにゃ?」
「これほどの品、大名ならほっとかないでしょう。必ず大枚叩いて買ってくれます! ……ところで、異国の王とおっしゃっていましたが、日ノ本で商売する気はありませんか?」
「つまり、その窓口ににゃりたいと?」
「出来ればですが……この厳昭に任せていただければ、必ずやシラタマ王に、損はさせません!!」
これが悪巧みの内容じゃったのかな? だったら普通の顔でやってくれたら、わしもわざわざ駆け引きなんてしなかったのに……
じゃが、どうしたものか……。エルフの里では存続には助けが必要だから、交易をしてやろうと思ったが、ここでは必要が無い。種や技術さえ手に入れば、わしはそれでいいんじゃが……やんわり断っておくか。
「商売にゃ~……わしもやりたいのは山々にゃんだけど、この国にまで来るには遠すぎるにゃ。ここは、わし以外辿り着けにゃいから、人を送り込めないんにゃ。王様みずから輸送をするのもにゃ~」
「それほど遠い国なのですか……」
厳昭が暗い顔になって何かを考えていると、その横で同じように考えていたキツネ店主が大声をあげる。
「あ!! アレが使えれば……」
「アレ?? ……あ!!」
アレって、なんじゃ? また悪い顔になっているところを見ると、金勘定が始まっておるのかな?
「アレって、にゃに?」
「シラタマ王は、天皇陛下のお客人と仰っていましたよね?」
「それでひとつ相談があるのですが……ゴニョゴニョ、ゴニョゴニョゴニョ」
厳昭の質問の後、キツネ店主がわしに耳打ちする。
「マジにゃ? そんにゃ事が出来るにゃ??」
「「はい~」」
わしがキョトンとしながら質問すると、二人は笑顔で声を合わせた。
「と、言う事は……」
「「ボロ儲けでございます。はい~」」
「にゃ……」
「「にゃ?」」
「にゃ~はっはっはっはっ」
「「コ~ン、コンコンコンコン」」
わしとキツネ達が悪い顔で笑っている横では、イサベレがリータとメイバイに質問をしている姿があった。
「アレは何を遊んでいるの?」
「さあ? シラタマさんはお金の話になると、たまに遊び出すのでよくわかりません」
「ホウジツさんと遊ぶ時と一緒で、つまらない話をしてるんニャー」
「まぁダーリンが笑っているなら、私はいい」
「王様なんですから、もう少しマジメにして欲しいんですけどね~」
「本当ニャー」
もちろんその非難の声は、わしに聞こえていたが……
「にゃ~はっはっはっはっ」
「「コ~ン、コンコンコンコン」」
笑い続けるしかなかったとさ。
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