017 追跡するにゃ~
おっかさんが「死後の世界」へ旅立った翌日。わしは日が昇ると同時に、兄弟達を捜しに走り出した。しばらく戻れないと思い、戸締りは完璧にしておっかさんの亡骸があった場所まで戻って来た。
まずはここからじゃな。強烈なにおいもだいぶマシになったか。昨日は暗くて気付かなかったが、焚火の跡や足跡が至る所にあるな。この足跡を追って行けば、兄弟達の所まで行けるかのう。
わしはしばらく足跡を追う。そして、見失わないように慎重に進む。何時間も足跡を追うと、ついに森が切れた場所に辿り着く。
おお! 生まれて初めて森を抜けた。ちょっと感動じゃ。おっと、あそこに焚火の跡が多くあるな。ここが待機場所ってところかな?
これは……
ひとまず、この轍を追うか。
わしは轍を見ながら走り、まだ見ぬ人間の事を考える。
馬車を使うと言う事は、中世ぐらいの文明か。孫が見たら転生物のテンプレとか言いそうじゃのう。そう言えば、おっかさんを殺した人間は剣らしき物を持っていたと言っておった。孫から借りたラノベのまんまじゃ。
うん? これは兄弟達のにおい。わずかじゃが、残り香がある。この方向でビンゴじゃ!
わしは速度を上げて走る。日が傾き、辺りが赤くなった頃に誘拐犯が休憩したであろう場所に辿り着く。
ここも焚火の跡が多くある。野営の場所か? 兄弟達のにおいが色濃く残っておるのう。兄弟達もわしに知らせる為に、残しておるのか。
もしくは、ただの生理現象か……前者じゃと信じておるよ。わしは! まぁ早く追い付きたいし、もう少し進むか。
わしは日が沈むまで走り、日の出と共に走り出す。すると、昼を過ぎた辺りで街を発見した。
おぉ! 街がある。と言う事は、人がいっぱいおるんじゃろうな。しかし、高い壁じゃのう。においはあそこに向かっておるが、わしは入っても大丈夫じゃろうか? 見た目はほぼ猫じゃし、野良猫と馴染むかな? 尻尾二本あるけど……
あっ! 兄弟達はあの街に入ったみたいじゃけど、またこっちの道に戻って進んだみたいじゃのう。街に行ってみたいが、兄弟達を追うのが先決じゃ。ちょっとぐらい……
わしは無い後ろ髪を引かれながら街道をひた走る。また夜が来て朝を迎え、走り続ける。そして昼になった。
かなりにおいが強くなって来たから、そろそろ追い付いてもよさそうじゃのう……おっ! アレか!?
わしは街道の脇で休憩をしている数台の馬車を見付けた。
ひいふうみい。豪華な馬車が1台と普通っぽい馬車が4台か。人数は探知魔法で確認すると、外に居るだけで十数人。森の出口にあった痕跡的に、あんなもんか。間違いなさそうじゃ。
あそこに兄弟達が乗っておるのか。しかし、どの馬車かわからん。ちょっと近付いてみるかのう。
わしは人間に見付からないように、隠れながら慎重に進む。すると豪華な馬車から大剣を背負った体格のいい男が出て来て、わしの潜む方向を見た。
うっ……ダメじゃ。これ以上近付くなと野生の勘が言っておる。逃げるか? いや、まだなんの情報も得ておらん。せめて兄弟達が乗っている馬車を特定せねば。
わしは恐怖に耐えながらじりじりと近付くが、また一人、馬車から出て来た白く長い髪の女に
なんじゃ、あの女!? 人間か? おっかさん並みに強い……あいつがおっかさんを殺したのか。いや、大剣の奴もわしより強い。二人でかかれば、おっかさんと対等以上に渡り合える。わしじゃ逆立ちしても太刀打ちできん。
クソ! どうにかして兄弟達の居場所を……そうじゃ! 危険じゃが、やってみよう。まだ距離はある。重力魔法を解き【肉体強化】を魔力を多く使えば、逃げ切れるはずじゃ。
わしは大きく息を吸い……叫ぶ!!
「にゃ~~~~~ん!!」
わしの声と同時に男と女は剣に手を掛けるが、わしの声に呼応して、一台の馬車から大きな音と声が聞こえた。
あれか! 撤収!!
わしは脱兎の如く逃げ出す。わしは猫だと心の中でツッコミながら……
ふぅ~。怖かった~。さすがにここまで来れば、大丈夫じゃろう。肉眼で集団が確認できるぐらいじゃしのう。
さて、どうしたものか? あんな化け物、二人も居たら近付けん。妖怪猫又が化け物って言うぐらいじゃから、たいしたものですよ。
距離があると、兄弟達が他の馬車に移されるのも見えないから心配じゃのう。ここは便利魔法の出番じゃな。
「テレレ、テッテレ~」……やめとこ。青い猫を敵に回してはならんと、野生の勘も言っておる。
魔法書からいい魔法を調べたいが時間が無い。ここは工作で代用しよう。
まず、土魔法で筒状の物を作ります。次に水魔法で、平たい水の塊の真ん中を膨らませた物をふたつ作ります。
最後に、その水を筒の両端に魔法で維持。これだけで、簡易望遠鏡の完成。たった三分で出来ちゃいました。三分で出来たかわからないけど……
よしよし。よく見える。さっきの化け物騎士達もよく見える。
男は欧米系の顔立ちの茶髪。2メートルぐらいで筋骨隆々。三十代ってところかな? 白い鎧で全身を守っておるが、あれでおっかさんの動きに対応したのか?
て言うか、あの黒い大剣はなんじゃ? あんなもん振れるのか? 男の身長とたいして変わらん。ゲームの中ではよくあるが、現物は初めてじゃ。
片や女は、身軽な格好をしておるな。二十代前半か……こちらも欧米系の顔立ち。ロングの白髪で、スレンダー美人じゃな。アマテラスには劣るが、かなりのべっぴんさんじゃ。
白を基調とした胸当てと籠手にスネ当て。細身の剣を携えておるが、あれでおっかさんに通じるのか? おっかさんが言っていた魔法が得意な奴かもしれんな。
二人ともずっとこっちを見ておるが、わしの逃げた方向じゃからか? 移動してみよう……なんでやねん! なんでこっちを見てるんじゃ。
女猫が、わしの居場所を洩らしておるのか? それとも、探知魔法が使える人間でもおるのか……居たら厄介じゃのう。望遠鏡で見えるギリギリまで距離を取るか。
わしはトコトコと、来た道を戻って望遠鏡を覗く。
この距離なら大丈夫っぽい? 遠いからよくわからないが、こっちを見てる人物は居なさそうじゃ。
どうやら休憩を終えて、移動を始めるみたいじゃな。この距離を維持してついて行くしかないか。いつか隙を見せるじゃろう。
距離を取り、わしはトコトコと馬車について行く。対向馬や人間とすれ違う時には身を隠し、暇なので辺りをキョロキョロ見ながらついて行く。
しっかし遅いのう。猫の足でついて行けるとは、馬車とはあんなに遅い乗り物じゃったのか。ん? そろそろ野営か……夜が更けたら、いっちょ仕掛けてみるか。
わしは簡単な食事 (それしかない)を食べ、隠れて仮眠を取るのであった。
さあ! 狩りの時間じゃ。見張りは居るが、化け物二人は馬車の中に居るのは探知魔法で確認済み。
たしか、豪華な馬車の二台後ろに兄弟が乗っておったはず。音を立てずに、抜き足、差し足、忍び足っと。
わしが近付くと、ガサガサという物音と共に白髪の女が馬車から飛び出た。
うそん! もう気付いた。まだ寝ておれよ~。お肌に悪いぞ~? 起こしたのはわしじゃけど。あ~。デカイ男も出て来よった。
わしの姿は見えておらんはずじゃのに、あの女が指差してから二人でこっち見詰めておる。あの女が探知持ちか……あ~あ。今日は諦めて寝るか。ふあ~……
なんちゃって。時間をずらしてもういっちょ、突撃~~~!
……またしても失敗じゃ。あの白髪の女、なんとかならんかのう。こうなったら作戦変更じゃ。罠や奇襲で馬車を壊してやる!
わしは夜の内に先回しをして、落とし穴を複数、間隔を空けて配置する。もちろん気付かれないように、崩れない程度の薄い土で蓋をして、道と見分けがつかないようにした。
落とし穴を回避しても、潜んでいるわしが、馬車の側面から車軸を【鎌鼬】で破壊する作戦じゃ。完璧じゃろう?
……そう思っている時もありました。
なんじゃあいつら! わしの罠や奇襲に、その都度止まって対処しやがる。落とし穴は魔法で奇麗に埋められ、奇襲も行う前に、二人の化け物が近付いて来やがる。
ぐぬぬぬ。小癪な人間どもめ~。てか、わしは魔王か! ……妖怪猫又だからいいのか?
あぁ……どうしたものか。夜襲も奇襲も罠もダメ。玉砕なんて持っての他。詰んだか……
こうなったら仕方がない。超長距離魔法で
わしは人間達に諦めたと思わせる為に行動を一切起こさず、ひっそりと尾行する。そして魔法書と格闘すること二日。大きな街が見えて来た。
最近、馬車や人間とすれ違う事が多かったのは、この街のせいか。大きいのう。森を出た時に見た街と比べ物にならんな。高い壁もあるし、何かと戦っておるんじゃろうか? 要塞みたいじゃ。
馬車もあの街に向かっておる。ひょっとして、この街がこいつらの住居か? マズイのう。いい長距離魔法は見つかっておらんのに……逆にチャンスか?
人混みに紛れて……って、猫じゃ。猫又じゃった。猫混みなんかあるのかな? まぁ家やら塀があるから、死角は増えるか。入ってから考えよう。
わしが悩んでいると、馬車は入り口に近付く。
あそこが入国審査所じゃなくて、城門ってとこか? 兵士も配置して鼠一匹通さない構えじゃ。愛らしい猫なら通れるじゃろうか? 愛らしい猫又じゃけど……
あそこで見付かると、化け物二人と兵士がかなり集まりそうじゃし、壁でも登るとするか。
わしは素早く壁に近付き、人に見付かりにくい場所を探す。壁の近くに、数本の木を見付けたわしは、行動を起こす。
この辺でいいかのう。木の陰になっておるし、探知魔法にも人の反応は無い。しかし、目の前まで来ると本当に高い壁じゃのう。10メートル以上ありそうじゃ。
まぁこの程度なら楽勝じゃ。猫の身体能力をナメるなよ!
重力魔法解除! そして【肉体強化】は使わずに風魔法で下から【突風】! アーンド、微調整で横から風を当てて、壁の上にひらりと着地っと。
猫の身体能力? それはそれ。これはこれじゃ。便利な魔法があるんじゃから、使わないわけがなかろう。
わしは心の中で言い訳をしながら、壁の中に目を向ける。そこには、大きな石造りの建物、区画整備された道、綺麗な街並みが広がっていた。
おお。絶景かな絶景かな。綺麗な街じゃのう。あの一際大きい建物は城か? 西洋風の城って事は、ここは王都なのかもしれん。
じゃあ、おっかさんを殺した奴らは騎士ってヤツか。なんでまた
どこからか「元人間のお前が言うな!」と、聞こえた気がしたが、気のせいじゃと思う。ホンマホンマ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます