292 女王と対決にゃ~


 王都に戻り、嬉しくなって笑っていたわしとリータとメイバイだったが、部屋割りに頭を悩まし、面倒になる。

 ひとまずコリスを起こして、寝室に辿り着けるかを試す。コリスはギリギリ階段の壁を擦って通り、寝室に入ると丸くなって眠った。


 一番の難所を乗り越えたわしは、マリーを自室のベッドに運び、ついでにワンヂェンを抱かせて眠らせようとする。

 わしは寝室で寝ようとしていたが、リータとメイバイに、今日はマリーの所で寝るようにとお達しが下り、二人はエミリとワンヂェンを抱えて寝室に消えて行った。

 なので、マリーのベッドに猫型になって潜り込み、ふくよかなモノに包まれて眠る。残りは……面倒くさい。居間で雑魚寝だ。


 そして翌朝、数人の殺気を感じて目を覚ます。またマリーに挟まっていたので、アイパーティに睨まれているようだ。

 動くのは怖かったので、息を殺して寝たふり。人の気配が減った瞬間を狙ってすかさず窓から脱出。お風呂の準備をすると、何食わぬ顔でリータ達を起こす。

 ワンヂェンは一晩中、三人に撫でられまくったのか、疲れた顔をしていたけどしらんぷり。


 寝室に居たメンバーでお風呂に入って、マスコット三匹がもみ洗いされていると何人かお風呂に入って来たが、コリスのせいでぎゅうぎゅうだ。そのせいもあって、引き戸を開けた者は諦め、あとから入る事となった。

 お風呂から上がると、エミリと一緒に朝食の準備。仕事のあるアダルトフォーから食事をして出勤して行き、二日酔いのアイパーティは自室に戻って行った。


 わしは城に行かないといけないが、まだ少し時間には早かったので、コリスの相手。お散歩が出来ないので、庭で相撲だ。

 わしばかり勝つと、コリスの機嫌が悪くなるのでバレないように負けてあげる。するとコリスは、今日もご機嫌だ。

 でも、気を抜いた瞬間に尻尾で薙ぎ払わないで欲しい。体重が軽いから、下から攻撃されるとホームランボールの如く、かっ飛ばされてしまった。



 コリスの機嫌も取れ、時間も頃合いとなると、わしは出掛ける準備。白い着流しのまま出掛けようとしたら、リータとメイバイに正装で行けと言われた。なんでも、国の話をするならそっちのほうがいいんだとか。

 なので、着流しの上から猫(紋)付き袴を着付けると、玄関でリータ達に挨拶をする。


「コリスとワンヂェンの事は頼むにゃ」

「はい! シラタマさんも頑張って来てください!」

「もしも出掛けたいと言い出したら、変身魔法を使わせてくれにゃ」

「何度も聞いたニャー」

「それと……」

「わかってますって~」

「心配症ニャー」

「にゃ~~~」

「「いってらっしゃ~い(ニャ)」」


 わしは笑顔のリータとメイバイに押され、無理矢理外に出されてピシャリと引き戸を閉められた。少し納得できなかったが、歩いて城に向かう。


 あんなに乱暴に引き戸を閉めんでも……。まるで厄介払いされた夫みたいで悲しい。わしはそんな事をされた事は……ない! ホンマホンマ。

 しかし、久し振りに王都を歩くと、また、猫、猫、言っておるな。だいたいはおかえりと言ってくれているけど、撫でないで欲しい。これでも王様なんじゃよ?

 面倒じゃし、人が増えると厄介だからこうかのう……ん?


 わしが道行く人を無難にあしらっていると、立て札の用紙を交換している者が居た。何が書いてあるか気になったので、テクテクと読みに向かう。


 なになに……コリスとワンヂェンの事が書かれているな。二人とも、猫の国の国賓こくひんって扱いになっておる。でも、見掛けても石を投げるなって書いてあるけど、国賓に石を投げる奴が居るのか?

 あ! わしの時にも書いてあったな。これは、奇妙な生物に対してのテンプレか? まぁ国賓には見えないもんな。

 わしの事は……書かれていない。ちゃんとわしの話を聞いてくれていたみたいじゃな。ここの国民には、王様扱いされたくないからのう。

 さてと、人が集まって来たし、撒くとするか……わ! 雨がポツポツして来た。急ごう!



 わしは人混みをするりと抜けると屋根に飛び乗り、レインコートにもなる猫耳マントを羽織ってぴょんぴょんと屋根を飛び交う。

 城に着くと、騎士に挨拶をして玄関の屋根のある場所まで走って向かうが、さすがにスルーと言う訳にもいかなかったのか、追い掛けて来た騎士に止められた。なんでも、案内役を呼びに行くのが自分の仕事だとか。

 勝手に行こうかと思っていたが、謝罪をして案内役を待つ。少し雨に掛かったので、水分を水魔法で飛ばしてマントを仕舞っていたら、案内役の侍女さんがやって来た。


 見知った顔だったので、世間話をしながら女王の待つ応接室に通され、中に入ると挨拶をする。


「おはようにゃ~」

「ええ。おはよう」


 にこやかに挨拶をしたわしは、女王の対面にある椅子を侍女さんが引くのでそこに座る。そして、お茶が並ぶとわし達を残し、侍女さんは出て行った。

 応接室の中には、女王と二人の女性が座って居たので、何者かを聞きながら会談を始める。


「そっちの人はにゃに?」

「書記官よ。会話の記録と、文章の作成をしてもらうわ」

「意外と少ない人数にゃんだにゃ」

「国どうしの話し合いをするんだから、このほうが都合がいいのよ」

「まぁ外に出したくない情報もあるからにゃ~」

「そんなところよ」


 怪しい……わしをハメて、おいしいところを持って行く気か? さっきの挨拶とは違って、鋭い目になっておるし……あ! 心を読まれないように細心の注意をしなくてはな。

 わしは心を読めないから、言葉でヒントを探らねば。ひとまずジャブを出して、様子を見ようか。


「そうにゃ。さっき雨が降って来たけど、こっちも大雨はあったにゃ?」

「ええ。ようやくまとまった雨が降って、ホッとしているわ」

「今年は多く降って、作物が多く実るといいにゃ~」

「そうね。でも、収穫は秋になるから、安心できるのはそれ以降ね」

「お互い大変にゃ~」


 天気の話から、自然と作物の話に持って行けたな。これはどこも不作だから、隠す必要の無い情報ってとこかな? さて……そろそろ本題に移るか。


「昨日、ちょっと話をしたけど、国交はどうなったにゃ?」

「もうその話に行くの?」

「世間話をしに来た訳じゃないからにゃ」

「そうね。でも、その前に……」


 女王は言葉を切ると、座ったままお辞儀する。


「フェンリル討伐、並びに、帝国との戦争に協力してくれて感謝する」

「やめてくれにゃ。報告は聞いたにゃろ? わしはどちらも、そこまで活躍してないにゃ」

「聞いたんだけどね……フェンリル程の化け物を討ち取れるとしたら、シラタマがやったんじゃないの?」

「たしか、バーカリアンがトドメを刺したって自慢してたにゃ。わしはその時には、別の場所に居たにゃ~」

「報告書ではそうだけど……」

「わしはちょっと助言しただけで、トーケルってあんちゃんが、北の街のハンターを取りまとめて頑張ってくれたにゃ」

「……そちらはそう言う事にしとくわ」


 信じてないって顔じゃな。まぁハンターだけでは、100パーセント負けていたじゃろう。


「戦争では、シラタマの持って来た情報が大きかったはず。夫も助かったと言っていたわ」

「どうだろにゃ? わしが居なくても、パンダは弱っていたんだから勝てたんじゃないかにゃ?」

「夫は、情報がなければ、多大な損害が出たと言っていたわ。私もそう思う」

「かもにゃ~。でも、わしもお願い事をしたんだから、お互い様にゃ」

「相変わらず感謝を受け取ってくれないのね」

「もうオッサンから聞いたからにゃ~」

「わかった。この話はおしまいにするわ」


 前置きはこれで終わりかな? また鋭い目になった。


「国交についてだったわね。結んでもいいんだけど……」

「反対意見があるにゃ?」

「まぁね。猫の国の事はまったくわからないし、シラタマの人と成り……猫と成りしかわからないんじゃ、危険視する者もいるのよ」


 猫と成りって……言い直さなくてもいいんじゃけど……猫じゃけど。


「じゃあ、どうすれば国交を結んでくれるにゃ?」

「まずは友好条約締結からね」

「あ~。たしかに必要にゃ。東の国とは戦争しませんにゃ~。これでいいかにゃ?」

「話が早いのはいいんだけど、口約束ってわけにはいかないわよ。これにサインして」


 女王はわしに書類を差し出す。


 う~ん……そこそこの量じゃな。ちょっと時間が掛かりそうじゃ。


「読むまで待ってくれるかにゃ?」

「いいわ」


 女王の許可をもらって書類に目を通すが、膝に乗せて撫でないで欲しい。邪魔している気がするが、ゴロゴロと読み続ける。

 そうして書類を読み終わると、女王の膝から脱出し、話を再開させる。


「こんにゃのサイン出来ないにゃ~」

「どうして?」

「相互協力要請とか言って、不作の時は助けてくれないし、戦争の時には兵を全て差し出せって、ニャメてるにゃ? それに税率も、そっちはタダでこっちは高利にゃ。にゃんかわからないお金も要求してるし、ひどすぎるにゃ~」

「国交を結びたいんでしょ?」

「こんにゃ不平等条約呑むぐらいにゃら、トンネルを塞ぐにゃ~!」

「プッ……あははは」

「にゃ~~~?」


 わしが「にゃ~にゃ~」文句を言うと、女王が笑い出した。


「いまのは冗談よ」

「まさか……試したにゃ?」

「ちゃんと王様してるのね」

「してるにゃ~!」

「ごめんごめん。でも、いまの条件を出した者はいたわ。政治で国の力を削ごうとするぐらい、猫の国を警戒している者がいるのよ」

「警戒する必要にゃんてないにゃ~」

「一国と戦えるシラタマがいるじゃない?」

「わしがそんにゃ事しないって、女王が一番知ってるにゃ~」

「そうだけど、民が戦争に向かえば、シラタマも応えざるを得ないでしょう」

「それはないにゃ。我が国は、侵略戦争が出来ないように法律で縛っているにゃ」

「え……それじゃあ、軍隊もいないの?」

「軍隊はいるけど、攻められた場合の防衛をするだけにゃ」

「そんな法律、誰が考えたのよ」

「別に誰でもいいにゃ。それより、さっきの案が冗談って言うのにゃら、本案を見せてくれにゃ」

「え、ええ……」


 女王の質問は時間の無駄なので、書類を受け取って目を通す。今度はまともだが、すんなりとは受け入れられない。


「この、他国との戦争の協力は出来ないにゃ。さっきも言った通り、法律で禁止されているにゃ」

「そう……でも、呑める所は呑んでもらわないと、こちらも納得できないわよ」

「う~ん……白い獣関係は、この国でハンターを続けるつもりだから、それで勘弁してくれないかにゃ?」

「なるほど……戦争時の食糧の援助は出来ない?」

「ギリギリだにゃ。まぁそれぐらいにゃら……でも、非戦闘員の口に入るように出来ないかにゃ? それにゃら、法律に引っ掛からないにゃ」


 わし達は、互いの意見を述べながら条約を擦り合わせる。そうして友好条約の項目を二人で埋め、長く静かな闘いを繰り広げていると、女王の口が止まった。


「………」

「どうしたにゃ?」

「シラタマって……猫よね?」

「猫だにゃ~」

「なんでそんなに国に詳しいのよ!!」


 どうやらわしが、女王と対等に戦っている事に疑問を持ったようだ。しばらく質問が猫問題になったので、右から左に受け流してやった。


「答えなさ~い!」

「面倒にゃ」

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