573 陽気な部族にゃ~


「オホホホホ~」

「謝ったんにゃから、もういいにゃろ~」


 さっちゃんの高笑いが癇に障かんにさわったわしが愚痴ると、さっちゃんの目がキラーンと光った。


「それで……こんな事態を引き起こしたシラタマちゃんは、どう責任取るのかな~?? オホホホホ~」

「にゃんとかしにゃす! にゃんとかしにゃすから、その笑い方はやめてくれにゃ~……」


 ムカつくから!!


「いま、なんか言おうとしたでしょ?」

「ちょっと忙しいんで、あとにして欲しいですにゃ~」

「……覚えておきなさい」


 さっちゃんと言い合っていても、原住民は敵意満々で壁の上から叫んでいるので落ち着かせる必要がある。なので、いつもの方法。黒い巨大魚を出して、入れてくれないかと下手に出てみた。


「それじゃあ仕方ないな~。もしも、もう一匹あれば、歓迎の宴なんかも開いちゃうかもな~」


 チョロイ……いつもより歓迎ムードになったので、さっきより大きな黒い魚を見せて、コリスも巨大リスで入っていいかと交渉してみたら、簡単に中に通してくれた。

 そうしてスキップする男達に連れられて、質素な木造家屋を見つつ集落の中央に向かっていたら、さっちゃんが小声で話し掛けて来た。


「あのさ~……小説には出て来なかったけど、いつもこんな面倒な事してるの?」

「そうにゃ。みんにゃ自分達以外の人間に会った事がないから警戒してるんにゃ」

「人間……」

「猫だにゃ~。猫が来たら警戒するんにゃ~」

「「「「「あはははは」」」」」

「笑わないでくれにゃ~」


 笑うなと言っても盗み聞きしていた皆にしばらくは笑われ続けたので、涙目でコリスに抱きつく。コリスはそんなわしを優しく撫でてモフモフしてくれた。



 集落の広場に着いたら、歓迎の宴が開かれるらしいが、もう少し時間が掛かりそう。わしがあげた黒い巨大魚を捌くのにも手こずっていたので、手伝ってあげた。

 わしがあまりにも簡単に捌くので強い戦士と受け取られたらしく、弱いと言ったのに信じてくれない。さっちゃんが「自分のペットは最強だ」とかよけいな事を言うから、余興をさせられる事になってしまった。


「誰がペットにゃ~!」

「よかれと思って言ったのよ。シラタマちゃんのこと、怖がっていたでしょ?」

「ぜったいペットにしようとしてるにゃ……」

「じゃあ、フィアンセって紹介するわ。対外的に……」

「猫の国を乗っ取ろうとするにゃ~!」


 さっちゃんと喋っていたら、原住民の料理は始まり、対戦相手の屈強な男達も集まって来た。

 ここで酋長しゅうちょうと説明を受けた、長い白髪に中心がはげたムキムキなじいさん「マオベサ」がわし達の元へ現れた。マオベサは挨拶と審判をする旨を説明したら、ロープが四角く張られた場所へと移動する。


 プロレス? 全員、上半身裸のマッチョじゃけど、プロレスでもするのか??


 とりあえず、わしが全員相手をすると言ってみたけど、リータ達も闘いたい模様。止めても撫でられるだけなので、マオベサに言ってみたら、女なんかと闘えないとのこと。

 そう言われても、やる気を出した戦闘狂を止めるのは面倒臭い。まだマオベサのほうが落としやすいかと思い、酒を注ぎ注ぎ説得したら「余興だしのう」とか、上機嫌で許可してくれた。


 そうして始まる蹂躙じゅうりんという名のプロレス。一人目の屈強な男は、この中で最弱のオニヒメにビンタ一発でのされる。

 いきり立った男達は次々と、コリス、イサベレ、メイバイ、リータに襲い掛かり、ビンタ一発で場外負けとなるのであった。


 せっかくのプロレスが台無しじゃ……宴を盛り上げる為の余興のせいで、盛り下がってしもうた……



「じゃ、余興はおしまいってことで……お腹すいたにゃ~」


 盛り下がっては仕方がないので、わしは宴会を始めようと言ったが、マオベサは酒を一気に飲み干して叫ぶ。


「情けない……こうなったら俺が相手だ~~~!!」


 マオベサは酒が回ったらしく、あの惨状を見てもヤル気満々。わしにリングに上がれと言って来たので、相手してあげる。


獣を吊るす縄ラリアットダァ!」

「に゛ゃっ!!」


 アメリカ西海岸で、ゴングと同時にマオベサのまさしく西部式投げ縄打ちウエスタン・ラリアットが炸裂。わしは額に受けて、その場で倒れ込む。

 マオベサは、痛そうに倒れているわしの頭の毛を掴んで立たせると、そのまま大振りのパンチパンチ。

 わしがフラフラとした足取りで離れたら、ドロップキック。わしは当たったと同時にバク転で吹っ飛ばされて顔から落ちる。


「どうだ! まだまだ若い者には負けんぞ~~~!!」


 マオベサは観客をあおりまくると、場は大盛り上がり。なんかコールアンドレスポンスまで起こっている。


 わしがフラフラっと立ち上がると、トドメコールが聞こえて来て、マオベサは頭の上で手を叩き、観客を煽る。


「いくぞ~! 1、2、3……ダァー!!」


 マオベサの必殺技。獣を吊るす縄ラリアットが再び炸裂。


「その技はもう見たにゃ!」

「ぬおっ!」


 しかし、わしは腕を取って回転してからの延髄斬り。マオベサの首に蹴りが入ったが、少し弱すぎてたいしたダメージになっていなかった。


「チッ……まだ動けたのか」

「こっからわしの、大逆転劇の始まりにゃ~!」


 その通り、わしはプロレスをしていたのだから、マオベサの攻撃をわざと受けていただけ。それも、派手に倒れてあげたから、大盛り上がりになったのだ。

 これでわしが勝利したら、さらにも盛り上がるはず。現に、お互いが技を交互に掛け合う度に大歓声が起こっている。


 逆水平、ナックルアロー、ブレーンバスター、バックドロップ。


 お互い大技を受け合い、長いプロレスになったら、マオベサのスタミナに限界が来たようだ。

 マオベサが、最後の力を振り絞った獣を吊るす縄ラリアットで突撃して来た力を使い、フランケンシュタイナー。マオベサの首を股で挟み、後ろに回転して地面に叩き付けたら、わしはコーナーポストに駆け上がって観客を煽る。


「いっくにゃ~! 1、にゃ~、3……」

「「「「「にゃ~~~!!」」」」」


 マオベサの掛け声をパクってからの、ムーンサルトプレス。わしのバク転は綺麗な放物線を描き、マオベサの胸に落ちて、スリーカウント勝ちを収めるのであった。



「がっはっはっ。親友は強いな。がっはっはっ」


 宴が始まれば、マオベサは上機嫌。負けた事よりも、勝負の過程が面白かったようだ。なんだかこの手のがさつな人は、気分が良くなるとすぐに親友と呼んで背中をバシバシ叩く癖があるらしいのでうっとうしい。


「それよりここの暮らしを教えてくれにゃ~」

「おお。そうだったな。飲め飲め」


 マオベサはいまいち味の良くない現地の酒を注ぐので、わしはチビチビと飲みながら話を聞く。といっても、モララ族という部族名以外、他となんら変わらない。

 モララ族の暮らしは、漁と狩りをして、食って寝る。せいぜい麦とジャガイモを育てているぐらい。時の賢者も来ていないし、砂時計もないようだ。

 他に面白い事は無いかと質問してみても答えられないようだから、目の前の白い海について質問してみた。


 わしの見立てでは、白い海は何かの縄張り。その主の縄張りの近くに集落が作られているから、安全を保たれているはずと予想を言ってみたら、正解。

 しかし、縄張りの主は生き物ではなく、神様らしい。名を「水の為に生まれた者」。この「水の為に生まれた者」をモララ族はたてまつっていて、酒なんかを納めているそうだ。

 いちおう危険はないのかと聞いてみたら、神様だから危険はないとのこと。ただ、そこまで助けてくれるような事はしてくれないし、モララ族もそれで納得しているようだ。


「にゃるほどにゃ~。その神様は、いまは居ないにゃ?」

「たまにふらっと出て行くんだ。一年のほとんどは鎮座しているのに、会えないなんて運のない奴だな」

「まぁまた暇が出来たら遊びに来るから、その時にでも顔を繋いでくれにゃ~」



 それからも宴が続き、アルバムの説明はリータに丸投げ。メイバイは写真を撮り、コリスとオニヒメはわしの出した高級串焼きを仲良く食い漁る。イサベレと兄弟も負けじと食べているようだ。

 その間わしは、さっちゃんとお散歩。一人でウロウロしようとしていたのに、尻尾を掴んで離してくれないので、散歩させられる。


 二人でぺちゃくちゃ喋りながら、モララ族が何かしていたら質問し、写真なんかも撮っておいた。


「これは……何を焼いているの?」


 わしが料理をしているモララ族の写真を撮っていたら、さっちゃんは不思議な料理なので質問して来た。


「たぶん、塩釜焼きにゃ。本来にゃら、魚を丸ごと塩の釜に入れて焼くけど、大振りの切り身が入ってるんじゃないかにゃ?」

「この塊が全部塩なの?? そんなのしょっぱくなっちゃうよ~」

「わしもそこまで詳しくにゃいけど、蒸し焼きに近いから、たぶん大丈夫にゃはずにゃ。ちょうど焼けたみたいだから、分けてもらおうにゃ」


 この調理方法はエミリへのお土産になりそうだから、レシピを詳しくメモり、写真を付けて渡す予定だ。

 そうして話を聞いていたら塩釜はトンカチで砕かれ、木の器に盛ってわし達にもくれた。


「ん! 嘘みたいにいい塩梅で身はふっくらしてる。それにハーブかしら? 香りもいいわ」

「にゃはは。気に入ったみたいだにゃ」

「うん! お城でも作れないかな?」

「料理長にゃらもっと美味しく作れそうだにゃ。塩もビーダールのおかげで値段も下がって来たから、そこまで高価にゃ品にはならないかもにゃ~」


 塩釜焼きは、もうひとつリクエストして、焼き上がった物はあとで次元倉庫に入れておく。これもエミリへのお土産だ。



 そうこうしていたら、日が落ちてしまいそうなのでお開き。空いてるスペースにキャットハウスを出して寝てしまおうかと思っていたら、太鼓の音と騒ぎ声が聞こえて来た。

 なので、皆で広場に戻ったら、モララ族はキャンプファイヤーを囲んで打楽器を手で打ち鳴らし、口を手で叩きながら炎の周りを踊っていた。

 こんな祭りをやっていたならば、わし達も参加しないわけにはいかない。さっちゃん達も口を叩きながら踊り、わしはウクレレを弾きながら踊る。


 こうして楽しい夜は、騒ぎ声のなか更けて行くのであった。



 翌朝起きたら、さっさと旅立ちの準備。朝メシに着替えにモフモフ。準備が整ったら、酋長のマオベサに挨拶。わし達とは違い、モララ族は夜通し踊っていたようで、多くの人は広場で雑魚寝していた。


 酋長は目立つところで逆さ釣りになっていたからすぐに見付かったけど、何があったんじゃろう??


 理由は気になるが早く出発したいので、頬をペチペチ叩いて出て行く旨を伝える。ただ、その時イサベレとオニヒメからいい事を聞いたので、マオベサと別れの挨拶をしたら、海側の門から勝手に出てやった。



「昨日、あんな大きな山なんてなかったよね??」


 さっちゃんはイサベレ達からの報告を聞いていなかったので、目を擦りながらわしに問う。


「そうだにゃ。神様がわし達を見送りに来てくれたみたいにゃ~。お~い! また来るからにゃ~~~!!」


 わしが砂浜から白い山に向かって念話を繋げると、山はモゾモゾと動いた。


「アレって……昨日の人魚!!」

「にゃはは。わし達はすで神様に会ってたんだにゃ~」


 昨日見掛けた巨大な白マナティーは、ここの守り神だった。わし達が手を振ると、わかってやっているのかマネをしているのかどちらかわからないが、ヒレで振り返してくれる。


 わし達はヒレを振り続ける神様に見送られ、東に向かって飛び立つのであった。

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