710 ギミック盛り盛りにゃ~


 大玉と落とし穴の罠をなんなくクリアしたわし達であったが、通路いっぱいに開いた落とし穴のせいで先に進めなくなってしまった。


「下は白魔鉱の槍があるから気を付けて通ってくれにゃ」

「これだけ幅の広い橋なら落ちませんよ」

「シラタマ殿は心配性だからニャー」


 土魔法で作った幅が5メートルもある橋の中央を歩いておけば、落ちる心配も下を見る恐怖感もないから安心。

 これはリータとメイバイが呆れているわしの心配性ではなく、文字通り石橋を叩いて渡っているだけだ。わしが叩いたら壊れるけど……


「探したら橋が現れるスイッチがあったんだよ。せっかくのギミックが台無しだよ」

「それを先に言っておいてにゃ~」


 ノルンが悔しそうにしていても、こんな真っ白な空間ではスイッチひとつ探すのも大変だ。魔法が便利すぎるのでそんな仕掛けを探すなんて考える間もなく、橋を作って渡るわし達であった。



 橋を渡り切ったらノルンが片付けをして行けとうるさいので勘繰ったら、口笛を吹いて誤魔化しやがる。しかし、わし達に時の賢者の罠なんてたいした障害にはならないので、橋は吸収魔法で消して先に進んだ。


「にゃんかガンガン聞こえるにゃ~」

「探知魔法ではどうですか?」

「あ~……いっぱい走って来てるにゃ」


 何も無い一本道だったから探知魔法はたまにしか使っていなかったので、音とリータの意見を聞いて探知魔法を飛ばしたら、数多くのモンスターがわし達の元へ走って来ていた。

 するとその時、ノルンがわしの目の前でドヤ顔。


「フッ……引っ掛かったんだよ」

「にゃ~?」

「橋を潰させたのはこの布石なんだよ! スタンピードに巻き込まれて全滅すればいいんだよ!!」

「あ~……そういうことだったんにゃ」

「ちょっとは焦るんだよ!!」


 わしの態度が気に食わないとパタパタ飛び回るノルンを無視して、リータ達と雑談。


「ちょっとは面白そうにゃイベントが発生したにゃ~」

「ですね。全部壊してしまいましょう!」

「あ、そんにゃ感じで行くんにゃ。突っ切るって方法もあるんにゃよ?」

「シラタマさんは魔法の警戒をお願いします。皆さん……やりますよ~!!」

「「「「にゃ~~~!!」」」」

「にゃ~……」


 皆は元気よく気合いを入れているので、わしも遅れて元気なく返事。全員、怖い笑顔を浮かべながら武器を構え、スタンピードを待つのであった。



 スタンピード最前列は、オオカミっぽいシルエット。その後ろにはスライムやゴブリンやオーガのシルエットもあるので、これまで出たモンスターが通路いっぱいに広がり押し寄せていると思われる。

 それを向かい打つ先方は、リータとコリス。


「どっせ~い!」

「ド~ン!」


 気功パンチで先頭のモンスターを殴り飛ばし、隊列を一気に崩壊させた。


「行っくニャー!」

「んっ!」

「私も~!」


 そのあとは、メイバイ、イサベレ、オニヒメが飛び込んで乱戦。次々にモンスターを斬り刻んでいる。


「シラタマは行かないんだよ?」

「乗り遅れちゃったにゃ……」


 そんな中、わしは完全に乗り遅れたのでノルンとしばし見学。


「あ、横を抜けたモンスターが居るにゃ」

「スタンピード時は、基本、モンスターは真っ直ぐにしか進まないんだよ」

「にゃるほどにゃ~。こんにゃに多いとマザーの指示も大変なんにゃ」

「スリーサイズだよ。てか、追ってまで倒さなくていいんだよ」

「ふ~ん……最後尾に戻るカラクリでもあるのかにゃ~??」

「ノーコメントだよ」

「ま、わしも働かないと怒られそうにゃし、行って来るにゃ~」


 大群のモンスターの中に魔法を使う者が現れ、リータ達は盾やモンスターの残骸に隠れてやり過ごしていたので、わしも参戦。魔法使いを中心に斬り捨てる。

 一通り魔法使いを倒したら、リータ達の元へ戻って耳よりな情報。追いかけてまで倒さなくても戻って来ると教えてあげたら、喜んでくれた。どうしても全滅させたいようだ。


 皆がガンガンモンスターを倒している中わしもサボっているわけにもいかず、魔法使い中心に斬り捨てる。探知魔法で今まで魔法を使っていたモンスターを探して倒し、他はリータ達に回す。

 そうこうしていたら通路が塞がれて来たので、前線を上げて殲滅。そして前線を上げて殲滅と繰り返していたら、モンスターの出現が緩やかになり、完全に止まって、スタンピードは終了したのであった。


「シラタマ殿は何体倒したニャー?」

「にゃ? 数えてなかったんにゃけど……」

「じゃあ、コリスちゃんが一番ニャー!」

「やった! ホロッホロッ」

「そういう遊びをしてるにゃら、わしも仲間に入れてくれにゃ~」


 メイバイ達は討伐数対決をしていたようなので、少し納得のいかないわしであったとさ。



 わしを入れたら勝負にならないからわざと言わなかったのではないかと聞きながら先を進んでいたら、また槍付き落とし穴。


「前門の虎、後門の狼ってところかにゃ? スタンピードを一気に抜けようとしたらここで落として、下がったら後ろで落とそうって算段だったんにゃ~」

「そうだよ。それなのに全部壊さなくても……修理費で大赤字なんだよ」

「それは御愁傷様にゃ~」

「まったくシラタマ達は異常なんだよ。マザーもカンカンなんだよ」

「いちおう聞くけど……」

「スリーサイズだよ」

「だよにゃ~」


 集中制御装置のマザーにも意思があるのか知りたかったが、これも禁止事項に引っ掛かるらしいので、残念ながら諦める。

 そうしてノルンからの苦情を聞きながら歩いていたら、何度か罠はあったけど、モンスターは出現せずに第8フロアのゴールに辿り着いた。


「思ったより早く着いたにゃ~。スタンピードのせいかにゃ?」

「逆なんだよ。スタンピードがあるから、もっと時間が掛かるはずだったんだよ」

「あ、だから距離が短かったんにゃ~」

「まったくいい加減にしろだよ」


 ノルンと話をしながらボス部屋に入ったら、四つ足で八本の蛇の頭を持つ巨大なゴーレムが待ち構えていた。


「ヤマタノオロチ……かにゃ?」

「よく知ってるんだよ。ヤマタノオロチはスサノオノミコトしか勝てないんだよ」

「う~ん……どう言ったらいいんにゃか……」

「なにモゴモゴ言ってるんだよ」

「ヤマタノオロチにゃら、二匹ほど倒してるからにゃ~。それも、こんにゃのと比べられないぐらい大きいのをにゃ」

「シラタマは嘘を言ってるんだよ。ヤマタノオロチは空想上の生き物なんだよ」

「今度、写真見せてあげるにゃ~」


 わしがノルンちゃんと話し込んでいたら、リータ達がわしを置いて突撃。また乗り遅れてしまったし、いまから行くと横取りとか言われそうなので、好きにさせてあげる。



 ヤマタノオロチゴーレムは、リータ達が接近すると頭のひとつが大口を開けたので、リータとコリスは盾を構えてメイバイ達は後ろに隠れる。

 その直後、ヤマタノオロチゴーレムから炎が放たれたが、リータ達はわいわい楽しそうに喋っている。どうも、今までのヤマタノオロチはわししか相手にならかったので、ちゃんと戦えるから嬉しいみたいだ。


 ヤマタノオロチゴーレムから放たれた炎が途切れると、今度は鉄でも余裕で切断できそうな水のビームが放たれたが、これもガード。それが途切れるのに合わせて、イサベレとメイバイが飛び出した。

 そしてリータとコリスも前進。オニヒメはその後ろに付いて風魔法で応戦している。


 その散り散りに動くイサベレ達に対してヤマタノオロチゴーレムは、八つの頭から属性違いの魔法を乱発。火や水だけでなく、風や土、さらに氷と電撃。

 イサベレ達は走り回って避け続けるが、そうは上手くいかないようだ。


「ママ。毒も吐くみたい」

「うん。わかったわ。一時待避~~~!!」


 ヤマタノオロチの残りふたつの頭からは色違いの毒ガスが放たれていたので、オニヒメが報告してリータはすかさず指示。イサベレ達が戻る中、オニヒメとコリスで風を起こし、毒ガスは押し返す。


「どの頭が毒を吐いたか見てましたか?」

「ん。もちろん」

「任せてニャー!」


 まずは危険な頭から。リータの指示は愚問だと言わんばかりに、イサベレとメイバイは毒ガスの途切れ際を狙って、ダッシュからのジャンプ。

 二人の速度についていけないヤマタノオロチゴーレムは、簡単に攻撃を受ける事となった。しかし首は太いので一撃とはいかず。

 ヤマタノオロチゴーレムからの攻撃が始まると、二人は一時退避して盾の後ろへ。攻撃のチャンスが来るとまた飛び出して斬撃。そして退避と繰り返していたら、毒を吐いていた頭は床に落ちるのであった。


「それじゃあ、あとは自由行動で~す!」

「「「「「にゃ~~~!!」」」」」


 その後はタコ殴り。リータ達は散り散りに動いてヤマタノオロチゴーレムの魔法は避け、気功パンチや斬撃を繰り出し、粉々に砕くのであった。



「どうやったらシラタマ達を殺せるんだよ……」


 ここまで無傷でモンスターを蹴散らしたわし達を見て、ついにノルンは諦めモード。なので、わしはノルンの頭を撫でて慰める。


「相手が悪かっただけにゃ。わし達じゃなかったら、第1フロアのアイアンゴブリンにも勝てないにゃ~」

「セクハラはブッコロだよ」

「頭を撫でただけにゃろ~!」


 またノルンが電撃効果のある角を生やすので、わしは「にゃ~にゃ~」言いながらひょいひょい避けて、リータ達に合流。

 それから感想を聞きながら宝箱部屋に移動した。


「さてさて~……にゃにが書かれてるのかにゃ~?」


 イサベレに譲ってあげたいところだが、わしだって時の賢者の手記に興味はあるから開けさせてもらった。その宝箱の中には分厚い本が一冊入っていたので、わしは慎重に持ち上げて表紙を見る。


「これって……1巻ってなってるんにゃけど……」

「そうだよ。手記は全12巻なんだよ」

「12回も潜らないとダメにゃの~~~!?」

「そう言ってるんだよ」


 残念ながらコンプリートはならず。ノルンも冷たくあしらうので、わしは項垂うなだれながら手記をペラペラ捲るのであった。



「どう? フンスコ」

「う~ん……全て日本語にゃ。上のフロアで見た14歳辺りの冒険みたいだにゃ」


 ちょっと読んで見たらイサベレの鼻息が荒いので少し説明。それから今後の話に移る。


「読むのは時間が掛かりそうにゃし、先にクリアしてしまおうにゃ」


 イサベレ以外からわしの方針は受け入れられたので、イサベレも日本語が読めないから渋々受け入れてくれた。

 そうしていつものように地下へと向かう小部屋でノルンに前進する旨を伝えたが、ノルンからいつもの答えではない答えが返って来た。


「先に進むなら、一人ずつそこの円の中に入ってクリスタルスカルを掲げるんだよ」

「どこに円があるんにゃろ?」


 ノルンが指差す場所は真っ白なので、わし達はモタモタしながら床に描かれた円を探したら、十個の円があったからそこに入ってクリスタルスカルを掲げる。


「それじゃあ、下のフロアに移動するんだよ~!」


 ノルンのセリフと共に、わし達の足元は個別にパカッと開いた。


「なっ……なんで落ちないんだよ!!」

「だって……にゃあ?」

「「「「「にゃあ?」」」」」


 しかしながら、ノルンの思っている通りにならず。


 わしは穴が開いた瞬間に空気を力強く踏んで脱出。

 コリスとオニヒメは風魔法【突風】に乗って脱出。

 イサベレとメイバイは風魔法で作った空気の玉を蹴って脱出。

 リータは鎖を掴んで大盾を上に投げ、その重みで空を飛び脱出。


 そりゃ、ノルンがあんなに怪しい事を言っていたんだから、個別に落とそうとしているのはバレバレ。念話で脱出方法を話し合っているのも当然な結果だろう……

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