600 トウモロコシ収穫大会にゃ~


 太陽光発電セット、電動ミシン、縫製工場が稼働すると、何やらまた住人が集まってしまった。どうも工場というモノが気になって見に来たらしいが、その中で行われているファンシーな光景に釘付けになっているようだ。


 工具を持つウサギ、ミシンで服を作るウサギ、ピョンピョン移動するウサギ、モフモフ働くウサギ……


 五百人近くものウサギが集結する施設なので、工場の事よりもウサギを見てうっとりしている者が大多数。


 でも、アレはタヌキつゆじゃからな?


 なんだか動物園みたいな施設になってしまったが、極一部の住人以外は工場内に立ち入る事は禁じているので、窓から見るだけならガス抜きになるから許している。でも、テントを張る事は禁止した。


 大量のウサギの出勤風景は見応えあるだろうけど、夜はちゃんと家で休んでね?


 ちなみに予定していた家電工場より縫製工場を急いだ理由は、ウサギ族の服が足りなかったから。素っ裸で歩かれると街の風紀が乱れるので仕方がなかったのだ。


 ぬいぐるみにしか見えないけど、そのぬいぐるみを襲う輩が出るかもしれんしのう。アイ達みたいに……


 それにこれからウサギ族は五倍も増える。各国で子供服が買えなくなってしまったので、自分達で作らせようというわけだ。


 作っている物は二種類。浴衣ゆかたとサンダルだけ。これはウサギ族から聞き取りをしたところ、ズボン等は穿き心地が悪く、シャツも窮屈。靴も痛いらしいので、わしの着流しを着せたら一番楽と言っていたからだ。

 慣れてないと着崩れする事もあるが、大量生産するにはかなり楽。上下ともに作らなくていいし、コストも安価。元々猫の街でも作っていたので、すぐに取り組む事が出来たのだ。



 浴衣は続々作られているから、服問題はある程度解決したので次の視察。街中をウロウロして、各種準備を確認する。


 宿屋、飲食店、見せ物、踊り……


 そう。建国記念日が近付いているので、わしもサボッているわけにはいかないのだ。と言っても、これは双子王女主導で進んでいるから問題はない。

 各街からも応援が来てくれるので、猫の街の住人もおもてなしするだけでじゃなく、一日は楽しめる。


 問題はウサギ族だ。


 その日は各国から人が集まるから、必ずモフられる。なんとか止めたいが、猫の街の住人でもあれだけ苦労したのだ。絶対無理!

 いちおうウサギ族に一日は楽しめるように自由時間は作るつもりだが、そこが一番の危険。前もってゲストには「ウサギを撫でないで」と書いたパンフレットを配るが、絶対守られないだろう。


 そんなことで捕まえたら、全員猫の国から帰れなくなると思う……


 なので、裏方の仕事を教え込んでいるウサギ族には、進捗状況を確認しながら「建国記念日だけは我慢してくれ」と頭を下げながら回った。


 夕方になるとウサギ居住区に入って、何度も頭を下げてお願い。食べ物を貰って撫でさせると調子に乗る奴が増えるから、絶対にやるなと念を押しておいた。

 これまで王様一人でウサギ族を守る為に奮闘していたんだ。それにそのせいで過労で倒れた噂も流したので、快く受け入れてくれた。



 それから毎日ウロウロし、住人にもウサギ族を守ってくれとお願いして数日……


「第一回、トウモロコシ収穫大会を開催するにゃ~!」


 ついに育てていたトウモロコシが豊作となった。収穫に駆り出したウサギ族は、こんなに早く収穫できるなんて思ってもいなかったので、少し説明。

 白い巨象の血でもよかったのだが、ヤマタノオロチの血も少し回収しておいたので、今回はその血を使ったのだ。少しと言ってもトンでもなく巨大だったので、けっこうな量がある。

 もうすでに研究は済んでいたので危険性はない。巨象栄養水より少し割合を減らし、建国記念日に間に合うように配合したのだ。


 収穫はウサギ族だけにやらさず、半分は住人にも手伝ってもらう。と言うか、ウサギだけでは二種類のトウモロコシが混ざってしまいそうなので、苦肉の策で住人に頼んだのだ。


 だって、ウサギの見分けがつかんのじゃもん。いちおう色は違うけど、いちいち色分けするの面倒だったんじゃもん。ブチが居るから分けられないし……


 そんな大人数でやったので、収穫は昼までに終了。お昼休憩を挟んで、再び作付け。少し面積を増やして栄養水を掛けておいたので、収穫した物は次の移住者の食糧になる。

 収穫が終われば、ちょっとだけ試食。トウモロコシは建国記念日の目玉商品として振る舞う予定なので丸々食べさせられないが、せっかく収穫したのだ。フライングで、茹でトウモロコシを輪切りにして住人にも振る舞ってあげた。


「わっ! 甘くて美味しいです~」

「ちょっと食べにくいけど美味しいニャー!」

「星みっちゅ!」

「もっと食べたい……」


 リータとメイバイはトウモロコシを食べて目を輝かせ、コリスは最高得点。オニヒメも美味しく食べておかわりを要求するので、わしはコリスにかじられた。


「家に帰ったらあげるにゃ~」

「「やった! ホロッホロッ」」

「シーーーにゃ! 住人には内緒だからにゃ~??」

「「シーーーにゃ~。ホロッホロッ」」


 コリスとオニヒメが大声で喜ぶのでいさめたら、嬉しそうにわしのマネをする。別にマネしなくてもいいのに……でも、オニヒメがコリスに似てきたのはなんでじゃ?


 気になる事はあるが、トウモロコシ収穫大会は大盛況のまま幕を閉じ、撤収。トウモロコシは猫の街穀物貯蔵庫と、キャットタワーの地下貯蔵庫に分けて運ばれるのであった。



 キャットタワーに帰ると夕食を食べてから、空中庭園で夜食。猫ファミリーだけでなく、ビルの上階に住む者を集めてトウモロコシパーティーだ。


「じゃあ、エミリはわしと一緒に作ってくれにゃ~」

「はい!」


 茹でトウモロコシは食べたので、まずは一番食べたかった焼きトウモロコシ。それも、醤油を塗ったお祭りメニューだ。


「これ、本当に合ってます?」


 アミの上でトウモロコシをコロコロ転がして焼いていると、醤油の香ばしい匂いから焦げるような匂いに変わり、エミリは不安そうな顔をしている。


「ちょっと焦げたぐらいが美味しいはずにゃ」

「本当ですか? 真っ黒ですよ??」

「その辺はエミリのさじ加減でやってにゃ~」

「うぅ……わからないです~」


 いくら日本からの転生者の娘であっても見た事もない食べ物ではわからないらしいので、わしが適当なところで判断。二人で少し味見をして、一番美味しいと思った物を切り分けて皆に振る舞った。


 当然、焼きトウモロコシは大好評。皆は美味しそうに食べている。もちろん、わしとエミリも美味しく食べながら話し合っていた。


「凄く醤油に合いますね!」

「にゃ~? 久し振りに食べたけど美味しいにゃ~」

「他にレシピはないのですか!?」

「あるっちゃあるけど、わしはヒントしかあげられないからにゃ」

「なんとかします!!」

「ま、その前に、もうひとつ作っちゃおうにゃ」


 次にわしが取り出したりますは、かっさかさのトウモロコシ。枯れたようなトウモロコシを見たエミリは首を傾げる。


「不良品ですか?」


 そりゃさっきの瑞々みずみずしいトウモロコシを見たら、そう思うか。わしも自信ないし……


「たぶんこういう品種にゃ。粒をほぐしてくれにゃ~」

「はい……」


 二本ほどトウモロコシの粒をほぐすと、フライパンを熱して油を引いたら粒をぶち込む。そして蓋をして数分……


 パンッ! パパンッ!


「な、なんですか!? 中で爆発してますよ!!」


 フライパンの中から弾けた音が響き、エミリだけでなくこの場に居る者が驚きの声を上げた。


「お~。やっぱり合ってたにゃ~」

「あ、開けないと!」

「ダ、ダメにゃ! にゃ~~~!!」


 パパパパパンッ!!


 焦ったエミリが蓋を開けるものだから、辺りに散弾のように飛び散るので、わしはエミリを抱えて逃げた。


「あ~あ……ちょっとしか残らなかったにゃ~」

「だって~。こんなの料理じゃないんですも~ん……モゴッ!?」


 フライパンには一握りの白い物体しか残らなかったので、わしが嘆いてもエミリには伝わらない。なので、塩を少量掛けて、エミリの口に放り込んだ。


「なんですかこれ!? あんなに固かった物が、さくふわですよ!!」

「にゃはは。ポップコーンの出来上がりにゃ~。パクッ」


 エミリが大袈裟に驚くので皆も欲しがり、あっという間にポップコーンは売り切れ。また新たに二個のフライパンにトウモロコシ乗せて、多く作って振る舞う。


「面白い食べ物にゃろ~?」


 エミリはポップコーンを食べながらブツブツ言っていたのでわしは問う。


「閃きました! バターが合うかもしれません!!」

「お~。それも美味しいんだにゃ~。あ、さっきの品種でバター炒めも美味しいんにゃ~。今度作ってにゃ~」

「なんで新しいレシピまで知ってるんですか~」

「お母さんも知ってるからにゃ~。ゴロゴロ~」


 エミリは納得いかないとわしを撫で回すので、トウモロコシの話で落ち着かせる。


「柔らかいトウモロコシでは、スープを作れるんにゃ。たしか、潰してペースト状にして、牛乳で伸ばすのかにゃ?」

「あ……なるほど。なんとなく味が想像できます……塩も入れたほうが……他にはありませんか!?」


 エミリの興味が移ったので、わしは畳み掛ける。


「乾燥した物は、臼で挽いて生地として使えるにゃ。焼いたらたぶん固くなるけど、それは食感にゃから、美味しく食べれる物を作って欲しいにゃ。トウモロコシを売るにはレシピが無いといけないからにゃ」

「面白そうな料理ですね……でも、想像できないです~」

「う~ん。わしも詳しく知らにゃいからにゃ~……あ! ウサギ族が主食にしていたから、作れる人を探しておくにゃ~」


 わしがトウモロコシの未来を語ると、エミリの目が輝いた。


「モフッていいのですね!」


 いや、ウサギが近くに来ると聞いて興奮しているようだ。


「ダメに決まってるにゃろ~」

「あ! 違います違います!! 助手に雇って欲しいと言いたかったんですぅ~」

「ちょっと本心がにゃ~」

「お願いしますぅぅ~~~」


 どうやらエミリは、建前より先に本音を口にしてしまっていたようだ。なのでわしは、ウサギ族を雇う事を渋るのであった。


「モフリませんから~~~」


 しかし、ウサギ族の協力が無いとトウモロコシが売れないので、仕方なくエミリに助手を付けるのであった。たぶんモフると思いながらも……

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