634 会議に参加するにゃ~


 アメリヤ料理の話に盛り上がってしまったが、イサベレが怒っているように見えるので話を戻す。


 リータ達はアメリヤ産バスで門を潜り、街並みを見ながら公爵の屋敷まで進んだそうだ。その時、ボロボロの服を着た原住民を見掛けたので質問したら、「アレは人ではなく、物だ」と説明されたらしい。

 降りて話を聞いてみたいと言っても「特使様に汚い言葉を聞かせるわけにはいかない」と断られたそうだ。

 この時点でメイバイの怒りは限界に来ていたそうだが、なんとか耐えて屋敷に入った。


 出迎えてくれたのは、この国で公爵をしている太った老人。第一印象は、舐めるように全身を見られたから気持ち悪かったらしい。猫耳や尻尾や角を見てるんじゃないかと聞いたら、違う印象を受けたようだ。

 応接室に通されて一通りの質問を受け、こちらからも質問しようとしたのだが、次から次に貴族と名乗る太った中年男性が入って来て、同じ質問ばかりを繰り返していたそうだ。


 その質問とは、ほとんど種族と軍事に関すること。どれぐらい変わった種族が居るのか、どれぐらいの兵が居るのか、どんな武器を使っているのか。

 種族に関しては、リータが猫の国のざっくりした種族比率を説明したらしい。兵の数は、イサベレが東の国の兵数を適当な数に変えて教え、それらが全て剣と弓を持って戦うと言ったら大爆笑になったんだって。

 どうして笑うのかと聞いたら、話をはぐらかされて皆に怒りが込み上げたとのこと。コリスはいつも通り。


 全然こちらから話をさせてくれないので、コリスを元に戻す話を切り出せなかったらしい。さらに来客の全員がいやらしい目で見て舌舐めずりするので、ぶん殴ってやろうかと思ったそうだ。



「よく抑えたにゃ~。偉いにゃ~。ゴロゴロ~」


 長い愚痴がやっと終わったので、わしは褒めたほうが無難だと察した。撫でる手が雑じゃし……


「ゴロゴロ~。他に情報はにゃいのかにゃ?」


 ここまで愚痴だけで情報が薄いので、一番冷静だと思われるイサベレに話を振る。


「教会の神父ってのが、変なことを言ってた」

「にゃ?」

「私を見てジャンヌと呼んだ」


 ジャンヌ……ジャンヌ・ダルクのことを言っておるのかな?


「ジャンヌと呼ばれた理由は聞いてないにゃ?」

「明日、教会で話すと言われた」

「じゃあ行くしかないにゃ~。ちにゃみに、ジャンヌってのはだにゃ……」


 少しはジャンヌ・ダルクの情報を入れておいたほうがいいと思い、百年戦争の際に神様に兵を鼓舞するような役目を与えられた乙女と説明したら、何やらリータ達は、イサベレをキラキラした目で見て困らせていた。


「神様の啓示を受けたからと言っても、結局は戦争だからにゃ? ジャンヌ・ダルクも最後は異端者と呼ばれて、人間に殺されたからにゃ?」

「ジャンヌさんかわいそうです……」

「担ぎ上げておいて殺すなんて酷いニャー」

「「ひどいひど~い」」

「ん。私じゃないから大丈夫」

「ま、聖女にゃんて言われているから、百年純潔を守っているイサベレにはピッタリかもにゃ~」


 わしまでジャンヌ扱いするのでますます困るイサベレ。ただ、その事で思い出した逸話があったので補足する。


「もしかしたら、教会で処女検査するとか言い出すかもしれにゃいから、拒否するんにゃよ~?」

「ん。ダーリンに捧げるのに、神ごときに捧げない。引かない場合は殺す」

「お、穏便に済ませてくれにゃ~」


 珍しくイサベレが殺気を垂れ流すものだから、わしに捧げる発言も、神ごとき発言も流してしまうわしであった。



「そんじゃあ、今度はわしだにゃ」


 イサベレ班の薄い話とは違い、わしの話は濃ゆい。アメリヤ王国の暮らし、奴隷の境遇、協力者となり得る人物の名前。それと、一部の奴隷と関わってしまった事を説明した。


「ほへ~。私達とは違って、いっぱい情報を手に入れて来たんですね~」

「さすがシラタマ殿ニャー!」

「ゴロゴロ~。ま、わしのほうが自由に動けたからにゃ」


 リータとメイバイに褒められて撫で回されていても、まだ話す内容はあったのでイサベレを見る。


「王様との謁見は、いつぐらいになりそうにゃ?」

「議会を開かないといけないらしいから、早くて明後日。もっと掛かるかもって言われた」

「早く会いたいのににゃ~。ま、明日は、城に忍び込んでみるにゃ。イサベレ達は教会だにゃ。出来れば、教皇が原住民を集めている理由を調べておいてにゃ」

「ん。わかった」

「じゃあ、寝ようにゃ~。あ、お風呂とごはん忘れてたにゃ」

「ごはん! ホロッホロッ」


 コリスは晩ごはんは済んでいるのに、わしの物を奪って「ホロッホロッ」と嬉しそうにする。オニヒメも食べたそうにしていたから分けてあげたら「ホロッホロッ」と嬉しそうだ。

 皆も小腹が減っていたのか、デザートをご所望。モグモグ食べて、お腹いっぱいになったらお風呂。全員ここのお風呂に入ったようだが、貴族にいやらしい目で見られたからか、見張りを立てて入ったんだって。


 わしはお風呂を使えないので、タライで揉み洗い。猫の姿から戻る事を禁じられているので、これだけの容量があれば余裕だ。

 ゴロゴロ洗われ、ゴロゴロブラッシング。そしてゴロゴロ就寝し、アメリヤ王国侵入一日目が終わるのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 公爵邸、三階の小部屋にて、二人の男がヘッドホンを付けて何やら喋っていた。


「この『ゴロゴロ』ってのは、ノイズ?」

「……かな? 『ホロッホロッ』てのは、誰かが喋ってると思うけど……」

「奴隷でも、もっと言語らしい言葉を使っていたし、違うんじゃね?」

「暗号かもしれない。急に喋らなくなっただろ?」


 男はメモを見て「ホロッホロッ」と言った回数を数えてみる。


「いや、こんな少ない回数じゃ、何も伝えられないだろう」

「考え過ぎか。でも、公爵様に報告する内容が少な過ぎる。下手したら寝ていたと思われるぞ」

「それ、ヤバ過ぎ! もう、この『ゴロゴロ』ってのも書いておこうぜ」

「だな……それで怒られなきゃいいんだが」


 男達が盗聴して数時間、ゴロゴロの回数をメモっていたら、誰かの声が聞こえた。


「にゃにゃにゃにゃ~ん……って、言ったよな?」

「うん。なんか歌ってるな。猫耳の子の寝言かな?」

「あ、あの子、かわいかったよな。寝言もかわいいな~」

「俺もあんな猫耳メイド欲しいわ~」


 こうして男達はメイバイの話で盛り上がり、夜が更けて行くのであった。シラタマの寝言とは気付かずに……



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 翌朝……


 リータに叩き起こされたわしは、早い朝食。全員でモグモグ食べ、ちょっと雑談したら出掛ける準備。と言っても、昨日からずっと茶色の猫のままだったので、リータ達の着替えを待たずにバルコニーに移動した。


 ふぁ~。リータ達は特使らしい扱いを受けていないみたいじゃから大丈夫じゃろうか? みんながキレませんようにっと。さてと、わしはお城に行くとしようかのう。


 ぶにょんぶにょんと前脚で柏手を打ったわしは、今日も屋根をピョンビョン飛び交い移動していたら、おばちゃん達が井戸端会議していたので参加。「にゃ~ん」とスリ寄って、何を話しているか盗み聞きしてみる。


 失敗……めっちゃ撫でて来るな。まぁ食べ物扱いされないから、原住民よりマシか。

 しかし、わしやどこそこの猫の話はいいから、さっきまでのイサベレ達の話に戻ってくれ~。


 しばし抱かれたり撫でられたりしていたが、猫の話から戻らなかったので退席しようとしたら、話が変わった。


 いや、どこそこの旦那さんが浮気して家に入れてくれないとかはいいんじゃ。奥様方は、私も浮気したいじゃないんじゃ。もっと、こう、為になる話をしてくれ。

 うっ……キャシーさん、毎日五回もやってらっしゃるのですか……見た目通り、ドエロいですね。


 浮気話から、グラマーなキャシーの夜の話になったのでしばらく興味津々で調査していたが、こんな話を聞く為に残っていたんじゃなかったと思い直し、退席しようとしたらまた話が変わった。


 ド下ネタから政治の話になったぞ? 奥様方の頭の中はどうなっておるんじゃ?? もうちょっとキャシーさんの激しい営みを聞いていたかったけど……いや、待っていたのはこっちじゃ。


 ふ~ん……税金は上がるわ物価は上がるわで家計が苦しいのか。その上、奴隷に仕事を奪われて、夫が兵士にならないと食っていけないと……

 うっわ……高利貸しに騙されて、奥さんを売ろうとしたヤツが居るのか。でも、婦人会、よく頑張った! そんなヤツは、鉱山奴隷落ちしても仕方ないわ。ま、奥様方全員でリンチする必要はないけどな。

 あ、またキャシーさんの話に戻った。あのリンチの時と夜の営みの興奮が似てるって……本当ですか??


 またキャシーの独壇場になって聞いていたら、下ネタに興味の無い女性が離れて行ったと思ったら、戻って来た。どうやらわしにエサを持って来てくれたようだ。

 しかし、ペチって叩き落としてやった。


 だって、ゴミ箱から持って来たって言ってたんじゃもん!


 これでも王様のはしくれ。骨しか残っていない魚を食べるわけにはいかない。だが、それで正気に戻ったわしは井戸端会議から退席した。


 キャシーさんの話術、超面白かったけど致し方ない。わしにはお城に行く任務があったんじゃった。



 後ろ髪を引かれつつ屋根を飛び交い、東の国と似たようなお城に到着すると、人の居ない所から大ジャンプで侵入。人に見えない速度で庭を駆け抜け、屋根に飛び乗って一息つく。


 なんだか初めて東の国の城に侵入した時を思い出すのう。あの時は、兄弟達が様変わりしていたから驚かされたわい。

 しかし、近代兵器を使っているわりには、中世の城や街並みと変わらんな。ビルぐらい作っていてもおかしくないのに、兵器に力を入れ過ぎじゃないか?

 ま、それはいっか。それよりも、王様がどこに居るかじゃな。広いから見付けるのに骨が折れるわい。とりあえず、女王が居そうな場所を攻めてみるか。


 わしはバルコニーに下りると、窓の隙間の影に潜って侵入し、影が無い場所は辺りに人が居ない事を確認して走り回る。

 城の作りは東の国と大差ないが、部屋の配置は違っていたので苦労したけど、女王が仕事をしていそうな執務室のような部屋や、玉座の間は確認が取れた。


 ここにも誰も居ない……メイドさんや職員っぽい男は何人も居るのに、偉そうな人が見当たらないな。

 そう言えば、イサベレが議会が開かれるとか言ってたか。おばちゃん達の井戸端会議なんか出席していたから出遅れてしまったか~……議会場なんてどこにあるんじゃろう?


 ひとまず議会と言うぐらいなら多くの人が集まると考え、重量を踏まえて一階が怪しいので攻めてみる。

 端から端へ、扉を汲まなく影に潜って調べていたら、何やら多くの人が喋っている場所を発見。しかし大きな扉の下の影から、これ以上進めなくなった。


 くっ……ここからでは内容が聞き取れん。もう少し進んだ所に影がありそうなんじゃが……バレても、猫が入り込んだと思われるかな?


 わしは安易な事を考えて、扉の前に姿を現す。そこは、扉と備え付けられた横長の椅子との間で、ちょうど誰からも見られない場所だったから、シメシメと思いながら議会場を動き回るわしであった。

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