566 訓練を邪魔する者にゃ~
「へ~。毛が立ったら強くなるんですか~。へ~」
「へ~。そんなんで強くなるんニャー。へ~」
銀色のアホ毛が立つと、スーパー猫又になって強くなると言っても、リータとメイバイは信じてくれない。なので、手っ取り早く証拠の提出。
「にゃ~~~ご~~~!」
隠蔽魔法を解いて、威嚇してみた。
「わ、わかりましたから、そ、そのへんで……」
「こ、怖いニャー!」
先日、白銀母猫の威圧を見た事もあり、気絶まではいかなかったが、わしの本気が倍に膨れ上がったからには、二人だけでなく、コリスとオニヒメも震えてしまった。
嬉しさのあまり少し調子に乗ってしまったわしは、すぐさま隠蔽魔法を掛け直し、猫撫で声を出しながらスリスリ。しっかり反省の姿を見せた。
皆がわしへの恐怖心が消えた頃、とっくにアホ毛は直っており、力も元に戻ったようだ。ただ、オニヒメが何故かガッカリしながらわしの狭い額の毛を立たせようとイジッていた。おそらく、仲間が欲しいのかもしれない。
しかし、ただでさえ妖怪猫又。角なんて生やしたら妖怪度が増すから、オニヒメには諦めてもらうしかない。
そうこうしていたらメイバイが何かに気付いたらしく、耳をピクピクしていた。
「どうしたにゃ?」
「なんだかさっきより静かになったような……」
「本当ですね。人の気配が感じられません」
「にゃ~??」
メイバイとリータの指摘から、わしも何か不自然さを感じ取り、全員で作業場へと向かう。そうしてガタンゴトンとベルトコンベアの音を聞きながら扉を開けると……
「にゃ!? みんにゃ倒れてるにゃ!! どうしてこんにゃことに……」
原因不明の疫病に掛かったらしく、全ての奴隷は倒れていた。
「シラタマ殿のせいニャー!」
「あんなに力を出したら、普通の人には耐えられませんよ」
でしょうね~。狭くはないが、こんな密閉された空間では、わしの威圧の逃げ場がない。でも、リータとメイバイが疑うから……
「は~い。みんなで手分けして起こしますよ~」
「シラタマ殿は機械を止めるニャー」
いちおう二人も言い出しっぺの手前、そこまでわしを非難する事なく、的確な指示を出すのであった。
ちょっとしたトラブルがあったから奴隷の作業は遅れると思うが、ホウジツにバレる前にとっとと猫の街に転移。行きも帰りも転移したから、バレた時は行ってないと言い張る予定だ。
それからも訓練に精を出すのだが、わしだけは別行動。あんな事もあったからというわけではないが、ソウでの訓練は控えるようにした。
理由は、巨大マンモスから得た情報。元々住んでいた縄張りの魔力濃度が減ったから移住したと言っていたので、ソウでも同じ事が起こりかねない。
わしがかなりの魔力を奪っている自覚があるので、それならば分散しようと、白い森を転々としている。
キョリス夫婦、白銀猫家族、白ヘビ、さんちゃん、白カブトムシ、猫帝国。わしと友好的、もしくは餌付けした生き物の縄張りをちょっと間借りして訓練に励む。
基本、エサを持って行ったら快く貸してくれるが、白銀猫家族の息子猫だけはわしの訓練に付き合ってくれるので困っている。
体作りに走っているだけなのに追いかけて来て、捕まったらじゃれてくるので酷い怪我をした。それにリータ達を連れて来いとうるさいので、隔週で連れて行く事となった。
うるさいのはリータ達も一緒。わしがボロボロで帰ったら強い獣と戦っていると勘違いして、連れて行けとうるさい。なので連れて行くが、家主に挑もうとするので困っている。
一番ちょうどいい相手のキョリスとハハリスは、子作りで忙しいから巣穴から出て来ないし、その他は各上過ぎて相手にならない。
間借りしている手前、攻撃させるわけにもいかないのでわしが必死に止めるから、勝手に縄張りの外に出て行く始末。
まぁリータ達はそこそこ強いし、危険な生き物ならオニヒメが気付くから大丈夫だと思って好きにさせていたら、各上に挑んで連れて来やがった。
音に気付いて縄張り手前で倒したからいいものを、追い出されたらどうするんじゃ? 勝てると思ったのですか。そうです…か……
みんなちょっと怪我してるじゃないですか~。そこまで無理して戦わないでくださ~い!
この日以降、各上が居る場合は通信魔道具で呼び出すように言ったが、なんだか怪しい。ボロボロで帰って来る事があったので、次はつけて行ったら、案の定、各上の白い獣と死闘を繰り広げやがった。
かと言って手を出すと、リータ達に恨まれそうだから様子を見ていたら、一時間ほど掛けてトドメを刺していた。どうも怪我をしないように慎重に戦っているようで、怪我をした場合はコリスかオニヒメが直ぐさま治しながら戦っていた。
危ない場面はあったが、強くなる為には必要な戦いな気がする。しかし、皆に危険を
そんな事を考えて
リータ達も集合して来て、お互いバツの悪そうな感じになり、やはり危険を冒して欲しくないわしは、各上と戦う場合はせめて目の届く場所で戦ってくれと涙ながらに訴えた。
さすがに見られてしまってはリータ達も反論できないらしく、まさかわしが泣くなんてこれっぽっちも思ってなかったので、わしの訴えはなんとか受け入れてくれたのであった。
わしの訓練も皆の訓練も順調に進んでいたある日、あの人が猫の街にやって来た。
「シ~ラタ~マちゃ~ん。あ~そび~ましょ~!」
さっちゃんだ。イサベレと猫兄弟を連れて、三ツ鳥居を使ってやって来た。どうやら女王から長期休暇をもらったから、サプライズでわしを驚かせようと連絡も入れずに来たようだ。
でも、その日は朝から白い森に出向いていたので、夕方に我が家に帰ったら死ぬほどからまれた。
「なんで居ないのよ~!」
「ゴメンにゃ~。仕事で忙しかったにゃ~」
「仕事なんてしてないくせに……」
「し……してない事もないにゃ……」
「ぜったいウソ!」
「本当にゃ~。ハンター業で忙しくしてたんにゃ~」
「ハンター? いまさらハンターなの??」
いちおうリータ達がどうしても倒せそうにない獣は、わしに倒せと連絡を寄越すので、戦ったり逃がしたりしたから嘘ではない。
ただ、さっちゃんはわしを信じてくれないので、リータ達から聞き取り調査。コリスが誘導尋問に引っ掛かって……いや、エサに釣られてゲロッてしまった。
「ふ~ん……訓練してたんだ。シラタマちゃんが訓練なんて珍しいわね」
「まぁ思うところがあってにゃ~」
「でもさ~……」
「……にゃに?」
「遊びに来たんだから遊ぼうよ~。私も白銀猫を撫でた~い。あと、オーロラも見た~い」
「無理難題ばっかり突き付けて揺らすにゃ~~~!!」
さっちゃんが我が儘さんになったので、久し振りの休日。リータ達もかなり無理をしていたから、体を休ませないといけない。なので、さっちゃんの休暇の間は、完全休業にした。
珍しくわしが毎日狩りに付き合ってくれたのを、もったいないと言われたけど……
双子王女には何日ぐらい国を空けるのかと聞かれたので、さっちゃん次第と言ったら、もしもの場合は強制送還するようにとアドバイスを受けた。たぶん、さっちゃんの性格を熟知しているから、わしが連れ回されると思っているのだろ。
わしもその懸念があるので、休暇は必ず順守するようにさっちゃんに釘を刺したが、どうなることやら。なんか行きたい所をブツブツ言ってるし……
翌日……
さっちゃんが一番行きたい目的地、白銀猫と会うにはリータ達の力が必要だ。それに朝から行くと夕方まで帰してくれないので、昼まで時間を潰す必要がある。
なので、午前中はちょっとやりたい事をしに、猫ファミリープラスさっちゃん達で、エルフの里に転移した。
ここでエルフの里の代表と面談。少し里の事を聞いていたら、さっちゃんが珍しく王様らしい事をしているとちゃちゃを入れて来た。もちろん無視して、三ツ鳥居の製造状況を確認する。
三ツ鳥居は魔道具研究所でも製造しているが、受注に対してまったく人手が足りないので、エルフを駆り出したのだ。しかし作り過ぎると猫の街の仕事を奪う事になるし、大量に作れると知られて発注が来ても困る。
どの国もそこまで三ツ鳥居の補充に魔法使いを割けないだろし、あとからキャンセルされたらたまったもんじゃない。
だから魔道具研究所と同じ数を作る事で折り合いを付けている。それに、わしが作って欲しい時に手が空いてないと困るからな。
ここへ来た理由は、先日頼んでいた三ツ鳥居の受け取り。現在、どうしても大量に必要なので、進捗状況を聞いて期間的に大丈夫な数、二対の支払いをして受け取った。
さっちゃんに三ツ鳥居工場を見られたから黙っているように頼んだけど、その見返りに、急ぎで必要な場合は一対だけは作るように約束させられた。ちゃっかりしてやがる……
それからヂーアイとも面会し、隠居の身はどうかと質問したら、たいして変わらないとのこと。まだ住人が頼って来るのかと思ったが、元々そんなにやる事はないようだ。
なので、忙しそうにしている代表を見て、悪い事をしたかと心苦しく思っているらしい。
そのわりには太ったな……うちと繋がって、料理が美味しくなったのですか。ケーキと饅頭がやめられないのですか。まだまだ生きそうだな!
これがバブルを迎えた辺境の姿かと見えて、お金持ちのチェクチ族が少し心配。エルフの代表にはいらぬ仕事を増やす事になるが、住人の健康診断も次回の猫会議に提出するように命令しておいた。
まさか時間潰しに来ただけなのに王様の仕事をさせられると思っていなかったので、終わった頃にはもうお昼。さっそくランチをしていたら、白銀猫家族の名前発表があった……
「にゃに!? ダイフクにモナカにシルコって……わしの『
わしのかっこいい名前案は却下。
「わたしががんばってかんがえたのに……」
どうやらコリス案が採用となって、和菓子オールスターの名前になったようだ。あまりにもおやっさんが大福と当て嵌まったから、リータ達も悪ノリしたっぽい。しかし、コリスが泣きそうな顔になっても、譲れない一線がある。
「さっちゃんはどう思うにゃ? 猫に付ける名前じゃないと思わにゃい??」
「う~ん……」
わしだけが悪者になるのは嫌なので、さっちゃんに助け船を出してもらうと……
「かわいいんじゃない? それに私は意図して名前を付けたわけじゃないんだけど……」
「にゃんのこと??」
「シラタマちゃんだって、和菓子の名前じゃない??」
「にゃ……にゃんで知ってるにゃ……」
「セキガハラで食べたもん。ね?」
「「「「「うんうん」」」」」
どうやらわしの名前は、とっくの昔に白玉団子と酷似している事がバレていたようだ。だからコリスがおやっさんを大福と言ったら、わしとの繋がりからしっくり来たとのこと。
皆は悪ノリではなく、真面目に和菓子の名前から考えたらしい……
わし以外からの反対は出なかったので、名付けは決定。いちおうおやっさん達が嫌がったらやめてくれるらしいので、それを信じてエルフの里から転移。
いつも通りの場所から白銀猫の縄張りに入り、息子猫のタックルをガッシリ受け止めてから、皆で奥へと走る。
寝床に着くと、さっそく名付け。白銀猫家族はまったく嫌がる素振りを見せずに受け入れやがった……
名付けが終わったら、母猫のモナカと息子猫のシルコがリータとメイバイに擦り寄り、猫撫で声を出していたから、さっちゃんが
ただ、おやっさんのダイフクがブラッシングの為にわしと同じサイズになったら、さっちゃんが吹き出したので、コリスに抱かせて隠す。大笑いしなかったのは評価するけど、そんなに笑わんでも……
兄弟達は我慢できずにモナカに擦り寄ると、モナカはブラッシングを断って、優しく舐めていた。やはり、モナカは優しいお母さんだ。
手の空いたメイバイは、ダイフクのブラッシングをし、慣れて来たのかけっこう雑に撫でているが、ダイフクは気持ち良さそうにしている。
そうこうしていたらさっちゃんの限界が来たらしく、撫でたいとわしをぐわんぐわん揺らすので、リータにブラッシングされて眠ったシルコをわしが抱く。
さっちゃんは抱きたいようだが、もしもの事があっては悔やんでも悔やみきれない。我慢してもらうしかない。
しかし、イサベレがさっちゃんに何かあってはいけないからと、先に撫でると言い出した。そりゃ家臣としては当然かとイサベレから撫でるように言ったら、さっちゃんの頬がプクーッと膨らんだ。
イサベレには絶対にいらんところを撫でるなと言って撫でさせたら、シルコは気持ち良さそうにゴロゴロと喉を鳴らす。シルコは起きる素振りも見せずに大人しいから、イサベレはさっちゃんとバトンタッチ。
さっちゃんにも絶対に雑に撫でるなと言おうとした瞬間、待たされてストレスが爆発して、雑にわしゃわしゃしやがった。
「フシャーーー!!」
当然、気持ちよく寝ていたシルコにそんな事をしたならば、機嫌を損ねてネコパンチ。侍の勘で危険をビビビッと感じたわしは、後ろに跳んでさっちゃんの手は守ったが、暴れるシルコのネコパンチがアゴに入ってしまった。
わしがフラフラと仰向けに倒れてもさっちゃんはお構いなし。何度もシルコを撫でて機嫌を損ねてはネコパンチ。その都度、わしが体を張って止めた。
めっちゃ血が出てるんだから、一回でやめて欲しかった。次ならいける、次なら大丈夫って……も、もう無理……ガクッ。
さすがにわしがボコボコにされたらやめてくれたけど、さっちゃんのストレスはわしのモフモフにぶつけられるのであったとさ。
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