046 口説くにゃ~


 ハンター達と和解した後、さっちゃん達とハンターを連れて街に戻り、ハンターギルドに向かう。王女の来訪と言う事もあって、ギルドマスターの部屋に通され、ギルマス直々に話を聞いてもらう事になった。

 人型はあまり見られたくなかったので、わしの得た情報を伝えていたソフィに説明は任せている。

 猫型でハンターギルドに入ると、ハンター達の目が獲物を見る目になっていたが、王女のペットと知ると、ガッカリする者と驚く者とに別れていた。


 ソフィの説明をギルマスは黙って最後まで聞くと、さっちゃんに協力する事を了承してくれた。ソフィの話を聞き終わったギルマスは、四人のハンターから聞き取りを行う。

 そこで出て来た貴族の名前が偽名だったと気付き、四人のハンターの街のギルドは怪しいと疑い、秘密裏に調査をしてくれる事になった。

 元々ギルマスは、ギルドの内部調査を担当していたらしく、やる気満々で黒い笑顔を浮かべ、わし達を震え上がらせた。


 四人のハンターは、なかなか報酬の話が出ないので、わしに心配そうな顔を向ける。仕方がないので、わしはソフィに念話で融通してもらえるように頼んでもらった。

 その結果、依頼は取り消し。王女を守った功績を名目として、依頼料の半額がギルドから支払われる事となった。支払いはこの事件が片付いた後だが、文句は無いようだ。

 ギルマスとの話は終わり、わし達は席を立つ。その時、四人のハンター達がわしに感謝の言葉を述べたが、わしは猫型だったので「にゃ~ん」と言っておいた。

 ギルマスは不思議な顔をしていたが、そのまま部屋を出てやった。



 ハンターギルドの用を済ませて屋敷に戻ると、辺りは暗くなり、すぐに夕食となった。夕食が始まると、各々に今日の出来事を話す。


「ギルドマスター、怖かったね~」

「はい。怖かったです」

「それよりあのハンター達は、何故、私達の顔を見なかったのでしょうか?」

「ソフィが怖かったんじゃない?」

「ソフィはいつも目付きが鋭いですからね」

「そ、そうなんですか?」


 違うと思うぞ。みんな美人じゃし、水着姿を思い出すから見なかっただけじゃろう。あいつらは照れ過ぎじゃったからな。わしは何も聞かれて無いし、知らんぷりじゃ。


「シラタマ様も、そう思うのですか?」


 うっ。飛び火した。珍しくソフィが涙目になっておるし、助けておくか。


「ソフィが美人にゃから、あいつらは目を合わすのが照れ臭かっただけにゃ」

「シラタマ様……美人だなんて……」


 お~。ソフィが照れておる。最初に会った時と比べて、大分表情が柔らかくなってきたのう。


「シラタマちゃん。私も美人!?」

「さっちゃんは美人と言うより、かわいいにゃ」

「え~! 私も美人がいい~」

「もう数年待つにゃ。女王のように美人になるにゃ」

「お母様みたいに……」


 さっちゃんの憧れは女王か。嬉しそうにしておる。なんかドロテがもじもじしてるおるし、褒めておくかな。


「ドロテも美人にゃ。これだけの美人が揃っていたら、目を合わせづらいにゃ」

「シラタマちゃん!」

「シラタマ様……」

「私が美人……」


 みんな照れまくっておるの。これで人間ならハーレム街道まっしぐらじゃ。早く人間になりた~い。って、どこの妖怪じゃ! ……猫又は妖怪じゃから合ってるな。


「あ~! 猫ちゃんが三人を口説いてる~」



 王都に連絡をしていたアイノが、遅れて食堂に入って来るなり叫ぶ。


 いつもいつもアイノはとんでもない事を言いよる。いつ、わしが口説いておった? 前もイチャイチャしてるとか言って、浮気騒動になったんじゃから、やめて欲しいわい。


「私も褒めて口説いて~」

「口説いてにゃんかないにゃ~」


 頼むから、わしの頭に胸を押し付けないで欲しい。みんなの目が怖いんじゃ。いま、アイノの事に触れると絶対炎上する。命を懸けて話を逸らしてやる!


「それより、王都からの連絡を聞かせるにゃ」

「あ! 忘れてた。王都ですごい事があったみたいなんだけど……」


 アイノがドロテをチラッと見た? あの件か。


 わしは以前、ブリタの娘がさらわれた時に、捕まえた誘拐犯から情報を得ていた。それをアイノに、王都へ通信してもらっていた。


「いいから話すにゃ」


 アイノは真面目な顔になり、口を開く。


「王都での誘拐事件は解決しました。誘拐犯のアジトに、女王陛下直属の騎士が乗り込み、人質も全員、無事解放されたそうです」

「やったにゃ。よかったにゃ!」

「ですが……その中に……」


 アイノは言い難そうにする。


「ドロテの弟がいました……」

「ドロテ!!」

「すみません……すみません……」


 アイノは困惑しておるし、ソフィは怒っておる。無理はないか。近くにいる者がスパイ、あるいは暗殺犯の手先じゃもんな。ここはわしの出番じゃな。


「ドロテは……」

「ドロテは私の指示で情報を流してもらっていたの。そんなに責めないであげて」

「サンドリーヌ様……」

「ドロテは弟の命の危機を知りながらも、私にすぐに報告してくれたわ。ドロテ、そうよね?」

「……はい」

「弟が無事でよかったね」

「はい……うぅぅ」

「じゃあ、この話はおしまい。ドロテの弟の無事に……かんぱい!」

「「「かんぱい(にゃ~)」」」

「うぅぅ。ありがとうございます。ありがとうございます」


 ドロテは泣く。その涙は、弟の無事を喜ぶ涙か、自分のつかえる主の優しさに流す涙かは、わしにはわからなかった。釣られてわしも泣いてしまったが、さっちゃんに出番を取られた涙ではなかった。



 夕食も終わり、今日はさっちゃんと一緒に寝る順番なので、わしはさっちゃんの部屋に行く。


「あれでよかったのかにゃ?」

「いいのよ。私は怪我ひとつ無いんだから」

「さっきのさっちゃん、かっこよかったにゃ」

「シラタマちゃんも、私のペットになりたくなったでしょ?」

「それとこれとは話が別にゃ」

「残念だな~」


 さっちゃんは言葉では残念がるが、顔は晴れやかじゃな。親しかったドロテが心配じゃったんじゃな。


「シラタマちゃん。今日はドロテの所に行ってあげて」

「わかったにゃ」


 さっちゃんの配下を思う気持ちを汲んで、わしは無粋な事は言わず、ふたつ返事で応える。

 ドロテ達の部屋をノックすると、アイノが出て来た。中に入る時に、アイノに「夜ばい?」と言われたが、無視して猫型になる。

 そしてわしは、すでに安心して眠っているドロテのベッドに潜り込んで眠りに就くのであった。




    *   *   *   *   *   *   *




 その深夜……。王都のとある屋敷の一室で、身なりのいい中年の男、オーギュスタンが、いらだちながら執事の質問に答える姿があった。


「旦那様。どういたしましょうか?」

「次の手を考える!」


 まさかアルッティがしくじるなど考えられん。俺の策がことごとく失敗だと? どうなっているんだ!

 くそ! アルッティも、何故、人質を処分していないんだ。どこかに売り払うつもりだったのか? 小金に目をくらませやがって!


 大金を投じているんだ。第一王女を女王に仕立て、俺がこの国を牛耳る為には、いま、引く訳にはいかない。

 ここまで第一王女のご機嫌取り、第二王女との不和に仕向けるのにも金を使っている。その上、第三王女暗殺だ。

 こうなれば、一気に仕留めてやる!


「一流の暗殺者を五人雇う」

「五人と言いますと、アルッティファミリーの五人組ですか?」

「ああ。高いが確実だ」

「そ、その五人組ですとかなりの負担となります。これまでの出費で、すでに……」

「わかっている! 借金してでも金を作れ!」

「はっ!」


 くそ! 第三王女の出費が痛い。あんな護衛の人数で城を離れたからチャンスだと思っていたのに……あの護衛の騎士は、そんなに強いのか? いや、小娘三人だ。そんなわけがない!



 オーギュスタンが長く思考していると、先ほど部屋から出て行った執事が戻り、声を掛ける。


「旦那様。お客様がいらっしゃいました」

「こんな時間にか? 帰せ!」

僭越せんえつながら、会われた方が宜しいかと……」


 なんだ? こいつが俺の命令に意見するとは珍しい。有能なこいつが会えと言うなら……大物か。


「誰が来たんた?」

「クリストフ伯です」


 第二王女派閥のクリストフか……なるほど。俺以外に暗殺を仕組んでいたのは、やはりあいつだったか。


「わかった。通せ」


 しばらくして、部屋に通されたクリストフとオーギュスタンは面と向かう。


「夜分遅くに申し訳ありません」

「これはこれはクリストフ伯。ようこそいらっしゃいました。こんな夜遅くに、どういった御用件なのでしょうか?」

「オーギュスタン伯。お互い腹の探り合いはやめましょう。単刀直入に言います。私は五人組を使おうと思っています」

「ハハハハハ」

「何が可笑しいのですか?」

「いや、すまぬ。考える事は同じだったので、ついな」

「オーギュスタン伯もですか。フフフ」

「つまり協力して折半と言う事か?」

「話が早くてありがたいです。協力は今回のみで、その後は、またフェアに闘いましょう」

「わかった。フェアにだな」

「はい。フェアに」

「ハハハハハ」

「フフフフフ」


 二人の怪しげな笑い声が部屋に響き、夜は更けて行く。




    *   *   *   *   *   *   *



「暇ね」

「暇ですね」

「暇よね」

「暇ですね~」

「「「「シラタマ(猫)ちゃ~ん(様)」」」」


 ハンター襲撃から三日。敵の行動がピタリとやんだ。さっちゃんと護衛三人は、湖で遊ぶのも飽きたのか、おとりで街中を散歩する以外は、屋敷でダラダラしている。


「にゃんでわしに言うにゃ?」

「シラタマちゃんなら、何か面白い物が出せるでしょ?」


 さっちゃんは、どこの青い猫と勘違いしておるんじゃ? 猫又じゃぞ? そんなポケットは付いておらん。近い物はあるか……


「さっちゃんは、勉強すればいいにゃ」

「え~! 遊びに来たんだよ~」


 違う! さっちゃん暗殺事件の解決じゃ! 気を抜き過ぎじゃ。


「ソフィ達も、訓練すればいいにゃ」

「シラタマ様が教えてくれるのですか!」

「猫ちゃん魔法教えて!」

「私も剣のお相手をお願いします!」

「わしは忙しいにゃ」

「「「え~~~!」」」


 みんなさっちゃんに似てきたな……いや、わしにたかるな! 猫じゃぞ? わしは馬車の改良やら、庭の花壇の新設をセベリと一緒にやっておるから忙しい。

 べつに、ウイスキーに釣られたわけではないけど、たぶんくれるはずじゃ。


「シラタマちゃんだけ楽しそうにしてるのズルイ!」


 まぁ何かを作るのは昔から好きじゃからのう。便利な魔法もあるし、簡単に作れるから、つい熱中してしまうわい。


「何か面白い事して~」

「はぁ……わかったにゃ~」



 わしはさっちゃんを楽しませる為に、ソフィ達の練習を兼ねて、剣の稽古や魔法の実演を見せる。わしの無駄に派手な動きや目立つ魔法に、さっちゃんは楽しんでくれたが、ソフィ達の疲労は半端なかった。



 明日の護衛……大丈夫じゃろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る