657 キルスト教の処置にゃ~


 鉱山の視察を終えたわし達は戦闘機で空を行き、アメリヤ城の庭に着陸。その足でジョージの働く執務室にお邪魔した。


「未確認飛行物体、未確認飛行物体って、凄い騒ぎだったんですからね!」


 何やらジョージは怒っているが、わしに思い当たる節がない。


「まさか……帰りも庭に降りたんじゃ……」

「にゃ? 戦闘機のことにゃ??」

「今ごろ気付いたのですか!?」


 わしだって馬鹿ではないからとぼけただけ。日ノ本でUFO騒ぎがあったとちびっこ天皇から文句を言われたから知っている。


「猫じゃ人の気持ちなんてわからないんですね……」

「お前は猫の気持ちがわかるにゃか~!!」


 ジョージがわしを侮辱するので喧嘩。どうもここ数日のわしの挙動が、アメリヤ王国を滅亡まで追い込んだ恐怖を薄めてしまったようだ。

 ただ、どう言ってもジョージに猫の気持ちは伝わらない。わしもあまり知らないから質問に答えられなかったから……


 二人で言い合っていたが、めちゃくちゃどうでもいい喧嘩をしていたと同時に気付き、お互い天気の話から今日の報告に変わった。


「なるほど……恩赦ですか……」

「職業変更だけでもいいかもにゃ。奴隷から鉱夫に変えて賃金を払えば、気持ちは変わるんじゃにゃい?」

「あ、それいいですね。採掘量もそのままに出来そうです」

「そのままで大丈夫にゃ~? 銃とか作れないんにゃろ?」

「そ、そうでした! どうしましょう!?」

「そんにゃ時の、猫の国にゃ~!」


 ジョージが困っているようなので、輸出の相談。プラス、何か鉄工業の仕事をあげる事で話がまとまった。ぶっちゃけ、最近こっちでは鉄が高騰していたのでありがたい。高騰の理由は、工場輸出のせいってのも大きいけど……


「てか、シラタマさんが鉄工業をやらせてくれないから仕事が減ったんじゃ……」

「合意の上にゃろ~」


 これもわしのせいらしいが、武器製造なんてしてもお腹が膨らまないので無意味だ。他国に売ればお腹は膨らむけど、そんな事はわしが許さない。新しい産業を考えるようにと言いくるめた。



「じゃ、わしの報告はこんにゃもんにゃ。また夕飯でにゃ~」

「ちょっと待ってください!」


 視察の報告と将来設計が終わったのでコリス達と遊ぼうと思ったが、ジョージにはまだ話す事があったようなので聞いてあげた。


「ふ~ん……教会がイサベレと謁見したいんにゃ」

「毎日現れても無視していたんですが、朝から晩まで門に立っているらしくて……そろそろ何か反応してあげてもいいかと思いまして」

「言ってやればいいにゃ。イサベレ教に改宗したら許してやるとにゃ」

「シラタマ……」

「ダーリン……」

「にゃ!?」


 ジョージの相談に乗ってあげていたら、いつの間にか女王とイサベレが真後ろに立っていたのでわしは驚いた。

 その後ろには猫ファミリーも揃っていて、わしのナイスアイデアを聞いていたリータとメイバイも怒っているようだが、かまってあげられない。


「いったいあなたは、いつまでイサベレをいいように使うつもりなのかしら?」

「いや、だってにゃ……」

「だあぁぁってえぇぇ??」

「すいにゃせん!!」


 女王が怖すぎてわしは土下座。宗教問題はあまり上手い儲け話もないから、これぐらいなんぼでも頭を下げられる。

 しかし、ジョージが女王に相談を持ち掛けたので、罰としてわしの手腕を見せろと言われてしまった。


「手腕と言われてもにゃ~。宗教ってのは心のありようにゃ。ぶっ潰すわけにもいかんにゃろ」

「意外ね……白象教の時は潰していたじゃない?」

「アレはわしじゃないにゃ~。バハードゥがやったんにゃ~」

「白象教とはどんな宗教ですか??」


 女王が変な事を言うので文句を言ったら、ジョージが白象教に食い付いた。なので女王が説明したが、まったく成り立ちを知らなかったのでわしが補足してあげた。


「象の販売が出来なくなったから宗教にしたって……」

「たぶん元々あったんにゃろ。そこを吸収合併ってことにしたんじゃないかにゃ? 販売のノウハウを使ってお布施を集めたのかもにゃ~」

「そんなのが宗教なんて信じられません」

「キルスト教だって同じことをしてるにゃろ? 信者を増やしてお布施で荒稼ぎにゃ。トップの教皇にゃんて、いい暮らしをしてブクブク太っていたにゃ~」

「うっ……言い方は悪いですけど、システムとしてはそうなっていますね。でも、そんなことをしていたから、神に罰を与えられたのでは?」


 ジョージはわしを見てそんな事を言うが、わしは神ではない。


「神じゃにゃくて猫にゃ。いや、人の手で裁かれただけにゃ。猫の手じゃないからにゃ? ややこしいから猫は忘れてくれにゃ~」


 わしが喋るとややこしいが、皆は半笑いだから言いたい事は伝わっただろう。


「問題は力を持った人間が、神の名の元に好き勝手してしまうことにゃ。そこで一番怖いのは、神がひと柱しか居ないことにゃ」

「神は唯一無二と教わったのですが……」

「キルスト教はにゃろ? 世界にはいっぱい神様が居るにゃ~」

「そんなに!?」


 ジョージもキルスト教信者だったらしく、わしが神の名前を羅列すると驚きまくってくれた。だが、一向に止まらないのでジョージはお腹いっぱいになったのか、質問をして止められた。


「どうして神がひと柱しか居ないことが怖いのですか?」

「だって、神が間違っていたらどうするにゃ?」

「神は間違うわけがないので、その質問はおかしいです」

「そう、そこにゃ。その信心深さをつかれて、悪い人に騙されるんにゃ~」

「あっ! たしかに!!」

「今回の場合は邪教徒とか言って、全員同じ方向を向いていたにゃろ? アメリヤにはひとつの宗教しかないから、皆もそう信じて、止めようとする人が少なかったんじゃないかにゃ~??」


 ジョージが納得すると、女王が話に入る。


「つまり、アメリヤにいくつか宗教を入れてしまえば、幾分危険が取り払えると言うわけね」

「女王はわしのまとめを取るにゃよ~」


 女王においしいところを取られたので、ジョージが「さすがッス!」となっているが、わしのほうが凄いところを見せてやる。


「日ノ本には神道と仏教があるから、誰か派遣してもらえるか聞いておいてやるにゃ」

「ひとつの国にふたつもあるのですか!? ……そんなので揉めたりしないのですか??」

「神道は風習に近いからにゃ。遠い昔に仏教が新しく入って来た時も、その神様いいにゃ~ってなって、快く迎え入れたんにゃ」

「懐が広い……それを聞かされたら、我がキルスト教は……」

「この際、王様自ら率先して神道にでも入ってみてはどうにゃ?」


 わしが神道を勧めるとジョージは「イエス」と言い掛けたが、リータとメイバイがよけいな事を言う。


「でしたら白猫教がいいですよ!」

「なんてったって、シラタマ殿は白猫教の神様ニャー!」

「そうなんですか!? じゃあ、そっちにしておこうかな? ご利益……と言うより、どんなことが起きても守ってくれそうだし。入れてください!!」

「わしに言うにゃ~。どんにゃ宗教かも知らないにゃ~」

「ええぇぇ!?」


 ジョージに下心丸出しで白猫教に入りたいと言われても、わしは何ひとつ知らない。教えのひとつも知らないもん!


「でしたら、この教典を熟読してくれたら大丈夫です」

「私達は白猫教の信者ニャー」

「そうにゃの!?」


 どうやら猫の街に白猫教の信徒が布教活動でやって来た時に、猫ファミリー全員、わしも含めて白猫教に入っていたらしい。

 ちなみに白猫教に入信するには、教典の所持でいいらしい。でも、わしは神様だから所持は免除されるらしい。だから、わしの分の教典をジョージに譲るらしい。


「てか、わしって、仏教徒にゃんだけど……」

「「「「「ええぇぇ!?」」」」」


 新事実。白猫教の神様が他の神を崇め、推していた神道にすら入っていなかったと知って、皆、驚いてしまうのであった。


 だって先祖代々同じ墓に入っているんじゃもん! たぶんわしも入ったんじゃもん! だから改宗は勧めないでくださ~い!!


 白猫教に勧誘するリータ達には悪いが、こればっかりは譲れない。先祖代々を全面に出して、なんとか逃げ切るわしだったとさ。


 ぶっちゃけ白猫教以外なら、なんでもいいんじゃけど……



「ま、キルスト教は自分達で腐敗を正したら許す的なニュアンスでいいんじゃにゃい? 勘違いしてるのは向こうにゃし。んで、キルスト教が嫌になって離れた人は、他の宗教を受け皿にするにゃ。これでしだいにキルスト教の力は減るにゃろ」


 しばらくはイサベレの威光を使ったほうが丸く収まりそうなので、わしの案は東の国以外は賛成。しかしここでイサベレを引き下げると無駄な混乱が起こるので、ジョージからも必死にお願いしていた。


「そうね……鉄の輸出で手を打ちましょう」

「やっぱりタダじゃないんにゃ~」


 女王が賛成しなかったのは、ただの駆け引き。わしと同じく鉄を狙っていたようだ。


 こうして教会問題も指針は固まったので、そろそろアメリヤ王国から女王を追い出そうと思う。


「あの~。そろそろ帰らにゃい?」

「ええ。明日、海で遊んでからバカンスを終えるわ」

「満喫してるにゃ!?」


 まさか当初の目的通り女王は遊びに来ていたと知って、わしのツッコミは冴え渡るのであったとさ。



 その日の寝室にて……


 わしはリータとメイバイに挟まれてモフモフされていた。


「それで……今日の女王の行動はどうだったにゃ? ゴロゴロ~」

「特段怪しい動きはなかったですけど……」


 どうやら今日も爆買いをしていたらしいが、追加のお金を使い切ったところで面白そうな物を発見したそうだ。


「え~! 野球にゃんてやってたんにゃ~。わしも見たかったにゃ~」

「やっぱりシラタマ殿の知ってる遊びだったんニャー」

「日本じゃ一番有名にゃスポーツだったからにゃ。いつもやってるのかにゃ?」

「いちおう毎日誰かは練習しているみたいですけど、試合形式は人数が揃っている時らしいです」

「足りなかったらわし達も参加しようにゃ~。ホームラン、バカバカ打ってやるにゃ~」


 野球の話でわしだけ盛り上がっていたらあまり面白くなかったようで、リータとメイバイの撫で回しが激しくなって来た。


「それにしても、シラタマさんが元気そうでよかったです」

「ゴロゴロ~?」

「ほら、鉱山って、奴隷の人がいっぱい居たニャー?」

「酷い扱いをされていたと知ったら、シラタマさんはまた心を痛めると思って……」

「大丈夫そうでよかったニャー」

「ゴロゴロ~!」


 二人の優しい言葉を聞いても、撫で回されているのでゴロゴロ返事。いちおう伝わっているようだが、口には出したい言葉はあったので二人の手を握って止めた。


「心配してくれてありがとにゃ。今回はコリスとオニヒメが居たから大丈夫だったにゃ~」

「そうですか……」

「だからあの二人なら大丈夫って言ったニャー」

「にゃ? にゃんの話にゃ??」


 リータとメイバイから詳しく話を聞くと、鉱山に向かう前にコリスとオニヒメに何か指示を出していたのは、わしの浮気チェックではなく、心のケアをするように頼んでいたらしい……


 なんかすいません!!


 今ごろ二人の優しい配慮に気付いたわしは、疑っていた事は心に秘め、感謝の言葉とスリスリをしながら夜が更けて行くのであったとさ。

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