第十四章 新婚旅行編其の二 観光するにゃ~

374 村民さん、こんにゃちは~

      『第十四章 新婚旅行編其の二 日ノ本観光にゃ~』


         「374 平行世界、こんにゃちは~」


ネタバレ防止の措置で、こちらに正式な『章タイトル』と「サブタイトル」を記載しております。

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 我輩は猫又である。名前はシラタマだ。冷静ではない。

 現在新婚旅行の最中で、時の賢者が向かったという島に着いたと思われるのだが……



「ここは地球だったにゃ~~~!!」



 空高く飛んだ戦闘機から見た地上の景色は日本列島そのもので、わしは平行世界だと気付いて叫んでしまった。


 どうりで異世界っぽくないと思っていたんじゃ。言語は英語じゃし、ゴブリンやオークも居ない。居るのは元の世界で見た事のある生物ばかり。

 どうして今まで気付かなかった? 兵馬俑へいばように、万里の長城もあったじゃろ! ナンやクスクスだってあったんじゃから、気付けよ!!


 ここが地球という事は、わしが生まれた場所は……エベレストの近くじゃ。エベレストみたいな山だと自分でも言ってた! イサベレに「月が綺麗」と言われて、ノリでわしも「月が綺麗」とも言ってた!!

 そうじゃ……スサノオのアカシックレコード! あの時、頭の中に流れ込んで来た映像の長靴は、イタリアだったんじゃ!!


 なんじゃこの次々とパズルのピースが埋まっていく感覚は……あれもそれも、地球で見た事ばかりじゃ!!


 はぁ……なんてわしは馬鹿なんじゃ……


 ん?


 わしはため息を吐きながら、窓の外の景色に目を留める。


 う~ん……見慣れた日本列島のはずなんじゃが、少し形が違うか? 朝鮮半島も、半分ぐらい足りない……

 いつ、どのタイミングで世界が枝分かれしたかわからんが、完全に同じ地形にはならなかったのかな? でも、酷似しているから地球で間違いないじゃろう。


 くっそ……アマテラスの奴、それならそうと言っとくれ。教えてくれていれば、真っ先に日本に走ったっちゅうねん。時の賢者だって、知ってたからここに来たんじゃろ。

 いや、それだと、ここに居るみんなと出会えてないか。せいぜいコリスぐらいじゃったな。リータの家族に至っては、確実に全員死んでいた。

 そして東の国周辺の土地は大戦が行われて、今頃、黒い森に変わっていたか……なんだかアマテラスにハメられた気もするな。

 まさかわしを救世主にする為に、この世界に転生させたんじゃなかろうか?


――違いますよ――


 うん。出て来るの早いな。


――完全なミスなので、使命もへったくれもありません――


 あ、そう。で、ここは平行世界で合ってるのか?


――その通りです。まさかシラタマさんがその真理に気付くなんて、こちらもビックリです――


 神様なんじゃから予想できるじゃろうに……


――私が管轄をしていれば気付きましたけど、愚弟が管理する世界ですからね。さすがに私の未来予測も、完全に見る事は出来ませんよ――


 前にわしが、大変な目にあうと言ってたんじゃけど……


――アレはノリです。まぁその姿なんですから、ハズレる事はないですからね~――


 たしかに猫なら、絶対大変な思いをするじゃろうな……


――あ、ヤバイ! アイツに気付かれました。それでは引き続き、良い旅を楽しんでください。ごきげんよ~――


 待て! まだわしは聞きたい事があるんじゃ! おい! ……くっそ。また切られてしもうた。スサノオに聞くか? う~ん、やめとこ。また天孫降臨なんてされたら一大事じゃ。


 しかし、地球か……



 アマテラスからの通信が終わり、わしが日本列島を見つめながら黙り込んでいると、リータが恐る恐る口を開く。


「シラタマさん……あの……」


 あ! リータ達の事をすっかり忘れておった。さっき怒鳴ってしまったかも……


「みんにゃ。さっきはごめんにゃ~」

「い、いえ……それでシラタマは大丈夫ですか?」

「ちょっとビックリしただけにゃ」

「よかった~」

「にゃ?」

「私達が何か怒らせる事をしたのかと思って……」

「にゃにも悪い事にゃんかしてないにゃ。わしに余裕が無かっただけにゃ。心配させてすまなかったにゃ」


 わしの緊張が解けると、機内はいつもの安心した空気に変わった。すると、メイバイもわしに話し掛けて来る。


「さっき地球とか叫んでいたけど、地球ってなんニャー?」

「ああ。そうだったにゃ。でも、イサベレが……まぁいいにゃ。この際、イサベレとコリスにも、わしの生まれの秘密を話しておくにゃ。絶対に誰にも言わないでくれにゃ。わしは……」


 二人にわしの転生の件を話すと、イサベレは半信半疑。コリスはちんぷんかんぷん。とりあえずは、固く秘密にしてくれるように約束してくれたので、メイバイの質問に答える。


「地球とは、この星の事にゃ」

「「「星??」」」

「空にあるアレの事ニャー?」

「そうにゃ。近い所で月の形を想像してくれにゃ。その月より、大きくて緑や水が多い球体が、わし達の住んでいる場所なんにゃ」

「シラタマさんが、また嘘をついてます!」

「こないだ言った嘘ニャー!」


 リータとメイバイは、ビーダールの海でわしが話した事を思い出したようだ。なので、わしは戦闘機を地上と平行になるように調整して、窓の外を指差す。


「水平線をよく見てくれにゃ」

「えっと……なんだか弧を描いているように見えます」

「その先は真っ黒ニャー!」

「真っ黒にゃのは、地球が宇宙空間に浮かんでいるからにゃ」

「またわからない単語が出て来たニャー」


 二人とも困った顔をするので、わしは笑いながら喋り続ける。


「にゃはは。その話は置いとこうかにゃ。リータの言った弧を描いている事こそが、地球が球体と言う証拠にゃ」

「証拠と言われても、そんな所に乗っていたら落ちますよ」

「二人には重力魔法の入った魔道具を貸したにゃろ? その力が地球の中心に向けて、常に掛かっているから落ちる事がないんにゃ」

「うぅぅ。難しいです~」

「頭が痛くなって来たニャー」

「にゃははは……それは高山病かもしれないにゃ! いまさらにゃけど、みんにゃ大丈夫にゃ!?」


 どうやら皆は、わしの行動に驚いて忘れていたようだが、わしとコリス以外、頭痛や脱力感があり、寒気もあるようだ。

 なのでわしは笑っている場合ではなくなって、火魔法の入った魔道具で室温を上げ、念の為、空気を作る魔法を使いながら、ゆっくりと地上に降りて行く。


 戦闘機が地上に近付く中、体調の戻ってきたリータ達と日本列島について話す。


「あの島は、黒い木が少ないですね」

「海のほうが黒くないかニャー?」

「たしかににゃ。日本海側が黒く見えるにゃ~」

「どうしてですかね?」

「わしに聞かれてもわからないにゃ~」

「アレだけ難しい事を知ってるんだから、わかるはずニャー」

「ここはわしの知る世界じゃないんだから、知らないにゃ~」


 黒い木が少ない理由は、おそらくスサノオの浄化装置が発動していないと考えられるが、調べてみない事にはわからない。

 下手に予想を言って、スサノオの禁止事項に引っ掛かると、言葉が出なくなるから疑われ、次に説明した時に信じてもらえなくなる。いまは貝になるしかない。


 それからもアレこれ質問されて、ちょっと難しい説明をしたら、皆、遠い目をして質問が途切れた。大陸が動く事は信じられないようだ。



 そうして念の為マーキングしていた日本の地に再び着陸すると、ランチをしてから漁村を目指す。土地勘があっても、まずは情報が必要だ。その事をリータ達に説明したら、先ほどの女性との会話の内容を聞かれた。


「そう言えば、シラタマさんは女性の言葉がわかったのですか?」

「日本語だったから、簡単にゃ」

「なんて言ってたニャー?」

「わしを見て、お侍様かと聞いて来たにゃ」

「お侍様ですか?」

「東の国で言ったら、騎士になるのかにゃ? もしくは、役場の職員にゃ」

「シラタマ殿を見たら、みんな第一声は猫って言うのに変だニャー」

「そうにゃんだよにゃ~。わしもそう言われると思っていたんにゃけど、驚きもしにゃかったにゃ」

「それは変ですね。シラタマさんなのに……」

「ホントに変ニャー。シラタマ殿なのに……」


 リータとメイバイの気になる言い方に、わしはジト目で見る。


「それって……わしが変って言いたいにゃ?」

「違いますよ!」

「そうニャー。シラタマ殿はかわいいにゃ~」

「ゴロゴロ~」


 わしが肩を落とすと、二人は腕を組んで頭とあごを撫で回す。て言うか、連行されているみたいだから降ろして欲しい。

 それからも撫で回されて漁村近くになると、ようやく降ろしてくれたが、押さないで欲しい。どうやらまた人見知りが出て、村人に話し掛けろと言う事らしい……

 なので、網の手入れをしているボロボロの着物を着たおじさんに、日本語で声を掛けてみる。ちなみにリータ達は、念話で盗み聞きをしている。


「こんにゃちは~。調子はどうでっか?」

「ボチボチってところ……お、お侍様??」


 またわしを見て侍と言っておる……。わしが言うのもなんじゃけど、こんなぬいぐるみみたいな侍が存在しているのか?

 説明が面倒じゃし、ひとまず乗ってみるか。


「そうにゃ。ひかえおろうにゃ~」

「へ、へへ~~~」


 あれ? 効果覿面こうかてきめん?? 過ぎるぅぅ~!!


 土下座をするおじさんを、わしは慌てて立たせる。リータ達が何やら睨んでいるから当然だ。


「じょ、冗談にゃ。だからかしこまらないでくれにゃ~」

「冗談? 刀も差しているし、その毛皮はお侍様の証ですよね?」


 はい? 刀はわかるけど、侍って、モフモフしてるものなの??


「信じられるかどうかわからにゃいけど、わし達は外国人……異国の者にゃ。後ろの女性を見てくれにゃ」

「へ……異人さん!? こりゃ大変だ!!」

「ちょっ! 待つにゃ~!!」


 おじさんは、イサベレ、さっちゃん2のコリスに目をやり、次にメイバイ、最後にリータを凝視して、走って漁村の奥に行ってしまった。残されたわし達はと言うと……


「シラタマさんより驚かれました……」

「リータの初体験ニャー」

「私もたまに驚かれる」

「わたしも~」


 肩を落とすリータ以外、ケロッとしていた。

 そりゃそうだ。メイバイは猫耳少女で、東の国では驚かれる事があった。イサベレも伝説卿と呼ばれ、レアキャラ扱い。コリスは言うまでもなく、巨大リスなのだから驚かれる。

 いま思うとわしのパーティは、かなり特殊なメンバーで構成されている。


「にゃ~しゃしゃしゃしゃしゃしゃ」


 それなのに一番普通なリータが驚かれたので、わしは笑い転げてしまった。


「シラタマさん……笑い過ぎです!」

「ごふっ!」


 ちょっと調子に乗り過ぎて、わしはリータの重たい拳を腹に受け、久し振りに地面に減り込まされるのであった。


 わしばっかり驚かれていたんじゃから、ちょっとぐらいいいじゃろ!! にゃろめっ!


 そして迂闊うかつな事を考えて、針でチクチク刺されまくるのであった。

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