122 問い詰められるにゃ~


 イサベレは、おっかさんの最後を話し終えると、わしを強く抱き締める。


 どうしておっかさんが兄弟達を、やすやすと人間に捕らえさせられたか不思議に思っておったが、エリザベスが人間の集団に興味を持って走って行ってしまったのか……。探知魔法を教えてしまったわしのミスじゃ。

 聞くところ、おっかさんも兄弟達も、派手にやりあっておったんじゃな。地形が変わるわけじゃ。しかし、おっかさんの【咆哮】を耐えるとは、人間は侮れないな。一人一人は弱いけど、集団になると力を合わせて戦える。

 それにしても……



 話を聞き終わったわしは叫ぶ。


「嘘にゃ!」

「事実……」

「そんなわけないにゃ!!」

「シラタマが受け止められない気持ちはわかる」

「あのオッサンが活躍しているのが有り得ないにゃ!」


 わしの叫びに、イサベレはポカンとした顔になった。


「え……王殿下?」

「そうにゃ。あんにゃオッサンが、的確な指示を出せるわけないにゃ!」

「そっち?」

「それ以外ないにゃ!」

「プッ……アハハハハ」


 お、おう……。イサベレが大笑いしておる。笑顔を見たいとは思ったが、もっと品のある笑い方が欲しかったんじゃが……


「どうしたにゃ?」

「フフフ。てっきりお母さんのほうに怒っていると思った」

「あ~。おっかさんの最後は悲しいけど、楽しんで逝ったみたいにゃ。イサベレも聞いたにゃ?」

「聞き違いじゃなければ」

「わしも聞いたにゃ。おっかさんは楽しかったと言ってたにゃ」

「シラタマがどうやって?」

「おっかさんが死んだ日、おっかさんが幽霊になって会いに来たにゃ」

「あの光は、シラタマの元に向かったのか……」

「たぶんそうにゃ」

「そう……最後にシラタマに会えただけでも、私の心は救われる」

「気にしてたにゃ?」

「シラタマと会ってから、気になっていた」


 それまでは気に掛けていなかったと……まぁ人間からしたら、狩りをしただけじゃもんな。わしも腹を膨らませる為に、多くの命を刈り取っている。目の前に仇討ちが現れたら、きっと気になるな。


「話してくれてありがとうにゃ」

「ん。改めて謝罪する。ごめんなさい」

「うんにゃ。受け取ったにゃ」


 その後、湖を眺めながら。わしが追い掛けていた時の話をする。口数の少ないイサベレとの会話はもちろん盛り上がらず、日が傾きかけて来たので、車を走らせて王都へ帰る。

 王都へ戻ると、またイサベレコールが起こるが、手を繋ぎ、イサベレの部屋まで送ってあげた。


「荷物はこれで全部だったかにゃ?」

「ん。ありがとう」

「それじゃあ、帰るにゃ」


 ガシッ!


 わしは帰ろうと振り向くと、腕を捕まれた。それと同時に、わしは危機感を覚える。


「にゃ、にゃにかにゃ~?」

「まだ、まぐわっていない」

「にゃんの事にゃ~!」

「デートというのはそういうもの」

「は、早いにゃ~! 初デートでは、そんにゃ事しないにゃ~!!」

「そうなの? 指南書には……」

「その指南書は間違っているにゃ~!」

「うそ……しょぼ~ん」


 しょぼ~んって……言葉通りしょぼんとなっているけど、イサベレの頭の中にはそれしかないのか? 無表情な癖に、こんな時だけ表情を見せるのもやめて欲しいわい。仕方ない……


 わしはイサベレに飛び付き、頬にキスをする。すると、イサベレは驚き、顔を赤らめる。


「シラタマ……」

「初デートは、ここまでにゃ」

「ん。嬉しい私も。チュッ」


 わしも頬を赤らめ、別れを告げて、イサベレの部屋をあとにする。



 そして家に帰ると……


「シラタマちゃ~ん」

「シラタマさ~ん」

「シラタマ殿~」

「シラタマ様~」

「猫ちゃ~ん」

「シラタマ様……」


 さっちゃんと愉快な仲間達、リータ、メイバイに出迎えられた。


 なんでさっちゃんがおるんじゃ! ソフィ達まで……。リータとメイバイも、なんか怖いんじゃけど……


「えっと~。ただいまにゃ」

「「「「「お・か・え・り~~~」」」」」

「にゃ!? なんにゃ! みんにゃ怖いにゃ~」


 わしがおどおどしながら質問すると、さっちゃんが代表して答えてくれる。


「シラタマちゃんは、今日、何をしていたのかな~?」

「……イサベレと会ってたにゃ」

「なんで会ってたのかな~?」

「だから怖いにゃ~! おっかさんの話を聞いていただけにゃ~」

「「「「嘘おっしゃい!」」」」


 わしは全員に嘘つき呼ばわりされ、さっちゃん、ソフィ、メイバイ、リータと次々にわしに詰め寄る。


「イサベレと手を繋いでいたでしょう!」

「服も買ってました!」

「広場でも買い物してたニャー!」

「車でどこに行ったのですか!」


 え~~~! なんでみんな知っておるんじゃ……つけられた? イサベレに人が集まっていたから気付かんかった。これは絶体絶命のピンチじゃ! いや、まだ抜け出せるはず……


「にゃんでそんにゃに詳しく知ってるにゃ?」

「うっ……」

「もしかして……つけたにゃ?」

「うぅ……」

「へ~。みんにゃそんにゃ事するんにゃ~」

「うぅぅ……」

「悲しいにゃ~」

「うぅぅぅ……」


 フッ……わしの勝ちじゃ。


「「「「「うが~~~!!」」」」」


 え? キレた??


「それとこれとは別よ!」

「デートしてましたよね!」

「シラタマ殿の浮気猫~!!」

「にゃ~! 開き直るにゃ~!!」


 さっちゃん、リータ、メイバイに反論すると、次はソフィ、アイノ、ドロテがわしを問い詰める。


「シラタマ様だって、開き直っているじゃないですか!」

「うっ。そんにゃ事ないにゃ~」

「いま、猫ちゃん。『うっ』て言ったよね!」

「いんにゃ。言ってないにゃ~」

「素直に謝ったほうがいいですよ」

「にゃにもやましい事してないにゃ~~~!」


 わしの叫びは聞き入れてもらえず、またこっぴどく怒られた。ゴロゴロ攻撃で宥めようとしたけど「その手に乗るか!」とよけい怒られた。

 結局、どうしたら許してくれるかと聞いて、みんなともデートをする事で、やっと許してもらえた。

 その後、機嫌の直ったさっちゃん達は、わしを撫で回して帰って行くのであった。


 どうしてみんな、猫なんかとデートしたがるんじゃ~!!


「それは、シラタマさんが、かわいいからですよ」


 リータに心の声を読まれた……


「声に出てたニャー」

「にゃ? いまのも出てたにゃ?」

「で、出てたニャー!」

「出てましたよね~」

「にゃ~~~?」


 リータとメイバイはそれ以降、わしを撫で回して質問をさせないようにする。納得はいかなかったので、二人から逃げ出してお風呂に入る。

 どうせ二人も入って来るだろうから、断固猫型だ。今日も二人に洗われ、バススポンジになってから、猫型のまま布団に潜り込む。

 二人は、人型になれとブーブー言いながら撫で続けるが、朝が早かったせいか、皆、すぐに眠りに落ちる事となった。



 イサベレとデート……ゲフンゲフン。おっかさんの話を聞いた翌日、目を覚ますと、また寝室にリータとメイバイの姿がなかった。わしはどうしたのかと一階に降りると、居間に「夕食には戻る」と書き置きがしてあった。


 どこ行ったんじゃろう? そう言えば、昨日も早く起きておったな。わしばかり詮索せんさくされておるし、つけてみるか……いや、わしがやられて嫌な事を、リータとメイバイにするのはやめておこう。いつか話してくれるじゃろう。


 わしは朝食を済まし、庭の木に魔法で水やりをしていると、玄関から元気のいい声が聞こえて来た。わしは玄関に急ぎ、挨拶をする。


「エミリ。おはようにゃ~」

「おはようございます。今日からねこさんのごはんの準備をさせてもらいます。ふつつか者ですが、末長くよろしくお願いします!」


 え? なに、この挨拶?? 料理人で雇ったはずなんじゃが、まるで嫁いで来たみたいじゃ……。前にババアが通い妻とか言っていたな。子供のエミリがそんな言葉を知るわけもないし、ババアの入れ知恵じゃろう。

 なんにしても、リータとメイバイがいなくてよかった。こんなところ見られたら、怒られておったわい。


「よろしくにゃ~。上がって少し話をしようにゃ」

「はい!」


 わしはエミリがニヤリとした事に気付かず、居間に上がらせる。そして働く日にちを決める。


「こんにゃところかにゃ? 仕事で居ない時は前もって伝えるけど、急にゃ仕事の時があると思うから、その時はごめんにゃ。給金はその日も払うから、心配しなくていいにゃ」

「いえ。貰わなくても大丈夫です」

「これは仕事にゃ。仕事である以上、きっちり契約を取るにゃ。エミリがお店を持った時も、忘れず契約は取るにゃ。わかったにゃ?」

「はい!」


 わかってくれたみたいじゃな。エミリが店を持つのは今から楽しみじゃ。それにしても朝早く来たもんじゃ。まだ朝二の鐘も鳴っておらん。おっと、そろそろ出ねば、約束に間に合わんな。

 エミリが来たから忘れるとこじゃった……あ! いいこと思い付いた。


「ちょっと相談があるにゃ」

「なんですか?」

「エミリのお母さんのレシピの……」



 エミリへの相談を終わらせると一緒に家を出る。そして手を繋ぎ、コーヒー売りのお姉さん、ガウリカとの約束の広場に向かう。


「猫!!」


 ガウリカは、まだわしを見て驚いておるな。早く馴れて欲しいもんじゃ。


「おはようにゃ。待たせたかにゃ?」

「いや。いま来たところだ。それよりその子供は?」

「わしの家で雇った、料理人のエミリにゃ」

「猫が料理人を……」

「ねこさん。このお姉さんがさっき言ってた?」

「そうにゃ。ガウリカにゃ」

「よろしくお願いします」

「よろしく?」


 う~ん。まだわしの存在が引っ掛かっておるようじゃな。それよりも話を進めよう。


「それで、コーヒー豆の値段はどうなったにゃ?」

「あ、ああ……見直したけど輸送費もあるから、そこまで安く出来ない」


 串焼きの四倍か……。豆の段階でこれでは、庶民の口に入れるにはお高いのう。じゃが、わしに買わないと言う選択肢は無い。後はルートだけじゃな。


「ちょっと高いけど買うにゃ」

「本当!?」

「本当にゃ。今日は持って来てないのかにゃ?」

「全部買えるとは思っていないから、少ししか持って来てない」

「じゃあ、今はそれだけ買い取るにゃ。それと、ちょっと付き合って欲しいにゃ」

「猫と私が??」

「そっちじゃないにゃ~!」

「わかっているわ!」



 わしとエミリにガウリカを加えて、広場で必要な食材の買い物を済ませて帰宅する。ガウリカはわしの家に驚き、靴のまま上がろうとしたので注意して、キッチンに連れて行く。

 キッチンに着くと、さっそく美味しいコーヒーを入れて、エミリにご馳走する。


くさいし苦いです……」

「やっぱりダメにゃ~? いいにおいだと思うんだけどにゃ~。ちょっと待つにゃ」


 今度は砂糖とミルクを、エミリのコーヒーに入れて飲みやすくする。


「これでどうにゃ?」

「う~ん。飲めるようになったけど、においが……」

「ガウリカは、このにおいをどう思うにゃ?」

「いいにおいだと思うけど……」

「馴れないとダメかにゃ~? じゃあ、エミリのお母さんのレシピで作ってみるにゃ」

「はい」



 エミリはレシピを広げ、コーヒー豆を使って調理を始める。作る料理はチョコレート。エミリのお母さんは生前、コーヒー豆を手に入れたらしく、コーヒーの苦みを使って、チョコに似た食べ物を作ろうとしていた。

 レシピには多くの食材が書かれており、チョコに対する並々ならぬ思い入れが感じ取れるが、残念ながら完成には至っていない。でも、久し振りにわしも食べたくなっているので、エミリと協力して作り上げようというわけだ。


 何度かの試作の後、チョコと言うには若干違うが、似たような味の食べ物が完成し、わしとガウリカの二人は美味しく味わう。何故、二人だけかと言うと……


「十分美味しいにゃ。ガウリカもそう思うにゃ?」

「うん。コーヒー豆から、こんなに美味しい物が出来るなんて凄いよ!」

「まだです! もう少し滑らかな口溶けが欲しいんです!!」


 と、エミリが許してくれない。キャットランド建設責任者のカーポといい、孤児院の子供は完璧主義者が多いもんじゃ。

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