123 チョコとコーヒーを召し上がれにゃ~


 エミリの協力のもと、チョコレートを作ったものの、豆と砂糖のコストが高い。庶民に行き届きさえすれば、単価は下がるんじゃけど……先は長いな。


「う~ん。口溶けを滑らかにするには……」

「まだやってるにゃ~?」

「ねこさんも考えてください!」

「わしは料理人じゃにゃくて、ハンターにゃ~」


 わしがエミリに言い訳していると、ガウリカが笑いながらわしを見る。


「猫がハンター……フフフ」

「いま、狩られる側だと思ったにゃ?」

「ああ」

「そこは否定してくれにゃ~」

「遊んでないで考える!」

「「はい(にゃ)!」」


 料理人モードのエミリに怒られた……。わしとガウリカは素人なんじゃから、大目に見て欲しいもんじゃ。それに売るとしても金持ち商人か、貴族ぐらいにしか売れないからやる気も出ない。お! そうじゃ。


「それにゃら、プロにアドバイスをもらったらどうにゃ?」

「プロですか?」

「ついでに売り込みもするにゃ。売れる見込みが出来たら、ガウリカもコーヒー豆を仕入れてくれるかにゃ?」

「まぁ……でも、遠い国だから高くなるぞ?」

「そこがネックにゃけど、金持ちに売り付けて、普及して行けばコストは下がって行くと思うにゃ」

「猫が難しい事を言ってる……」

「ねこさんは、とっても賢いんですよ」

「さあ、出掛けるにゃ~」



 と、言う訳で、やって来ました目的地。


「「むりむりむりむり~~~!」」


 城の門に着いたそばから、ガウリカとエミリは、首を横に高速で振り出した。


「にゃにがにゃ?」

「猫はわかっていないから教えてやるけど、この中にはとっても偉い人がいるんだ。そんな所にあたし達平民が入れるわけがないだろう」

「ああ。一時、ここで暮らしていたから大丈夫にゃ」

「城に!?」

「王女様と友達なのは知っていますけど、こんな汚い服じゃ入れないです。わたしなんか、ぜったい追い出されます!」

「もしそんにゃ事をする奴がいたら、ぶん殴ってやるにゃ!」

「やめろ!」

「ダメです!」

「冗談にゃ。みんにゃ優しいから大丈夫にゃ。さあ、行くにゃ~」


 震える二人を連れ、門兵に事情を説明して城に入る。二人とも、わしの手を握って離さないから、門兵に嫌な勘繰りをされたが、冗談だと受け止める事にした。


 女王に会うには、さっちゃんに頼んだほうが早いな。部屋に向かうか? ……この時間だと、さっちゃんは勉強に飽きて庭かな?



 予想をつけて庭に行くと、緊張する二人は庭に目を奪われ「ここが天国」と呟いていた。せっかくリラックスしているので、これから地獄に行くとは伝えなかった。

 そうこうすると庭の中央にあるテーブルに、さっちゃんを発見したが、その他大勢もいた。


 あら、珍しい。女王に三人の王女が揃い踏み。さっちゃんに頼む手間は省けたが、エミリとガウリカは高貴なオーラに当たって、魂が抜け出して来ておるな。


「シラタマちゃん! なに、その女!!」


 さっちゃんのクリティカルヒット~! 二人は生ける屍となりました……と、アホな事を考えてる場合じゃないな。


「さっちゃん。その話は待ってくれにゃ。メイドさん、端でいいから椅子を用意してくれにゃ」


 気絶し掛けの二人を椅子に座らせ、水を与えてからさっちゃん達のテーブルにまざる。


「邪魔するにゃ~」

「あの女~」

「さっちゃんと女王は会った事がある料理人のエミリと、南の小国ビーダールから移住して来たガウリカにゃ。あの二人に協力してもらって、面白い物を持って来たにゃ」

「面白い物? 見たい!!」


 女より面白い物に反応したか。子供じゃのう。


「においがキツい物にゃから、人によってくさいと感じる人もいるから、気を付けてくれにゃ」



 わしは注意事項を述べて、次元倉庫かられたてのコーヒーとチョコを取り出して、女王と三王女のカップにコーヒーを注ぐ。すると、さっちゃんは顔をしかめる。


「シラタマちゃん、臭いよ~」

「これは……コーヒー?」

「女王は知ってるにゃ?」

「何度か飲んだ事があるわ。あまり美味しいと思わなかったけど……」

「まぁ一口飲んでみてくれにゃ」


 わしの言葉に、皆、恐る恐るカップを口に運ぶ。


「苦い~! シラタマちゃんが毒盛った~!!」

「こういう味にゃ! 人聞きの悪いこと言うにゃ!! みんにゃはどうにゃ?」


 さっちゃんが叫ぶのを宥め、女王と双子王女に話を振る。


「私は美味しいと感じた……なんで?」

「わたくしは美味しくないわ」

「そう? 苦いけど、新しい風味で悪くないかも?」


 女王は美味しいと言ったな。双子王女は一人はダメで、一人はもうひと押しか。


「じゃあ、砂糖と牛乳を入れて飲んでみるにゃ」


 全員に砂糖と牛乳を適量入れたコーヒーを配り、飲んでもらう。


「まだ苦いよ~」

「う~ん。私はさっきのほうが好きかな?」

「飲めるようになったけど、わたくしはダメね」

「わたくしは気に入ったわ」


 お! 半々になった。


「これは大人の飲み物だから、さっちゃんには早かったかにゃ?」

「シラタマちゃんだって子供じゃない」

「わしは……大人にゃ……」

「自信無さそうじゃない!」

「それより、こっちのお菓子も食べてみるにゃ」

「黒いけど、お菓子だったんだ!」


 皆、チョコレートを指でつまむと、口に入れる。


「ん! おいしい!!」

「これはいいわね」

「甘いと苦いが混ざってるのね。美味しいわ」

「美味しいわ。コーヒーと味が似てるわね」

「そうにゃ。これはコーヒー豆から作った、チョコレートって言うお菓子にゃ」


 わしが皆に説明していると、さっちゃんが食べ終えて目を輝かせる。


「シラタマちゃん、これはどこで買えるの?」

「まだ試作段階だから売り物じゃないにゃ」

「これで試作段階なの!?」

「わしも美味しいと思うにゃ。でも、エミリがまだ完成だと言わないにゃ。だから、ここの料理長にアドバイスをもらえないか聞きに来たにゃ」


 わしのお願いに、女王はわしの後方を眺めて心配そうに応える。


「それぐらいかまわないけど……大丈夫かしら?」

「……エミリ! ガウリカ~! 戻って来るにゃ~~~」


 わしが振り返ると、二人は口から魂が飛び出たあとだった。ホンマホンマ。



 緊張のあまり飛び出たエミリとガウリカの魂を捕まえ、口に押し込んで復活した二人は、別室に運ばれて行った。あとから聞いた話だが、エミリはチョコレートを食べた料理長に連れさらわれたらしい。


 少しトラブルはあったものの、わしはそのまま残って女王達と話し合う。


「シラタマちゃんは、また変な事してるのね~」

「変って言うにゃ~」

「変だと思うわよ」

「「わたくしも」」


 満場一致ですか。そうですか。話を戻そう。


「この国でチョコとコーヒーを普及させたいんにゃけど、コストが高いから金持ちにしか売れないにゃ。貴族とかに売れるかにゃ? 出来れば販売してくれるところ、仕入れルートを確保したいにゃ」

「チョコは売れるだろうけど、コーヒーはどうかしらね」

「味とにおいは好みにゃけど、効能として眠気を飛ばしてくれるにゃ。薬としてどうかにゃ?」

「忙しい時には助かるわね。でも、なんでシラタマがそんなこと知ってるの?」


 あ……現世の知識を出してしまった。良い言い訳が思い付かない。


「猫だからにゃ」

「「「「あ~~~」」」」


 あれ? 言い訳になるの??


「「「「納得するわけないでしょ!!」」」」


 ですよね~。ここは話を逸らそう。


「それより、最近、女王は暇そうにゃ。例の件はいいのかにゃ?」

「もう冬になるから、さすがに無いでしょう」

「あ~。自然休戦にゃ」

「なんでシラタマがそんな事まで知ってるのよ……」

「それは……王女様方の歴史の授業で習ったにゃ」

「シラタマちゃん。自然休戦って何?」

「本に載ってたにゃ~。にゃ?」


 さっちゃんの質問に、わしは双子王女に確認を取る。


「たしかに載ってたけど少しですわよ。よく勉強してるわね」

「シラタマちゃんは偉いわね。それに比べてサティは……勉強時間を増やそうかしら?」

「あ! 思い出した!! アレね。アレ」

「「本当かしら……」」


 さっちゃんの目が、バタ足かってぐらい泳いでおるな。今日は助けてあげるか。


「そのアレにゃ。戦争が長期間になったら、季節が変って冬になるにゃ。そうにゃったら食糧も、兵士の士気にも関わるから、指揮官は冬の戦争を避けるにゃ」

「そうそう。わたしが言いたかったのに、シラタマちゃんに取られたな~」

「まったく……」


 さっちゃんはグッジョブって言っておるのか? 尻尾をニギニギしないで!


「お母様はシラタマちゃんに教えていたのですね」

「メイバイを預かった時に聞いたにゃ」

「春までは大丈夫だと思うけど、気は抜けないわね」

「体を壊さないように、いまのうちにしっかり休むにゃ」

「心配してくれてありがとう。褒美にペットにしてあげます」

「褒美になってないにゃ~! そうにゃ! ハンターの職業も、いい加減ペット以外にさせてくれにゃ~」

「それは、無理ね」

「シラタマちゃんにピッタリじゃない」

「私も似合っていると思うわ」

「何がダメなの?」


 ダメじゃろう? 職業って、ハンターの得意な攻撃方法の職業を書くんじゃ。え? わしがおかしいの?


「それにしても、このチョコレート、美味しいわね」


 わしがパニクっているのに、話を変えないでいただきたい。


「ペットは嫌にゃ~」

「お母様の誕生祭に出してはどうかしら?」

「無視するにゃ~」

「そうね。出席者もビックリするわね」

「聞くにゃ~」

「レシピはエミリに頼めばいいのかしら?」

「コーヒー豆の仕入れが問題になりますね。こっちはガウリカに頼めばいいかしら?」

「さっちゃ~ん」

「よしよし」


 女王と双子王女はわしを無視して話を続けるので、さっちゃんに泣き付いてみたが、撫でるだけだ。


「シラタマはそれが目的で来たんでしょ? 貴族に普及する絶好のチャンスだし、国としての輸入も出来るわよ」

「そうにゃけど、ペットも……」

「よしよし」

「心配しなくても権利関係はしっかりするわよ」

「いや、ペットをにゃ?」

「仕方ないわね」

「にゃ!?」

「コーヒー豆も原価で譲るわ」

「そっちじゃないにゃ~!」

「よしよし」


 さっちゃんは撫でたいだけじゃろ? これはペットの話は、もうする気が無いのか……


「はぁ。女王の誕生祭って、いつにゃ?」

「この国の国民なら、誰でも知っていると思ったのに……ヨヨヨヨヨヨ」

「嘘泣きするにゃ~。わしはこの国の国民になって、まだ二ヶ月にゃ。知らない事のほうが多いにゃ」

「変な事は知ってるのに……」

「変って言うにゃ~」

「よしよし」

「一カ月後よ。ちなみに年齢は……秘密よ」


 うぜ~。さっちゃんはまだ撫で続けているし……


「そんにゃに若く見えるんだから、言ってもみんにゃが褒めてくれるだけにゃ」

「あら、あらあらあら。嬉しいこと言ってくれるのね。抱いてあげる」

「にゃ~」

「お母様ズルいです~」

「ずっと撫でてたでしょ。今度は私の番よ」


 この親子は……膝に乗せられると胸が当たるんじゃよなぁ。やめて欲しいわい。ホンマホンマ。


「一カ月後だと、メニュー開発や準備もあるし、コーヒー豆を仕入れるのは間に合うのかにゃ?」

「いま、どのぐらいのコーヒー豆があるの?」

「そこそこあると思うけど、大規模なパーティーには足りにゃいんじゃないかにゃ?」

「こちらから馬車を出して向かうと、往復で三十日以上。ガウリカに頼むと間に合わないわね。連絡用の魔道具で、用意できそうな所に発注を掛けましょうか?」

「う~ん。どんにゃ種類の豆があるか見たいし、第一便は、わしが直接買い付けに行くにゃ」


 わしが買い付けに行くと発言すると、さっちゃんと女王が止めに入る。


「そんなに長い期間、王都を離れちゃダメ-!」

「私も許さない!!」

「すぐ帰って来るにゃ。一週間も掛からないにゃ~」

「どうやって行くの?」

「女王には秘密にゃ」

「なんでよ~~~!」


 女王は最近さっちゃんに似てきたな。飛行機で行くつもりじゃから、国のトップに知られたくはない。軍事利用されてしまうのは避けたいから、口が裂けても言えないな。


「どうせ飛んで行くんでしょうけど……」


 バレて~ら。


 この後わしは、女王と三王女の拷問に耐え切り、口を割らずにゴロゴロと言い続けるのであった。

 て言うか、撫でられただけであった。

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