075 様子がおかしいにゃ~
わしとローザは目付きの悪い女性の案内で、商業ギルドの別室に案内される。
「とうぞおかけください。私はこの商業ギルドでサブマスターをしている、エンマと申します」
「私の顔に何か?」
「あ、えっと……目付きが悪いにゃ」
あ、言っちゃた。
「よく言われます。こう目を細くした方がよく見えるので、いつも目を細めてしまうのです」
「目が悪いにゃら、眼鏡を掛ければいいにゃ」
わしの発言に、エンマとローザは不思議そうな顔で質問して来る。
「目が悪い? 眼鏡?」
「ねこさん、眼鏡とはなんですか?」
あ……この世界には無いのかな? そう言えば、城の中でも眼鏡を掛けた人を見た事がない。よし!
「ヒュ、ヒュ~。にゃんでもないにゃ~」
「それで口笛のつもりですか……」
「そう言えば、ねこさんの家は不思議な物が多いですよね? 眼鏡と言う物も、ねこさんの発明ですか?」
「わしじゃないにゃ~」
「やっぱり何か知っているのですね……。ねこさんは作れるのですか?」
うっ……やられた。誘導尋問じゃったか。作れるかと聞かれても、うちの会社では取り扱ってなかったしな。まぁ仕組みは知ってるから、頑張ったら作れるかも知れないけど、わざわざ言う事でもないじゃろう。
「さあにゃ~? にゃんのことにゃら……」
「あくまで惚けるのですね。では、こちらはどうでしょうか……」
「無理にゃ~」
「まだ何も言っていません!」
「にゃんとなく無理にゃ~」
嫌な予感がする。きっと面倒事じゃ。聞かずに逃げるのが吉じゃ。わし達が別室に通されたのも、別の目的があったに違いない。わしのせいでうるさかったのも事実じゃが……
「昨日、複数の商人から報告があったのですが……」
「にゃ~~~!」
「馬も無く、猛スピードで動く……」
「にゃ~~、ふにゃ!」
「ねこさん、うるさいです。続けてください」
エンマの質問を掻き消そうと叫んでいると、ローザはわしに
「馬も無く、猛スピードで動く馬車から、シラタマさんが出て来たと聞きましたが、事実ですか?」
「む~む~む(知らないにゃ~)」
「事実と言っています」
「む~む~む~(違うにゃ~)」
「実用化できないでしょうか?」
「む~む~(無理にゃ~)」
「できると言っています」
全然通訳できてない! 全部逆じゃ。あ、わしには念話があったな。
「無理にゃ~。ローザもどくにゃ~」
「頭の中で声がする……」
「ねこさん、ズルイです」
ローザは、わしが念話を使った事によって口を塞げないと判断し、諦めて席に戻る。
「アレは、わしの魔力が動力になっているから無理にゃ。城の魔法使いでも、少し動かすだけで魔力が切れたにゃ」
実際、アイノが動かしたいと言うからやらせてみたけど、3メートルぐらいで魔力が尽きていた。
「そうですか……では、こちらはどうでしょう? 使用料を払いますので、販売を許可してくれませんか?」
エンマは布の包みをほどき、ぐにゃぐにゃと曲がった鉄の塊を取り出す。
スプリング……セベリが他で作れないか探してみると言っていたが、ここに持ち込んだのか。
「それは、何をする物なのですか?」
「馬車に付ければショックを吸収して、揺れを少なくしてくれると聞いています」
エンマの説明に、ローザは目を輝かせてわしを見る。
「そんな物があるのですか!? ねこさん! 私の馬車にも付けてください!」
「いや、その……面倒くさいにゃ?」
「え~! お願いしますよ~」
「製品化すれば、スプリングを付けた馬車を販売出来ますから、シラタマさんが作らなくても購入できますよ」
「たしかに……ねこさん! お願いします~」
う~ん。どうしたものか……便利な物ではあるが、時代を先送りしているみたいじゃし……と言っても、もうやっちまってるか。
ローザも馬車の乗り心地に不満があるみたいじゃな。わしの揺らし方がハンパない。お金も入るし、良い事をしたって事にしよう。
「わかったにゃ。でも、にゃんでわしの許可なんて必要にゃ? 勝手にやってもバレなかったにゃ」
「この国では知的財産権というものがありまして、発案者に権利が発生するのです」
「じゃあ、エンマが発案者で提出すればよかったにゃ。それでわしは泣き寝入りにゃ」
「それも考えましたが、持ち込んだ人が、高貴な
しれっと、ぶっちゃけておるけど、やる気はあったんじゃな……
「わしは助かったにゃ。ところで、スプリングを持ち込んだのはセベリかにゃ? まだ王都にいるにゃら呼んで欲しいにゃ」
「はい。しばらく滞在すると聞いていますので声を掛けてみます」
「何をするのですか?」
「ローザの馬車の製造にゃ」
「本当ですか? やった~!」
「作り方を見てもらったほうが早いから、馬車を作る職人と鍛冶屋?も呼んでおくにゃ」
「わかりました。手配しておきます」
それから、ハンターの仕事もあるので今後のスケジュールを決めて、話の逸れていた賃貸契約を結び、ローザを屋敷に送ってから家に帰る。
翌日になると、リータとハンターの仕事をしに朝からギルドに顔を出す。すると、いつもの反応では無い事に気付く。
「なんだか、みんなの雰囲気が違いますね」
リータの言う通り、おかしい……。わしが入るといつもは、猫、猫騒ぐのに、みんなわしを見てコソコソ話をしている。小さな声で聞こえないから、逆に
何か悪口でも言っておるのか? タヌキとか言われたら泣くぞ? 聞いてしまうとショックを受けそうじゃし、早々に出て行った方が賢明じゃな。
「気にせず行くにゃ~」
「はい」
わしとリータはコソコソと喋るハンター達を無視して、依頼ボードの前に立つ。
う~ん。いいのが無い……。依頼料が高いのは遠いのう。馬車で五日か……車だと、ぶっとばしても往復で十時間以上かかるから日帰りは厳しい。悪路じゃからもっとか?
明日はローザの家に行く予定じゃし、日帰りを選ばないといけない。仕方ない。これでいくか。
わしはリータの了承を得て依頼ボードから紙を剥がし、カウンターに持って行く。ハンター達の列に並んでいると、ティーサのカウンターが空いたので依頼書を渡す。
「おはようにゃ~。これ、お願いするにゃ」
「おはようございます。今日は狼を五十匹ですか……猫ちゃんなら大丈夫だと思いますが、気を付けてくださいね」
「心配、ありがとにゃ。行って来るにゃ~」
依頼受注を完了すると、わしとリータはコソコソと喋るハンター達を気にしながらギルドを出る。
「なんだったのでしょう?」
「気になるけど、いまは仕事にゃ~」
「そうですね」
王都の門を抜け、次元倉庫から車を出して発車する。向かうは馬車で二日かかる村。車を一時間走らせて到着すると、また猫騒動が勃発。なんとか村長に話を通し、狼の居る森に向かう。
「さあ、狩りの時間にゃ~」
「はい!」
わしは猫無双よろしく。今日は脇差しとは違い【黒猫刀】を持って、狼の首を切り裂いて行く。
リータはわしがわざと取り残し、一対一に持ち込んだ狼を相手に拳を振るう。
成績は、わしが四十九匹、リータが五匹だ。死んだ狼を次元倉庫に入れれば仕事も終了。
ホクホク顔で村に戻るが、畑であっただろう荒れ地を見てしまい、複雑な気分になる。
「この村も、不作みたいにゃ」
「そうですね……私の村だけじゃないのですね」
「どこも困っているのかにゃ? 稼ぎは減るけど、また狼の肉を分けようと思うにゃ。いいかにゃ?」
「はい。ほとんど猫さんが倒したのですから、反対しませんよ」
「嫌だったら言ってくれにゃ」
「嫌な事なんてありません」
リータは……イエスマンになっているわけではないか。笑顔に嘘がなさそうじゃ。それじゃあ、お言葉に甘えるか。
わしは村長と交渉して、解体作業と二十匹の狼肉とを交換する。前回の村と同じくらいの肉の量になるから、処理に困らないはずだ。
お昼も前回同様、誘われたが、英雄扱いされそうだったので丁重にお断りして王都に帰る。
また車で列に並んでいたら、門兵に何度も言わすなと怒られてしまった。門の前で騒ぎが起きるより、車で入った方がいいような気がするのに……
そして、ハンターギルドに入ると朝と同じように、ハンター達はヒソヒソと、なにやら話し合う。
何を話しているか気になりながらも、依頼完了書を受付カウンターに持って行く。
「ティーサ。ただいまにゃ~」
「もう終わったのですか?」
「そうにゃ。これ、依頼完了書にゃ」
「たしかに……でも、日帰り出来る距離でしたっけ?」
「まあまあ。それより手続きしてくれにゃ~」
「……わかりました」
ティーサは何か勘繰っていたが、渋々、作業を始める。その作業を見ながら、わしは気になる事を聞いてみる。
「今朝から、ハンター達がわしを見ながらヒソヒソと喋ってるにゃが、にゃにを喋っているにゃ?」
「それは猫ちゃんをどう勧誘するかですよ」
「勧誘にゃ?」
「猫ちゃんは収納魔法を使えますよね? 収納魔法があれば、持ち帰れる獲物も増えて、稼ぎが増えるから、みんな猫ちゃんを欲しがっているのですよ」
「ふ~ん。まぁ元々ソロ希望にゃし、勧誘が来たら断るにゃ」
わしとティーサの何気ない会話に、リータが質問して来る。
「猫さんは、ソロ希望だったのですか? それなのに私なんかと……」
「いや、こんにゃ姿だからにゃ。誰も組みたがらにゃいと思っていたにゃ。だから、リータに誘われた時は嬉しかったにゃ~」
「……猫さんは、やっぱり優しくてかわいいです!」
かわいい? 今の話の流れで必要じゃったか?
「はい。受付終了しました。忘れず、買い取りカウンターも寄ってくださいね」
「わかったにゃ~」
わし達はティーサに別れを告げて、買い取りカウンターに向かう。
「おっちゃん。解体済みの狼、三十四匹と毛皮二十枚あるけど何処に出すにゃ?」
「そんなにか!? 毛皮はここで受け取るが、残りは冷凍庫で出してもらっていいか?」
「いいにゃ」
わし達はおっちゃんの案内で、買い取りカウンターの奥にある階段を降りる。
ふ~ん。ギルドには地下があるのか。地下と言う事は、氷室かな? 雪か氷で冷やしているのかな? それともわしの作った冷蔵庫と同じで魔道具か?
階段を降りるとおっちゃんは、分厚い扉を開く。すると中から冷たい空気が漏れ出す。
「ほれ。これを着ろ」
おっちゃんは壁に掛かっていた毛皮のコートを、腕をさすっているリータに手渡す。
「ありがとうございます」
「わしの分は無いのかにゃ?」
「……いるのか?」
「……言ってみただけにゃ」
もう着てますよ~だ! いらないけど、仲間外れにされてる気分になるんじゃ。
「ここに出してくれ」
「わかったにゃ」
冷凍庫の中に入ると、おっちゃんが指差す場所に、次元倉庫からボトボトと狼を取り出す。
「前にも思ったが、お前の収納魔法は凄い量が入るんだな」
「早く数えてくれにゃ~」
「ああ、悪い……三十三、三十四匹だな。ありがとよ。それじゃあ、戻って支払いだ」
わし達はカウンターに戻ると、狼の代金を受け取る。そうしておっちゃんにお礼を言って振り返ると、ハンター達がジリジリと近付いていた。
「私と……」
「俺達の……」
「あたしを……」
「我が……」
近付いて来たハンター達は口々に喋り出すが、一人の男の声に掻き消される事となった。
「ハーハッハッハー! お前が噂の猫か!!」
男はマントをたなびかせ、
馬鹿が来たと……
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