第二十三章  アメリカ大陸編其のニ アメリカ横断旅行、延長戦にゃ~

643 不平等条約にゃ~


 我輩は猫又である。名前はシラタマだ。リーサルウェポンではない。


 アメリヤ王国がやっていた奴隷狩りを見過ごせなかったわし達は王都に乗り込み、アメリヤ軍最大戦力と戦争になったが、さすがはわし。誰ひとり殺す事なく戦争は終結した。

 しかし、大怪獣『ネコゴン』や最強魔法の数々を見たジョージ13世の顔色が超悪い。自己紹介をしたのに、いまさら「猫が……リスが……」とか騒いでいる。


「もういいかにゃ?」


 一通り騒ぎ散らしたジョージは、なんか燃え尽きてしまったボクサーみたいな体勢になった。なので、たぶん話を聞く体勢が出来たと感じたのでわしから話し掛けてみる。


「もう一回自己紹介しとくけど、わしが猫の国のシラタマ王にゃ。ここまでは大丈夫かにゃ?」

「あ、ああ。でも、猫?? 人間が本当の姿とか言ってなかった??」

「猫が喋ってたら気持ち悪いと思われるから、嘘をついんたにゃ。本当は白猫が本来の姿にゃ」


 わしが自分を卑下するように言うと、リータ達がそんなことないと慰めながら撫でてくれた。


「イサベレの紹介はさっきしたから十分にゃろ。あと、この子達は、全員猫の国の王族にゃ」

「えっと……みんな姿が違うけど……」

「それは妻と養子だからにゃ」

「養子はわからなくないけど……人間が妻……」

「まぁ言いたいことはわかるにゃ。先に紹介しておこうかにゃ。こっちの……」


 リータ、メイバイと紹介して行くと、やはりリータ以外の見た目が気になるようだ。「コリスだよ~」とか言われて、こんな大きなリスがどこから現れたと聞かれたので、人間に変身していたと教えてあげた。

 その説明でようやくこっちに戻って来たジョージは、リータの肩口を見ながらまた顔を真っ青にしていた。


「王妃……」

「あ、気付いちゃったにゃ? まだ下の騒ぎが落ち着いてないみたいにゃし、ジョージ君とはやることをやっておかないとにゃ」

「は、はい……」

「みんにゃ~。イサベレを止めておいてくれにゃ~」

「「「「はいにゃ~」」」」


 これから女王に知られたくない内緒話をするのだ。東の国のスパイは排除しなくてはいけないのでリータ達に頼むしかない。でも、マジバトルは外でやって欲しいな~?


 ネコゴンの口内でマジバドルなんてやられたら、余波でジョージが死にかねない。なのでコリスに頼んで、イサベレをネコゴンの頭の上に運んでもらう。

 さすがは猫パーティNo.2。コリスに掛かれば、イサベレのスピードも侍攻撃も意に介さず連れ去ってくれた。



「さてと……猫の国の王妃が撃たれたんにゃ。どう落とし前をつけてもらおっかにゃ~? あ、そうにゃ。わしもマシンガンでいきなり撃たれたんだよにゃ~?」


 辺りが静かになると、わしはニヤニヤしながらジョージを脅す。


「うっ……俺の命を差し出すくらいしか出来ません……」

「そんにゃ安い命で払えるわけないにゃろ~? そうだにゃ~……ここにサインしてもらうにゃ」


 わしはテーブルを次元倉庫から取り出すと、白紙の紙を二枚と万年筆を置き、白紙の一番下にラインを引いて、そこを指でトントンと叩いて指定する。


「ただの白紙ですけど……これにサインすれば許してくれるのか? こんなものでいいのならいくらでもしますよ」

「ただの白紙のわけないにゃろ。サインしたあとにいろいろ付け足すんにゃ」

「うお!? 書き掛けた!!」


 わしの注意事項を聞く前にペンを走らせようとしたジョージは飛び退いた。


「ち、ちなみにですけど、この二枚の用紙は何のサインなんですか?」

「一枚は友好条約に使う物にゃ」

「友好条約ならしても問題ないけど、内容がわからないと怖いんですけど……」

「わしの愛妻を撃っておいて、選べる権利があると思っているにゃ??」

「そうでした……申し訳ありません……」


 ジョージが一枚目にサインするのを確認したら、わしは笑顔を見せる。


「まぁそう心配するにゃ。友好条約は書き直すのが面倒にゃから、東の国と結んだ条約をそのまま使うからにゃ」

「もしかして、めちゃくちゃ酷い条約だったりしません??」

「いんにゃ。超真っ当にゃ。東の国の女王はやり手だから、うちのほうが不利なケースが多いかもにゃ。にゃははは」


 わしが笑うとジョージはホッとしたような顔をしたが、わしは笑顔から悪どい顔に変える。


「もう一枚は、ジョージ君が望んでいた不平等条約にゃ~」

「ふ……不平等条約……」

「内容はまだざっくりとしか考えてにゃいけど、まずは銃の製造や販売はうちに伺いを立ててもらうにゃ。あ、兵器は全てだにゃ。それと、コーン油にゃ。アレもうちを通してもらわないと困るにゃ」


 わしの説明でジョージは狙いに気付いてくれたようだ。


「アメリヤの軍備を弱体化……」

「そうなるにゃ。でも、いまの製造量は明らかに多すぎるにゃろ? あんにゃ多くの軍隊……必要にゃの??」

「うん。いらない」

「適正にゃ数にしろにゃ。その不満はうちにぶつけさせろにゃ」

「えっと……それだと俺にも利があるように聞こえるんですが……」

「まぁにゃ。ジョージ君には頑張ってもらわにゃいといけないから、少しぐらいは手助けしてやるにゃ」

「あ、ありがとうございます! でも、コーン油はどうして止めたいのでしょうか??」

「これから食糧が必要にゃろ~。もったいない使い方はわしがさせないからにゃ」

「そうでした!!」


 ジョージは喜んで不平等条約にもサインしてくれるが、わしの心が少し重い。


 あ~あ。書いちゃった。アレ一枚で、わしがアメリヤ王国を好き放題できるのに……まぁジョージ君はあまり利権に関わっていなかったし、奪うだけ奪ってもさほど痛くないか。他に面白い技術があるといいのう。


「あとは~……この収拾にうちの兵を派遣してやるにゃ」

「え……いまさら!?」


 ホントいまさら自分が何にサインしたか驚いてくれるジョージ。他国の兵に常駐されると、いつか乗っ取られるといまさら気付いたのだろう。


「ジョージ君には信頼できる力のある人は居るのかにゃ?」

「居ない……です」

「だから貸してやるんにゃ。貸しだから必ず返してもらうからにゃ」

「返すのは構わないのですが、死者が出た場合は……」

「大丈夫にゃ。兵とは言ったけど、実際には魔法使いにゃ」

「魔法使い??」

「見たほうが早いにゃろ。そろそろ下も落ち着いて来たから、みんにゃに挨拶しに行こうにゃ~」


 ジョージにサインしてもらった用紙を次元倉庫にしまうと、ネコゴンの口内をお片付け。それからわしだけ頭に登って、マジバトル中のリータ達を止める。


 ちょっとやり過ぎじゃない? イサベレがボロボロなんじゃけど……あと、イサベレって、わしのスパイしなくてよかったの? あ、戦闘が楽しくて忘れてたのですか。そうですか。


 わしの作戦は上手くいったようだが、イサベレ相手に百人組手みたいな事をしていたらしく、みんな楽しかったようだ。多少装備に傷は目立つが、着替えている余裕はないので全員でネコゴンの口内に戻る。

 それから「押すな押すな」と嫌がるジョージの背中を押してあげて、ネコゴンからのスカイダイビング。ジョージが腰を抜かしているのでコリスに首根っこを掴ませて、議員達が揃っている場所の前でわし達は止まる。


「にゃはは。元気がないにゃ~。ちょっと前まで息巻いていたのに、その元気はどこに行ったにゃ~? にゃははは」


 議員達は敗戦国らしく暗い顔。歳相応に老け込んで座っている。


「公爵と侯爵! 起立にゃ!!」


 デブジジイばかりなのでどれが公爵と侯爵か顔を忘れてしまったから、二人を立たせようとしてみたが誰も立とうとしない。しかし視線は二人に向かい、銃を持ったアメリヤ兵が無理矢理立たせてくれた。


「ちょっとは自分のやったことに罪の意識は芽生えたかにゃ?」

「「いえ……」」

「まだにゃの~? みんにゃ~! この戦争は誰が引き起こしたにゃ~~~!!」


 公爵と侯爵はまだ罪の意識がないので、この場に揃うアメリヤ国民に問うたら非難轟々。二人だけでなく、議員にまで罵声が浴びせ掛けられている。


「にゃはは。これが、民の声にゃ。お前達はもういらないってにゃ~」

「「………」」


 公爵と侯爵はぐうの音も出ないようなので、わしは辺りを静かにしようと音声拡張魔道具を使って民を宥めていたら、公爵が懐に手を突っ込んだ。


「こうなったら貴様も道連れだ! 死ね~~~!!」


 そして金色に輝く回転式拳銃をわしに向けて引き金を引いた。


「死ね死ね! 死ね~~~!! わはははは」

「「「「「キャーーー!!」」」」」


 何度も引き金を引く公爵を見た民衆から悲鳴があがるが、その悲鳴はわしに向けられたものじゃない。


「にゃにしてるにゃ? これ、返してあげるから早くくっ付けろにゃ」

「はい? これは見覚えのある手……私の手だ~~~!!」


 そう。銃声があがるよりも前に、わしが公爵の右手を刀で斬った悲鳴だ。神剣【猫撫での剣】で斬られたからには痛みを感じずに、脳からの指令が神経を伝い、引き金を引いていると錯覚を生み出したのだ。


 公爵はわしが返してあげた右手を言われるままに断面を合わせ、くっ付いた瞬間に口をパクパクしながらわしに視線を向けた。


「驚いているところなんにゃけど、こんにゃおもちゃ、わし達には通じないにゃ~」


 わしは拳銃をこめかみに当てて引き金を引く。一発目で悲鳴があがり、二発目は悲鳴が減り、三発目以降は静まり返り、五発目で止める。


「そうそう。ロシアンルーレットって遊びは知ってるにゃ?」


 自分の頭を撃ち抜いても死なないわしを見て誰もが口を閉ざす中、わしは拳銃の薬莢やっきょうをカラカラ落とし、一発の弾丸だけ残して、拳銃の弾倉をクルクル回転させて公爵に向ける。


「ヒッ……」

「にゃに怖がってるんにゃ。たった六分の一の確率で弾が出るだけにゃ」

「や、やめ……」

「はい、ひと~つにゃ!」


 わしが引き金を引くと弾丸は出ずに、ガチャンと金属音が鳴るだけ。それだけで、公爵はへなへなと崩れ落ちた。


「ほらにゃ? 余裕だったにゃ~。次、侯爵にゃ~!」

「まっ……」


 侯爵の待ったは言う前に引き金を引き、ガチャンと鳴ったらわしは笑う。


「にゃはは。五分の一も成功にゃ~」


 侯爵も尻餅をつくと、わしは二人の間に立って公爵の頭に銃口をくっ付けて引き金を引く。弾が出ないと次は侯爵にくっ付けて引き金を引き、また公爵に向けて引き金を引いた。


「おお~。二分の一も生き抜いたにゃ~。じゃあ、ラストは必ず出るけど、侯爵……頑張るんにゃよ~??」

「や、やめ……助けて! 助けてください!!」


 侯爵が涙を流しながら命乞いするので、わしは銃口を向けたまま言い聞かせる。


「二人とも怖かったにゃろ?」

「「はい……」」

「それが、奴隷の気持ちにゃ。いつ発射するかわからない銃口を突き付けられている恐怖が、奴隷の日常にゃ。そしてお前達は平気で引き金を引いたにゃ。だからわしも、同じように引き金を引けるにゃ」

「え……待って……ヒィィーーー!!」


 侯爵は助かったと思っていたのか、わしがガチャンと引き金を引いたら泡を吹いて倒れてしまった。


「にゃはは。間違って空の薬莢を入れてしまっていたにゃ。にゃははは」


 もちろんこれは嘘だ。弾丸を確かめて入れる時に、素早く空の弾丸に入れ換えたので弾は出なかっただけ。ちょっとは奴隷の気持ちが伝わればいいなと思ったわしのパフォーマンスだ。


 アメリヤ国民にどこまで伝わったかわからないが、わしの笑い声しか聞こえないので、どちらにしても恐怖心は残ったと思う。


 弾丸を頭で受けても死なないんだもん……

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