644 夕焼けにゃ~


「ジョージ君。こっちに来てくれにゃ~」

「はっ!」


 静まり返る浜辺でジョージ13世を呼んだら、背筋を正してわしの隣に立った。


「これから場の収拾をやってもらわなくちゃだにゃ。まずは、使えそうにゃ人材の確保にゃ」

「はあ……議員は全て犯罪者として扱うとして……」

「全員じゃないにゃろ? 喧嘩を売ったのは八割だったにゃ。残り二割はジョージ君の味方じゃにゃいの?」

「味方と言うほどじゃないですが……でも、あまり公爵達のやり方を認めてなかったですね」

「そいつらと、奴隷反対運動をしている人を使えば、奴隷だった人の当面の世話は出来るにゃろ」

「奴隷反対運動??」

「知らにゃいか~。イライアス・カール・なんちゃらって人がトップなんにゃけど……」


 度忘れしてしまって名前は中途半端になってしまったが、その人物は議員の一人だったので、ジョージはイライアスを使って人を集めさせる。


「次は軍部の掌握だにゃ。トップクラスだけわしの前に連れて来いにゃ。これぐらい、王の権限があれば出来るにゃろ?」

「はっ! すぐに!!」


 ジョージの口の前に音声拡張魔道具を持って行って声を出させたら、十人ほどの軍人が走って来たので、まだ残していた【玄武】の裏に連れて行ってからの契約魔法。

 本当は奴隷紋で縛ってやりたがったが、こんな大勢の集まる場面で悲鳴を出されると心証が悪いので、契約魔法で縛ったのだ。ネコゴンのせいでもう手遅れかも知れないが……


「これで、アメリヤ軍は掌握したと言っても過言じゃないにゃろ?」

「まぁ総督も居ますから、命令はある程度聞いてくれると思いますが……でも、本当に裏切ったりしないのですか?」

「信じてないにゃ~? それにゃら実演を見せてやるにゃ。一同、整列にゃ~」


 わしが立派な白髭の総督やその他に命令すると、小走りで横一列に整列した。


「三回まわってワンにゃ!」

「「「「「ワン! ……え??」」」」」

「え??」


 わしの命令に瞬時に動き出した総督達は、三回まわって「ワン!」と言ったら首を傾げ、ジョージも同時に首を傾げた。


「は~い。チンチンにゃ~。からのワンにゃ~」

「「「「「ハッハッハッ……ワン!」」」」」

「「「「「ええぇぇ~~~」」」」」

「返事はワンだけにゃ!」

「「「「「ワン!」」」」」


 何故か勝手に体が動き出す総督達は、自分でやっておいて一同ドン引き。恥ずかしい格好をさせられている事か、猫が犬を使役している事か、どちらに引いているかはわかりかねる。


「また犬なんか増やして~」

「こないだケンフが泣いてたニャー」


 リータとメイバイは確実にわしに引いていると思われる。でも、そんな事で初代犬のケンフは泣くの??



 気になる事はあるが、いちおう実演は上手くいったので、ジョージに感想を聞いてみる。


「どうにゃ? これが魔法の力にゃ~」

「魔法……あっ! この魔法を使える人を貸してくれるのですね!!」

「そうにゃ。議員や犯罪者を一時縛ってしまうにゃ。ジョージ君に権限を移譲してやるから、その後の処置は被害者から聞き取りして決めてくれにゃ」

「はっ! お任せください!!」

「そんじゃ、ま、総督を使って民衆を解散してやれにゃ~」

「はっ!」


 ジョージはわしの家臣みたいになって忙しく動く。犯罪者は総督率いるアメリヤ軍に拘束され、侯爵邸に一時軟禁。元奴隷の原住民は、イライアス率いる奴隷反対運動員に公爵邸にて介抱される。

 わしは少し休憩してからのお片付け。猫ファミリーは【玄武】やネコゴンに登ったり写真を撮ったりして遊んでいるが、わしはイサベレにあとをつけ回されながら【玄武】を吸収して歩いている。


「さっき王様と、なんの話をしていたの?」

「たいしたことじゃないにゃ」

「絶対ウソ」

「忙しいからあっち行けにゃ~」

「あっ! アレでしょアレ」


 イサベレはわしから情報を引き出そうとしているが、そんな下手くそな誘導尋問に引っ掛かるわけないじゃろ? だからって、拷問で聞こうとするなんて引くわ~。触るな!!


 イサベレはわしの大事な所を狙って来るので魔の手は尻尾でペチペチ叩き落とし、【玄武】は吸収して亀裂の入った地面も直したら、最後のネコゴンに取り掛かる。


『みんにゃ~。危ないから降りてくれにゃ~』

「「「「………!!」」」」

『そんにゃ所で叫んでも聞こえないにゃ~』


 どうやら皆はネコゴンを壊す事を反対しているっぽい。しかし、わしと違って音声拡張魔道具も使ってないので、その声は無視。ネコゴンを四つ足にしてから吸収魔法を使って、完全にこの世から消滅してやった。


「消さないでって言ったのに~」

「もったいないニャー」

「たのしかったのに……」

「私のネコゴンが……」


 リータ、メイバイ、コリス、ついでに自分の物にしていたオニヒメの苦情は聞いてやれない。


「だって聞こえなかったんにゃもん!」


 本当は聞こえていたけど、こんなデカイわしは邪魔だ。自由の女神像ならぬ自由の猫像として、原住民のシンボルにされたらたまったもんじゃないんじゃもん!


「「「「「ウソつき……」」」」」

「にゃ~~~!! ゴロゴロゴロゴロ~」


 当然ウソがばれて、皆にモフられまくるわしであったとさ。



 モフモフの刑を受けたわしはフラフラ。しかし急がないといけない事があったので、オニヒメに賄賂を渡してバスを走らせてもらう。ついでにコリスにも餌付け。わしの事をモグモグするんじゃもん。

 向かった先は教会。イサベレがバスから降りた瞬間、懺悔ざんげして来る神父やシスターがまとわりついて来てうっとうしい。


「ちょっ……ダーリンからも何か言ってあげて!」


 うっとうしく感じているのはイサベレだけ。わしは何故か怖がられているので、先々歩く……


「シラタマさん! イサベレさんが困ってるでしょ!!」

「いったいこの人達に何したニャー!!」


 いや、リータとメイバイに尻尾を掴まれて進めなかった。


「たいしたことはしてないにゃ~」


 なので、「悪事をイサベレに報告する」みたいな事を言っただけと説明したが、納得してくれない。


「ほら、イサベレはジャンヌとか呼ばれて神聖視されていたにゃろ? だから許しを求めて必死になってるんじゃないかにゃ~?」

「そんなことでこんなになります?」

「これが一神教の怖さにゃ。神を信じ過ぎるあまりに、周りが見えなくなっちゃうんにゃ。ビーダールでも似たようにゃ感じだったにゃろ?」

「あ~。巨象から逃げたくせに、戻って来た時には神様と呼んでたニャー」

「ま、邪魔にゃし、助けてやるにゃ~」


 わしがイサベレに近付くと、神父達がさっと道を開けて震えているのでわしは不思議に思う。


「ダーリン……この人達に何かしたでしょ?」

「いや、わしはにゃにも……」


 はて? なんでこんなにわしに怯えておるんじゃ? 教会でやったことなんて……あっ!


「あいつらの口を塞ぐの忘れてたにゃ……」

「「「何したの!?」」」


 どうやらわしが拷問した拷問官達が、神父達に喋っていたからこのように怯えていたようだ。わしの事を、罰を与える処刑官だと思って……


 いや、だって、あいつらがやっていてですね。同じ事を三周しただけでしてね。あ、はい。三周は多かったですね。でも、死んでないし……だからよけい怖いのですね。そうですね。


 イサベレにまとわりつく神父達は居なくなったが、わしの言い訳はリータ達の心にいまいち響かず。グチグチと「残酷な猫王」略して「酷ニャー」と呼ばれて進む。


 「酷ニャー」って……「冷酷な猫王」みたいに前の漢字を取るんじゃなかったの? 何か法則的な物はないのですか??


 わしの質問は笑顔ではぐらかされるだけ。いちおう質問は聞いてくれていたのでしつこく聞いていたが、土魔法で封印しておいた教会地下にある拷問部屋に着いたら、質問は一切受け付けてくれなくなった。


「「「「シラタマ様!!」」」」


 痩せ細った哀れな被害者達が駆け寄って来たからだ。


「「「おっきいモフモフが居る……」」」


 あと、オオカミ族の立って歩くモフモフにも、リータ、メイバイ、オニヒメが反応していたからだ。コリスはいつも通り。


「こにゃいだ通訳を頼んだ人を呼んでくれにゃ~」

「「「はっ!」」」


 適当に念話を繋いだ原住民は、部族の代表を連れて来てくれたので、その者を使って通訳をしてもらう。


「先日話をした通り、イサベレ様を連れて来てやったにゃ。この天女のようにゃ美女が、イサベレ様にゃ~」

「「「「「はは~。イサベレ様、有り難う御座いました~」」」」」


 原住民は、漏れ無く土下座。この全てはイサベレに対して感謝しているので、イサベレの顔が引きっている。


「ダーリンは私を使って何してるの!!」

「いや、使うもにゃにも……潜入中にゃったから、こう言ったほうが自然にゃし……」

「隔離するなら必要なかったでしょ!!」

「すいにゃせん」


 珍しく感情をあらわにするイサベレに押されてわしは土下座。しかしそのせいで原住民には、これだけ良くしてくれた猫なのにまだ足りなかったから怒られているのだと受け取られ、イサベレを絶対神だと勘違いして拝み倒していた。


 フフン。作戦成功じゃ。イサベレ教の信仰心をさらに暴上げしてやったわい。これで確実に、白猫教の信者は増えんじゃろう。


 わしはしめしめと原住民に拝まれるイサベレを見ていたが、リータとメイバイが冷たい目を向けていたので「ハッ」として顔を引き締める。とぼけた顔をしているからあまり変わらなかったけど……


「は~い。注目にゃ~」


 また通訳を使うと、原住民は一斉に耳を傾ける。


「あにゃた達はもう自由にゃ。こんにゃ日の当たらない場所からさっさと外に出て、自由の空気を吸おうにゃ~」


 わしの号令から原住民はわし達にゾロゾロ続き、教会の通路を神父達を横目に見ながら進み、ついに外へと解放される。


「太陽だ……」

「もう見れない物だと思って……ぐずっ……」

「「「「「ワオ~~~ン!!」」」」」


 西に落ち行く真っ赤な太陽を見た原住民は泣きながら抱き合って喜び、オオカミ族の遠吠えがいつまでも響き渡るのであった……

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