336 巨大生物にゃ~


「この! くそ! にゃ~~~!!」


 森から現れる黒い鳥の群れに戦闘機を襲われ、わしは必死に操縦をしている。

 前から迫る黒い鳥には、風の槍を乱発して進路を切り開く。しかし数が多い。すぐに新たな黒い鳥が進路を塞ぐので、機首を振って進行方向を変える。

 後ろからも黒い鳥は追って来るので、ジグザクに操縦するが、何発か風の刃を被弾する。これには黒魔鉱の外装が役に立ち、わしの魔力を流して防御力を高めているので、なんとか墜落の危機を乗り越えている。


 それでも黒い鳥は数が多いので、【風槍】だけでは数を減らせず、苦戦を強いられる。


「くっそ~。しつこいにゃ~」

「地上に降りる事は出来ないのですか?」

「それなら私達も手伝えるニャー!」

「う~ん……そうするかにゃ? 無茶な着地をするから、衝撃に備えてくれにゃ」


 リータとメイバイがコリスに包まれている姿を確認すると、わしは高度を下げて行き、木とスレスレの高さまで下降すれば、戦闘機の後部から【大光玉】を射出。先端からは、一発限りの切り札、【三日月】を発射する。

 すると、黒い鳥達は目をくらませて戦闘機を見失い、大きな風の刃によって木は薙ぎ倒され、前方に滑走路が作り出される。

 そのスポットに強引に着地すると、すぐさま上部ハッチを開けて脱出。木の影に逃げながら戦闘機も次元倉庫に入れてしまう。


「ふぅ。一段落にゃ~」

「隠れてないで、戦うニャー!」

「いや、一息つかせてくれにゃ~」

「今日は戦わせてくれるって言ってたじゃないですか~」

「わかったにゃ~……にゃ!?」


 戦わせろとうるさいリータとメイバイに急かされ、わしが探知魔法を使うと、鳥以外にも賑やかな反応が引っ掛かった。


「どうしたニャー?」

「それが、鳥は南に去って行ったんにゃけど……」

「え~! これからだったのに~」

「最後まで聞くにゃ。デカイのに囲まれているにゃ」

「と、言う事は……」

「一難去って、また一難にゃ。今日はここまでにして、帰らにゃい?」

「だから、まだ私達は戦っていないニャー!」

「そうですよ。シラタマさんばっかりズルイです」

「じゃあ、わしの事を守ってくれるにゃ?」

「「守る(ニャ)?」」

「ア、アイツらからにゃ~~~!」


 わしは木の茂みから出て来た生き物を、震える手で指差す。その生き物は、目を八つ、脚を八つ持つ生き物。一匹出て来ると、次々と湧き出て来た。


「「「キャーーー!!」」」


 人間より大きな、大量の黒い蜘蛛を見たリータ、メイバイ、コリスは悲鳴をあげる。


「いにゃ~~~~~~~!!」


 当然、虫嫌いなわしは誰よりも大きな声で叫び、コリスと抱き合う。


「モフモフ~。きもち悪いよ~」

「わしもにゃ~。でも、リータとメイバイが守ってくれると言ってたにゃ」

「ほんとう!?」


 わしとコリスが、リータとメイバイに目を向けると……


「うぅぅぅ。ダメニャー!」

「あ! メイバイさん。待って~!」


 わし達を置いて逃げやがった。


「コリス!」

「うん!」

「「いにゃ~~~!!」」


 もちろんわし達も叫びながら逃げ出すのであった。



 わしとコリスは、無駄に肉体強化をしたリータ達を追って走り、進行方向の脇から出て来た黒蜘蛛には【鎌鼬】を連発し、一気に黒蜘蛛のテリトリーを抜ける。

 そうしてリータ達に追い付くと、焦って叫ぶ。


「リータ! メイバイ! そっちはダメにゃ~~~!!」

「で、でも……」

「蜘蛛はダメニャー!」

「いいから止まれにゃ~!!」


 わしが焦りと怒りのまじった声を出すと、ようやく止まるが、時すでに遅し……これまた人間より大きな、黒光りするモノが大量に出て来た。


「ゴキブリにゃ~~~!!」

「「「いや~~~!!」」」

「にゃ! 待ってにゃ~~~~~~!!」


 皆はひと目見て反転。わしを置いてダッシュする。しかし、巨大ゴキブリは素早くガサガサと走り、わし達は追い付かれそうになる。


「コリス! メイバイを乗せるにゃ!! わしはリータにゃ~~~!!」

「うん!!」

「【肉体強化】にゃ!!」


 わしとコリスは二人を抱えると、コリスにも肉体強化魔法を掛けてダッシュで逃げる。そうすると、蜘蛛のテリトリーに入り、道を塞がれてしまった。


 ヤバイ! 前門の蜘蛛、後門のゴキブリじゃ。どっちも見たくない!!


「モフモフ! どうすんの!?」

「と、飛ぶにゃ! 【突風】にゃ~~~!!」


 わし達が空に逃げると、蜘蛛VSゴキブリの熾烈な縄張り争いが起きた……と、思われる。怖くて見ていないから、あとの事は知らないし、思い出したくもない!



 そうして、かなり高く上がったところで白くて巨大な鳥、白サギが噛み付いて来たので、ひょいっと避けて、背中に乗ってやった。しかし暴れるので、ネコパンチを頭に喰らわせて言う事を聞かせた。

 ようやく一息つける事となったので、全員で先ほどの恐怖体験を愚痴る。


「こ、怖かったです~」

「夢に見そうニャー」

「もういや~」

「わしも帰りたいにゃ~」

「「「「はぁ……」」」」


 わし達は白サギの上で、ため息を漏らす。


「ダンナ、ダンナ?」


 わし達が静かになると、白サギは念話で話し掛けて来た。


「なんじゃ?」

「重たくてですね。そろそろ疲れたな~?」

「うっさい! いまは忙しいんじゃ!!」

「す、すいません!」


 わしが白サギを一喝したら、リータ達が不思議そうな顔で質問して来る。


「あの……いまさらなんですが、白い鳥に乗っているのですよね?」

「そうにゃ」

「どうしてそんな所に乗ってるニャー?」

「成り行きにゃ~」

「て言うか、危険じゃないですか!」

「て言うか、私達の狙っていた獲物ニャー!」

「ちょっとぐらい休ませてくれにゃ~。それとも、あの地獄に戻りたいにゃ?」

「「うぅぅぅ」」


 リータ達は、蜘蛛やゴキブリに追い回された事を思い出し、顔を青くする。すると、白サギがまた話し掛けて来た。


「ダンナ、ダンナ?」

「なんじゃ!」

「この先は行きたくないな~?」

「知るか! 黙ってろ!!」

「へ、へい!」


 わしと白サギが話をしていると、リータとメイバイも内容が気になるようだ。


「鳥さんは、なんて言ってるんですか?」

「にゃんか、疲れたとか、この先に行きたくないとか言うから黙らせたにゃ」

「なんでこの先に行きたくないニャー?」

「さあにゃ~? 聞いてないからわからないにゃ」

「あんな事もありましたし、聞いたほうがいいんじゃないですか?」

「う~ん……わかったにゃ」


 わしが白サギに話し掛けようとしたその瞬間、白サギは体をひねって宙返りしやがった。そのせいで、わし達は空に投げ出されてしまう。


「「「キャーーー!」」」

「こら~! 何しやがる!!」

「へへん。乗せるのはここまでッス。では、また会いましょう。会えましたらね~」


 白サギは捨て台詞を吐くと、進行方向と逆に飛び去って行った。わしは追い掛けるか悩んだが、皆が散らばって落ちてしまったので、救出を優先する。皆に強風を送って地上にふわりと降り立つと、わしは地団太を踏む。


「あんにゃろ~!」

「シラタマさん! そんな事を言っていないで辺りを確認してください!!」

「そうニャー! 今日はもう虫は見たくないニャー!!」

「そ、そうだにゃ」


 わしはリータとメイバイの指示を受けて、探知魔法を使う。


 う~ん……特には反応が無い? 居てもおかしくない場所なんじゃが……セーフティエリアか? ぶっとい木の幹のような物はいっぱい倒れてるけど、それ以外は木しか無いな。


「近くには、にゃにも居ないにゃ」

「え……白い木ばかりですよ?」

「何かの縄張りじゃないニャー?」

「そうにゃんだけどにゃ~……狩りに出掛けているのかもしれないにゃ。にゃにか近付くまでは、休憩にしようにゃ。もう、お腹ペコペコにゃ~」

「あ……私もです」

「安心したら、お腹すいたニャー」

「わたしも~」


 全員の意見が一致したので、テーブルセットを出してお昼にする。匂いのキツい物だと獣が嗅ぎ付けるかもしれないので、エミリに作ってもらったおにぎりを皆で頬張る事にした。


「わ! おいしい!!」

「そんなにかニャ?」

「にゃはは。リータには巨象の味噌炒めが当たったみたいだにゃ」

「え……私も食べたいニャー!!」

「どれだったかにゃ? たしかこの列だったはずにゃ」

「わたしも~!!」

「にゃ!? みんにゃして取るにゃ~。わしの分が無くなるにゃ~」


 リータとメイバイはふたつずつ、コリスはみっつ取り、わしはひとつしか食べれなかった……


「みんにゃして食いしん坊だにゃ~」

「シラタマさんに言われたくないです」

「シラタマ殿の、その手はなんニャ?」


 どうやら、おにぎりを両手に持っているわしを指摘しているようだ。


「これは……取られないためにゃ!」

「パクッ!」

「コリス! 言ってるそばから食べるにゃ~」

「「あはははは」」


 皆は笑っているけど、わしは手まで食べられておるんじゃ。そろそろわしの手をモグモグするのはやめてくれんかのう? やめね~よ。


 わしはコリスの口から手を引っこ抜いて、水の玉を出して手を洗う。このままでは、おにぎりを全てコリス一人に食べられそうなので、肉の串焼きを山積みにして、落ち着いて食べる。


「それにしても、黒い生き物ばかりでしたね」

「それに、みんな大きかったニャー」

「黒い森の奥に入ったからにゃ~。東に行けば行くほど、生態系が変わっているのかもしれないにゃ」

「これなら白い獣もいっぱい居るんじゃないでしょうか?」

「白い鳥も居たし、歩いていたら、すぐに見つかりそうニャー」

「ここを歩くにゃ~? 虫にあいたくないにゃ~」

「「あ……」」


 わしとリータとメイバイは、地獄を思い出し、食べる手が止まる。


「その話は、忘れましょう」

「そうだにゃ。でも、東の果てまでは行ってみたいんだけどにゃ~」

「そこに何があるニャー?」

「トウキンから聞いたんにゃけど、海があって、海を渡ると島があるんにゃって。そこに、時の賢者が向かったらしいから、人が居るかも知れないにゃ」

「本当ですか!?」

「大発見ニャー!」

「国が落ち着いたら冒険をしたいんだけどにゃ~。まだまだ先になりそうにゃ」

「私も行きます!」

「連れて行ってにゃ~」

「にゃはは。当然、一緒に行くにゃ。新婚旅行にゃ~」

「いいですね!」

「楽しそうニャー!」


 食事をとりながらお喋りしていると、おにぎりの入った弁当箱が空になったので、そろそろ次にする。


「デザートは、にゃにがいいかにゃ?」


 もちろん、まだ食べる。


「ほら~。やっぱり食いしん坊です~」

「シラタマ殿だからニャー」

「つめたいの!!」

「そんにゃこと言うにゃら、二人には無しにゃ。コリス~。シャーベット、一緒に食べようにゃ~」

「うん!」

「冗談です!」

「私にも食べさせてニャー」

「どうしよっかにゃ~?」


 わしがコリスにシャーベットをあげると、リータとメイバイも焦って欲しがる。なので、意地悪な事を言いながら焦らし、両手に持って立ち上がる。


「待ってニャー」

「にゃはは。さっき置いて逃げた罰にゃ~」

「待ってくださ~い」


 二人は追いかけるので、わざとらしく逃げるが、二人はすぐに追いかける事をやめて止まってしまった。そして、口をあわあわしながら、わしの後方に指を向ける。


「にゃ~~~?」


 その行為に不思議に思い、わしは振り返る。


「ウ……ウワバミにゃ~!」


 そこには、二階建ての家より大きな顔の白ヘビが居て、舌をチロチロと出していたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る