337 白い生き物と出会うにゃ~


 わし達が白い木の群生地で休憩していると、まるで家のような大きさの顔を持つ白いヘビが、舌をチロチロと出していた。

 わしはシャーベットを両手に持ったまま、リータ達と共に後退あとずさる。


 ヤバイ……アイツ、わしよりちょっと強い。本気を出せばなんとかなりそうじゃが、リータ達が戦いに巻き込まれるのは必至じゃ。

 しかし、この距離まで気配に気付かんとは、なんたる不覚。気配を完全に消してやがったな。いや、デカイ木の幹は確認しておったんじゃ。それを生物と認識しなかったわしが悪い。

 ハッキリとはわからんが、顔のデカさから言って100メートル以上は確実にあるじゃろう。下手したらキロ……尻尾が多数あるから長く感じるだけもしれんか。

さて、どうやって逃げよう……


 わしが緊張しながらジリジリと後退こうたいしていると、白ヘビは念話で話し掛けて来る。


「美味しそうね」


 皆、その声が聞こえたのか、一瞬で恐怖に呑み込まれる。


「みんにゃ! 絶対にわしがなんとかするけど、自分の身は自分で守ってくれにゃ」

「は、はい……皆さん。私の後ろに来てください」


 わしの指示に、リータは盾を前に構え、メイバイとコリスを後ろに集める。そうしていると、白ヘビは舌をチロチロとしながら声を出す。


「食べさせてくれない?」

「わしをか? 仲間をか? 誰も食わせるか!!」


 わしがすごんで念話で応えると、白ヘビは小首を傾げる。


「その前脚に持っている物よ」

「え?」

「甘そうな匂いがするわ。美味しそ~う」

「えっと……」


 こいつは、シャーベットが食べたいのか? いや、ヘビはずる賢い性格なはずじゃ。隙を見せれば、バクッとやられそうじゃ。

 じゃが、この状態で戦闘になるのは避けたい。とりあえず、交渉してみよう。


「これをあげたら、わし達を食わないでくれるか?」

「オッケ~! あ~ん」


 軽い……けど、大口開けるから、食べられそうで怖い! ひとまず一個を投げ込んでみよう。


 わしは皿に乗ったシャーベットだけを風魔法に乗せて、白ヘビの口の中に放り込む。


「ん! なにこれ! 冷たくて甘い!! お~いし~~~い」


 うまいのはわかったが、あまり動かないで欲しい。風圧で吹っ飛びそうじゃ。


「でも、少ないわね……」


 でしょうね。人間で言ったら、小指の爪ぐらいの物を食べたのと変わらんじゃろう。


「ほれ。気に入ったなら、舌先でちょっとずつ舐めたらどうじゃ?」

「あ、それいいわね。長く楽しめそう」

「長く舐めすぎたら、溶けてしまうから気を付けるのじゃぞ」

「は~い」


 わしがシャーベットの皿を地面に置くと、白ヘビはチロチロとシャーベットを舐める。だが、すぐに無くなって、悲しそうな顔でわしを見るので、手持ちのシャーベットを全て献上する。


「うわ~。いろんな甘さがある~。幸せ~~~!」


 わしの出したオレンジやいちご、ブドウやチョコシャーベットを食べた白ヘビは、幸せそうにチロチロとしているので、この隙にわしはリータ達の元へ行ってマーキング。いつでも逃げられる体勢をとる。



「なんだか幸せそうですね」

「シユウみたいニャー」

「モフモフ~。わたしも食べたいよ~」

「帰ったら、エミリに作ってもらおうにゃ」


 白ヘビの行動を見ていたリータとメイバイは感想を述べるが、コリスは不満を言いやがるのでなだめるしか出来ない。


「それにしても、私達を襲わないのでしょうか?」

「いちおうは、襲わないって事になってるけど、本心はわからないにゃ」

「すっごく強そうニャ……」

「間違っても、こっちから手を出すにゃよ? アイツ、わしより強いからにゃ」

「わかってるニャー! でもシラタマ殿より強いんニャ……」

「まぁ逃げるだけなら問題ないにゃ」

「逃げるって……シラタマさんは戦いたくないのですか?」

「わしは脳筋じゃないからにゃ。二人と一緒にしないでくれにゃ~」

「「誰が脳筋なの!!」」

「にゃ!? ごめんにゃ~。いまは、そんにゃ事している場合じゃないにゃ~」


 わしの失言で二人はポケットから針を取り出すので、控えるように言うと、「覚えていろ」と脅されて恐怖する。

 そうこう遊んでいたら、白ヘビはシャーベットを食べ終えておかわりを要求するので、もう無いと念話で言ったらへこんだ。


「そんな~~~」

「……違う甘い物なら少しはあるけど……食うか?」

「やった~~~!」

「ほい!」


 わしはドーナツをわし掴みにして、ポイポイと投げる。雑に投げてみたのだが、白ヘビは舌を伸ばし、落とす事なく器用に食べている。

 コリスも物欲しそうにわしを見るので、ポイポイ投げて食べさせてあげた。


「ラスト!」


 最後の二個は、同時に投げて、二匹の腹の中に収まる事となった。


「もう無いぞ~」

「食べたりないけど……まぁいいわ。ありがとう」

「それで、本当にわし達を襲わないのか?」

「縄張りに入ったのはムカついたけど、お供え物もくれたから、もういいわよ」

「お供え物??」

「そっちの後ろの子って、人間でしょ? 人間はお供え物をくれるから、すぐには襲ったりしないわ」

「人間じゃと……知っておるのか!?」

「ええ。その昔は……」


 白ヘビが言うには、遠い昔、人間の暮らす地が近くにあったそうだ。その人間が白ヘビの巣に、果物や食べ物、お菓子を置いて行き、白ヘビは美味しくいただいていたとのこと。

 だが、いつしか人間は居なくなり、お供え物が貰えなくなった白ヘビは、甘い食べ物に飢えていたようだ。

 ちなみに、その時の白ヘビのサイズは、人に巻き付けるぐらいのサイズだったらしい。



 つまり、スサノオの浄化装置が発動しても、人間がしばらく生き残っていたと言うわけか。それで、神様のように白ヘビをまつっていたってところかな?

 いや、あまり接触は無さそうな言い方じゃったし、他に何かを祀っていたのかもしれないな。

 しかし、ここに居た人間はどこに行ったんじゃろう? 可能性として、森に押し潰されて全滅したか、他の地に旅立ったか……もしかしたら、生き残りの子孫は、猫の国で暮らしているかもな。


「その人間の住んでいた場所はわかるか?」

「さあね~。昔の事だから、日が昇る方向ってまでしか覚えていないわ」

「そっか。じゃあ、長居したし、そろそろわし達は行くな」

「え……今度、いつ来てくれる?」

「いや、もう来ないかな?」

「え~~~! お供え物を持って来てよ~」

「暴れるな! お前の縄張りがエライ事になっておるぞ!」

「あ……」


 白ヘビは、巨大で長い体で暴れるものだから、何本も白い木がへし折れてしまった。


「うぅぅ。私の巣が~~~~」

「わかった。わかったから泣くな」

「来てくれるの!?」

「その代わり、折れた木を貰って行くな」

「そんなの、いくらでも持って行っていいわよ」

「それと、その巨体が満足できるような量は、用意できないからな?」

「う~ん……さっきの量はくれる?」

「出来るだけ用意するけど、少なくても怒るなよ?」

「うぅぅ。わかった」


 こうして白ヘビと交渉が終わったわしは、白い木を次元倉庫に入れて、リータ達と共に東に移動するのであった。



「本当に何もして来なかったニャー」

「でも、あんな約束をしてよかったのですか?」


 白ヘビの縄張りを抜けると、メイバイとリータは走りながら、わしに質問する。


「白い木を売れば、なんとか砂糖代は作れるにゃろ。バハードゥが何本か売って、良い値がついたって言ってたにゃ」

「ふ~ん。でも、また戦えなかったニャー」

「たしかににゃ~。あんなに驚いたのに、稼ぎが白い木だけじゃ、割りに合わないにゃ~」

「ですね。何か出て来てくれたらいいですね」

「にゃにかじゃなくて、虫以外にして欲しいにゃ~」

「「「あ……」」」


 皆は虫が出ない事を祈りながらもぺちゃくちゃ喋り、東に向けて走る。これで、何も収穫がなくとも、訓練したって事にしよう。



 そうして走っていると、わし達と同じ頭数の生き物の反応があり、わしはガッツポーズをする。


「祈りが通じたにゃ!」

「何か見付けたのですか?」

「獣にゃ! 狼みたいにゃ奴だから、虫じゃないにゃ!!」

「虫じゃなくても、シラタマ殿は話し掛けられたら、殺す事を躊躇ためらうからニャー」

「にゃ……だってにゃ~」

「まぁそこがシラタマさんのいいところです」

「リータ~」

「リータだけズルいニャー!」

「わたしも~!」


 わしがリータの言葉に嬉しくなって抱きつくと、メイバイが奪い取ろうとする。コリスまで参加するので、わしはリータから飛び降りて距離を取る。


「なんで逃げるニャー!」

「モフモフ~?」

「二人で引っ張り合われたら、わしが裂けそうにゃ~」

「そ、そんな事しないニャー!」

「口ごもったにゃ~。コリスがマネをするからやめてにゃ~」

「しないって言ってるニャー!」

「にゃ!?」


 わしが後ろ向きに歩いていると、メイバイが飛び掛かって来たので避けようとしたら、何かに足を取られて倒れてしまった。


「あはは。シラタマ殿がこけたニャー」

「にゃんで笑うにゃ~」

「「「あはははは」」」


 まったく……みんなして笑わなくてもよかろうに。こけて恥ずかしいんじゃから、やめとくれ。よっこいしょ……ん?


 わしが立ち上がろうとすると、手に硬い物が当たり、しゃがんでそこを注視する。するとリータとメイバイも、しゃがみ込んで質問して来る。


「どうしたのですか?」

「う~ん……にゃんかこの石、真っ直ぐじゃにゃい?」

「たしかに……」

「向こうまで続いていそうニャー」

「行ってみようにゃ」


 わし達は石に沿って歩いていたら、直角に作られた石を発見した。


「基礎っぽいにゃ」

「基礎ニャー?」

「家を建てる時の土台にゃ。この長さにゃら、壁だったのかもにゃ」

「と言う事は、白ヘビさんが言っていた、人間の暮らしていた場所でしょうか?」

「かもにゃ~。でも、これだけじゃよくわからないにゃ。もうちょっと調べて見るかにゃ?」

「それより、獣はどうなったニャー!」

「にゃ……わかったにゃ。先に会いに行ってみようにゃ」


 わしを先頭にしばらく歩き、木を抜けた開けた場所に、獣を発見した。わしは皆に身を隠すように言って様子を見る。



 でかいホワイトタイガーじゃな。5メートル前後が三匹と、10メートル以上が一匹。小さい二匹が角付きで、それより大きい一匹は尻尾二本。でかいのが尻尾三本か。

 強さで言ったら、キョリス並みが一匹、クイーン並みが一匹、キング並みが二匹か。さて、どうしたものか……

 わしとコリスが、尻尾が多い奴を受け持つとして、リータとメイバイは、タイマンじゃと厳しいな。やめておくか?


 でも、アイツらの寝そべっている場所が気になる。アレは石畳か? 周りにも石が崩れた感じで散らばっておるな。ひょっとしたら、立派な建物が建っていたのかもしれん。

 あそこを調べてみたいし、ひとまずみんなの意見を聞いてからにしてみるか。


「一匹、キョリス並みがいるにゃ。みんにゃはどうしたいにゃ?」

「キョリス並みですか……私とメイバイさんが相手をするなら、どれですか?」

「角付きを任せたいけど、それでもリータ達より強いにゃ」

「そうですか……でしたら、シラタマさんが仕留めるまで時間稼ぎをするのは、どうでしょうか? シラタマさんは手が空きしだい、手伝ってください」

「うんニャ。それぐらいなら、私達でも出来そうニャー!」


 リータが考えを述べると、メイバイは力強く賛成する。


「……わかったにゃ。コリスは尻尾二本を相手してくれにゃ」

「わかった~」

「よし! まずはわし一人で行って、戦闘になるようにゃら分断するから配置に就いてくれにゃ~」

(((にゃ~~~!)))


 わしの言葉に皆は小さく返事するけど、うなずくだけでもいいんじゃぞ?


 心の中でツッコミを入れると、リータ達に移動する方向だけ指示を出し、わしは木の陰から出て、真っ直ぐホワイトタイガーの元へと向かう。ホワイトタイガーはわしを見た瞬間、「ぐるるぅぅ」とうなる。


 わしは臨戦態勢を取るホワイトタイガーに、念話を繋げると気さくに声を掛ける。


「こんちわ~。いい天気でんな~」


 すると、一番大きなホワイトタイガーが返事をしてくれた。


「エサだ! お前達、逃がすな!!」

「「「ぐるるるぅぅ」」」


 ええぇぇ~! 聞く耳持たずですか……



 関西風の挨拶をしてみたが、まったく話を聞いてくれないホワイトタイガーに、囲まれてしまうわしであった。

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