143 コーヒー豆の納品にゃ~


 腐女子フレヤは、わしの空想の説明では納得しなかったらしく、標的をガウリカに移し、ハリシャとの関係を根掘り葉掘り聞いていた。

 二人の間に、これといってやましい関係は無いのだが、喋っていたフレヤはどんどん妄想が膨らみ、このまま喋らすと日が暮れそうに思えたので、涙目のガウリカを救出して逃げ出した。


 少し時間を取られてしまったが、次の目的地に向かう。きっと、わしが口を滑らせたせいではないはずだ。


「猫~~~!!」


 ガウリカが怒っているように見えるが、命の恩人をにらむとは不届き千万じゃ。無視をしよう。



 怒るガウリカを無視して商議ギルドに入ると、話が通っていたのか、わし達は別室に案内される。そこで丁重にもてなされ、出された紅茶をすすっていると、エンマがやって来た。


「お待たせしました。このティアラが、女王陛下への贈り物ですか……」


 わしがテーブルの上に出したティアラを見たエンマは、やや、ガッカリした顔へと変わった。


「どうしたにゃ?」

「いえ。良い品だと思いますが、シラタマさんが行ったのであれば、もっと変わった物を持ち帰ると思っていました」

「そんにゃ期待をされても困るにゃ~」

「そうですね」

「でも、正しいにゃ」

「え?」

「リータ。見せてあげるにゃ」


 わしはリータを指名したが断られ、メイバイに頼んでも断られたので、ガウリカにティアラを付けさせた。


「なんであたしが……」

「仕入れ担当にゃ。ブツブツ言ってないでやるにゃ~」

「はぁ。わかったよ。ん……」

「これは……」


 ガウリカが魔力を流すと、ティアラから光のベールが現れる。その光景に、エンマは一瞬に目を奪われ、言葉を失った。


「綺麗にゃろ? 魔道具の一種みたいにゃ。触ってみればわかるけど、装着者を守る機能が付いているみたいにゃ」

「本当に硬い……どうなっているのですか?」


 エンマはペタペタとベールに触れてから、わしを見る。


「使われている魔法はわからにゃいけど、宝石に魔法が込められているみたいにゃ」

「宝石に?? そんな物、聞いた事がありません……」

「エンマでも知らなかったにゃ。これで、共同依頼は達成でいいかにゃ?」

「はい。最高の逸品です。ありがとうございます。ところで、リータさんやメイバイさんの付けているアクセサリーは、もしかして……」


 エンマは、リータの腕輪とメイバイの指輪を交互に見ているので、その問いに答えてあげる。


「さすが、エンマ。お目が高いにゃ~。こっちはわしの魔法を込めたアクセサリーにゃ。宝石が安く手に入ったから、プレゼントしたにゃ」

「それを売ってもらう事は出来ないでしょうか?」

「これは二人に贈った物だからダメにゃ。宝石にゃら何個か売れるから、それを研究してみるといいにゃ」

「ありがとうございます! やはりシラタマさんに頼んで正解でした。こんなに変わった物を集めて来るとは、御見逸れしました」


 変わったって……良い物を用意しただけなのに。


「ガウリカの協力の賜物にゃ」

「ガウリカさんも、ありがとうございました」

「いや、私は……」

「ガウリカの紹介してくれた店で見つけたんにゃから、ガウリカの手柄にゃ」

「そうか……お褒めの言葉、素直に受け取るよ」


 エンマからの指定依頼も終わり、報酬の話に移ると、折半する事となった。

 だが、ガウリカは移動の手間賃で、わしに気を使おうとしたので、そんな金は受け取れないとね付け、これからのわしとの付き合いの資金に充ててもらう。わしとしても、コーヒー豆を融通してもらえるメリットがあるからだ。

 宝石の値段は新発見なので値段が付けれないらしく、一時保留。研究の成果を見て決めるか、オークションで売るかで価格を決める事となった。ここは、エンマを信用して預ける事にした。





「これから城に行くけど、きっと捕まって時間が掛かるにゃ。リータとメイバイはどうするにゃ?」

「私達も……メイバイさん。帰って休みましょうか?」

「え? ……そうだニャ! ちょっと疲れたニャー」


 商議ギルドから出て予定を聞くと、リータとメイバイは帰って行った。するとガウリカは、不思議そうにわしの顔を見る。


「あんなに猫にべったりだったのに、どうしたんだ?」

「二人にも、やりたい事があるんにゃろ。さあ、行くにゃ~」


 城に着くと門兵に挨拶をし、用件を伝える。女王に会いたい旨を伝えたが、領分を超えているからわからないとの事で、さっちゃんに頼もうと思ったが出掛けているらしく、仕方がないので双子王女に頼む事にした。

 ガウリカはかなり緊張しているが、二度目だから大丈夫だろうと高をくくる。幸い、双子王女は庭でお茶をしていたので、そこに交ざる事にする。


「お邪魔するにゃ~」

「シラタマちゃん。おかえりなさい」

「本当に一週間で帰って来ましたのね」

「もう少し早く帰って来れるかと思ってたにゃ」

「これでも十分早いですわよ」

「ホントに信じられない猫ちゃんですわ」

「まあまあ。さっちゃんが居ないみたいだから、二人には女王の取り次ぎをしてもらいたいにゃ。お願いするにゃ~」

「それぐらい、かまいませんわよ。少々お待ちになって」


 双子の片割れがメイドに声を掛けている間に、わしは次元倉庫からお茶請けにドーナツを取り出す。


「丸くて変わったお菓子ですね」

「口に合うといいにゃ」


 わしが勧めると、双子王女はフォークとナイフを使って器用に食べる。


「ん。美味しいですわ。これはビーダールのお菓子ですの?」

「そうにゃ。でも、すっごく甘かったにゃ」

「そう? それほど甘くないですわよ」

「正規品は甘かったから、製造途中の物を買って来たにゃ。本当はこれを、シロップで漬けるにゃ」

「考えただけで甘そうですわ」

「国民の皆さんは、よく、そのような物を食べますあね」

「国が変われば食べ物の好みは変わるにゃ。ビーダールはすっごく暑かったにゃ。たぶん、甘いお菓子を体が欲しているにゃ」

「そうですの?」

「シラタマちゃんは、変わった事に詳しいわね」


 そうして双子王女と旅の話をお土産に喋っていると、会いたかった女王が足早に現れた。


「シラタマ! 早かったわね」

「ただいまにゃ~。そんにゃに急いで来なくても、わしから会いに行ったにゃ~」

「いいのよ。お昼休憩にしようとしてたところだったから。あなたも食べて行くでしょ?」

「いいにゃ? ご馳走になるにゃ~」

「そっちの……」

「……食堂にでも、案内してやってくれにゃ」


 双子王女のお茶会に同席していたガウリカは、口から魂が出そうなのを押さえていたが、女王登場で、ついに魂を吐き出してしまった。仕方がないので魂を口に放り込んで、メイドさんに連れて行ってもらった。ホンマホンマ。



「あんな事になるなら、連れて来なくていいのに」

「仕入れ担当だから、連れて来ないわけにはいかないにゃ」

「それなら、料理長の所に行けばいいのよ。話は通っているんだから」

「にゃ! そっか」

「わざとやってない?」

「そんにゃ事ないにゃ~」


 わしの言い訳は女王に届かず、呆れてため息を吐く。


「はぁ……それで買い付けは上手くいったの?」

「バッチリにゃ! あ、そうそう。これを渡してくれって頼まれていたにゃ」


 わしは次元倉庫から、バハードゥ王から受け取った手紙を渡す。


「手紙? この刻印は、ビーダールの……」

「王様に頼まれたにゃ」

「王様って、なんで会ってるのよ?」

「成り行きにゃ」

「成り行きって……また変な事に首を突っ込んだんじゃないの?」

「まあまあ。読んでみるにゃ~」

「……わかったわ」


 わしは女王が手紙を読む間、双子に撫でられながらも、運ばれて来た料理に手を伸ばし、舌鼓を打つ。若干食べづらいから、双子王女は自分の料理に集中して欲しい。


 エミリの料理もいいが、手の込んだ料理長の料理は格別じゃのう。毎日食べていた時より美味しく感じるな。たまに食べるのがベストなのかもしれない。

 それにしても、女王はなんで頭を抱えておるんじゃろう? バハードゥは何か変な事でも書いて出したのか? まぁわしに関係無い事じゃ。


「シラタマ……」


 わしが料理をパクパク食べていると、女王が重たい口を開いた。


「どうしたにゃ?」

「なんで国王が代わっているのよ!」

「代わったから……にゃ?」


 いきなり怒鳴るものだから、わしは不思議に思いながらも説明するが、女王はまくし立てるように喋る。


「夫が我が国に攻撃しないように確約を取って来たのに、台無しじゃない! いい? あの国は一番きな臭いのよ。金に意地汚い国王が統治する国なんて、何するかわからないのよ!」

「前の王はやりそうだけど、バハードゥはそんにゃ事しないんじゃないかにゃ?」

「呼び捨てって……他国の王に失礼な事をしていないでしょうね?」

「わしの悪口でも書かれていたにゃ?」


 わしが質問を続けると、女王は冷静さを取り戻す。


「いいえ。前王が不祥事を起こして王が代わったこと、これからも友好的にして欲しいこと、麦の輸出をして欲しいことよ」

「それのにゃにが問題にゃ?」

「王の人となりがわからないからよ。何も情報が無いのが怖いわ」


 ふ~ん。情報があれば、女王の機嫌が直るって事かな? 面倒じゃけど、ちょっとぐらい補足しておくか。


「バハードゥはいい奴にゃ。民衆も慕っているから、心配しなくていいにゃ」

「なんでそんなに詳しいのよ!」

「一緒にメシを食った仲だからかにゃ?」

「もう! 一から説明してちょうだい! じゃないと、デザートは出しません!」

「え~~~!」

「え~! じゃない!」

「わかったにゃ……」


 わしはバハードゥが王になった経緯を、巨象の進撃をボカして伝える。


「白象教から賄賂わいろ? 白象が怒って国を滅ぼそうとした? それで国王が逃げた?」

「バハードゥは残って、民の避難誘導に努めたにゃ。その後、戻って来た国王を裁いて、バハードゥが王になったにゃ」

「こんな短期間で、そんな事が……」


 女王は信じられないって顔じゃな。それよりも、早くデザートが食べたいんじゃけど……


「にゃんども言うけど、バハードゥはいい奴にゃ。白象とも和解して、今頃、民の為に働いているにゃ」

「あ! この協力者って、シラタマのこと?」

「にゃんて書いてあるかわからないけど、そうじゃにゃいかにゃ?」

「前王の不祥事を見付けるのに、私の国の者が協力してくれて、感謝していると書いているわ。国王の代替わりにシラタマが関わっているのは、よ~くわかったわ」

「話したんにゃから、そろそろデザートを……」

「私が撫でてからね!」

「そんにゃ~」


 その後、女王は本当に撫で終わるまでデザートをくれなかった。そのくせに、ビーダールの話をずっと聞いて来て、情報を引き出そうとしてくる。

 わしの情報のおかげか、バハードゥは信用するに足る人物となり、小麦の輸出は前向きに考えるようだ。東の国も不作なのに大丈夫かと聞くと、どうやら最近、食糧問題に少し余裕が出来たらしい。

 なかなかデザートをくれなかったが、お代わりをくれたので、わしは許す事にした。



 デザートを食べたので用は無くなり、女王達の引き止める声をあとにして、ガウリカと合流し、納品をする為に料理長に会いに行く。料理長が居るであろう王族専用キッチンに入ると、女の子がパタパタと寄って来た。


「あ、ねこさん!」

「エミリ。こんにゃところでどうしたにゃ?」

「チョコの試作に来ました。在庫が少なかったので、思う様に出来なかったんです。早く出してください!」

「ああ。わかったにゃ」


 わしは次元倉庫から、発注にあったコーヒー豆の袋を並べる。するとエミリは、嬉しそうに袋から豆を取り出し、作業に取り掛かる。その様子を見ながら、わしは料理長の隣に立つ。


「料理長。エミリはどうにゃ?」

「毎日来て、いろいろとアイデアを出してもらって助かっています」

「そうにゃんだ……」

「どうかしましたか?」

「孤児院の手伝い、わしの家の手伝い、それに城での試作……エミリは少し、頑張り過ぎている気がするにゃ」

「そんなに働いていたのですか」

「倒れないように、注意して見ていて欲しいにゃ。もしもの時は、わしを悪者にしていいから、強く言って欲しいにゃ」

「わかりました。無理をさせないようにします。私に任せてください」

「ありがとうにゃ」


 わしの懸念を料理長に伝え終わると、ガウリカを交えて商談の話に移る。どうやらこれからの仕入れと振り込みは、商業ギルドを通し、納品は料理長になるらしい。

 これから女王に会わなくて済むと知ったガウリカは、胸を撫で下ろしていた。心の中で、つっかえる場所は無く、ストンと落ちたなと思っていたら、頭を両拳でグリグリされるわしであった。


 なんでバレたんじゃ?

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