144 さっちゃん達にお土産にゃ~


 コーヒー豆の納品を済ましたわしとガウリカは、城をあとにする。ガウリカは、また商業ギルドに顔を出すと言うので、別れて帰宅する。

 王都をブラブラと歩き、道行く人に軽く挨拶しながら帰り、引き戸を開けると……


「遅い~~~!」


 いきなり、さっちゃんに怒られた。


「ただいまにゃ~」

「おかえり~……じゃない! ずっと待ってたんだよ!!」


 なるほど。城に居なかった理由は、わしの家に来ていたからか。


「そう言われても、仕事で忙しかったにゃ~」

「帰って来たなら、わたしにすぐに会いに来る!」

「さっき城に行ったけど、居なかったさっちゃんが悪いにゃ!」

「だって~。早くシラタマちゃんに会いたかったんだも~ん。え~ん」

「強く言い過ぎたにゃ。ごめんにゃ。泣かないでくれにゃ~」


 わしは泣かしてしまったと、さっちゃんに謝りながら顔を覗いたら、にやりと笑いやがった。


「にゃ! うそ泣きにゃ!!」

「あ、バレた」

「にゃったく、さっちゃんは……」

「冗談よ! だから許して~」


 わしが呆れた顔をすると、さっちゃんは抱きついて頬ずりして来る。


「うん。許すにゃ。許すから離れてくれにゃ~」

「え~~~!」

「じゃあ、これでいいかにゃ?」

「わ!」


 わしはさっちゃんをお姫様抱っこして、家に上がる。これでも、わしの顔にスリスリする事をやめないさっちゃんをそのまま連れて、居間に移動する。


「シラタマ様。おかえりなさい」

「おかえりなさい」

「待ったよ~」


 居間に入るとさっちゃんの愉快な仲間、ソフィ、ドロテ、アイノに迎えられた。


「みんにゃ。ただいまにゃ~」

「猫ちゃんに抱かれるなんて、王女様だけズルい~」

「えっと、これは……役得?」

「私も抱いて~。モフらせて~!」

「アイノは相変わらずだにゃ~」

「本当に」

「うるさいですよ」

「なんでよ~」

「「「「アハハハハ」」」」


 皆の笑いの起こる中、さっちゃんを下ろし、その隣にわしは座る。


「それにしても、わしが帰って来たのが、よくわかったにゃ」

「そりゃシラタマちゃんは目立つもん。どこにいたって、耳に入って来るわよ」


 わしが目立つ? そんなわけは……ある。猫じゃもん。昨日、王都に帰って来たら、久し振りに騒ぎになっていたもんな。


「あ、そうにゃ。みんにゃ、お昼はどうしたにゃ?」

「それは……」

「私とリータさん達で作りました」

「ドロテとにゃ? リータ達が戻っていたにゃら、城にいるって聞いたにゃろ? そんにゃ事なら、城に帰ればよかったにゃ~」

「行き違いになるかも知れないので、待たせてもらいました」


 わしがドロテと話をしていると、ソフィも会話に入るが、さっちゃんは話を変える。


「みんなの料理、美味しかったよ」

「サンドリーヌ様……ありがとうございます」


 いやいや、城に帰ろうよ。王女様なら庶民の作る料理より、城の料理を食べるべきじゃろ? ドロテも、もう少し迷惑そうにしたらいいのに……リータ達も迷惑だったじゃろう……あ!


「リータとメイバイはどうしたにゃ?」

「少し休むって、上に行ったわ。悪い事しちゃったかな?」


 さっちゃんは、いまさらな事を言っておるな。その気持ちは、もっと前に持って欲しかったもんじゃ。まぁ済んでしまった事は仕方がない。


「馴れにゃい土地で、疲れたのかもしれないにゃ。あまり騒がないようにしようにゃ」

「うん。でも、旅の話、聞かせて~」

「わかったにゃ。でも、女王のプレゼントの話も入るから、その下りはまだ秘密にゃ」

「え~! お母様には言わないから教えてよ~」

「初めて見た方が面白いからダメにゃ~」



 わしは旅の出来事を話す。楽しい話、面白い話、旅で出会った人の話、白象に出会った話。さっちゃん達も、興味津々で聞き入っていた。


「はぁ。たった数日で、いろいろな事を体験してきたのですね」

「白象なんて実在したのですね」

「国王の代替わりに同席しているなんて驚きだわ!」


 わしの話が途切れると、ソフィ、ドロテ、アイノと感想を漏らし、さっちゃんは目を爛々らんらんとさせながらわしを見ている。


「それでそれで~。もっと面白い話、ないの~?」

「う~ん……あとは、海を見たぐらいかにゃ?」

「「「「海!!?」」」」


 あ……失言じゃった。さっちゃんだけでなく、全員の目がキラキラしておる。このあと出てくる言葉は容易に想像できてしまう。


「「「「連れて行って!(ください!)」」」」


 ほら。正解じゃ。


「あの伝説の海を見れるなんて嬉しいです!」

「水が塩辛いって本当ですか? 確かめられます!」

「どこまでも水が続いてるのよね? 綺麗だろうな~。早く見てみたい!」

「そうと決まれば準備しなきゃ!」


 ソフィ、ドロテ、アイノと、口々に海に行く事が決定と言わんばかりに話が進み、さっちゃんの合図で皆は片手を上げるが、上がり切る前にわしが止めに入る。


「ちょ……まだ連れて行くにゃんて言ってないにゃ~」

「「「「え~~~!」」」」


 みんな仲良く、気が早過ぎる。ソフィ達までさっちゃん化してないか?

 一国の王女を他国に連れ回すわけにも行かないし、女王にバレたら怒られそうじゃ。断るのは無理だろうけど、努力はしよう。


「ほら? 海まで遠いにゃ~?」

「飛行機で行けば、すぐなんでしょ?」

「飛行機……にゃぜそれを……」

「聞いたからに決まってるじゃない。飛行機も乗せて~!」


 さっちゃんの飛行機発言にわしが顔を青くしていると、アイノが助け船を出す。


「王女様。ここは転移魔法で行ったほうが、時間が掛からないです」

「それよ! ほら? 近くなったわよ」


 うっ。わしの努力が簡単に潰された。次の矢はこれじゃ!


「海があるのは他国にゃ。さすがに女王の許可が無いと、連れて行けないにゃ」


 わしの口撃はクリティカルヒット。ソフィ、ドロテ、アイノは仕事を思い出し、顔を見合わせる。


「たしかにそれは問題ですね」

「女王陛下も許可を出せないと思います」

「王女様。申し訳ありませんが、留守番をする方向で……」


 アイノ……臣下が主人をほっぽり出して遊びに行くな! みんなも頷かないで! さっちゃんが、かわいそうじゃろう。


「ひどい! わたし一人おいて、楽しいことするつもり? そんなこと言ってると、クビにするわよ!」

「さっちゃん! 言い過ぎにゃ~」

「だって……」

「わしも女王を説得するから、そんにゃこと言うにゃ。さっちゃんは熱くなって、つい、心にも無い事を言ってしまったにゃ? みんにゃに謝るにゃ」

「……うん」


 わしがさっちゃんを叱ると、さっちゃんは素直に謝ろうとするが、その前にソフィ達が止めに入る。


「サンドリーヌ様。私達は気にしていませんから、謝罪なんていりません」

「いえ。王女にあるまじき発言だったわ。ごめんなさい」

「あ、頭を上げてください!」

「元を言えば、私達も悪いんです」

「そうです。王女様と一緒じゃないと楽しくないです。一緒に行きましょう!」

「みんな……うん!」


 仲直り出来たのはいいんじゃけど、必ず行く事が決定したような……。わしも説得するって言ってしまったし……。まぁ説得できなかったら、わしのせいじゃない。女王のせいにしよう。



 皆が仲直りしたところで、わしは次元倉庫に入っているアクセサリーをテーブルの上に取り出し、ソフィ達を見る。


「そうそう。みんにゃにお土産があるにゃ。三人はブレスレットでいいかにゃ? 希望があったら作り直すにゃ」

「作り直す?」

「お土産は、この宝石にゃ。魔道具になっているから、ブレスレットや指輪、ペンダントに加工するにゃ」

「そんな見た事もない高価な物、貰えません!」

「みんにゃにはお世話になっているから気にするにゃ。好きなのを選んで、入れて欲しい魔法を教えてくれにゃ」


 三人は渋々だが、テーブルに並ぶアクセサリーを手に取る。時間が掛かりそうなので、兄弟達にもお土産の宝石を渡す。二匹は、さちゃんから貰った首輪をしているので、そこに鉄魔法で付けてあげた。

 宝石に入れる魔法は何がいいかと聞いたら、ルシウスは風の強化魔法。エリザベスは肉体強化魔法になった。お互い、苦手な分野を伸ばすみたいだ。


 兄弟達の魔道具が完成すると、悩んでいたソフィ達も決まり、全員ブレスレットを選んだ。入れる魔法は、ソフィとドロテが肉体強化魔法、アイノは火の強化魔法に決まった。

 最後に同じ紋章を入れて欲しいとのことで、アイノの書いた絵を、鉄魔法を使ってそのままブレスレットに刻み込む。兄弟達も入れて欲しそうだったので刻み込んであげた。


 アイノの絵……丸い猫じゃったけど、あんなのでいいのか? まさかわしじゃないよな? きっと、さっちゃんに仕える騎士の証じゃろう。そう思っておこう。


「シラタマ様。ありがとうございます。これをサンドリーヌ様に仕える『白猫騎士団』の証にします」


 ソフィさん? なに、その弱そうな騎士団? てか、騎士の証で合っていたのは驚きじゃ。


「シラタマ様の紋章は、しっくり来ますね」


 ドロテさん……しっくり来ないよ! 騎士団の紋章なら、鷹とかライオンのほうが強いじゃろ?


「キョリス様と悩んだけど、やっぱり私達には猫ちゃんよね~」


 アイノ~! 悩む相手が間違っておる! どっちも見た目は癒し系じゃ! まぁ仲良くさっちゃんを守る、誓いの物になったのは良い事かな?


 わしが三人の言葉を心の中でツッコんでいると、お土産を渡していないさっちゃんも、当然おねだりして来る。


「シラタマちゃ~ん。わたしのは~?」

「さっちゃんのは、まだ悩んでいるにゃ~」

「悩む? シラタマちゃんから貰えるなら、なんでも嬉しいよ。早く~」

「いちおう、この宝石を使う予定にゃ」


 わしは次元倉庫から、砂漠の街コッラトで買った、ちょっとお高かった大きな宝石を取り出す。その宝石はラウンドブリリアンカットに研磨済みで、引き込まれるような輝きを放っている。


「すご~い」

「綺麗です……」

「高そうです」


 アイノ、ソフィ、ドロテが宝石に魅了されている中、唯一耐性のあるさっちゃんがわしに質問する。


「宝石って、こんなに輝くの?」

「カットしだいかにゃ? 大きいから少し値が張ったけど、宝石としては安いほうだったにゃ」

「これもシラタマちゃんが加工したの?」

「そうにゃ。これを指輪にするか、それともペンダントにするか、もっと豪華にするか……どれがさっちゃんに似合うか思い付かなかったにゃ」

「そんなにわたしの事を思っているんだ!」


 さっちゃんは嬉しさのあまり、わしに抱きつく。


「にゃ! ゴロゴロ~」

「あれ? 逃げない……」

「あと、入れる魔法も研究中にゃ。ゴロゴロ~」


 さっちゃんにゴロゴロ言わされながらも喋っていると、アイノが割って入る。


「猫ちゃんの研究が気になる。私にも研究を協力させて!」

「ゴロゴロ~。わしの研究は難しいから、アイノには出来ないにゃ」

「なんでよ~! そんなこと言う猫ちゃんには……モフモフ攻撃~!!」

「ゴロゴロ~」

「あれ? 嫌がらない……」


 アイノにわしゃわしゃされても、わしはゴロゴロ言うだけだ。すると、ソフィとドロテも寄って来た。


「どうしたのですか?」

「私も撫でてみよっと」

「ゴロゴロ~」

「私も撫でます!」

「ゴロゴロ~」


 わしは悟った。人間誰しも嫌がれば、無理にでも撫でたくなるモノ。反抗せずにおとなしくしていれば、そのうち飽きる! 猫を飼っていた経験から導き出された答えじゃ。さっちゃん達も、そのうち飽きるじゃろう。


 わしはゴロゴロ言いながら、さっちゃん達の飽きるのを待つ。しばらくして、旅の疲れか、撫でられる気持ち良さか、うとうととして眠ってしまったようだ。






 う~ん……眠ってしまっていたか。まだみんなに撫でられている感触がある。誰の手かわからないけど、どこを撫でておる? 女の子はそんなところ触っちゃダメじゃろう。早く飽きてくれ~……もうダメじゃ!


「いい加減にするにゃ~!」

「あ、起きた」


 わしが怒鳴りながら立ち上がると、さっちゃんは悪びれる様子もなく答えた。


「起きたじゃないにゃ~。人がおとなしくしていれば、やりたい放題するにゃんて……にゃ! もう夕方にゃ~」

「あ、本当です。あまりにおとなしいから、つい……」

「つい、時間を忘れて……」

「猫ちゃんのモフモフは、いつまでも触っていられるよね~」


 ソフィ、ドロテ、アイノも悪びれる様子もない。それどころか、さっちゃんはわしのせいにしようとする。


「シラタマちゃんが誘って来たんでしょ? そんな誘惑に勝てるわけがないじゃない!」


 え? わしが悪いの? ただおとなしくしていただけなのに……。いや、わしは悪くない! すぐに飽きると思ったのに、何時間撫でておるんじゃ。おかげで毛も服も乱れまくっておる。

 おとなしく撫でられる作戦失敗じゃ! こんな姿、リータとメイバイに見られたら、何を言われるかわかったものではない。しっかり文句を言わなくては……



「シラタマさ~ん」

「シラタマ殿~」

「にゃ!!」


 わしが文句を言おうとしたその時、居間の引き戸が開き、撫でられて乱れ切った姿を、リータとメイバイに見られてしまった。


「な、何してるんですか!」

「浮気ニャ-ーー!」

「ち、違うにゃ~!」


 わしがリータとメイバイに詰め寄られていると、さっちゃんと愉快な仲間達がよけいな事を言う。


「本妻は私よ!」

「さっちゃん。それも違うにゃ~!」

「今日はおとなしいから、みんなで撫でていただけですよ」

「疲れて寝てたにゃ~! 本当にゃ~」

「気持ち良さそうに、ゴロゴロ言ってたじゃない」


 うっ。それは猫の喉のせいじゃ。事実じゃけど、この言い訳では少し弱い気がする。だが、早く良い言い訳を言わなくては!


 わしが心の中で言い訳を考えていると、さっちゃん達全員の声が揃う。


「「「「「「言い訳しようとしてる……」」」」」」」

「にゃ……にゃんで全員わかるにゃ~!」

「そりゃあ……ねえ?」

「「「「「ねえ?」」」」」

「『ねえ?』じゃ、わからないにゃ~~~!」


 誰もわしの疑問に答えてくれない。この疑問の答えを知るのは何年も先のお話。


 わしの尻尾が文字を書いていて、考えている事を、皆に読み取られてしまっていたとは……

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