232 反抗勢力と御対面にゃ~
子供達の為に四角い家を建てたわしは、ツッコミをする皆の言葉を無視して、作業に戻る。
「「「「「答えてからにしろ!」」」」」
戻れなかった。
「しょうがないにゃ~。みんにゃの新しい家にゃ。あんにゃボロボロな家じゃ、いつ獣が入り込んでもおかしくないにゃろ?」
「そうだけど……」
「あ、そうにゃ。解体を終えた肉は、氷室に入れてくれにゃ。ヨキ、案内するから付いて来るにゃ~」
「……うん」
ヨキに氷室を案内すると、子供達にも仕事が生まれてツッコミは消えた。
「シラタマ君は、どうなってるのよ?」
まだ子供が残っていたみたいだ。
「いま、失礼な事を考えていたでしょ?」
ノエミだったみたいだ。
「そんにゃ事ないにゃ~。それよりノエミは子供達を手伝わにゃくていいにゃ?」
「人数は多いからね。やる事が無いのよ」
「じゃあ、その辺で遊んでいるにゃ」
「子供か!!」
「じゃあ、保母さんでもやってくれにゃ~」
「大人になったけど……シラタマ君を観察しているわ」
「たいした事しないにゃ~」
「この建物が、たいした事じゃないんだ……」
ノエミはブツブツ言い出したので、放っておいて作業に戻る。
庭は広めに取って、外で遊べるようにしておくか。壁をちょちょいと作って、外はお堀。念のため水も入れておくか。これで獣は入って来れないじゃろう。
あ! 橋が無い……どうしよう? 掛け橋を作りたいが、動かす動力が無いから仕方がない。細い橋も作って、小さな引き戸も付けよう。
攻めて来るのは獣じゃし、こんなもんでいいじゃろう。
「完成にゃ~」
「どんだけ無駄に魔力があるのよ……」
わしが完成したシェルターをしげしげと見ていると、後ろからノエミの声が聞こえた。
「まだ見てたにゃ?」
「シラタマ君は、興味深いからね。見てて飽きないわ」
そりゃ珍獣中の珍獣じゃもんな……はぁ。
「魔力は多くあるのは知っていたけど、いまでどれぐらい残っているの?」
「そうだにゃ……。土と水でいっぱい使ったから、三分の一ってところかにゃ?」
「あんなに出して、まだ残っているの!?」
「まぁにゃ」
「驚きだわ~」
「そろそろわし達も中に入るにゃ~」
「あ、待って~」
ノエミはまだ質問をしたがっていたが、面倒なので歩き出す。そして、シェルターに入ると子供達をお風呂に入れる。ギャーギャー騒がしいが、孤児院の子供達と同じ様に女の子と男の子を分けて、魔法で洗って綺麗にしてやった。
ついでにノエミとズーウェイ、ケンフも同時に洗い、最後にわしとリータとメイバイで、ゆっくり入る。
お風呂から上がると、ズーウェイと子供達に夕食を頼んでいたので、席に付いて腹を膨らませる。このまま寝てしまいたいが大事な事を思い出したので、お腹をさすりながらヨキに声を掛ける。
「ヨキ。猫耳族はいつ来るにゃ?」
「昨日来たから、明日には来ると思います」
「どこで待ち合わせしているにゃ?」
「屋敷ですけど……会いたいんですか?」
「少し話をしてみたいにゃ。会わせてくれにゃいかにゃ?」
「……わかりました」
猫耳族とのアポイントは取れたので、あとは寝るだけ。さっきの狼の毛皮を洗って渡すが、人数には足りなかったので、次元倉庫からも支給する。
ノエミは一階の空き部屋で自前のハンモック、ケンフは男の子部屋、ズーウェイは女の子部屋の子供達と寝るみたいだ。
わし達は外に出て、広い庭に出した車の中。リータとメイバイは硬い床より、狭い車のベットで寝たいそうだ。
こうして、敵地侵入の一日は終わった……
「ゴロゴロ~。も、もう、その辺にして寝ようにゃ。ゴロゴロ~」
「いつもの日課ですから」
「気持ちいいニャー?」
「ゴロゴロ~」
敵地侵入一日目は、もう少し続いた。
翌朝、皆で朝食を済ませると、庭に遊具を作って、ノエミとズーウェイ、ケンフに子供達の相手を投げ出し……頼んで、わし達はヨキとシンを連れて屋敷に向かう。
ちなみにリータには、猫耳族を刺激しないように、猫耳カチューシャと尻尾を付けさせて、変装してもらっている。
この国に来るなら必要になるかと思って、孤児院で購入しておいたが、リータも同じ考えだったのか、自前の物を持ち歩いていたようだ。……趣味なのかもしれないが……
屋敷に着いたものの、猫耳族はなかなか来ない。なので、ヨキ達とは別の部屋で、一眠りさせてもらう。常に誰かに撫でられている感触はあるが、無理矢理眠った。
それから小一時間後……
「シラタマさん。シラタマさん……」
眠るわしの耳に、リータとメイバイの声が聞こえて来た。
「もう食べられないにゃ~。むにゃむにゃ」
「夢の中でも食べてるニャー?」
「もう! 誰か来たみたいですよ。起きなさい!」
「グフッ!」
リータはわしの
「にゃにするにゃ~! ムグッ」
「シッ!」
「誰か来たって言ってるニャー」
たしかに誰か来たら起こせと言ったけど、鳩尾に鉄拳を喰らわせるかね? 最近、リータ達の暴力が酷い気がする。王のオッサンの言う通り、この世界の女は鬼じゃな。
「「誰が鬼(ニャ!)ですか!」」
「にゃ!? 声が大きいにゃ~」
「「あ……」」
「誰かいるの!!」
わし達の声に、隣の部屋にいる者が反応する。気付かれてしまったものは仕方がない。わしを先頭に両手を上げて出て行く。すると、チャイナ服のような物を着た、大柄な猫耳族の女性が驚いた声を出す。
「ご、ご先祖様?」
「違うにゃ~!」
「いや、ご先祖様よ!!」
否定したのに、ご先祖様認定されてしまった……。言葉は通じておるのか?
しかし、猫耳で整った顔だけど、デカイ女じゃな。2メートル以上ないか? オンニよりデカイかも……筋肉も凄い。そんな事よりも、いまは情報収集じゃな。
「わしはシラタマ、満三歳にゃ」
「三歳?? それじゃあ……」
「ご先祖様じゃにゃくて申し訳ないにゃ。それで名前を聞いてもいいかにゃ?」
「私は……いや、ご先祖様じゃないなら言えない」
「そんにゃに警戒しにゃいでくれにゃ。わしは帝国を滅ぼしに、遠路遥々、西の山を越えて来たにゃ。お姉さんの一族の敵じゃないにゃ」
「あの山を? 帝国を滅ぼす?」
「そうにゃ。メイバイ。挨拶するにゃ~」
猫耳お姉さんは、わしの説明に意味不明って顔をするので、メイバイを指名して喋らせる。
「私はメイバイニャー。シラタマ殿とは、西の山を越えた街で出会ったニャ。シラタマ殿は、私の願いを叶えに帝国に来てくれたニャー」
「あなたの願いとは何?」
「猫耳族を救ってくれと頼んだニャー!」
「救う?」
メイバイの説明を聞いても、猫耳お姉さんは首を傾げているので、またわしが説明する。
「猫耳族は奴隷にされて、自由を奪われいると聞いているにゃ。もしも、お姉さんが同じ目的で動いているにゃら、わしに力を貸して欲しいにゃ」
「……少し考えさせて」
「いいにゃ。でも、場所を変えようにゃ。子供達の安全を確保したから、そこで話そうにゃ」
「……わかったわ」
と、言う訳で、皆でわしの作ったシェルターに移動した。
「考える事が増えたんだけど!?」
わしの作ったシェルターを見た猫耳お姉さんは、そう言って頭を抱える。
「いまは、増えた事を考えるのはやめましょう」
「シラタマ殿のやる事に、考えたら負けニャー」
う~ん。こういう時、リータとメイバイはいつも考える事を止めるな。わしのやる事は、そんなに考えてはいけない事なのか?
「……一旦保留にするわ」
とりあえず、猫耳お姉さんも諦めたか。でも、またあとで考えるのかな?
わし達は橋を渡ってシェルターに入る。猫耳お姉さんは、終始周りを見回しながら進む。きっと見ず知らずの建物に入るのは、怖いのであろう。
「なんでこんなに立派な建物が、二日で出来てるの……」
どうやら興味深々で見ていたみたいだ。
シェルターに入ると、昼も過ぎていたので食堂に案内する。ズーウェイに猫耳お姉さんの食事も用意してくれと頼み、待つ間に会話を再開する。
「考え事は、まとまったかにゃ?」
「まだに決まっているでしょ!」
キレられて会話は再開しない。仕方ないので、昼食を食べながら待つ事にする。
「ズーウェイ。こんにゃに多くの人に料理を作るのは大変にゃろ? 疲れてないにゃ?」
「いえ。子供達も手伝ってくれているので、それほど大変ではありませんよ」
「そうにゃんだ。そう言えば、子供達は何処に行ったにゃ?」
「シラタマ様が作った遊具で遊んでいます。ノエミさんとケンフさんが見ているから、危ない事はないと思います」
連れて来た三人は思いの
「メイバイは奴隷だったの? それとズーウェイも?」
ズーウェイと話をしていると、考えがまとまったのか、猫耳お姉さんが口を開いた。
「そうにゃ。二人ともわしが奴隷から解放して、連れて来たにゃ」
「山向こうには、猫耳族が多くいるのね」
「違うにゃ」
「違う?」
「お姉さんがどこまで知っているかわからにゃいけど、西の山にトンネルが掘られて開通したにゃ」
わしがトンネルと口にすると、猫耳お姉さんは考える素振りをしたが、すぐに思い出したようだ。
「そんな情報があったわね」
「そのトンネルを通って、ズーウェイはやって来たにゃ。そして、白い獣を操るのに使われていたにゃ」
「あ……その情報も聞いた事がある……。かなりの死者を出しているとも聞いたわ」
「……そうにゃ。わしの知っているだけで三十二人、帰らぬ人になったにゃ。おそらく、その数倍は……」
「そう……」
お互い暗い顔になるが、わしは頭を振って気を取り直す。
「でも、助かった命はあるにゃ! ズーウェイもその一人にゃ!」
「……一族の者を助けてくれてありがとう。あなたの事を信用するわ。私はシェンメイよ」
シェンメイは目に涙を溜めて感謝の言葉を述べる。だが、わしは照れ臭いので、質問を投げ掛ける。
シェンメイは猫耳族の奴隷解放組織の一員らしい。奴隷ではなく、猫耳族の隠れ里で生まれたとのこと。その奴隷解放組織は、日々、人族と戦い、奴隷を少しずつだが解放して、救っているようだ。
やはり人族の反抗勢力だったか。これなら情報収集もやりやすくなりそうじゃ。
「人族と戦っているのはわかったにゃ。でも、敵である人族の子供に、にゃんで
「敵でも子供。子供には、罪は無いわ」
「そうにゃけど……一族の者は反対しないにゃ?」
「これは私の独断。一族の者に知られると、問題になるでしょうね」
「シェンメイは優しいんだにゃ~」
「そうでもないわ。人族達からは、化け物と恐れられている」
「シェンメイも戦うにゃ?」
「ええ。これでも猫耳族では『戦乙女』と呼ばれて、一番強いわよ」
たしかにオンニの男版みたいで、歴然の猛者みたいな体つきじゃな。持っている斧も伸長とほぼ同じ。オンニより強いのは間違いないじゃろう。イサベレにはまだ足りないってところか。
しかし、戦乙女って二つ名は誰が付けたんじゃろう? イサベレなら似合うけど、シェンメイじゃ似合わない。シルエットだけなら、猫耳が立っているから角に見えて、鬼にしか見えん。デカ鬼じゃ。
わしが考え事をしながらシェンメイを見ていると、わしの心の声を聞いていたリータとメイバイが声を大きくする。
「シラタマさん! 女性に失礼ですよ!」
「そうニャー! デカ……ムグッ」
「口に出してないにゃ! 気付かれてないからバラさにゃいで!」
「「あ……」」
「??」
シェンメイは、わし達の会話に不思議そうな顔をする。何か聞きたそうに口を開こうとしたその時、子供達が遊び疲れて喉が渇いたのか、食堂に入って来た。
ノエミは子供達にまざっていたので、どこに居るかわからない。最後にケンフが入って来ると、シェンメイを二度見したと思ったら、大きな声を出す。
「筋肉猫!!」
ケンフがシェンメイを見ながらそんな事を口走るので、わしはリータとメイバイに問う。
「わしの考えた二つ名と、どっちがひどいにゃ?」
「「う~ん……いい勝負?」」
相変わらず、二人の裁定は厳しいのであったとさ。
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