473 笑えにゃ~!!
ヤマタノオロチ討伐記念撮影会が終わると、報告を任せたリータ達は、浜松に走って行った。
それからわしと玉藻と家康は小休憩。リータ達の前では見せなかったが、全長300メートル以上で格上の敵と戦う事は、どんなに化け物でも疲労困憊だ。
なので、しばらく三人仲良く横になって目を閉じた。
小一時間ほど眠ると、わしはもそもそと起き上がり、写真撮影。せっかくこれだけの大物を倒したんだ。記念に撮っておきたい。
玉藻と家康も同じ気持ちだったらしく、交代で写真を撮り合う。ただ、構図が難しいので、ヤマタノオロチと隣り合った被写体の写真。遠くのヤマタノオロチと近くの被写体の写真になった。
上手く撮れているといいんじゃが……何枚撮るのですか? 最高の一枚が撮れるまでですか。そうですか。でも、もうフィルムはありませんよ?
何度もポーズを変える二人には、嘘をつく。だって、そんなに遠くでポーズを変えても写ってないんじゃもん。
二人がガッカリしたところで、わしは話を切り出す。
「わしの取り分の話をしたいんにゃけど……」
わしだって、ヤマタノオロチの足止めに骨を折った。文字通り、本当に骨を折ったんだ。少しぐらい……いや、巨象ぐらいの大きさを貰っても、バチは当たらないはずだ。
ヤマタノオロチは馬鹿デカイからどうせ保管も出来ないし、それぐらい貰ったほうがここの為になるかもしれない。
わしの要求に、玉藻は家康を見て、家康が頷くと答を述べる。
「好きなだけ持って行け」
「いいにゃ? 全部持って行くかもしれないにゃよ?」
「そちはそんな事はせんじゃろう。それに、そちのおかげで何千人もの命を救えたんじゃ。少しぐらい、妾達……いや、日ノ本の者の感謝を受け取ってくれ」
うっ……そこまで言われると、わしも取りにくい。わざとやっているんじゃなかろうな? でも、わしは王様じゃけど、ハンターでもある。予定通りの量を貰って行こう。
「わかったにゃ。欲しいだけ貰って行くにゃ。あと、残った物を売る気はないかにゃ?」
「売る? どういうことじゃ??」
「まだ玉藻は頭が固いにゃ~。この世界に、日ノ本以外の国があるんにゃよ?」
「……あ!!」
「そうにゃ。これを売れば、復興費用の足しになるにゃ。販売は、わしに任せてくれたら悪いようにしないにゃ~」
「何から何まで……この時に、シラタマと出会えて、本当に日ノ本は幸運じゃった! 有り難う!!」
「にゃ!? ムグーーー!!」
玉藻が素早く抱きつくので、わしは避けきれずにグロッキー状態。巨乳と手加減なしのハグでは仕方がない。
わしがぐったりしている横では、家康も復興費用が稼げるから嬉しいらしいが、感謝の前に、助けてくれ……
また
「わし一人ではしんどいし、ちょっとは手伝ってくれにゃ~」
「出来るだけ協力はするが、残りの呪力も厳しいからのう」
「
「う~ん……」
死んだから、巨象の時のように防御力は下がっていると思うけど、上手く捌けるかわしも自信がないな。アンコウの吊るし切りなんてデカすぎて出来ないし、やり方もしらんし……
「ま、やるだけやってみようにゃ~」
わしがまず取り掛かった場所は
その伸びた部分には、【光一閃】。【白猫刀】から伸ばした光の剣で切り裂く。残念ながら一撃でとはいかず、三回から四回の斬り付けでなんとか切断する事が出来た。
この部分は魔道具が作れるはずなので、高く売れるはずだ。三本はわしの取り分、残りは日ノ本の取り分として次元倉庫に入れる。
次はヤマタノオロチの体に突入。尻尾側に移動して、【大鎌】。死んだ巨象の脚を一刀両断した魔法だが、そうは上手くいかない。鱗を削った程度で海の彼方に消えて行った。
なので、魔力を上乗せして、【超大鎌】として放つ。先程より大きさも威力も上がったが、それでも一度では深く切れなかった。玉藻と家康に切り口を押さえてもらい、五回の【超大鎌】で背開き完了。
あとは内からの切り分けなので、多少は柔らかくなるはずだから、玉藻も参加。わしは【超大鎌】でサクサク切り裂いては次元倉庫に入れて行き、玉藻は何度も【風の刃】を飛ばして切り分けた部位を、家康を使ってわしの元へ運ばせていた。
肉の大きさはまちまち。10メートル以上ある物もあれば、1メートルも無い物もあるが、気にせず次元倉庫に消えて行く。
残った骨も何かに使えるかもしれないので、【光一閃】で何度も斬り付け、細かくして次元倉庫に入れておいた。
解体を終える頃には空は紅くなり、海は真っ赤になったのであった。
「あの山が消えた……どんだけそちの呪術は便利なんじゃ!!」
「それになんじゃあの呪術の数々は……我等との戦いで一切使っておらんのに、解体で使うとはどうかしておるぞ!!」
ヤマタノオロチが消えると、まずは苦情から。玉藻と家康は、わしの魔法が気になるようだ。
「もういいにゃろ~。わしもかなり無理したんだからにゃ~」
まさか解体にまで魔力の補填が必要になるとは思わなんだ。戦いでも使いまくったから、残りも僅かじゃ。
……と、思う。正直、数値化されていないから、どれぐらい残っているかわからん。感覚的には、今まで貯めた魔力が半分は切ったと思うんじゃがな~。また倹約に努めないとな。
しばらく二人の質問に答えていたが、はぐらかし続けたので、家康は別の質問に変える。
「ヤマタノオロチの血もなんとかならんか? このままでは、ここいら一帯の海が腐ってしまいそうじゃ」
「あ~……たぶん大丈夫にゃろ」
「こんなに海が真っ赤なんじゃぞ。そんなわけあるまい」
「前にだにゃ~」
家康が浜辺の心配をするので、わしは巨象の解体現場と、血で行った栽培法を説明する。
「だから、海にゃし大丈夫だと思うにゃ。薄くなって広がるし、海藻類に栄養が行き届いて美味しくなるかもにゃ。まぁ赤潮ににゃるかもしれないけど、それも一時的な事にゃろ」
「ほう……ならば近い内に、収穫しに来ないとな」
「そこはご老公の腕の見せどころにゃ~」
被災者大多数の現在では人員を多く動かせないだろうが、ワカメや昆布を乾燥させて売れば、被災者の収入源になる。多少無理でも生きる糧になるのだから、是非ともやって欲しいものだ。
そうして二人の質問はやんだので、わしも質問してみる。
「ヤマタノオロチを倒したのに
「「するか!!」」
どうやら神話を信じていたのはわしだけだったようで、同時ツッコミを受けてしまった。もちろんわしだって信じていないから、いちおう聞いただけだ。
だから、頭の中がお花畑とか言わないでくれる? それと、新しい神話を作らないでくれる? ヤマタノオロチの尾から、猫が【猫撫での剣】を引き抜いたって……ぜったい後世に笑われるからやめて!!
わしの冗談を膨らませる二人を必死に説得し、記憶からも消してもらう為に、早く帰って宴にしようと腕を引っ張る。
二人も、早く被災者に姿を見せて安心させたいからか頷いてくれたので、ダッシュで避難所に戻るのであった。
『故人を想って喪に服すのもけっこうにゃ……』
避難所に帰ったわしは、玉藻と家康の間に立って静かに語る。
『でもにゃ……最大の危機が去ったいま、喜ばないのは違うにゃろ? いまは食おうにゃ、笑おうにゃ! 故人に心配させないように騒ごうにゃ! 宴の開始にゃ~~~!!』
「「「「「わああああ!!」」」」」
わしの心配を他所に、被災者は騒ぎ倒す。焼き立てホヤホヤのヤマタノオロチ肉にがっつき、明日に向かって英気を養う。
「「「「「うんめぇぇええ~~~!!」」」」」
いや、とんでもなくうまい肉に、故人を忘れて騒ぎ倒す。
驚き、叫び、笑い、泣き……
肉に少し慣れて来ると「かあちゃんにもこんなうまい物を食べさせてやりたかったな」とか、すすり泣く声が聞こえて来て、辺りに広がって行ったが、わしはまた音声拡張魔道具を握って叫ぶ。
『ほらほら~。しんみりしてたら、死んだ人があの世で安心できないにゃ~。今日は無理にでも笑うにゃ! じゃにゃいと、お肉は没取にゃ~~~!!』
「「「「「あはははは……」」」」」
泣き笑い……肉を取り上げらたくないから……ではなく、故人の為に、自分達の為に、鼓舞するように笑う。
隣の者のくしゃくしゃの顔を見て笑う。
明日を生きる為に笑う。
そうでもしないと、こんな不幸はやりきれない。
だからこそ、皆は笑うのだ。
「ふぅ……お腹いっぱいです~」
「私もニャー。巨象の肉より美味しかったから食べ過ぎたニャー」
わしが猫の国のテーブルに顔を出すと、リータとメイバイの食事はちょうど終わったようだ。コリスとオニヒメはいまだに頬袋とお腹に詰め込んでいる最中だが、わしは席に着いてリータ達の会話にまざる。
「にゃはは。本当に美味しかったにゃ~」
「でも、あんなに死者が出たのに、私達がこんなに喜んでいていいのでしょうか?」
「私達は誰も死んでないのに、不謹慎じゃないニャー?」
「嫌々ボランティアされるよりはマシにゃろ。それに、玉藻達のテーブルに居たら、いっぱい感謝されたにゃ。その中には、リータやメイバイ達、救助隊の者に感謝する者もいっぱい居たにゃ。だから大丈夫にゃ」
「それだといいのですが……」
「みんにゃわかっているにゃ。わし達のやっている事は間違いではないにゃ。だから、今日だけは笑おうにゃ~」
「わかったニャー! コリスちゃんのマネニャー!!」
リータが暗い顔をすると、メイバイがそれを吹き飛ばそうと肉を頬張り、コリスの頬袋のマネをする。
「にゃはは。ぜんぜん膨らんでないにゃ~」
「ムゴムゴ! ムゴムゴ~!!」
「にゃはは。こうするんにゃ~」
たぶんメイバイは、わしにもやれと言っているだろうから肉を頬張り、頬袋を作る。
「あははは。そっくりです~」
「本当ニャー。あはははは」
「モフモフいっしょ~」
「ム……ムゴッ……」
リータとメイバイの笑い声に、コリスも嬉しそうにしたのだが、わしはチーン……肉が喉に詰まって、本日三度目の三途の川を拝むのであったとさ。
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