474 復興作業にゃ~


 ヤマタノオロチ討伐記の宴会で、わしはコリスのマネをして頬袋を作ったら、肉が喉に詰まってしまって死後の世界に旅立った。

 しかし、リータの強烈な張り手を背中に喰らう事によって現世に留まり、わしはそのまま眠りに落ちた。どうやらヤマタノオロチとの戦闘で、そうとう参っていたようだ。


 なので、リータ達は献身的にわしに尽くしてくれたらしいけど、翌朝起きたら、なんでわしは全裸なんじゃ? ……撫でた? 撫でただけじゃろ? ……変なところ触ってない??


 リータ達は何故か顔を赤くして「キャーキャー」逃げて行ったから、追う事はやめた。きっと撫でただけだからだ。知ってしまったら怖いので、わしも聞きたくない。

 とりあえずわしも寝床のバスから降りて、会議室に向かう。


 会議室に入ると、予想通り玉藻と家康は会議中だったので、遅れた事を侘びながら席に着く。


 遅い? だから謝ったじゃろ。リータ達にわしを起こすように言ったのは一時間前? ……え?? 一時間もの間、リータとメイバイはわしに何をしたんじゃ~~~!!


 顔を真っ青にしたわしを見た玉藻と家康は、そうとうお疲れだろうと、それ以上の事は言って来なかった。

 きっとヤマタノオロチの戦闘で疲れたのだと思っているのだろう。あまりわしを見てくれなかったけど、きっと朝からハッスルしたとは思っていないはずだ。



 今日の議題は、瓦礫の除去との事だったので、遅ればせながらわしは朝食を掻き込み、作業に参加する。

 全てが瓦礫ならば、片っ端から次元倉庫に入れたら早いが、思い出の品も多数ある。面倒だけど、集めた瓦礫を中心に次元倉庫に入れ、あとで町の外に捨てる。

 目に付く瓦礫の山を取り除くと、わしはしばらく浜松城の瓦礫除去。瓦や木材を中心に次元倉庫に入れ、タヌキ城主には貴重な物を集めさせる。その甲斐あって、三時頃には浜松城があった場所は、早くも更地になった。


 この場所は、もう一度天守閣を築くかもしれないらしいので、中央の石垣は避けて、四隅に建物を建てておく。三棟は四角い三階建て。昔作ったシェルターのような施設で、大人数が泊まれるように部屋割りは多くしておいた。

 もう一棟は、大浴場。治水はそこそこいいし、燃料の木材は山ほどあるので火に困る事はない。被災者全員、一気にとはいかないが、フル回転すれば、三日で全員が綺麗になるはずだ。

 ただ、余震があるかもしれないから硬く作ったので、もしかしたら、家康しか解体できないかもしれない。その時が来たら、家康には頑張って欲しいものだ。


 とりあえず、あっと言う間に建物が建って呆気に取られているタヌキ城主にあとの事は任せ、わしは城下町に繰り出す。

 気のせいか人が少なく感じるが、気にせず瓦礫を次元倉庫に入れながら歩き、長屋があったであろう場所に着いたら長方形の建物を建てる。二階建てにして部屋割りも多く取ったから、今までの四倍は世帯が入るだろう。

 元の住居者には狭くなって悪いが、緊急事態だ。我慢してもらうしかない。復興が終わった際には、壁は所々弱く作ってあるので、取っ払えば元通りの暮らしになるはずだ。


 わしについて来ていた侍がまた呆気に取られていたが、入居者は任せて今日のわしの仕事はおしまい。

 日が暮れて来ていたので、会議室にお邪魔する。


「「勝手に何をやっておるんじゃ!!」」


 会議室に入ったら、何故か玉藻と家康に怒鳴られてしまった。


「にゃ? にゃにか怒られるようにゃ事をしたかにゃ?」

「城主から報告が入っておるぞ。変な建物を建てまくっているとな」

「それがにゃに?」

「こちらにも計画ってものがあるんじゃ。それを先走ってやられると、工事に支障が出るじゃろうが」

「そこを調整するのが二人の仕事にゃろ~」


 よかれと思ってやったのに、玉藻と家康が文句たらたらなので、わしも「にゃ~にゃ~」反論し、結局は、城下町の外に仮説住宅を建てる事で落ち着いた。



 翌日は、朝からお葬式。瓦礫除去をする人が少なかったから気になっていたら、わしが先日作った亡骸が痛まないように氷を多く入れたプールのような場所で、故人に最後の別れをしていたらしい。

 なので、多国籍救助隊は不参加。いちおう出席するように言われたが、正直、多くの死者を見るのはいまだに慣れない。そんな所に多国籍救助隊を送り込むのも気が引けたので、その分、手を動かすと言って玉藻達には納得してもらった。


 簡単な班別けをすると、ウンチョウ達には瓦礫の除去に向かわせ、猫ファミリーは別の仕事。仮説住宅の建設だ。


 わしの建てる姿を見せ、手伝ってもらい、皆で建てる。メイバイ以外、土魔法はお手の物なので、上手く建てていた。

 メイバイも役に立ちたいと言って来たので、微調整を見て教える現場監督に任命。これでわしが居なくても、何棟も建てられるはずだ。


「どこに行くのですか……」

「まさか、サボるつもりニャ……」

「違うにゃ~。木材の確保に行って来るにゃ~」


 出掛ける旨を伝えるのを忘れて、リータとメイバイに尻尾を掴まれてしまったが、それならばと笑顔で送り出される。


 でも、一時間って、ちょっと短すぎない? わしがサボりそうなんですか。そうなんですか。

 昼までに、なんとか延びないでしょうか? 作業がありましてね……12時ジャスト、一分でも過ぎたら罰があるのですか。そうですか。


 リータとメイバイの笑顔が怖すぎたので、わしはダッシュ。瓦礫除去の現場監督をしていたヂーアイと共に、エルフの里に転移した。



 エルフには、転移魔法を誰にも見られたくなかったからほこらに転移したのだが、焦っていたからヂーアイをエルフだと忘れていた。だって、梅干しみたいなんじゃもん。

 仕方がないので、口止め。まぁ王様の秘密なので、ヤマタノオロチの肉で手を打ってもらった。強欲なババアじゃ……


 祠からダッシュで里に到着すると、ヂーアイには人を集めてもらい、わしは里の外で待機。そこに、大量の木を次元倉庫から取り出す。

 そうしていると、エルフがわらわらとわしの前に集まって来たので、宣言する。


「え~……みにゃさんには、タダ働きをしてもらうにゃ~」

「「「「「え~~~!!」」」」」


 王様のわしの言葉に、ここに揃ったエルフは全員嫌そうにする。


「お黙り! シラタマ王も、言い方ってものがあるだろう!! わたすから説明させてもらうさね」


 一喝してわしまで黙らせたヂーアイの説明は、浜松での惨状。エルフの里よりも、何十倍も多い死者を目の当たりにしたヂーアイは、頭を下げて手伝ってくれるように頼んでいた。

 エルフ達も、それならばと快く了承してくれて、作業に取り掛かる。ただ、緑色の葉をした木を初めて見たのか、枝は欲しいと言って来たので、「どうぞどうぞ」と言ってわしは見守る。


 おお~。やっぱり、エルフは木工業をやらしたらピカ一じゃな。日本の工場並みの速度で皮が剥がされていく。

 しかし、猫の街を作った時の木が余っていてよかったのう。シユウ達に食べさせても全然減らなかったから、在庫処分になってちょうどよかったかも?

 おっと、タダ働きさせてるんじゃから、わしもやらないとじゃな。乾燥のさせ方だけ、ヂーアイに教えてもらおっと。


 わしはヂーアイの元へ行くと、気功を習う。攻撃に使う気功とは少し違っていたので手間取ったが、なんとかマスターして木を乾燥させていく。

 しかし、夢中になってやってしまったので、エルフが昼食の準備を始めたところで、やっと時間の経過に気付いた。


 マズイ……12時から、もう30分も過ぎておる……マズイぞ~~~!!


「ババア! そろそろ戻るにゃ!!」

「もうかい? 昼食も準備させているんだから、食べてから帰ればいいだろうに」

「そんにゃ悠長にゃ事を言ってる場合じゃないにゃ! まだまだ木材は必要だから、多く出していくにゃ~! あと、これ、夜にでも食ってくれにゃ~!!」


 次元倉庫から大量の木と肉を置いたわしは、渋るヂーアイの車イスの取ってを握って連れ去るのであった。


 また木材を取りに来た際に、ヤマタノオロチ肉を食べたエルフは「こんなに美味しい物を貰ってはボランティアにならない」と恐縮していた。



 日ノ本へ転移したわしは、ヂーアイのシワがつるんつるんになるぐらい飛ばし、リータ達の目の前で土下座する。


「遅れてすいにゃせんでした!!」


 わしが地面に頭をこすりつけていると、リータとメイバイが歩み寄り、毛を握って頭を上げさせる。


「何を言ってるんですか~」

「怒ってないニャー」

「にゃ?」

「それで、成果はどうなりました?」

「いっぱい木材を持ち帰って来たニャー?」


 いや……怒っておる! 毛も掴んで離してくれんし……。もしも、冗談でも下手な事を言ったら、ボコボコにされそうじゃ。


「持って帰って来たにゃ~! わしもいっぱい手伝ったにゃ~!!」


 とりあえず、証拠を見せろと言われたので、広い場所に首根っこを掴まれて移動。そこで乾燥済みの木材を、山積みにして見せてあげた。


「こんなに……」

「にゃ~? 頑張ったにゃ~」

「さすがシラタマ殿ニャー!」

「ゴロゴロゴロゴロ~」


 遅刻の罰は無かったが、死ぬほど撫でられて罰となるわしであったとさ。



 それから昼食を食べていないわしはヂーアイも誘って、リータ達に餌付けされながら腹を満たす。コリスは食べ足りなかったらしく、わしのごはんに手を伸ばして来たから、高級串焼きの支給は忘れない。

 そうしてわいわいと食べていたら、玉藻と家康が近付いて来た。


「もうお葬式は終わったにゃ?」

「ああ。とっくに終わっておる。しかし、向こうに丸太がいっぱいあるんじゃが、どうしたんじゃ?」

「猫の国からの寄付にゃ~。エルフ達が頑張って乾燥させてくれたにゃ~」

「おお! あの者達がか。それならすぐに使えるのう」


 玉藻が嬉しそうにしていると、家康からも質問が来る。


「仮設住宅も、もう六棟もあるぞ?」

「それはリータ達が頑張ってくれたにゃ~」

「なんと……これで、かなりの人数が雨風を凌げる。本当に助かった」

「礼にゃらわしじゃなく、リータ達に言えにゃ~」

「お、おお。そうじゃったな」


 家康がリータ達に頭を下げると、リータはあたふたしながら頭を上げるように言っていた。


 けど、尻尾を撫でさせてくれとか言いながら、全員抱きつくっておかしくない? コリスも嬉しそうじゃけど、キョリスが泣くぞ? あと、リータさん、メイバイさん……それは浮気じゃないのか?


 巨大なタヌキのボリューミーな尻尾は、リータとメイバイは辛抱たまらんかったらしい……今までずっと我慢していたらしい……わしが浮気と言ってもしばらく離さなかった……


 リータ達がようやく離れたあと、家康は何故か涙目になっていたから、尻尾に抱きつかれるのはあまり好きではないようだ。元将軍様ならそんな不敬な事はされなかったのだろう。



 そうして玉藻達と軽い打ち合わせをすると、わしたち多国籍救助隊は、遅ればせながら慰霊碑の前に整列し、死者の冥福を祈る。


 それからまた浜松復興に精を出し、被災者の役に立つのであった。

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