063 リータを洗うにゃ~


「すぐ代わる……にゃ~~~~!!」

「どうしたんですか?」


 わしが驚きのあまり毛が逆立ち、大きな声をあげたにも関わらず、リータは裸を見られても、恥ずかしがる事も無く立っていた。


「リータ! 女の子だったにゃ!?」

「そうですけど……何を驚いているんですか?」

「裸を見られても恥ずかしくないにゃ?」

「はい。水浴びをする時は、いつも家族の誰かと一緒でしたから、特には……」


 むう……リータはケロッとしておる。うろたえているわしの方が恥ずかしいくらいじゃ。気を落ち着かせよう。

 さっちゃんやソフィ達とも一緒に入っていたんじゃ。不意打ちを喰らって驚いてしまっただけじゃ。いつもは猫型だったけど……いかん。平常心、平常心。


「ふ、ふ~ん。じゃあ、このタンクの下に座るにゃ」

「あ、温かい。これがシャワーですか?」

「石鹸で髪を洗うから目を閉じてるにゃ」


 わしはリータの髪を洗う。皮脂でベトベトなため、なかなか泡立たずにてこずるが、四度目の洗髪でやっと終わった。


「つぎ、体を洗うにゃ。この布に石鹸を付けて、前は自分で洗うにゃ」

「なんだかお姫様になった気分です」


 わしのお姫様のイメージもそうじゃったが、さっちゃんは自分で洗っておったぞ。わしで洗う事もあったが……

 しかし、体もかなり汚れておるな。いつから水浴びしとらんのじゃ? なかなか泡立たん。


「よし! 終了にゃ!」

「うわ~。いい匂いです~」


 洗髪に四回、体に三回も洗い流しを繰り返してしまった。まさか一人のシャワーでタンクのお湯を足す事になるとは……


「あとは湯船に浸かるだけにゃ」

「猫さんは洗わないんですか?」

「自分で出来るにゃ~」

「私にも手伝わせてください!」

「う~ん。じゃあ、背中をお願いするにゃ。石鹸を付けて、手で揉むように洗ってくれにゃ」

「はい!」


 リータはわしの指示通りに背中を洗ってくれる。


 うっ……これは……


「ゴロゴロゴロゴロ~」

「猫さん気持ちいいですか~」

「うんにゃ。ゴロゴロ~」

「よかったです。それにしても、猫さんは私と違って泡立ちがいいんですね」

「そ、それは毛があるからにゃ~」

「そうなんですか?」


 女の子に汚かったからとは口が裂けても言えない。けっこう裂けてるけど……


「もういいにゃ。流すにゃ~」



 二人でシャワーを浴びて、十分に泡が落ちたら湯船に浸かる。


「はぁ~。極楽にゃ~」

「たしかに温かいお湯に浸かると、そんな気分になりますね」


 あ……つい、日本の温泉に浸かった時のような事を言ってしまった。


「私、お風呂がこんなに気持ちいい物なんて知りませんでした。ありがとうございます」

「気にするにゃ」


 ふう。リータが女の子と知った時は焦ったが、なんとか平常心を取り戻せたのう。まさか女の子じゃったとは……髪も短いし、服装も男装じゃから気付かなかったわい。これが日本語じゃったら気付いたのに、英語じゃなぁ。

 自分の事を「I my me」と言うからわからん。それに名前もリータ。「りい太」。男じゃと思っていたから脳内変換でボクと訳しておった。以後、気を付けねばならんのう。

 そう言えば、昼間にリータの胸や尻を揉んだな……今後、気まずくなるかも知れんし、謝っておいた方が懸命じゃな。


「リータ……昼の事なんにゃが……」

「なんれすか~?」

「その……すまなかったにゃ!」

「ブクブクブク」

「リータ~~~!」


 リータは逆上のぼせせてしまい、湯船に沈んでしまった。わしはすぐに引き上げ、水滴を吸収魔法で取り去り、着流しを着せてベッドに寝かせる。



 危なかった。こんなに早く逆上せるとは思わなんだ。初めてじゃから注意しておけばよかったな。

 それにしても……チラッ。わしの着流しじゃと、小さいからフトモモが見えて逆にエロイ。短くする為に詰めていた分を戻しておけばよかった。

 いまさらベッドで寝てる女の子を脱がすのは気が引けるし……いまはそれより看病じゃ。


 わしは土魔法で細い穴をふたつ、10メートル掘り、地下で繋げる。その穴を車にも繋げて風魔法で片側から空気を送り、地中のの冷たい空気で車内の温度を下げる。


 これでしばらくすれば回復するじゃろう。もう日も暮れそうじゃし、夕飯でも作るかのう。露店で手に入れた物は、パンとジャガ芋じゃったな。

 肉と塩は次元倉庫にあるのを使って、パンとスープでいいか。スープにジャガ芋を入れただけでも、わしの料理としてはランクアップじゃ。今までは、肉と香草だけじゃったからのう。



 わしは車に設置してあるキッチンで調理を始める。スープのレシピは昔、出会ったハンターのルウから習っていたもので、そこに短冊切りにしたジャガ芋を入れるだけ。


 そうしてスープが出来上がる頃になると、リータが目を覚ました。


「う~ん。いい匂い……」

「起きたかにゃ?」

「ここは……」

「わしのベッドにゃ。リータはお風呂で逆上せて寝ていたにゃ~」

「す、すいません!」

「気にするにゃ。わしが教えてなかったのが悪いにゃ。そろそろごはんが出来るけど、食べれるかにゃ?」

「猫さんが料理? 猫さんは剣も使えるし、すごい魔法も使える。なんでも出来るんですね」

「にゃんでもは出来ないにゃ」

「そんな事はないです。私なんてダメダメで……」

「わしだって最初はにゃにも出来なかったにゃ。必要にかられてやるしかなかったにゃ。それにこのスープだって、教えてもらって作れるようになったにゃ。だからリータも教えてもらえれば、出来る事は増えていくにゃ」

「猫さん……私、頑張ります!」

「それじゃあ、ごはんにするにゃ~」


 リータはわしの作ったスープとパンを食べ、「おいしい、おいしい」と連呼する。わしはパンが硬くて不満だったが、リータの美味しそうに食べる姿を見ているとどうでもよくなった。

 一人の食事より、一緒に食べる人が居るのは、いいスパイスだ。


 リータがスープに入っている肉が気になって聞いて来たので、素直に答えたら、むせていた。どうやら黒い動物の肉は初めて食べたらしく、ずっと「高級肉、高級肉」とブツブツ呟いていた。

 食事が終わり、食器を洗おうとすると、リータが皿洗いぐらいやらしてくれと懇願こんがんされたので任す事にした。



 明日はどうするかのう。お金は二、三日は大丈夫じゃし、焦げた家をなんとかするか。目の前に焦げた家があるのも目障りじゃ。

 女の子のリータと狭い車の中で生活するわけにもいかんし、やっぱり立て直しかのう。


「猫さん?」


 わしが明日の予定をソファーに座って考えていると、皿洗いを終えたリータに話し掛けられる。


「私はどこで寝ればいいんでしょうか?」

「そっちのベッドを使ってくれたらいいにゃ」

「そんなわけにはいきません。私がそのソファーで寝ます」

「にゃ? わしはソファーで寝ないからいいにゃ」

「猫さんはどこで寝るのですか?」

「これにゃ」


 わしは次元倉庫からネコハウスを取り出す。


「え……」

「この中で寝るから大丈夫にゃ」

「そんな小さい箱に入れるはずがないです!」

「こうすれば入れるにゃ」


 わしは変身魔法を解き、猫又の姿に戻る。


「え……えぇぇ~~!」

「これは元の姿にゃ。だから大丈夫にゃ」

「頭の中で声が聞こえる……」

「ああ。元の姿では発声が出来ないにゃ。いまは念話で喋っているにゃ」

「猫さんといると、驚かされてばっかりです」

「それはすまないにゃ」

「いえ……でも、その大きさならベッドで一緒に寝ればいいのでは? いや、一緒に寝ましょう! 寝るべきです!!」


 どうしたリータ? 今までは控えめじゃったが、圧がすごいんじゃけど……


「私と一緒じゃ嫌ですか?」

「嫌と言うわけじゃないにゃ……」

「それじゃあ、一緒に寝ましょう!」


 わしはリータにがっしり抱かれ、ベッドに連れて行かれる。そして抱き抱えられながら、眠りに落ちるのであった。





 その深夜……リータの寝言で、わしは目覚めた。


「もう我慢できない……」

「モフモフ~」

「気持ちいい~」


 リータ……お前もか……


 若干、納得のいかないわしは、耳を塞いで、再び眠りに就くのであった。





 翌朝、朝日の光で目覚めたわしは、モフモフ寝言を言っているリータの腕から抜け出し、人型に変身して外に出る。


「ふにゃ~~~……」


 また寂しい一人暮らしが始まったと思ったが、リータのおかげで一日で終わってしまった。そのせいもあって、早急に焼け焦げた家をなんとかせねばならん。

 今日の朝食は、昨日のパンとスープがあるからいいとして、リータの服じゃな。

 いつまでもわしの着流しを着せているのも、短い丈が目に毒じゃ。しかし、金が無い。少し大きめに作っていたから詰めた分を伸ばして、しばらくは寝巻にしてもらうか。

 問題はこのボロボロで汚い服……汚れは落ちるじゃろか? ちょっと洗ってみるか。


 わしは土魔法で、中が空洞の円柱を作る。これはお手製の簡易洗濯機だ。水魔法で水を張り、火魔法で熱湯にしてから服を入れる。そして、風魔法でお湯を優しくシェイクする。その作業を何度も繰り返せば汚れも落ちるはずだ。


 真っ黒じゃ。入れ換えたお湯も、すぐに真っ黒になる。今日中に洗濯が終わるのか……



「ふぁ~。猫さ~ん」


 わしが必死に洗濯をしていると、リータが眠そうに、目をこすりながら車の外に出て来た。


 おお……夜は裸を見た気まずさで顔をよく見てなかったが、こんなにかわいらしい子じゃったんじゃな。栗色の髪も、朝日にキラキラと光ってキレイじゃのう。どことなく、初恋のよっちゃんに似ている……


「猫さん? どうしたのですか?」

「にゃ、にゃんでもないにゃ」


 見惚みとれていたとは恥ずかしくて言えん。白い着流しもリータに似合って……アカン! 下着も履いて無いから、着崩れてエライ事になってる!!


「ちょっと失礼するにゃ。よく眠れたかにゃ?」


 わしは話をしながら着流しを直す。


「はい! こんなに気持ち良く眠れたのは久し振りです。猫さんも抱き心地が良くて、気持ち良く眠れました!」

「そ、それは良かったにゃ。ほい。これでいいにゃ~」


 眠りの感想に、わしを入れなくてもいいんじゃが……


「それで猫さんは、朝早くから何をしていたんですか?」

「リータの服の洗濯にゃ」


 わしは簡易洗濯機から服を出して見せる。


「にゃ??」

「ふ、く……??」


 しかし、わしの取り出した物はボロ布であった。優しく洗濯したつもりだったが、残念ながらリータの服は、原形をとどめていなかった。


「あ~~~!!」

「ごめんにゃ~~~」


 こうしてわしは、ボロ布を持ったまま悲しそうな顔をするリータに、謝り続けるのであった。

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