064 ペットじゃないにゃ~
リータの服を洗って綺麗にするつもりが、ボロ布に変わってしまい、わしは必死で謝った。
リータには詰めてあった着流しを長くした物を着てもらったが、横幅は大丈夫じゃが膝が隠れるぐらいでやはり小さい。横幅が合っている理由はわからない。わしがモフモフしているのは関係ないはずじゃ。
リータは気に入っているのか、これでいいと言い出したが、そう言う訳にもいかん。弁償せねば!
「服はどこで売ってるにゃ?」
「たぶん仕立屋に行けば売っていると思います」
「たぶんにゃ?」
「お金が無いので、王都のお店には行った事が無いので……」
「場所はわかるかにゃ?」
「それもちょっと……」
リータは宿も無し、食べる物にも困っていたんじゃから、服にお金を掛ける余裕なんてなかったんじゃな。
「う~ん。お昼にギルドに行って、ティーサにでも聞くにゃ~」
「そんな……私はこの服でいいですよ? すごく肌触りがいいです」
「サイズが合ってないにゃ。それに慣れてないと動き難いにゃ」
さっきも寝起きで着崩れて、いろんな物が見えていた。男のわしは多少はだけても問題ないんじゃが……ああ、猫じゃよ。猫じゃから問題ない。言い直してやったわ!
「お昼まで、リータは庭で昨日の正拳突きと行進の練習にゃ」
「今日は仕事をしないのですか?」
「リータの服の事もそうにゃが、やりたい事があるにゃ」
「やりたい事ですか?」
「焼け焦げた家をにゃんとかするにゃ」
「そんな事出来るのですか?」
「出来るにゃ。さあ、朝ごはんを食べて行動するにゃ~」
わしは次元倉庫からパンとスープを取り出し、食べ終わると、焼け焦げた家の中を調べる。
石造りじゃから土魔法で簡単に壊せるが、一応中は調べておかんとな。火事の時に人死には無いとローザは言っておったから大丈夫じゃと思うが……出て来ませんように!
逆に何か使える物でも出て来たらいいんじゃが……ダメっぽいのう。
わしは一通り屋敷の中を確認すると外に出る。
骨も使えそうな物も無かったな。一気に行くか!
わしは土魔法で石造りの家を砂に変える。さらさらと家は崩れ、砂埃が舞い上がる。舞い上がった砂も広がらないように操作して、石造りの家に使われていた全ての砂を一箇所にまとめ、固めてしまう。
残った廃材は鉄魔法で集め、木材は風魔法で集める。
わしが解体作業を終えてリータに目を移すと、呆気にとられて正拳突きが止まっていた。
「家が消えました……」
「手が止まってるにゃ。集中してやるにゃ!」
「は、はい!」
さて、更地にはなったが、ここからどうしたものか……。この世界の家をマネて作るか? 参考がお城かお屋敷しかないんじゃよなぁ。お屋敷を建てるには土地も狭いし、マネて作ると土地がいっぱいいっぱいじゃ。
いっそ元の世界の家を建ててしまうか? それなら建築図も間取りもある程度覚えておるし、早く作れるかもしれん。魔法で強化した外観を作れば、簡単で丈夫じゃ。
内装はフローリングでいいかな?
家の形を決めると土魔法で土台から順番に、上に向けて家がニョキニョキと生えて来る。家の形が出来あがると屋根に飛び乗り、黒い瓦屋根風に仕立てる。
外観が完成すると、さっきまで元気よく行進していたリータは、止まってポカンとしていた。
「家がこんなに簡単に建った……」
「足が止まってるにゃ。はい! いちにゃ~! いちにゃ~!」
「いちにゃ~! いちにゃ~!」
うん。純和風のいい外観じゃ。ご近所さんの家と比べると……浮いておるな。急ぎで必要じゃったから仕方がない。内装は明日、外に出て何本か木を持ち帰ってからじゃから、明後日に完成させるか。
早く起きたから、まだ昼まで少し時間があるな。ギルドに行くなら動物を売るか。次元倉庫に売れる物はあったかな? う~ん。黒い動物の食べかけばっかり……食べてないのは、あまり食欲が沸かなかった爬虫類ぐらいか。
黒い動物をそのまま出すと目立つかもしれんし、まだやめておくか。そうなると毛皮……売れば良い値が付くかな?
そう言えば、おっかさん達と一緒に狼の群れと戦った物がまだあったな。黒い動物の肉の方がうまいから手を付けて無かった。ちょっと外傷はひどいけど、綺麗なのを
わしは次元倉庫から狼を取り出して並べる。
さっちゃん暗殺事件の時の狼と足して、十匹か……毛皮が綺麗な、この五匹を持って行くとするか。残りはエリザベスの仕業じゃな。【鎌鼬】で、むやみに切り裂いておったから傷だらけだったり、みっつに分かれていたりしておる。
「今度は狼がいっぱい出て来ました!」
「またこっちに気が向いてるにゃ~」
「だって~。気になりますよ~」
「う~ん……じゃあ、手伝ってもらうおうかにゃ。その前に……」
さっきまで行進しておったから着付けが乱れまくっておる。洗濯でパンツだけはギリギリ残っていてくれて良かった。無かったら、またモロに見てしまうところじゃった。
「オッケーにゃ。服が乱れたら、ちゃんと自分で直すにゃ」
「あ、はい。それで手伝いとは?」
「狼を解体しようと思うんにゃ。出来るかにゃ?」
「それぐらいなら出来ます」
「じゃあ、一緒にやるにゃ~」
「はい!」
リータと一緒に比較的綺麗な狼、五匹を素早く解体する。解体と言っても血抜きと内蔵を取り除くだけなので、すぐに終わった。解体が終わったらビッグポーターに入れる。
女の子に重たい物を持たせるわけにはいかないと、ビッグポーターをわしが担ごうとしたが、リータに奪われてしまったので任せるしかなかった。
「それじゃあ、ギルドに行くにゃ~」
「はい!」
わしとリータは家を出て、ハンターギルドに向かう。なぜかリータはわしの手を繋いできた。嬉しそうな顔をしていたので振りほどく事は出来なかった。
大きな道に出て、人通りが増えてくると聞こえて来るあの声……
「猫!!」
「ぬいぐるみ?」
「噂は本当だったんだ。猫が歩いている」
「猫が散歩しているぞ!」
「飼い主がいたのね」
「私が飼いたかったのに」
「飼い主も同じ服を着ているな」
「お母さん! わたしも猫ちゃんと手をつなぎたいよ~」
リータと手を繋いでいるせいで、若干、会話の内容が変わっておる。いつの間にかリータが飼い主になってしまった。
手を繋いでいるせいか? このペアルックのせいか? 猫と人間ではデートには見えず、散歩に見えるのか……早く服を買わないといけない!
騒ぎの起こる大通りを進み、ハンターギルドの中に入れば、また騒ぎが起こる。
「猫!!」
「かわいい……」
「今日は飼い主と一緒か」
「あの子、誰かな?」
「猫のパーティはリータじゃなかったか?」
「あんなにかわいい子、いたかしら?」
わしより、リータに視線が集まっておる。リータもあわあわして恥ずかしそうじゃのう。でも、小さいわしの後ろに隠れても丸見えじゃぞ?
わしは騒ぎの中を歩き、買い取りカウンターに向かう。そこには、昨日のおっちゃんがいたから、またおっちゃんに話し掛ける。
「今日も狼五匹か。昨日より傷が付いてるからこんなもんだ。いいか?」
う~ん。服を買うには
「ちょっと待つにゃ。毛皮だけでも買い取りしてるのかにゃ? それとも他で売った方がいいかにゃ?」
「ああ、しているぞ。他所で売るのはやめておけ。商才が無ければ買い叩かれるのがオチだ」
「にゃるほど。じゃあ、これをお願いするにゃ」
わしはビッグポーターに手を突っ込み、次元倉庫から昨日狩った角兎の毛皮と、黒い毛皮を一枚取り出す。
「角兎とこれは……いい品持ってるじゃないか。何の動物の毛皮だ?」
「角の無い黒い猪にゃ。頭を切り落としちゃったけど、わかるかにゃ?」
「誰に物を言っているんだ。この脚を見れば……うん。たしかに猪の後ろ脚だな。大きさから3メートルってところか……それだとこんなもんだ」
提示された額は、かなり高いが基準がわからん。買い取り表にも毛皮のみは書いておらんし……
「ちなみに、どういう査定でこうなったにゃ?」
「まぁ気になるよな。このサイズの角無しだと、だいたい毛皮と肉で半々になる。それで毛皮の状態ってところだな。頭の部分と足の少しが、切れて無いからさっきの価格になった。端切れでも、そこそこの値が付くから、次からは気を付けるんだな」
うん。納得のいく説明じゃ。やっぱりこのおっちゃんは信用出来る。
「だからお前の尻尾も、ちょっと切って売るか?」
これが無ければ……売らんと言っておるじゃろう!
わしはサインをして報告書とお金を貰う。そして受付カウンターに向かうと、暇そうにしているティーサに声を掛ける。
「こんにゃちは。暇そうにゃ~」
「こんにちは。この時間は暇ですね。そろそろ休憩です」
「そうにゃんだ。これ、お願いするにゃ」
「狼五匹と……ブラック!? これをまた二人で?」
「違います。猫さん一人です! 今回は絶対にもらえません」
「だ、そうにゃ」
「わかりました。でも、今日はリータちゃんじゃないのですね」
「にゃ? リータならいるにゃ」
「どこにですか?」
「いま、喋ってたにゃ」
ティーサはキョロキョロと周りを見渡し、わしの発言に着流しを着たリータに焦点を合わせる。
「あなたが……リータちゃん?」
「はい」
「え~~~!! 女の子だったの!?」
ティーサもわしと同じように男と思っておったんじゃな。仲間じゃ。
「な、な、なんでですか! 登録の時にも言ったじゃないですか!?」
「本当? ちょっと見せて!」
ティーサはリータのペンダントを受け取り、石版に乗せてカタカタと打つ。石版に文字か浮き出ると口を開けたまた固まった。
「どうしたにゃ?」
「……に、なってました……」
「「え?」」
「男になってました~!」
「え~~~!」
あらら。やっちまったな。ティーサは抜けておるからのう。でも、わしもリータを男じゃと思っていたから同罪か……。このペンダントも所属番号とランクと名前しか書いてないってのも問題があるかも。
「ど、どうしてくれるんですか!」
「大丈夫ですよ。こんなのすぐに書き換えられます。ほら。は~い。これで証拠隠滅ですよ~」
「言い方が悪いにゃ~!」
「あ……すみませんでした!!」
ティーサはカウンターに頭を付けて謝罪する。
「直してくれたなら、もういいですよ」
「リータちゃん……」
「そんなに簡単に直せるなら、わしの職業も直して欲しいにゃ~」
「甘えた声で言われても、それだけは絶対に出来ません!!」
クソッ! どさくさに紛れてのペット卒業作成失敗じゃ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます