175 アイ達と一緒に戦うにゃ~


 わし達は巨大な黒アヒルか鴨かわからない生物を見据え、言葉を交わす。


「アイ。アレはにゃにかわかるかにゃ?」

「アヒルね。あれだけ大きいのは初めて見たわ」

「アヒルが、この森を荒らしている外来種と思ってもいいかにゃ?」

「う~ん。私では判断つかないわね。ただ、この森に居るはずが無いって事はわかるわ」

「にゃるほど。それじゃあこいつを倒して、あとは様子を見てもらうにゃ。行っくにゃ~!」

「「「にゃ~~~!!」」」


 この掛け声は気が抜けるから、他にしてくれんかのう?


 わしは皆の掛け声にずっこけそうになるが、我慢して歩く。そして、次元倉庫から盾として使用できる変型トンファーを取り出し、リータと共に前に構える。

 黒アヒルは、首をキョロキョロと何やらにおいを嗅いでいたが、わし達を視界に入れると突進して来た。


「来たにゃ! リータはわしと一緒に耐えるにゃ!」

「はい!」

「アイ、メイバイ【肉体強化】にゃ。出し惜しみするにゃ!」

「「はい(ニャ)!」」

「マリーは突進の後、黒アヒルの視界を奪うにゃ!」

「はい!」


 わしは口々に指示を出し、突進して来る黒アヒルに備える。すると、黒アヒルは四本の角を前にし、頭突きで突撃して来る。


「グッ……」

「マリー!」

「【エアカッターズ】」

「アイ、メイバイ。いまにゃ!」

「「はい(ニャ)!」」


 わしとリータが盾で耐え、合図でマリーの【エアカッターズ】が黒アヒルの顔周辺に散りばめらる。弱い魔法でも、目をつぶらせる事に成功したようだ。

 そこを左からメイバイ。右からアイが飛び出し、黒アヒルの足を斬り付ける。


「浅くてもいいにゃ。戻るにゃ!」

「きゃっ」


 攻撃を受けた黒アヒルは盾で押さえているわしとリータから、標的をアイに移す。そして、翼を握り拳のようにしてアイを殴り付ける。


「【風玉】にゃ! マリー、翼を切るにゃ!」

「はい! 【エアブレード】」


 わしの【風玉】がアイに向かっていた黒アヒルの翼を弾き、マリーの【エアブレード】が、広がった翼を傷付ける。その隙に、アイは一目散にわし達の元へ戻った。


「ふう。ありがとう」

「いいにゃ。それよりアヒルが何かやりそうにゃ。リータ!」

「はい!」

「クエーーー!」


 わしとリータが盾を構えて皆の前に立つと、黒アヒルは翼を羽ばたかせ、無数の【風の刃】を飛ばす。


「「【土壁】にゃ~」」


 わしとリータは同時に【土壁】を発動し、二枚の土の壁で【風の刃】から皆を守る。リータまで「にゃ~」と言っていたから首を傾げるが、【風の刃】が続いているようなので、リータに見張りを頼んでアイ達と会話を交わす。


「みんにゃ、手応えはどうにゃ?」

「硬いけどいけそうニャー」

「私も指輪のおかげで、魔法も通じていたみたいです」

「私はダメね。刃が欠けた。こんな事なら、武器屋に行っておけばよかったわ」

「じゃあ、わしの武器を貸すにゃ」


 メイバイとマリーは大丈夫そうなので、アイには次元倉庫から取り出した【黒猫刀】を渡す。


「重い……何これ?」

「振れないかにゃ?」

「厳しいわね」

「じゃあ、こっちにゃ」


 今度は、腰に差した【白猫刀】を抜いて手渡す。


「重いけど、これなら……」

「白魔鉱だから魔力も込められるにゃ。アイの武器より短いから、間合いに気を付けるにゃ」

「白魔鉱……」


 アイが【白猫刀】の刃を見つめて何かを言い掛けたその時、リータから報告が入る。


「シラタマさん。動きが変わりそうです!」

「休憩は終了にゃ。リータ、後ろを頼むにゃ」

「はい!」


 わしは【風の刃】が吹き荒れる中、壁から盾を構えて飛び出し、黒アヒルを凝視する。


 まずいのう……飛びそうじゃ。攻撃をしてくれたらいいんじゃが、逃げられたら厄介じゃな。致し方無い。


「作戦変更にゃ。地上はリータ、アイ、マリーで削ってくれにゃ。メイバイは、わしと行くにゃ」

「「「「はい!!」」」」


 お! これじゃよこれ! やっと心の声が通じたか。返事はこれだから気合いが入るんじゃ。



 盾を構えるわしを先頭に走り、メイバイが追う。すると、黒アヒルは翼を羽ばたかせ、飛び立とうとする。


「行かせないにゃ! 【大風玉】にゃ!」


 わしは黒アヒルの上空に大きな風の玉を作り出し、そのまま落とす。黒アヒルは【大風玉】によって、飛び立てずにバランスを崩す。


「メイバイ。しがみつくにゃ!」

「はいニャー!」

「マリー! 頼むにゃ~!」

「【エアブレード】」


 バランスを崩した黒アヒルに、マリーの【エアブレード】が襲い掛かり、隙が出来る。そこを、メイバイをお姫様抱っこしたわしは、黒アヒルに飛び乗る。


「よし。メイバイは右翼を担当してくれにゃ。斬り落とさなくていいにゃ。飛べなくしてやるにゃ~」

「わかったニャー」

「振り落とされるにゃよ~?」

「はいニャー!」


 わしとメイバイは手分けして黒アヒルの両翼を攻撃するのであった。



 その間、アイ達は……


「一時、私が指揮するって事でいい?」

「はい。お願いします」


 アイの質問にリータが頷くと、皆は黒アヒルに視線を向ける。


「じゃあ、アヒルの気を引きに行くわよ!」

「「はい!」」


 地上を任されたメンバーは、アイの指揮の元、リータを先頭に駆ける。黒アヒルもわしとメイバイを見失っていたのか、アイ達を標的にして突進し、踏み付ける。


「くっ……重い。【肉体強化】!」

「リータ。少しだけ我慢して。マリーは視界を奪って!」

「はい! 【エアカッターズ】」

「くらえ~!」


 黒アヒルの踏み付けをリータが盾で耐え、マリーの風魔法が黒アヒルの視界を奪う。そこを、飛び出したアイが軸足に、魔力を込めて切れ味の増した【白猫刀】で何度も斬り付ける。


「マリー! 戻るわ。引き戻して!」

「【ウインドゥ】!」


 アイは跳び上がり、マリーの作り出した強風に乗って、リータ達の元まで戻る。


「マリー、リータ。残り魔力はどれぐらい?」

「そうですね。三割切ったところでしょうか」

「私も似たようなものです」

「じゃあ、引き付けは出来ているし、猫ちゃんの指示があるまで、防御に徹しましょう」

「「はい!」」


 黒アヒルは体当たりや踏み付けを繰り返すが、リータの盾に阻まれ、そのタイミングに合わしたアイとマリーのジャブのような攻撃が積み重ねられるのであった。



 その同時刻……


 さて。翼に着いたけども、どうしたものか。わしがやれば早いんじゃけど、メイバイはどうなったかな?

 うん。落ちないようにバランスを取って、素早く斬り裂いておるな。残して来たみんなの消耗も気になるし、あんなもんでいいかな?

 だが、もしも無理して飛ばれると厄介じゃし、わしが斬ってやろう。【黒猫刀】一閃! よし。綺麗に斬り落とせた。これでわしの仕事はおしまいじゃ。


 わしが黒アヒルの翼を斬り落とすと、黒アヒルは悲鳴をあげて暴れる。揺れが酷いが、なんとか背を伝って、メイバイの元へ近寄る。


「メイバイ。そんにゃもんでいいにゃ。次の目標に行くにゃ」

「う~。もう少しで斬り落とせそうニャー」

「わしが斬り落としたし、それだけやれば飛べないにゃ。みんにゃの魔力も心配だし、トドメといくにゃ」

「わかったニャー!」


 わしとメイバイは、黒アヒルの背から落ちないように移動し、首元へ辿り着く。


「じゃあ、あとは任せるにゃ」

「はいニャ。首はは絶対に斬り落としてみせるニャー!」

「油断だけはするにゃ~」

「はいニャー!」


 それだけ言うと、わしは黒アヒルから飛び降りて、アイ達の元へ向かう。


「ただいまにゃ~」

「猫ちゃん!」

「そろそろフィナーレといくにゃ。首はメイバイに任せたから、アイとリータは足を潰してくれにゃ」

「わかったわ」

「はい!」


 アイとリータの力強い返事を聞くと、わしはマリーを見る。


「マリーは、わしと一緒に引き付け役にゃ」

「はい!」


 マリーからもいい返事をもらうと、次の指示を出す。


「わしのタイミングで出るにゃ。……いまにゃ!」


 黒アヒルが踏み付け、わしが盾で受け止めると同時に合図。アイとリータは左右に分かれて飛び出す。右脚に向かったアイは何度も斬り付け、左脚に向かったリータは何度も拳を振るう。マリーも負けじと視界を奪う為に魔法を放つ続ける。

 そうこうしていると、黒アヒルの脚は使い物にならなくなり、腹を地につける。


「これで最後ニャー!」


 黒アヒルが地に腹をつけた事によって、足場のよくなったメイバイが、回転しながら何度も首にナイフを斬り付け、宣言通り、黒アヒルの首を斬り落としたのであった。



「やったニャー!」

「よくやったにゃ~」

「シラタマ殿~~~」


 メイバイはわしの名を呼び、黒アヒルからわしに向けて飛び降りる。なので、わしは着地地点に入り、落下して来たメイバイを受け止める。そうしてメイバイを降ろすと、皆に声を掛ける。


「みんにゃ、怪我はないかにゃ?」

「大丈夫よ。でも、疲れた~!」

「本当です。もう魔力も少ないです」


 アイとマリーは、初めての大物で疲れたからか、その場に座り込む。その近くでは、リータとメイバイも地面に腰を落とした。


「私も疲れました~」

「私もニャー!」

「みんにゃお疲れ様にゃ~。ひとまず休憩にするにゃ~」


 わしは労いの言葉を掛けると、次元倉庫から大きな布を取り出し、そこに飲み物を並べる。皆は布の上に座ると飲み物に手を伸ばし、喉が潤うと大の字になって寝転ぶ。

 その間わしは、黒アヒルや斬り落とした翼と首を次元倉庫に入れていく。それが終わるとわしも皆の輪に入り、撫で回されてゴロゴロ言わされる。


 そうしてまったりしていたら、アイが話し掛けて来た。


「猫ちゃんは疲れないの?」

「みんにゃが頑張ってくれたから大丈夫にゃ」

「猫ちゃんだったら、一人で倒せたのよね?」

「まぁにゃ。でも、勉強になったにゃろ?」

「そうね。ありがとう。それにしても、この剣……凄い切れ味ね」

「ドアーフに見せたら、切れ味はいまいちって言ってたにゃ」

「ドアーフって、マウヌさん?」

「そうにゃ」


 お! アイにもドアーフで通じた。皆、思う事は一緒なんじゃな。


「この剣、マウヌさんが作ったんだ。白魔鉱ならそうよね」

「いや。わしが作ったにゃ」

「猫ちゃんが!? だから、変な形してるんだ!」

「わしの【白猫刀】を、変って言うにゃ~!」

「名前も変ね……」


 ああ、名前を付けるセンスは無いですよ~だ!


「かわいらしくって、ねこさんに似合った名前じゃないですか」

「かわいいですよ」


 リータさん、マリーさん? 刀がかわいいと言われても、褒められている気がしないんじゃけど……。なんか頭とあごを撫でて来るし……


 わしがリータとマリーに撫で回されていると、メイバイが質問して来る。


「黒くて長いほうは、なんて言うニャ?」

「……【黒猫刀】にゃ」

「「「………」」」


 安易な名前で悪かったな! 心の読めないわしでも、その表情でわかったわ!


「かわいいニャー」

「私も欲しいわ~」


 メイバイもアイも撫でて来たけど、フォローのつもりか?


 しばし皆に撫で回されていると、アイが【黒猫刀】をもう一度見せてくれと言って来たから、次元倉庫から取り出して手渡す。


「こっちは【白猫刀】より重たいから、力がないと振れないにゃ」

「そうね。でも、黒魔鉱の剣は憧れるわ」

「アイ達は誰も持って無いにゃ?」

「高いからね。今回の遠征でお金が貯まったから、剣を二本買う予定よ」

「そうにゃんだ~」


 アイは両手で【黒猫刀】を持って見ていたが、一通り確かめると返して来る。


「猫ちゃんのパーティはいいわね。みんな黒魔鉱の装備なんてうらやましいわ」

「ちょっと無理して買ったにゃ」


 わしが口を滑らせると、リータとメイバイが驚いた顔に変わった。


「無理してたんですか!?」

「ごめんニャー!」

「あの時はにゃ。そのおかげで、買った時よりお金持ちにゃ」


 二人は納得のいく顔をしていないが、お金と聞くと、アイが声を出す。


「武器ひとつでそんなに変わるんだ」

「いえ。ほとんどシラタマさんの活躍です」

「そうニャ。シラタマ殿の力ニャー」

「そんにゃ事ないにゃ。二人で角のある黒い獣も、対等以上に戦っていたにゃ~」

「そうなんだ。あ、そうそう。この仕事も終わったし、ブレスレット返さなきゃね。助かったわ。マリーも出して」


 アイが腕に付けていたブレスレットを外して渡そうとするので、マリーも渋々指輪を外す。しかしわしは、肉球でアイの手を押し返した。


「いいにゃ。あげるにゃ~」

「え……いいの!?」

「嬉しいのですが、こんな見た事も無い魔道具って、高いんじゃないんですか?」

「わしが集めた素材で加工したから、そんにゃにお金は掛かってないにゃ。でも、新技術が使われているから、将来的にはかなりの値が付くと思うにゃ」

「売ったら高いんだ……」

「あげた物だから好きにしてもいいけど、売られると悲しくなるからやめて欲しいにゃ~」


 わしが悲しそうな声を出すと、マリーが口を開く。


「そんな事しませんよ! こんな綺麗な指輪、ずっと見てられます。大事にします」

「そうね。これは使ったほうが稼ぎがよくなるわ」

「帰ったら、モリー達にも渡そうと思うけど……」

「本当!? でも、なんでそこまでしてくれるの?」

「アイ達はいちおうわしの弟子にゃ。危険にゃ仕事をしているから、少しでも助けになりたいにゃ。それと、これからもよろしくって事にゃ」

「ありがとう!」

「ねこさん。ありがとうございます!」

「にゃ!? ゴロゴロ~」


 アイに続き、マリーが礼を言いながらわしをふくよかな物で包み込むので喉が鳴ってしまい、リータとメイバイがわしを睨む。


「「また挟まってる……」」

「にゃ!? 違うにゃ! ゴロゴロ~」

「「ゴロゴロ言うな!」」 

「ゴロゴロ~」



 その後、リータとメイバイに怒られてもゴロゴロ言い続けるわしであった。


 だって鳴るんじゃもん!

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