176 報酬の分け前にゃ~


 アイ達と共に依頼の原因だと思われる黒アヒルを倒し、休憩がてらゴロゴロ言わされてから、森の中から飛行機で飛び立つ。

 村に着くと、村長にフェレットの解体をお願いし、報酬で肉の半分を渡す。アイとマリーはわしのやる事に驚いていたが、不満は言って来なかった。

 依頼の獣が森から出て来る原因は、おそらく大きな黒いアヒルだと現物を見せ、あとの経過観察はお願いする。

 黒アヒルを見た村長は解決したと思い、涙ながらにお礼を言われたが、まだわからないと言っているじゃろ! 村人も崇め奉あがめたてまつらないで!


 村人の行動が面倒になったわしは、フェレットの解体が終わるや否や、車に乗り込み発車。飛行機に乗り継ぎ、王都へと離陸させる。


 その機内では、アイがよけいな事を言いだした。


「猫ちゃんって、本当に『御使い様』だったの!?」

「違うにゃ~。ギブアンドテイクにゃ~。てか、アイ達も『御使い様』のこと知ってるにゃ?」

「ええ。噂には聞いていたわ」

「その噂は間違いにゃ!」

「噂ほどほどこしをしていなかったけど、近いものはあるわね。あれだけ肉を寄付したら変わりないかも?」

「寄付じゃないにゃ~。報酬にゃ~」


 わしがアイの言葉を「にゃ~にゃ~」訂正していると、マリーも会話に入って来る。


「普通のハンターは自分で解体しますよ」

「そうよ。猫ちゃんの収納魔法なら、腐らないんでしょ? 稼ぎが減るじゃない」

「全部売らにゃくても、毛皮とブラックだけで、結構にゃ額になるからから問題無いにゃ」

「たしかにそうですね。普通のパーティなら、あの量の肉は持ち帰れないし、こんなに少人数では出来ません」

「フェレット四十六匹に黒いボスフェレット、10メートルの黒いアヒルか……戦ったのも、収納魔法に入ったのも、見たのに信じられないわ」

「本当です。どうなっているのでしょう?」


 マリーはそう言いながら、わしの胸元に手を入れる。


「にゃ!? 服の中に手を入れるにゃ。こちょばいにゃ~」

「あ、モフモフしているので、つい……」

「ついにゃら、すぐに服から手を出すにゃ~」

「え~~~!」

「集中力が乱れて、落ちるにゃ~」

「うぅ……帰ってからにします」


 まだ撫で回すのか……。マリーは抱きついたりするから、柔らかくて大きい物が当たって困るんじゃよな~。ここは、リータ達に助けてもらおう。


「そ、それは、リータとメイバイに聞いてからにしてくれにゃ」

「少しぐらいならいいですよ」

「私もいいニャ。失礼な態度を取ってしまったから、今日は寝るのも譲るニャー」

「飼い主の許可も出ました!」

「にゃ……」


 いつからリータとメイバイが飼い主になったんじゃ? わしは大黒柱だったはずなんじゃが……

 喧嘩していたメイバイが譲っておるし、角が立たないように今日はマリーの所で寝るか。約束しておったしのう。じゃが、挟まれませんように! ホンマホンマ。



 飛行機は夕暮れ時に王都に近付き、着陸してから車に乗り継ぐ。今日も商人達の列に並んでみたが、いつも通り降ろされて、ハンターギルドに向かう。

 そしてギルドに入ると、ティーサに依頼の報告をする。


「はあ。10メートルの黒いアヒルですか……」

「まだ原因かわからにゃいけど、これであの一帯での獣の湧き出しが起こらなかったら、解決でいいかにゃ?」

「そうですね。似たような依頼が出なければ解決です。でも、様子を見ますので、報酬の受け取りはひと月ほど遅れます」


 遅れるのか……。アイ達に給金を支払いたかったからすぐに欲しかったんじゃが……まぁフェレットの肉とアヒルを売れば、支払いは問題ないか。


「わかったにゃ」

「あ。それと、ギルマスが猫ちゃんが戻ったら、すぐに部屋に来るようにと言っていました」

「スティナがにゃ?」

「何か疲れたような顔をしてましたけど、また何かやらかしたのですか?」

「またってなんにゃ~。にゃにもした事ないにゃ~」

「本当ですか?」


 ティーサは何を疑っておるんじゃ? わしは何もやらかした事がない! と、思われる!!


「とりあえず行って来るにゃ~」

「リータちゃんもメイバイちゃんも、来て欲しいって言っていましたので、行ってください」

「「はい(ニャ)」」



 ティーサにうながされ、わし達はスティナの部屋に向かう。アイ達はテーブル席で待っているように言ったけど、興味本意でついて来やがった。

 ついて来たものは仕方がない。ドアをノックし、許可を得て部屋に入る。

 しかし中に入ったものの、読み掛けの書類があったらしく、スティナにソファーに掛けるように言われたので座って待つ。勝手に自分の出したお茶をすすりながら……


 ズズ~。麦茶のホットはいまいちじゃな。みんなは不満がなさそうじゃが、やっぱり、緑茶が欲しいものじゃ。

 同じお茶の葉から出来る紅茶があるから作れそうなんじゃが、製法がわからん。それに茶葉も売っているところを見た事が無いんじゃよな~。

 しかし、スティナはわしの家に毎日のように来てるのに、部屋に呼び出すとはなんじゃろう? そう言えば、昨日は珍しくアダルトフォーの襲来は無かったな。みんな仕事で忙しいんじゃろうか?


 しばらくお茶をすすっていると、スティナの手が止まり、わし達の正面に座る。そして……


「ズズズズ、うるさいのよ!」


 いきなり怒られた。


「まあまあ。カリカリしてにゃいで、スティナも飲むにゃ~」

「はぁ。落ち着く~……じゃない!」

「そんにゃに怒ってどうしたにゃ~? まさか、ストレス発散で怒る為に呼んだにゃ?」

「違うわよ。例の獲物の件よ」

「あ~。打合せだったんにゃ」

「それでそっちの二人は……」


 スティナは、アイとマリーをチラッと見るので、わしが説明する。


「アイとマリーは知ってるから大丈夫にゃ。口止めもしてあるにゃ」

「そう……。まぁいいわ」


 わしの説明を聞いて、スティナは諦め気味にようやく本題を切り出す。


「大きさを聞き忘れていたんだけど、変な噂を聞いたのよね。山みたいな獣が南の小国を襲ったとか、手前で消えたとか……」

「あ、スティナも知ってたんにゃ。狩って来た白い獲物はそれにゃ」

「はあっ!!??」


 スティナは驚きのあまり、テーブルを叩いて立ち上がった。


「声が大きいにゃ~」

「山みたいに大きいって、どこに出すのよ!?」

「50メートル以上あるから、街の外しかないかにゃ~?」

「なに、その化け物……嘘よね?」

「本当にゃ~」


 わしが事実を言っているのにも関わらず、スティナは隣に座るリータ達を見る。


「リータ?」

「本当です。白い象で、鼻は七本ありました」

「嘘よね。メイバイ?」

「本当ニャ。シラタマ殿の本気の魔法も、ネコパンチも凄かったニャ-」

「ネコパンチ……」


 お! スティナはあっちの世界に行っておるな。面倒そうじゃし、今の内に帰ってしまおう。


「用件はそれだけかにゃ? それじゃあ行くにゃ~」

「待ちなさい!」


 チッ。復活しやがった。


「そんな物、女王陛下の誕生祭に出したら大騒ぎになるわよ!」

「じゃあ、出さなきゃいいにゃ」

「そんなわけにはいかないわ。王殿下にも白くて大きな獲物を出すって言ってしまったし……」

「じゃあ、出すしかないにゃ~」

「くっ。時間が無い。何かいい案は……そうだ! キョリスを狩って来て!! 東の山に居るらしいの。シラタマちゃんなら、きっとすぐに見付けられるわよ!」

「嫌にゃ」


 わしがスティナの代案を即座に断ると、スティナは顔を赤くする。


「どうしてよ? このままだと依頼失敗扱いにするわよ!」

「キョリスには世話になったから、わしには殺す事が出来ないんにゃ」

「え……キョリスって生きてるの?」

「生きてるから狩って来いって、言ったんじゃなかったにゃ?」

「いえ……勢いで?」


 キョリスが生きていると知ったスティナは、ややテンションが下がった。


「ちなみにだけど、キョリスを他の者に狩らせるのもお勧めしないにゃ。あいつはイサベレの十倍強いにゃ。それにもう一匹、ハハリスってキョリス以上に強いリスがいるから、関わらないほうがいいにゃ」

「伝説卿の十倍……ハハリス?」

「コリスって子供も居るけど、コリスに触れるとキョリスが怒るから、絶対にやめたほうがいいにゃ」

「なんでそんなに詳しいの?」

「家族ぐるみの付き合いだからにゃ~」


 わしの忠告を聞いたスティナが目をパチクリしていると、リータとメイバイは、キョリスに会った時の感想を述べる。


「スティナさん。私も会いましたけど、怖かったです」

「声も体も大きかったニャー。私も生きた心地がしなかったニャー」

「二人も見たの? 嘘……」


 今日のスティナは「嘘」ばかり言っているな。自分で切り出したのに信じられないのか。


「この件は、女王にも報告しているにゃ。スティナと同じ顔をしていたにゃ」

「陛下に報告する手間は省けるわね……」

「で、白い獲物はどうするにゃ? これ以上に素晴らしい物は無いと思うにゃ~」

「大きさを無視すればそうよね……もういいわよ! 出せばいいんでしょ! 出せば!!」


 やっと折れたか。これで巨象の件は解放されるかな?


「あとで飲みに行くからね!」

「いつも飲みに来てるにゃ~」

「今日はやけ酒よ! 寝かさないから!!」


 結局、解放されないわしであったとさ。



 その後スティナは、白い巨象の出す場所と日取りを王のオッサンと「打合せし直さないと」と、頭を抱えていたので静かに逃げ出し、皆を引き連れて買い取りカウンターに向かった。


「おっちゃん。10メートルの黒いアヒルがあるけど買うにゃ?」

「10メートル!?」

「あと、黒いフェレットと解体済みのフェレット四十四匹あるにゃ。その内、二十匹は毛皮のみにゃ」

「また多く持って来たな」

「あ、黒いフェレットの毛皮とアヒルの羽毛はわしも欲しいにゃ。この場合、どうしたらいいにゃ?」

「自分で解体するか、ギルドでやる方法がある。手数料はさっ引くがな」


 売り上げが下がるのか……まぁ仕方ないか。


「面倒だし、お願いするにゃ~」

「フェレットの毛皮はいいけど、アヒルの羽毛はこっちも欲しいな」

「じゃあ、羽毛は三分の一貰うにゃ」

「助かる。交渉成立だな。でも、今日はやる事が多いから、アヒルは明日持って来てもらえるか? 黒いフェレットの毛皮も、その時に渡す」

「わかったにゃ」

「それじゃあ、地下の冷蔵庫で出してくれ」


 冷蔵庫に皆で行くには無駄になるので、わしとおっちゃんだけで冷蔵庫に向かう。そこでアヒル以外を出して、ティーサに昇級ポイントの手続きをしてもらい、帰路に就く。アヒルの昇級ポイントの手続きは、後日する事となった。


 家に帰ると、居間でアイとマリーに今日の仕事の分け前を、わしのポケットマネーから支払う。


「こんなにいいの?」

「にゃ? わし達のほうが多く取ってるにゃ。アヒルを売った代金は値段がまだ決まってないから、また今度にゃ」

「アヒルもくれるの!?」

「私達は無理矢理ついて行ったのに悪いですよ」

「仕事をしたら対価を支払うのは当然にゃ。受け取ってくれにゃ~」

「……それじゃあ、有り難くいただくわ」


 お金の押し付け合いは、アイ達が折れる事で決着。その後は、和気あいあいと喋る。


「それにしても、毛皮や羽毛なんて、どうするのですか?」

「毛皮は寝室に敷くかにゃ? 羽毛は布団にするにゃ~」

「贅沢ね。まるで、貴族みたいよ」

「そうにゃのかにゃ?」


 わし達が今日の話をしていると、その輪に入って来るアイツ……


「黙って聞いていれば……なんで売らないのよ! もったいないじゃない!!」

「うるさいにゃ~。エレナには関係無いにゃ~」

「関係あるわよ! アイとマリーは私のパーティよ。仲間が取りっぱぐれる姿は見過ごせないわ!」

「そこそこ渡してるにゃ~」


 エレナと「にゃ~にゃ~」言い合いしていたら、アイとマリーがわしの味方につく。


「そうよ。日帰りで私達の平均的な稼ぎの三日分も貰えたら十分よ。アヒルもあるから、十日分にはなるんじゃない?」

「それに私達が無理を言ってついて行ったのですから、文句なんて言えませんよ」

「ぐぬぬぬぬ」


 エレナはぐうの音も出ておらんな。あれ? 似たような事があったような……


「にゃ! 出会った時も同じ様なやり取りをしていたにゃ!」

「ほんとだ!」

「あの時も、ねこさんの食べ物を取ろうとしていましたね」

「懐かしいにゃ~」

「は、話を逸らさないで!」


 まだ納得がいかないとエレナがわしに噛み付こうとしたが、モリーとルウがエレナの肩を掴んだ。


「エレナ、諦めろ。猫が正しい」

「そうよ。毛皮でお腹は膨らまないわ」

「ぐぬぬぬぬ」

「またにゃ……そうそう。モリーとルウにプレゼントがあったにゃ」


 わしはそう言うと、次元倉庫から、指輪、腕輪、ネックレス、アンクレット、各種アクセサリーを取り出しながらプレゼントの説明をする。


「二人は肉体強化の魔道具でいいかにゃ? 形はこの中から選んでくれにゃ」

「そんな高価な物、貰えない」

「これでどれだけ食べ物が買えるか……」

「わしの弟子特権にゃ。遠慮せず貰ってくれにゃ」


 なかなか受け取ってくれないモリーに、アイが前に出て説得する。ルウは……たぶん普通に受け取ると思う。


「私もマリーも貰ったから、お言葉に甘えましょう」

「そうか……。なら腕輪にする」

「私も腕輪かな~?」

「わかったにゃ~」


 わしはモリーとルウの要望通り、腕輪を仕立てて手渡す。するとアイツが、わしの前にひざまずき、かしこまった言葉を使いだした。


「猫様。私には無いのでしょうか?」

「急に畏まって、なんにゃ?」

「度重なる非礼、どうかお許しください」

「う~ん……エレナは売りそうだからやめとくにゃ」

「なんでよ~!」

「「「「アハハハハ」」」」

「にゃはははは」


 わしがあげないと言うとエレナはツッコミ、皆で爆笑となった。


「笑ってないで、ちょうだいよ~」

「わかったから抱きつくにゃ~」

「本当!?」

「エレナは弓を使うから、どんにゃ魔法を入れていいかわからにゃいから後回しにしただけにゃ。自分が使えたら便利な魔法を考えてくれにゃ」

「なんでもいいの?」

「わしが出来る範囲なら、にゃんでもいいにゃ」


 エレナは悩むかと思っていたが、すぐに答えを出す。


「じゃあ、土を操作出来る魔法にして!」

「土にゃ??」

「壁を作れたら、自分を守りながら弓を射れるし、高所から狙う事も出来るでしょ? もしもの場合は、みんなの盾も作れるわ」

「アイ……エレナがまともにゃ事を言ってるにゃ……」


 わしが驚きながら、アイ、モリー、ルウ、マリーを見ると、同じ表情をしながら呟く。


「信じられない……」

「エレナだよな?」

「何か悪い物でも食べた?」

「みんな、エレナさんに失礼ですよ。わたしもおかしいと思いますが……」

「マリーまで!? ひど~~~い!」


 皆の酷い言い分に、エレナは叫んだ。その怒りの中、わしは思った事を口走る。


「てっきり、お金を出せる魔道具にしてくれとか言って来ると思ったにゃ~」

「「「「そうそう」」」」

「その手があったか~~~!!」

「「「「「………」」」」」


 エレナのツッコミは全員で無視して、土魔法入りのアンクレットを手渡した。


 この日は、エレナからの会話は全て無視するという暗黙の了解が成されたのであった。

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