031 王女様と話すにゃ~
我輩は猫又である。名前は……シラタマだ。もう、そう呼べ!
この世界に生まれ落ちてから二年と七ヶ月。待望の名前が食べ物だなんて、女房に知られたら笑い死にしてしまう。アマテラスは変な報告入れておらんじゃろうな? 心配じゃ。
わしが決死の覚悟で侵入してみれば、助けはいらんと言われ、一年振りに会った兄弟達は別人(猫)のようになっていて、現在わしは現実逃避まっ只中じゃ。さて、自分の世界にいても仕方がない。話を進めよう。
「あの~。王女様。よろしいでしょうかにゃ?」
「サンドリーヌでいいよ。それに、そんなに畏まらなくてもいいよ。話し辛いでしょ?」
「それじゃあ、お言葉に甘えて、サンド……ササトリート……」
「言いにくい? 好きに呼んでいいよ」
「じゃあ、さっちゃん?」
「変な愛称ね。猫の国の呼び方かしら? わたしの事はさっちゃんでいいわ。それでどうしたの?」
「兄弟達は仲が悪いのかにゃ?」
「そんなことはないよ。ね~?」
「しかし、きょ、ルシウスがエリザベスに殺されるって言ってるにゃ」
「え! 猫の言葉がわかるの?」
「わしも猫だにゃ~」
「あ、そっか」
食いつくところはそこじゃないと、わしは思うぞ。
「殺される? ひょっとしてさっきの毒……」
さっちゃんはさっきまでのテンションと打って変わり、急に青ざめ、
「この子、どうしたんじゃ?」
「あ~。やっと気付いたのね」
「気付いたとは?」
「ご主人様は命を狙われているのよ。さっきもそうだけど……」
エリザベスが言うには、最近おかしな事が起き始めているみたいだ。さっちゃんと一緒に歩いていると上から花瓶が落ちてきたり、石像が倒れてきたりしたそうだ。
最初は事故かと思っていたが、日に日にエスカレートして、矢や剣が飛んで来るようになったとのこと。それらを事前に察知したエリザベスが、ルシウスの体を使って回避していたらしい。その都度、ルシウスは痛い思いをしたそうだ。
「エリザベスが気付いたなら、エリザベスが止めればよかったのでは?」
「痛いから嫌よ。それに、こいつの方が体が頑丈じゃない」
兄弟をこいつ呼ばわり……エリザベス、怖い子じゃ。
「ルシウスがかわいそうじゃ」
「生きてるんだからいいじゃない」
「死にかけたよ!」
「ルシウスに、さっきは何が起こったんじゃ?」
「ご飯に出てたスープから嫌な匂いがしてたから飲ませただけよ」
つまり毒とわかって飲ませたのか……ひどい。ルシウスが不憫じゃ。皿をひっくり返したらいいじゃろうが! そりゃ、わしに泣きつくわ。
それはそうと毒か。第三王女って言っておったし、後継者争いってことかのう? こんな少女を殺そうとするとは世も末じゃ。
「だいたいの事態はわかったけど、兄弟達の性格がだいぶ違うんじゃが、何があったんじゃ?」
「そう? 変わったかしら?」
「全然違うわ!」
「あ……そう言えば、ルシウスは軟弱になったわね。お母さんが死んでからルシウスが塞ぎ込んじゃったし……それに、こんな訳のわからない所に連れて来られて……あんたもいないし……」
頼りのルシウスは頼りにならないから、エリザベスが変わらないといけなかったのか。わしが森で遊んで……もとい。修業している時も辛い思いをさせていたのか。エリザベスよ。すまなかったな。
「まぁ最初のうちは気を張っていたけど、ご主人様は優しいからね。すぐにここの豪華な暮らしに慣れたわよ」
謝罪を返せ! わしだってこんな生活したかったわい!
「逃げ出そうとしなかったのか?」
「したわよ。でも、ご主人様から一定距離離れると苦しくなるのよ。ちょうど外のあの辺り……」
「どうやって調べたんじゃ?」
「それはルシウスを……」
「いや、いい! 聞きたくない!」
ルシウスが苦しんでいる姿しか思いつかん。話しを変えよう。
「逃げられないなら、戦おうとしなかったのか?」
「お母さんが勝てない相手に? ルシウスは使い物にならないのに? 人間に敵意を向けると苦しくなるのに?」
「懸命な判断でございます」
エリザベスさん。怖いですよ。ルシウスも震えておるし、そんなに歯を
「そうじゃ! おっかさんを殺した奴らは、いま、どこにおるんじゃ?」
「さあ? 最近、気配を感じないわね」
いないのか? だからこんなに簡単に侵入出来たのか。じゃあ逃げ出すのも簡単じゃ。問題は、兄弟達がさっちゃんから離れられない事か……魔法じゃろうか?
魔法書から類似の魔法を見つけられればいいんじゃが、時間が掛かるのう。使用者を探す方が早いかな? さっちゃんが教えてくれたら楽なんじゃが、教えてくれるかな?。
どっちにしても時間が掛かりそうじゃし、しばらく厄介になるとするか。豪華な食事も食べてみたいしのう。
「しばらくわしも残って、エリザベス達がここから離れられるようにするから、それが終わったら一緒に帰ろう」
「だから嫌って言ってるでしょ!」
「僕もここの暮らしの方がいい」
ルシウス~! お前までわしを裏切るのか。いったいどんな豪華な食事が出るんじゃ。明日の朝が楽しみじゃのう……違う!
「あんた、ここに残るならご主人様を助けてあげてよ」
エリザベスはさっちゃんが心配なのか。実はいい子じゃもんな。わしは知っておるとも。
「ご主人様が死んだら、いい暮らしが出来なくなるかもしれないからね」
知らん子じゃった! わし、もうツッコミ疲れたわい。もうツッコまんわ。へ~へ~。やればいいんでしょ。やれば。
「わかったわい。帰る話は、また今度しよう」
「だから帰らないって……それより、その姿はなによ?」
遅っ! 今頃!? あ……ツッコんでしまった。くそう……
「人間を真似て変身してみたけど、エリザベスもルシウスも驚かないんじゃな」
「あんたが変なのはいつもの事でしょう? いまさらよ」
「そうそう。いつも変」
みんなそんな目で見ていたのか……悲しいぞ。わし
わしがうなだれていると、兄弟達が擦り寄ってくる。
「まぁ生きていてくれて嬉しいわよ」
「そうそう。エリザベスはいっつも心配してたんだから」
「馬鹿! あんた噛むわよ!」
「ぎゃ~! 噛まないで」
「それ、ルシウスが、よくわしに言ってたヤツ」
「あ!」
「ホントだ」
「「「アハハハハ」」」
兄弟三匹、無事を確認し、揃って「にゃ~にゃ~」と笑い合う。そんなわし達の賑やかな声に引かれて、さっちゃんが話し掛けてくる。
「みんな楽しそうね。どうしたの?」
わしは代表して念話で会話をする。
「一年振りに兄弟が揃ったから、懐かしんでいたにゃ~」
「みんな兄弟だったの!? 私のせいで仲良し兄弟を引き離していたのね……ごめんなさい」
「どうして謝るにゃ?」
「去年、私の十歳の誕生日にお父様がプレゼントは何がいいって聞かれたの。それで白い猫さんが欲しいって言ったから……」
「もう終わった話にゃ。おっかさんも生き返らないにゃ」
「お母さんまで……」
「いたっ! 何するんじゃ!」
さっちゃんはわしの発言で落ち込んでいく。それを見ていた兄弟達からネコパンチをいただいた。兄弟達の方が、元人間のわしより空気が読めるみたいだ。
「その話しは置いておくにゃ。それよりも、さっちゃんに危険が迫っているにゃ。言ってる意味はわかるかにゃ?」
「……うん。今日の毒入りスープの件ね」
「それ以前にも兄弟達が守っていたにゃ」
「そうなの!? 二人ともありがとう」
さっちゃんは、兄弟達を優しく撫でながらお礼を言う。
「でじゃ。首謀者はわかるかにゃ?」
「……わからない」
「それじゃあ、命を狙われる理由はないかにゃ?」
「それなら……」
さっちゃんは思い当たる理由を語る。この国は代々女王制ををとっており、次期女王にはみっつ年上の双子の姉、どちらかが継ぐ流れであった。
しかし、この双子の姉が継ぐ年齢が近付くにつれて険悪になっていき、
「首謀者は双子の姉の、どちらかと言うことかにゃ?」
「そんな事ない! あの優しいお姉様方が、私を殺そうだなんて……」
肉親がそんな事をするなんて信じたくは無いじゃろうなぁ。じゃが、証拠は無いけど関係は無くはないじゃろう。いちおう他の可能性も
「王女様達に、派閥なんかは無いのかにゃ?」
「……あるよ」
「お姉さん達じゃなかったら、その派閥の者がさっちゃんを危険に
可能性じゃけどな。さっちゃんが死ねば、継承権が姉に移ると思う輩もおるじゃろう。現時点では姉が一番怪しいけど言えないな。さっちゃんに悲しい顔をさせたら、兄弟達にまた殴られそうじゃしな。
「そんな……」
「まぁ心配する事ないにゃ。さっちゃんはわしが守るにゃ」
「え? 守るって?」
「こう見えて、わしは強いにゃ。任せるにゃ~」
「どうしてお母さんの
「兄弟達に頼まれたにゃ」
「みんな……ありがとう!」
さっちゃんはそう言って涙を浮かべ、わしと兄弟達を撫で回す。そして撫で回す、撫で回す……
撫で過ぎじゃ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます