091 続・リータ、頑張る


 私は黒く大きなイナゴと対峙する。さっき連れていた小さいイナゴを倒されて、ギリギリと声を出し、怒っているように見える。


 うっ……猫さん怖いです。黒い動物と何度か戦った事はあるけど、いつも猫さんがそばで守ってくれていたから全然怖くなかったのに……一人だと思うと弱音が出てしまう。

 猫さんは、いまも私よりも多くのイナゴを相手にしているはず。あんなにいたんだ。猫さんでも時間が掛かっても仕方がない。覚悟を決めろ。猫さんが作った盾もある。時間を稼げば、きっと猫さんが助けに来てくれる。

 ……もしも黒いイナゴを一人で倒したら、猫さんは褒めてくれるかな? ダメダメ。さっきそれで、よけいな攻撃を受けてしまった。でも、猫さんの教え通り慎重にやれば……


「ギギギ」

「え? キャーー!」


 黒イナゴは羽を広げ無数の【風の刃】を私に飛ばす。私は盾を力強く構え、【風の刃】が止むのを待つ。


 いつ止まるの? 長い……黒イナゴは止まって、魔法を撃っているから逆にチャンスかも? さっきは避けられたけど当たりさえすれば……


「【土槍】!」


 私は黒イナゴの真下から腹に、土の槍を突き立てる。


 当たった?


 しかし、黒イナゴの使う【風の刃】は、一瞬止まっただけで、すぐに私に襲い来る。


 ウソ。また避けられた。私の魔法の発動速度では遅いんだ……どうしよう。猫さんならこんな時……考えろって言うかな? 状況を見て自分の出来る事を考えろって、いつも言っていた。

 私の出来る事……守る事、土魔法、あとは殴る? そうだ。猫さんが飛行機の上でくれた物があった。トゴトゲの付いた土の塊に、穴が四個空いている。指に嵌めろって言っていたけど、これは世に聞く結婚指輪かな?

 まだ付き合ってもいないから、婚約指輪かな? 凄く嬉しい! こんな状況なのに、自然と顔が綻んじゃう。婚約指輪なら右手に嵌めるんだよね。猫さん。私、やります!



 リータはメリケンサックを装備した。大事な事なので、もう一度言おう。リータは利き腕の右手にメリケンサックを装備した。



 私が【風の刃】を盾で受け、メリケンサックを装備すると、黒イナゴの行動が変わった。


 やんだ?


 私が盾から顔を出すと、黒イナゴは凄い速さで突進してきた。私は避けずに正面から黒イナゴの体当りを盾で受ける。


 くっ。重い。……重い? 黒イナゴのほうが大きくて重いはずなのに、猫さんの一撃のほうが重たい。これはどういうこと?


 私は疑問を抱くが、黒イナゴは攻撃の手を休めない。黒イナゴは後ろに跳ぶと、さっきより魔力を込めた、大きな【風の刃】を飛ばす。私は盾で受け止めるが、黒イナゴは、その間に横に移動し、また突進して来る。


 速い! ……速い? 猫さんのほうがはるかに速い。これなら余裕で間に合う。


 私は体当りを受け止めるが、黒イナゴはまた後ろに飛んで【風の刃】を撃ち、体当りをして来る。何度も同じ攻撃が続き、盾から嫌な音が聞こえた。


 ピシッ……


 いまの音……


 何度も繰り返された黒イナゴの猛攻に、私の持つ盾に亀裂が入った。


 あ……猫さんから貰った盾が……


 黒イナゴは、そんな事にお構い無く、攻撃の手を休めない。


 このままじゃ、持たない。なんとかしないと……何度も同じ攻撃だからタイミングは取れた。あとは勇気を持って前に出るだけだ。猫盾ちゃん、もう少しだけ我慢してね。


 黒イナゴはずっと続けているパターン。【風の刃】を放ち、移動して私に体当りをする。


 ここだ!


 私は黒イナゴを盾で受け止める。が、黒イナゴの衝撃で盾は砕けてしまった。


 猫盾ちゃん……この~~~!


 私は黒イナゴの突進を盾で受け止めた瞬間、前に出て右腕を振りかぶる。


「バカ~~~~~!!!」


 そして振りかぶった拳を黒イナゴにぶつける。拳は黒イナゴの顔に減り込み、振り抜いた拳の勢いで、黒イナゴは遠くにぶっ飛んだ。


 やった? ………まだ飛んでる。


 私はぶっ飛んだ黒イナゴを目で追い、着地するまで目を離さない。そうして黒イナゴが着地するのを見ていると、白い物が目に入る。

 ズシンと大きな音を立てて、地に落ちた黒イナゴの前に猫さんが現れたのだ。


 猫さん……猫さんだ!


 私は自然と駆け出す。猫さんはそんな私を見ずに、猫さんの後ろに落ちた黒イナゴをずっと見ている。私はそんな猫さんに飛び付き、抱き締めた。


「猫さん! うぅぅ……私……黒イナゴが……猫盾ちゃんが……お父さんが……婚約指輪……怖かった……でも……うわ~~~ん!」


 私は何から話せばいいかわからず、混乱して泣き出してしまった。そんな私を、猫さんは優しく頭を撫でて、声を掛けてくれる。


「よ、よくやったにゃ……」

「猫さ~~~ん!」

「も、もう大丈夫にゃ。イナゴの群れは、リータが倒した黒いイナゴで最後にゃ。リータが村を救ったにゃ~」

「うわ~~~ん!」


 私じゃない。全て猫さんのおかげだ。

 猫さんがいなかったらこんなに早く村に辿り着けなかった。猫さんがいなかったら、イナゴの群れは退治できなかった。猫さんがいなかったら、私は戦えなかった。猫さんがいなかったら、村は壊滅していた。

 私は猫さんに助けてもらってばかりだ。猫さん……本当にありがとう。


 でも、なんで口ごもっていたの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る