090 御使い様ってなんだにゃ~?


 イナゴの黒い副ボスは、わしのかっこいい攻撃で息絶えた。次はボスじゃな。おうおう。ギリギリと音を立てて怒っておるのう。そんなに怒っても怖くないわい。


 わしは黒いボスイナゴに戦いを挑むべく、歩み寄る。だが、ボス戦にはまだ少し早かったみたいだ。


 ブーン、ブーン、ブーン、ブーン……


 ブンブン、ブンブンうるさいわ! うお! 大量のイナゴが飛んで集まって来ておる! 気色悪い……てか、ギリギリ言っておったのは仲間を呼んでおったのか。探知魔法!

 あら? 外にいたイナゴが全部向かって来ておる……このボスイナゴは汚い奴じゃのう。男の喧嘩はタイマンじゃろう。空から【氷槍】で虐殺しまくった奴に言われたくないか。

 しかし、リータの所に、二匹接触しているっぽい。大丈夫じゃと思うが、急がせてもらおう。



 わしは一気に決めるべく、【氷槍】をイナゴの数だけ浮かび上がらせる。そして、もう一本の刀、【黒猫刀】を次元倉庫から取り出し二刀流になる。


 さあ、行こうか!


 わしは一直線にボスイナゴに向かって走り出す。ボスイナゴはギイギイ鳴くと、イナゴは空から、地上から、波状的にわしに襲い掛かる。

 わしは近いイナゴには、二本の刀で斬り伏せ、遠いイナゴには【氷槍】を突き刺して、次々に数を減らしていく。

 ボスイナゴは隙をうかがい、チャンスがあれば【風の刃】を飛ばし、時には味方のイナゴを目隠しにして、イナゴごと、わしに攻撃を加えようとする。

 わしはそんな攻撃も冷静に【土壁】で、イナゴを【風の刃】とサンドイッチにして数を減らす。


 これでラスト!


 わしは残った最後のイナゴを刀で斬り伏せ、ボスと一対一に持ち込んだ。


 ボスイナゴが味方を切り刻んでくれたから時短になったわい。ありがたやありがたや。っと、遊んでないで、さっさと終わらせないと、リータが危ない。



 わしは一息吸うと、ボスイナゴに向かって走り、刀を振るう。ボスイナゴは跳んでかわし、わしの後ろに付くと、太い後ろ足で蹴りを放つ。わしは前方に飛び、残っていた【氷槍】を全て、ボスイナゴに放つ。


 う~ん。けっこう硬いな。【氷槍】じゃ、かすり傷を追わすぐらいか。それにあの蹴りは強い。当たったら何処まで飛んで行くんじゃろう? まぁ当たればの話じゃけど、なっ!


 わしは再び走る。そしてすぐに止まって、近距離から地面と平行に得意の【鎌鼬】を二発放つ。ボスイナゴは羽を広げて飛び上がり、数を増やした【風の刃】をわしに飛ばす。

 だが、わしも跳んで避ける。ボスイナゴは、わしの跳び上がった進路に、向けて【風の刃】を飛ばすが、わしは風魔法を操作して空を飛び、全ての【風の刃】を掻い潜り、ボスイナゴの背中に着地する。


「チェックメイトにゃ!」


 わしは瞬(またた)く間に羽を斬り裂き、【白猫刀】と【黒猫刀】をボスイナゴの頭に深く突き刺す。

 ボスイナゴとわしは地に落ちるが、わしは激突する前に、突き刺した刀で頭を縦に斬り裂きながら飛び降り、大きな地響きと共に決着がついた。


 これもかっこよく決まったんじゃないか? ビデオでもあれば再生できるのに……アマテラスに頼めば見せてくれるかな? どうせこれも、女房と見ておるじゃろうしな。

 会いたくは無いけど……おっと、決め台詞を忘れておったな。


「ん、んん~……またつまらぬ物を切っ」

「猫!!」

「御使い様じゃ~!!」


 誰じゃ! わしの決め台詞を邪魔する奴は!!


 わしが声の方向に怒りの表情を向けると、建物の扉が開いていた。


 ん? 建物の扉から誰か顔を出しておる……村人か? それにしても御使い様とはなんじゃ? まぁわしを見て気が動転しておるのじゃろう。安心させる言葉でも掛けてやるか。


「わしは悪い猫じゃないにゃ~。イナゴの群れを駆除しに来たにゃ~」

「わかっています。わかっていますとも。有難う御座います」


 なに? 話が早過ぎない?? なんか土下座までされてるし……怖がられるよりマシじゃけど、ここまでされると気持ちが悪い。


「頭を上げるにゃ。わしは仕事で、ここに来ただけにゃ」

「いえ。もう命は無いと覚悟しておりました。御使い様に助けてもらいましたのに、お礼の品も何もありません。せめてこうやって感謝を表すしか出来ません。有り難う御座いました」

「あの……ひとついいかにゃ?」

「はっ! なんなりと」

「その御使い様ってなんにゃ?」

「御使い様とは、村が獣に襲われていれば、どこからか現れて救い、飢饉ききんで食料に困っている村があれば、食べ物を分け与える。この国の弱き村人を助けて回るお猫様。あなた様の事です」


 なに、その聖人みたいな猫? わし以外に歩く猫がいるのか? って、絶対わしの事を言っておるよな。たしかにその場で狩った動物の肉は寄付しておるが、依頼を受けて、解体を代わってもらい、対価を動物の肉で払っただけじゃ。

 討伐も食料もきちんと報酬を受け取っておる。他の村の者が誇張して歩いておるのか?

 しかし、このジジイのわしを見る目がキラキラしていて痛い。目が食料を寄越せと言っておるかのようじゃ。ちょっとぐらいなら、次元倉庫の物があるけど、そんな施しはしたくない。ほとんどが高級肉じゃから出したくないってのもあるな。


 あ、イナゴって食えたよな? 黒いほうは買い取ってもらえるから、食えるんじゃろうけど、小さいほうは? 佃煮にして食べる地方があるし、このイナゴも食べれるんじゃろうか?

  1メートルのイナゴの佃煮か……考えただけで食欲が無くなる。とりあえず、いまはわしが聖人では無いとハッキリさせておこう。


「さっきも言ったけど、わしはハンターで、緊急依頼を受けて、ここに来たにゃ。だからイナゴも全て、わしの取り分にゃ」

「そ、そんな……」


 お! 御使い様バラメーターが下がった。しかし、ジジイの絶望の顔、凄まじいのう。人ってこんな顔が出来るのか……ちょっと可愛そうじゃが、聖人パラメーターを上げるわけにはいかん。黒イナゴは譲れん!


「でも、こんにゃに多くはいらないから、わしは黒いイナゴと討伐部位だけ貰って行くにゃ」


 わしの言葉にジジイは破顔し、涙ながらに頭を地面に擦りつける。


「はは~~~。有り難き幸せ。これでこの村は救われます!!」


 聖人パラメーター限界突破じゃ!!

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