397 フルボッコ2にゃ~
「なんじゃこれは? どうなっているんじゃ~!!」
バスに初めて乗った、玉藻の感想はこんなもん。ギャーギャーうるさい。
時は、わし達が御所にて玉藻と歓談してから五条城に向かうところだ。城主に会うのに歩きで行くのもアレなので、天皇家の牛車を借りようかとも考えたが、せっかくなので、猫の国の科学力を見せてビビらせてやろうという作戦だ。
実際には、わしの魔法で動くから科学力とは異なるが、猫の国では電動バスが走っているのでツッコまれても問題ない。
その事を玉藻に説明してあげたら、すんごく驚いた顔になった。
「呪力で動いておるのか!?」
「これはにゃ。猫の国では、電車と同じ理屈で動いているにゃ」
「ほう……でも、電線も何も無しに動くとは、にわかに信じられん」
「そこは魔道具……呪具に雷を詰めているから動くんにゃ」
「なるほどのう。それを買う事は可能か?」
「別にいいけど、高いからにゃ?」
「わかっておる」
牛車に先導されたバスに乗り、玉藻と商談しながら五条城に進み、城が見えて来ると、リータとメイバイにはカンニングペーパーを渡して軽く打ち合わせ。
そうして、門にバスを横付けするとリータ達からバスを降りて入口に並ぶ。それからリータとメイバイは、カンニングペーパーを見ながら口上を述べる。
「シラタマヘイカのおナ~リ~」
「ミナのモノ、ヒカエおろうニャー」
二人の口上のあとにわしは堂々とバスを降りて、頭を下げる多くのタヌキ侍に向けて声を掛ける。
「にゃはは。わしが天下のシラタマ王にゃ。頭が高いにゃ~。にゃははは」
「「「「「はは~~~」」」」」
タヌキ侍達が深く頭を下げる中、あとから降りて来た玉藻が冷ややかにわしを見る。
「まったく……何を遊んでおるんじゃ。ほれ。そち達も、はよう案内せい」
たしかにちょっと調子に乗って遊んでおったけども……ヤバイ! リータ達に玉藻との会話を念話で聞かれておった! あとで説教ですか。そうですか。
タヌキ侍はわし達に恐縮して案内を始め、わしはリータ達に怯えながらあとに続く。長い石畳を進むと、落雷で焼失したはずの天守閣が間近にあって感動していたが、そこには入らずに、立派なお屋敷に連れて行かれる。
わし達はサンダルを脱いで上がると、これまた長い廊下を進み、綺麗な日本庭園を抜けて、部屋へと入る。
そこには、一段高く作られた畳で待ち構えている太ったタヌキが座っていた。わしは作法を知らないので、玉藻に念話を繋いでどこに座ったらいいかを聞いてみた。
「普通は
「ふ~ん……じゃあ、どかしてくるにゃ」
「おい! 事を荒立てるな!!」
わしは玉藻の指差した座布団には向かわず、ズカズカと斜めに歩き、畳の縁も関係なく踏んで高い所へ上がり、太ったタヌキの目の前に立つ。
すると太ったタヌキは、あからさまに不機嫌な顔になった。
「異国の者は、作法も礼儀も知らぬのですか……」
「作法は知らにゃいけど、礼儀ぐらいはわきまえているにゃ」
「どこがですか?」
「この中で偉い順番を言うと、天皇の名代の玉藻、王様のわし、最後にお前にゃ。にゃのに、にゃんでお前がその席に居るにゃ?」
「そ、それは城主ですから……」
「ほう……わしに礼儀を説いたお前が、玉藻に礼節を持って対応しないとは、おかしな話だにゃ~」
「ですから……」
「まだわからにゃいのか! さっさとどけにゃ! じゃなきゃ、わしはもう、お前と話す事はないにゃ!」
「ぐっ……失礼しました」
タヌキ城主が悔しそうに高い所から降りると、わしは皆を手招きして高い所に上げ、玉藻を中央の座布団に座らせる。
その左隣にはコリスを座らせ、リータ達は両脇に足を崩して座らせる。わしはと言うと、特等席のコリスソファーだ。
すると玉藻が、コリスソファーでふんぞり返るわしをジト目で見て来た。
「どう見ても、そちのほうが偉そうなんじゃが……」
「そうかにゃ? ふかふかの座布団は譲ったんにゃから、玉藻が一番だと思うにゃ~」
「いや、そっちのほうが、ふかふかじゃろう!」
「まぁまぁ、さっさと城主と話をしようにゃ~」
玉藻がツッコムのでリータとメイバイに睨まれてしまい、話を逸らそうと本題に入らせる。
玉藻もわしとのやり取りは時間の無駄だと感じたのか、下で
「さて、城主も知っての通り、この者は天皇家の客人として迎えた、異国から来たシラタマ王じゃ」
玉藻の紹介に乗っかり、わしは自己紹介を始める。
「さっきは怒鳴って悪かったにゃ。わしが猫の国の国王、シラタマにゃ」
わしの自己紹介に、続いてタヌキ城主が応える。
「私は京の城主、永井
尚之が頭を下げて戻すと、わしは語り掛ける。
「それで、にゃんの用件でわしを呼び出していたにゃ?」
「はっ! 異国の王が滞在していると聞きまして、シラタマ王には、是非とも徳川家当主とお目通りしていただきたく、お呼びしたまでです」
「……そんにゃ事でにゃ?」
「そんな事とおっしゃりますが、徳川家もこの国を支える重鎮ですので……」
「わしが言っているのは、そんにゃつまらない用件で、わざわざ毎日現れていたのかと聞いているんにゃ」
わしがつまらないと言うと、尚之はまた顔色を変えるので、先に喋る。
「そんにゃの、書状を
「しかし、一刻を争う事でして……」
「どこがにゃ? 誰かが困るにゃ? 誰かが死ぬにゃ?」
「いえ……」
「はぁ……わしと早く会いたそうにしてたから、もっと急ぎの用件があると思っていたにゃ~」
わしの発言に尚之は、不快そうな顔をする。
「徳川将軍と会う事は、急ぎの用件ではないとおっしゃりたいのですか?」
「違うのかにゃ? すぐに会えるわけでもにゃいのに、急いで呼び出す必要があったにゃ?」
「そ、それは……」
「わしの立場で言えば、面会にはそれにゃりの手続きがいるにゃ。会いたい理由を書状に
「はい……」
「にゃのに、城主ごときが一国の王を呼び出した上に、早く来いって……ニャメてるにゃ?」
「い、いえ!」
「じゃあ、にゃんで手続きを踏まなかったにゃ?」
わしの追及に、尚之は後ろをチラッと見て、見え透いた嘘を言う。
「家臣が先走ったようです」
「はぁ……嘘を言うにゃら、もう少しマシな嘘を言ってくれにゃ~」
「嘘では御座いません!」
「じゃあ、わしの連れを襲ったのも、先走ったにゃ?」
「そ、それは……そちらの護衛が、先に手を出したのが原因だと聞いております!」
尚之は糸口を掴んだかのようにリータ達を見るので、わしは呆れて言葉を発する。
「護衛にゃんていないにゃ」
「は?」
「リータとメイバイはわしの妻で、わしを抱いているコリスは妹分にゃ。そして、白い髪のイサベレは……」
「アイジン」
わしがイサベレの説明をしようとしたら、片言の日本語で先に自己紹介しやがった。なのでわしは、英語でこそこそと問い詰める。
「にゃ、にゃんでそんにゃ言葉を知ってるにゃ?」
「宿の女将さんに聞いた」
「そ、そうにゃんだ~」
よけいな事を! リータとメイバイは……特に怒ってませんか。怒りましょうよ。
「ゴホンッ! ま、まぁそんにゃ感じにゃ。わしが王妃から聞いた話だと、急に腕を掴まれたから振り払ったと言っていたんにゃけど、これでも先に手を出したのは、王妃だと言うにゃ?」
「こ、こちらは殴られたと聞いています!」
「そりゃそうにゃろ。大の男に囲まれたら自衛をするにゃ。ぶっちゃけ、王妃に触れること事態が失礼に値するんにゃけど、これを先に反論してくれにゃい?」
「うっ……申し訳ありません……」
尚之は反論できずに平謝り。土下座するしかない。
「この
「わかったにゃ。だけど、家臣の罪は、上に立つ者の罪にゃ」
「え??」
「そんにゃ大勢に死なれては寝覚めが悪いからにゃ。お前ひとつの命で許してやると言ってるんにゃ」
「……はい?」
「腹を切るのはお前だと言っているんにゃ!!」
わしが立ち上がって叫ぶと、玉藻が止めに入ろうとするので、手の平で制して動きを止める。それから尚之の目の前まで歩き、腰を下ろして語り掛ける。
「部下には平気で腹を切らすのに、自分は出来ないにゃ?」
「………」
「そもそもこんにゃにしつこくわしの前に使いが来るのは、誰かが指示していたからに決まっているにゃ。この国には、
「………」
わしの
「それで……いつになったら、腹を切るにゃ?」
尚之は震える手で脇差しに触れるが、一向に抜く気配がないので、わしはコリスソファーに戻る。
「にゃんてにゃ。冗談にゃ。お前の命にゃんていらないにゃ」
「え……」
「その代わり、お前は城主を辞めろにゃ」
「私に自発的に辞めろと?」
「そうにゃ。その条件で、将軍に会ってやるにゃ」
尚之がまた黙り込んで考え出すので、わしはコリスソファーに座って待つのだが、玉藻がコソコソわしに話し掛けて来た。
「おい……」
「にゃに?」
「どうして城主を辞めさせようとしているのだ?」
「だって、平気で部下に腹を切らそうとする奴がここでふんぞり返っている限り、部下の命が危険に
「そちには関係ない事じゃろうが……」
「わしにはないにゃ。でも、天皇陛下の民を勝手に殺そうとしてるのは、止めるべきだと思うんにゃけどにゃ~」
「ぷっ……コ~ン、コンコンコン」
突然、玉藻は大声で笑い出したものだから、全ての者は玉藻に視線を向ける。
「たしかにそうじゃな! おい、城主! シラタマが面白い事を言っておるぞ? そちをクビにする理由は、陛下の民を見殺しにしない為だと。そちより、このシラタマのほうが陛下を敬愛しておるぞ。コ~ンコンコン」
ちょっと笑い過ぎじゃね? わしにとっての天皇陛下は、元の世界の天皇陛下であって、あのエロガキじゃないんじゃけど……
「そちはどうじゃ? 将軍を敬愛しておると思うが、将軍の民を
玉藻の問いに、尚之はどう答えていいのかわからずに、声が出ない。
「質問を変えよう。そちの尻を拭く為に、勝手に民を殺すのはどうだと聞いておるのじゃ!」
「そ、そんな事はしておりません……」
「ほう……では、
「はっ!」
玉藻の召喚に、天井から忍者が降りて来た。もちろんイサベレから報告を受けていたわし達は驚かなかったのだが、その他は驚いて固まっている。
「昨夜の会話を聞かせてくれるか?」
「はっ! 城主はシラタマ王を呼び出せない侍達を叱責し、責任を取らせようとしておりました」
「なっ……いつから……」
忍者の報告に、尚之の顔色が変わるが、玉藻は気にせず質問に答える。
「昨日の夕刻、シラタマが城主から嫌がらせを受けてると聞いてのう。シラタマに無礼があってはいけないから、調査させていたのじゃ」
ん? わしはうっとうしいとしか言ってないんじゃが……。玉藻が忖度してくれたのか。ホント、日本人とは忖度が好きじゃな。しかし、城主の顔色が変わったな……
「そんな事をしたと知っては、将軍の怒りを買う事になりますぞ」
「だからなんじゃ? 天皇陛下の命令は天の声。この日ノ本を調べるのに、これほどの許可は有りはせぬ。そもそも、徳川とはそう話がついておったのじゃが……」
「そんな話は聞いた事がありませぬ!」
「古い密約だったから、そちは知らんのか。行使したのは今回が初じゃし、誰かが途中で伝え忘れてしまったのかもしれんのう。お互いに書面も交わしておる。家康にでも聞いておけ」
「は、はい……」
尚之は半信半疑だが、徳川家最長老の名が出たのであっては、確認せざるを得ないようだ。
「城主の処遇は、妾のほうから家康と将軍に一筆書くから、
「は、はは~。寛大な処置、誠に感謝いたします」
「妾に感謝じゃなく、シラタマに謝罪せい」
尚之は、少しわしの方向に体を向けて深く頭を下げる。
「申し訳ありませんでした!」
「よし。許すにゃ。さて、城主の最後の仕事にゃ。盛大にわしを楽しませろにゃ~」
「はは~」
こうしてタヌキ城主、永井尚之をフルボッコにしてへこませたわしは、宴の開始を命令するのであった。
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