384 九尾のキツネにゃ~


 九尾のキツネ……いや、公家くげ装束の、九尾のキツネ耳ロリ巨乳が奉行所に現れ、わし達は言葉を失った。そんなわし達に触れる事もなく、座布団に座った九尾のキツネ耳ロリ巨乳は言葉を発する。


「して、陛下を呼び出そうとした、そちは何者だ?」


 わしもあんたの事が聞きたい! 何個ほど男心を刺激するアイテムを乗せておるんじゃ!

 いや、その前に……九本も尻尾があるのに、強さはわしより弱い。隠蔽魔法ならもっと弱くなるはずじゃから、あれで上限か? 変身魔法で尻尾を増やしているのかな?

 どちらにしても、見た目で驚かされたが、もしも戦う事になってもなんとかなりそうじゃ。


「おい、聞いておるのか?」


 わし達が呆気に取られていると、九尾のキツネ耳ロリ巨乳が再度質問する。なので、わしは拳をついて頭を下げ、リータ達にもマネするように言って頭を下げさせた。


「わしは海を越えた大陸、遥か西にある国、猫の国の国王シラタマにゃ。以後、お見知りおきを」

「ほう……礼儀はわきまえているようじゃな。面を上げよ。わらわは天皇陛下の名代をしている玉藻じゃ」

「玉藻……玉藻前じゃなくてにゃ?」

「そちは、この日ノ本は初めてじゃないのか? 何故、その名を知っておる?」


 あ! 失敗した。名前と容姿のせいで、平安時代に悪さした九尾のキツネを思い浮かべるから失言してしまった。適当な言い訳をしておこう。


「我が国の古い文献に残っていたにゃ~」

「そんな古い歴史がか!? 猫の国とは、なかなかの文明なのじゃな。ちなみに玉藻前は、妾の母じゃ。妾が名を継いで、『前』は発音しづらいから外しておる」

「お母さんだったんにゃ。て事は、玉藻様は……」

「歳は秘密じゃ」


 でしょうね。予想だけでも九百歳オーバーじゃから、聞かないでやろう。そんなババアが幼女をやってるってだけで、笑い死にしかけんからな。


「それでじゃ。そち達は、何しに、どうやってこの国に来たのじゃ」

「時の賢者がこの島に向かったと古い文献に書かれていてにゃ。新婚旅行を兼ねて探していたにゃ。だから、目的は観光にゃ。移動方法は、空を飛んだと言ったら信じられるかにゃ?」

「にわかには信じられないが、空でも飛ばないと辿り着けないのは頷ける。しかし、目的が観光じゃと?」

「悪いかにゃ?」

「いや……妾に報告に来た者が、化け物を見たような顔をしていたから、戦いを仕掛けられるのかと思っていたのじゃ」

「あ~。それはだにゃ……」


 玉藻はタヌキから報告を聞いてはいたが、少し誤解があったので、何があったか説明してあげた。


「なるほどのう……奉行に拷問されたのか」

「そうにゃ。別にわしだけならよかったんにゃけど、仲間にもするとか言うから頭に来てやっちゃったにゃ」

「それは悪い事をしたな」

「信じてくれるんにゃ」

「妾の影が、一部始終見ていたからな」

「にゃ~?」

「姿を見せよ」


 玉藻が一声かけると、一瞬にして、黒装束の忍者が二人、玉藻の両隣に現れた。


「昨晩はこの者達が世話になったな」

「にゃ! 昨日のクノイチにゃ! そっちの男の人も、屋根に居た人にゃ?」

「そうだ。ヤクザと戦っている現場も見ているぞ」


 忍者は玉藻の使者じゃったのか。なんじゃ。こいつらが居たのなら、わしの説明はいらんかったじゃろうに……試されてしまったか。それよりも……


「にゃんの為に見張っていたんにゃ?」

「変わった言葉を使う者がいると聞いてな。見た目も目立つから監視させていたんじゃ」


 言葉……あ! デリシャスって叫んだアレか。うまいって日本語で叫んでおれば、忍者に追われる事が無かったのか~。失敗だらけじゃな。


「じゃあ、ヤクザも玉藻様の差し金にゃ?」

「それはしらん。そちが何か目を付けられる事をしたのではないか?」

「う~ん……昨日はほとんど観光していたからにゃ~……しいてあげるにゃら、質屋で国宝だとか騒がれたぐらいにゃ」

「それじゃ」

「にゃ~??」

「そいつが国宝欲しさに、ヤクザに情報を流したんじゃろう」

「そうにゃの? いい人みたいに見えたんにゃけどにゃ~」

「いい人でも、目がくらむ事もあるじゃろう」


 あのキツネ店主がね~……気が合いそうだったし、金払いもよかったのに、人は……キツネは見掛けによらないな。


「まぁ近々顔を出すし、その時にでも聞いてみるにゃ。あと、見廻り組は玉藻様の指示にゃ?」

「それも違う。そちは昨日、会いたいなら会うと言っておったろう? 招待状を出して会おうとしていたら、この事態になったから会いに来たんじゃ」

「探っていたわしをにゃ? 危険だとは思わなかったにゃ?」

「危険な奴が、クノイチの自害を必死で止めんだろう。それにこれだけの事態が起きているのに、誰ひとり殺していない。多少は信用していいと思うものじゃ」


 ホッ……リータとメイバイがボコって危なかった奴が居たけど、忍者に気付かれていなくてよかったのう。イサベレから報告が無かったところを見ると、遠くから観察されていたのかな?


「にゃるほど~。玉藻様があずかり知らないって事は、奉行の後ろに誰か居るのかにゃ? それとも、奉行が黒幕かにゃ?」

「どちらかなど、聞けばいいだけだ」


 わしと玉藻がゆらりと振り向くと、タヌキ奉行は青い顔をする。


「せっかくにゃし、わしにやらしてくれにゃ。さっき自分で受けた拷問を練習したいにゃ~」

「まてまて。妾も久し振りに悲鳴を出させてやりたいんじゃ。忍者式拷問術、見たくないか?」

「そそるにゃ~! それにゃらわしの、耐え難い苦痛と、耐え難い快感も見せてやるにゃ~」

「おお~! 面白そうな拷問じゃな。快感を使うのか……。妾もひとつだけ思い付くものがあったぞ」

「じゃあ、交互にやるってのはどうにゃ?」

「うむ。それが妥当じゃな」

「にゃ~はっはっはっはっはっ」

「コ~ンコンコンコン」


 わし達が高笑いしていたら、タヌキ奉行は全てゲロった。どうやら何をされるか想像できるが、それ以上の想像が膨らんで喋ったようだ。

 だけどわし達も引けない。「ちょっとだけ、ちょっとだけ」と言いながら近付いたら、わしはリータ達に調子に乗るなと怒られ、玉藻は忍者二人に羽交い締めにされていた。なんでも、たまにやらかすから止めるのが仕事なんだとか。


 なんだかんだで情報は手に入ったので、裏付けをすると言って忍者は散って、ちょんまげタヌキも部下を連れて出て行った。

 なので暇になったわし達は、どうしようかと話し合って、ティータイムにする。


「玉藻様は帰らないにゃ?」

「こうして異国の者と会えたのじゃ。異国の話を聞かせてくれ」

「わかったにゃ。ここじゃなんにゃし、わし達も畳に座っていいかにゃ?」

「苦しゅうない。ちこう寄れ」


 とりあえず玉藻の許可をもらったので、わし達は輪になって座る。だが、玉藻に何を出していいかわからないので、探り探り出していく。


「紅茶でもいいかにゃ?」

「聞かぬ名の茶じゃな。それを貰おうかのう」

「あと、お菓子も出そうと思うんにゃけど、好みはあるかにゃ?」

「そうじゃの~……この時間なら、甘い物がいいのう」

「じゃあ、ケーキにしとこうかにゃ」

「それも聞かぬ名じゃ。楽しみじゃのう。あ、そうじゃ。そちの好物は大福と聞いておったから、買って来てやったぞ」

「本当にゃ!?」

「その代わり、わかっておるじゃろ?」

「へへ~。他にも美味にゃ菓子を献上させていただきにゃす~」


 と言って、ただのおやつ交換。わしは次元倉庫から、玉藻は収納魔法のようなモノからおやつ等を取り出すが、お互い気になる事が生まれたようだ。


「変わった呪術じゃな。お茶も湯気が出ておる……」

「そっちもにゃ。この大福は、作り立てみたいに温かいにゃ」


 とりあえず皆には、昨日、全部食べてしまった大福を二個づつ支給し、残りはコリスに食べられないようにしまっておく。

 そうしてわしと玉藻は、大福やケーキをモグモグしながら魔法談義。ショートケーキを食べた玉藻が騒ぐものだから、なかなか話が進まなかったが、なんとかお互いの魔法と呪術を擦り合わせる事が出来た。


 呪術はわしの思った通り、魔法の別の呼び名で間違いないようだ。

 使い方も一緒。上位の使い手は、主に神職……神主や巫女となって働いているらしい。風、火、水、土、その他の属性もあるし、攻撃に使ったりもするようだ。

 街の者も、生活に使ったり変化へんげに使っているとのこと。


 一般的な事を聞き終わると、次は次元倉庫と収納魔法の話に移る。

 どうやら玉藻の収納魔法は、時間停止の効果のある呪術、【大風呂敷】と言う呪術らしい。けっこうな量が入るらしいが、維持に魔力を持って行かれるから、いつも必要な物しか入れていないようだ。


 丁寧に教えてくれたので、わしも次元倉庫の機能を教えてあげたら、めちゃくちゃ食い付かれた。


「それって、時の賢者が使っていた呪術じゃろう! どこで習ったんじゃ!!」


 あら? 時の賢者も、わしと同じく次元倉庫を発見しておったのか。いや、アイツにはサービスがあったから、便利な魔法がすぐにわかったのかも?


「それは秘密にゃ。でも、わしの暮らす土地では時の賢者の使っていた魔法にゃんて、大きな攻撃魔法しか文献に残ってにゃかったのに、にゃんで知ってるにゃ?」

「母様は直に習ったからじゃ。その母様から妾は習ったんじゃ」

「ほう……玉藻様のお母様は、ケンジと直に会ったんにゃ」

「名前まで知っているのか!? 妾達だけの秘匿ひとくとなっておったのに……」


 そう言えば、東の国でも猫の国でも、名前は残っておらんかったな。時の賢者という二つ名は気に入っていたのか? 中二の人っぼいな。


「わしの国でも知っている人は少ないにゃ」

「やはり……。では、質問を変えよう、シラタマの使う魔法は誰に習ったものなんじゃ?」


 秘密と言ったのに、諦めが悪いのう。ルーツから答えを導き出そうとしておるのか……とりあえず、いつもの手を使っておくか。


「わしもおっかさんにゃ。おっかさんはすでに亡くなっているから、誰に教わったかはわからないにゃ~。ちにゃみに一子相伝の魔法にゃから、教えられないにゃ」

「ぐっ……」


 嘘じゃけど、こう言っておけばなんとかなるじゃろう。【大風呂敷】も、使い方は教えられないと言われたしな。まぁ名前を知れたから、魔法書さんで探しておこう。

 簡単そうなら、コリスに教えてやってもいいな。次元倉庫だと、座標やらなんやら難し過ぎてわしが説明できんし、伝わらないからな。


「しかし、そちの母は早くに亡くなったんじゃな。そちは多尾なんだから、長生きのはずじゃろ?」

「苛酷にゃ森の中で過ごしていたからにゃ」

「森? そちは王なんじゃから、王族ではないのか?」

「ああ。わしが初代にゃ。国は、ほぼ一人で落としたにゃ」

「なんじゃと!? その細腕でか!?」


 歳のわりには、けっこう驚く人じゃな。わしも驚きたいんじゃけど、玉藻さんが驚き過ぎるから、冷静になってしまうわい。


「強さの欠片も感じられないタヌキなのにのう」

「にゃ? わしがタヌキだと思っていたにゃ?」

「なんじゃ? 違うのか??」

「猫の国の初代なんにゃから、猫に決まってるにゃ~」

「猫じゃと……猫又か!?」


 わしが猫だと知ると和やかな空気が一気に張り詰めた空気に変わり、玉藻は叫んで立ち上がるとわしから距離を取る。わしは意味がわからないので聞くしかない。


「猫又にゃけど、どうしたにゃ?」

「猫又は凶報の証。生かして日ノ本を歩かせるわけにはいかん!」

「わしは悪い猫又じゃないにゃ~」

「そのような言葉、信じられるか! 妾、直々に始末してやる!!」


 玉藻はわしの言葉を聞く耳持たず。砂利に立つ玉藻の姿はみるみる大きくなり、わし達は驚く事になる。


「ゴォォーーーン!!」


 玉藻の咆哮ほうこうが響く中、土煙と共に、巨大な九尾のキツネが現れるのであった。

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