535 冒険に出発にゃ~


 双子王女達に見送られ、三ツ鳥居集約所から転移したわしたち猫パーティは、以前マーキングしておいた北海道の浜辺に到着した。


「ここは……」

「見覚えがあるにゃろ?」

「玉藻さん達と一緒に釣りに来た場所ニャー?」

「そうにゃ。松前藩にゃ」

「ここからどこに向かうのですか?」


 リータとメイバイの質問に、わしは次元倉庫からお手製地球儀を出して説明する。


「復習するけど、これが、わし達の住んでいる星にゃ」

「うっ……いまだに信じられません」

「にゃはは。いまは無理にでも信じてもらわないとにゃ。んで、ここが、現在立っている場所にゃ」


 わしは地球儀を回し、北海道の左下、函館から南西の海の近くを指差す。


「う~ん……西にあるのが、私達が住んでる大陸ニャー?」

「正解にゃ~。それでにゃ。今回の目的地は、ここ。北極に行ってみようと思うにゃ」


 今度は地球儀の天辺を指差すと、メイバイとリータは首を傾げる。


「何も無いニャー」

「青いから、海ですか?」

「ああ。そこには陸が無いから書いて無いんにゃ。行ったらたぶん、日ノ本が何個も入る大きにゃ氷が浮かんでいるはずにゃ」

「そんなに大きな氷が浮かんでるニャ!?」

「にゃはは。まだ予想だけどにゃ~」


 メイバイが大袈裟に驚くのでわしは笑うが、リータは違う反応をする。


「前に、タマモさんから時の賢者様の行き先を尋ねていませんでしたか? そっちに行くと思ってました」

「それも兼ねてにゃ。ここの陸が繋がりそうにゃアラスカあたり場所が、時の賢者が渡ったであろう場所にゃ。そのついでに、人が居る可能性がある場所を先に行こうかとにゃ。双子王女もうるさいしにゃ~」

「人が居るのですか!?」

「たぶんにゃ~」


 本当は南に行けば、フィリピンやインドネシア、島国が多々あるから、生き残りは多く居ると思う。しかし、せっかく元の世界で乗れなかった飛行機を、自分で自由に操縦できるんじゃ。

 北極に行きたい! オーロラやペンギンを生で見てみたいんじゃ~!! ……あ、ペンギンは南極にしか居ないんじゃった。やっぱり、南極に行こっかな?

 いやいや。北極圏から進まないと、時の賢者の足跡そくせきが辿れん。ペンギンは、また今度じゃ。

 北極圏には過酷な自然が近くにあるから、戦争なんてしている余裕もないし、生き残っている可能性はかなり高い。イヌイットなんて、会って見たいのう。



 わしがリータ達に説明していると、イサベレが地球儀を回して指差す。


「ここ。ここに、猫の国と東の国がある」

「にゃ? よく見付けたにゃ~」

「ん。そこからでも真っ直ぐ北上したら、北極という場所に着く。どうしてそこから行かないの?」

「本当です!」

「天才ニャー!」


 イサベレの質問に、リータとメイバイが褒め称えるので、イサベレのドヤ顔がウザイ。


「いい質問だにゃ~。答えは、単純に、陸伝いを避けただけにゃ。日ノ本まで獣や鳥に阻まれて、何十日も掛かったにゃろ?」

「それはそれでありな気も……」

「うんニャ。強い敵と戦えるニャ……」

「避ける必要ない……」


 わしは地球儀を東になぞったり北になぞったりしながら質問するが、戦闘狂のリータ、メイバイ、イサベレには、それが旅の醍醐味のようだ。


「短期間で成果を出そうにゃ~。ここ、ちょっと陸があるにゃ~。そこだけ調査しようにゃ~」


 わしは「にゃ~にゃ~」説得し、なんとか皆を納得させ、戦闘機に乗り込んでもらう。


「さてと~……北極に向けて、出発進行にゃ~!」

「「「「「にゃ~~~!!」」」」」


 皆の元気のいい返事を受けて戦闘機は浮き上がり、北に向かって進むのであっ……


「あ! あそこ! 白いサンゴ礁がありますよ!!」

「降りてニャー!」

「離陸したばっかにゃ~~~!!」


 戦闘狂の集団を宥めながら空を行くのであったとさ。



 戦闘機は空を進み、皆は海ばかりを見て白いサンゴ礁を探して盛り上がっている。なんでも、見た事もない巨大な白いサンゴ礁を見付けたから、次回の釣りで攻めたいんだとか……


 もうここは日ノ本じゃないから必要ないですよ? あの島の名前ですか? からふ……サハリンです! ロシアの島ですから、日ノ本じゃありません!!


 危うく樺太からふとと言い掛けたわしは、嘘をつく。本当は、日ノ本の土地だと言いたいが、言ってしまうと降りろと言われるのは目に見えているから仕方がないのだ。

 ただ、煙が上がっていたと聞いたので、めちゃくちゃ降りたい。おそらくアイヌ民族が居るのでこの目で見たかったが、グッと我慢して北上する。


「この辺の西の地は白いですね。白い森なんでしょうか?」


 ようやく望遠鏡で西の方角を見てくれたリータが尋ねて来た。


「冬だからにゃ~……たぶん、雪で木が隠れてしまってるにゃ。蝦夷地も白かったにゃろ? よく見たら、木の色がわからないかにゃ?」

「あ……たしかに所々黒いですね」

「やっぱり、大戦があったニャー?」

「どうにゃろ? わしもロシアの歴史は詳しくないからにゃ~」


 メイバイの質問には答えられず、わかる質問なら答えながら空を行くと、イサベレから鳥が近付いていると報告が入った。


「方向と数はどうにゃ?」

「西。一羽」

「ちょっと試したい事があるから、望遠鏡で姿が確認できたら報告してにゃ」

「ん」


 そうして北上していると、白い鳥が見えたと報告が入り、しばらくコリスに操縦を変わってもらってわしも準備。

 元の姿に戻ってリータにゴーグルを付けてもらったら、戦闘機の後部に作ったわしが入れるだけの穴に入って扉を閉める。そして上部ハッチを開けて、土魔法で床をリフトアップしたら、足を固定して西の方向を見る。


 ツルかな? 相変わらず鳥は、真っ白だと見分けがつかんのう。大きさは……ざっくり、30メートルオーバーってところか。巨大魚を見慣れてしまったから小さく見えるが、なかなかの大物じゃ。

 さてさて、もうちょっと近付いたなら、撃ち落としてやろう。


 わしは内部に念話で連絡を入れつつ、白ツルの接近を待つ。そうして待っていたら、白ツルはやる気満々。威嚇の声を出した瞬間、凄まじい速度の【風の刃】が飛んで来た。

 なので【鎌鼬かまいたち】で相殺。本気を出したらいくらでも貫けるが、十分引き付けるまでの辛抱だ。


 白ツルと魔法の相殺を繰り返していたら、白ツルは戦闘機の後方につけ、追いかけて来て口を開けた。


 待ってました! 【御雷みかずち】!!


「にゃ~~~ご~~~!!」


 わしの口から放たれた雷ビームは、大口を開けた白ツルの口に入り、喉を通り、体を貫通して、空に消えて行った。


 よっし! 一発で仕留めてやったわい。しかし、超寒い。早いとこ中に入らないと凍えそうじゃわい。


「コリス~。一回転にゃ~。みんにゃも気を付けてくれにゃ~」

「うん!」


 コリスは聞き分けよくアクロバット飛行。皆は近くの取っ手を握り、逆さになりながらも揺れに耐える。

 戦闘機が一回転し、コリスが白ツルを視界にとらえると急降下で追わせ、追い付く間際に次元倉庫に入れて、水平飛行に移行させる。



「にゃ~しゃっしゃっしゃっ。上手くいったにゃ~」


 わしが機内に戻ると、何やら冷やかな目が飛んで来る。


「私達は戦うのを止めるくせに~」

「そうニャー。ズルいニャー」

「ズルくないにゃ~。実験だったにゃ~。ゴロゴロ~」


 リータとメイバイが恨めしそうにわしを撫で回すので、しっかり実験の成果を説明する。

 戦闘機を改造するついでに、わしは攻撃手段を足していた。今まで設置された攻撃魔道具だけでは鳥に囲まれると手数が足りなくて、いつも逃げ回るしか方法がなかった。

 しかし、コリスとオニヒメが操縦できるのなら話が変わる。わしの手が空くので、自身が外に出れば砲台になれる。わしならば多彩な遠距離攻撃魔法があるから囲まれようとも、鳥を撃墜する事が出来るだろう。

 なんだったら、オニヒメに頼んで機内から攻撃魔道具を発射してくれたら、もっと手数が増えるので、殲滅できるかもしれない。


「じゃあ、陸路を行けばよかったじゃないですか~」

「本当ニャー。真っ直ぐ進めたニャー」

「虫が出るかもしれないにゃ~。ゴロゴロゴロゴロ~」


 わしの説明でいらん事に気付いたリータとメイバイは、何故かめちゃくちゃ撫で回す。猫型から戻り忘れていたから二人は撫でるのにご執心なので、陸路を行く話はうやむやに……は、出来ず、次回は陸路を約束させられるわしであった。



「コリス~。代わるにゃ。ありがとにゃ~」

「ホロッホロッ」


 ようやくリータ達の魔の手から解放されたわしは、コリスを撫でてから操縦を代わり、小さな席に座る。


「にゃ? アレ??」

「どうかしましたか?」

「真東に向かってるにゃ……」


 どうやらコリスは真っ直ぐ進んでいたように見えたけど、東に転回していたようだ。

 前回操縦した時はリータ達が隣に座り、方位磁石で方向を指差していたから航路を逸れなかったらしいが、今回は全員窓に張り付いて、わしが白ツルをどうするのか見ようと頑張っていたから指示を出してなかったようだ。

 航路を逸れたせいでコリスが落ち込んで謝って来たので、餌付けして撫でまくって元気になってもらう。そして、これはよそ見をしていたリータ達のミスだから……わしが教えていなかったのが悪いと言って講習会を開く。


 だって、わしのミスって言ったほうが丸く収まるんじゃもん。みんな暗い顔するんじゃもん。


 というわけで、コリスとオニヒメに方位磁石を見せ、ついでに時計の勉強。これで時間もわかるようになるし、時計盤を使った方向の指示が出せるクロックポジション

 ただ、何度かクロックポジションでの方向転換をしたせいで、ここがどこだかわからなくなって来た。その事を知られると皆を不安にさせそうなので、コリス達に教えながら西に機首を向けたりして、なんとか位置が確認できた。


 コリスとオニヒメも完璧と思われるだけの勉強は終わったので、めちゃくちゃ褒めちぎっておいた。あとはリータ先生とメイバイ先生に復習を任せ、わしは外をキョロキョロ見ながら操縦する。


 たぶんあの島群は千島列島のはず。ユーラシア大陸を横目に見ながら北に向かおうと思っておったが、だいぶ東に来てしまったな。

 ま、このまま進めば陸があったはずじゃし、目指している北極は北に進めばあるんじゃ。このまま進んでしまおう。



 気持ちを切り替えて空を行くこと数分……コリス時計がわしの尻尾をモグモグするので、餌付けしながら陸を探す。

 それから一時間が過ぎた頃、正面に陸が見えて来たので、皆に着陸する旨を伝えて真っ白な地面に垂直着陸した。


「そんじゃ、開けるけど気を付けてにゃ~?」

「「「「「わああぁぁ~」」」」」

「言ってるそばから飛び降りるにゃ~」


 戦闘機は雪の上に降りても平地のように安定していたので上部ハッチを開けたら、真っ白な雪原に興奮した皆は戦闘機から飛び降りて、走り回るので……


 ズボッ×5……


「にゃ? みんにゃどこ行ったにゃ~~~!?」


 残念ながら着陸した場所はちょっとした高台だった為、リータ達は飛び降りたと同時にパウダースノーの雪に埋まってしまうのであったとさ。

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