689 パカル王墓の秘密にゃ~


 パカル王の石棺のそばの壁に「船はいただいたぜ!」と日本語が書かれていたので、わしは宇宙船の事を言っているのだと喜んだが、それよりも日本語のほうが気になる。


「にゃ、にゃんでこんにゃところに……」


 わしが驚愕の表情で固まっていると、リータが口を開く。


「時の賢者様みたいですね……」

「ホンマにゃ!」


 壁に書かれた文章「船はいただいたぜ!」の最後のほうには「by時の賢者」となっていたので間違いないのだろう。


「あんニャロ~。遺跡に落書きしやがって~!!」

「怒っている理由はわかりませんけど、まだまだ続きはありますよ。私が翻訳してみていいですか?」

「う、うんにゃ。イサベレ達は読めないだろうし頼むにゃ~」


 貴重な遺跡を汚しているからわしが怒っていても、リータ達には伝わらない。この際それは置いておいて、最近日本語の勉強に嵌まっていたリータに英語に翻訳してもらう。

 ちなみにメイバイも、わしの母国語だからと頑張って勉強していたから読めると思う。


「えっと……船はいただいたぜ! 返して欲しければ、石の聖地まで取りに来い。その際、各地にある遺跡からクリスタルスカルを全て見付けて来るのだ。船の鍵となっているから忘れるなよ。by時の賢者」


 リータが英語にして読み終えると、皆の視線がわしに集中する。


「にゃんか人質を取ってるような物言いだにゃ~」

「あ~……鍵が欲しいから盗んだのですかね?」

「と言うより、鍵を見付けるのが面倒だからかもしれないにゃ」

「はあ……それで、わからない単語がふたつあるのですけど」

「石の聖地とクリスタルスカルにゃろ? 石の聖地は、ここから南東のブラジルにある場所にゃ。んで、クリスタルスカルは、宝石を削って作った頭蓋骨のことにゃ。十個ぐらいあるんにゃけどにゃ~」


 クリスタルスカルの数は、現代でも意見がわかれるところなので曖昧に言ったらメイバイが手を上げた。


「そんなの集められるニャー?」

「う~ん……ぶっちゃけ無理だにゃ。出土場所も知らないし、どこに遺跡があるかもわからないにゃ~」

「じゃあ、この文章を残した時の賢者は、何を考えてたんニャー?」

「さあにゃ~? その当時には人が居て、鍵のありかもわかっていたけど持ち出すことを禁じられたとかかにゃ? 船を盗めば持って来てくれる確証があったのかもにゃ」


 わしの推理に頷き掛けた皆だが、イサベレの質問が来た。


「ところで、ここの人は日本語で喋ってたの?」

「いや……違うにゃ……」

「じゃあ、日本語で書いてるのはおかしい。私一人なら、わからなかった」

「その通りにゃ……まるで、日本人を待ってたと言わんばかりにゃ……」


 イサベレの一言から皆は息を飲む。コリスは眠そう。


 時の賢者は、いったい何の為にこんな書き置きを残したんじゃ? ……わからん。わからんが、日本人というより転生者を待っていたのでは?

 この世界の者に、船とか言っても宇宙船だと考えないじゃろう。もしも日ノ本の者が見付けたとしても、水に浮かぶ船と思って欲しがらない気がする。

 それにクリスタルスカルとか言われても、どんな物かわかるわけがないしな。これは、転生者向けのメッセージと受け止めるほうが自然じゃろう。


 てことは~……これ、マジで宇宙船を見付けたんじゃね? 鍵は見付けられないから飛ばせないけど見てみたい! いや、南米をくまなく探してクリスタルスカルも全て見付けてやるぞ!!


 わしは考えがまとまるとメラメラ燃えていたが、その前にやる事があったので無理矢理自分で消化。


「とりあえず石棺を開けてみるから、マスクだけしといてにゃ~」


 そう。パカル王の石棺の中にも有名なお宝が入っている。時の賢者が持ち出したかもしれないが、わくわく感はある。

 皆が毒対策のマスクを装着したら、わしはリータにも手伝ってもらって石棺の蓋を開けるのであった。



「やったにゃ~! そのまま残ってるにゃ~~~!!」


 石棺の中には、白いお面を付けた亡骸。パカル王本人が、お面を付けたまま眠っていたのだ。

 わしは興奮しているから手を滑らせてしまいそうなので、リータには蓋を壊さないように支えてもらい、中の調査を始める。


「それは本当に遺体ニャー?」


 わしが光を当ててジックリ見ていると、メイバイが質問して来た。


「手の所を見てみろにゃ。しわっしわにゃろ?」

「うっ……本当ニャー!」

「これはミイラと言ってにゃ。遺体が腐らないように処理してあるんにゃ」


 メイバイは顔を背けているので、わしと同じくジックリ見ているイサベレが質問を代わる。


「なんでそんなことするの?」

「違うピラミッドの話にゃんだけど、こうしておけば、王が復活すると思われていたんにゃ。ここもそうじゃないかにゃ~?」

「死者が生き返るなんてありえない」

「だにゃ。でも、その当時……いまもそうにゃけど、死は凄く怖いものにゃ。その恐怖に耐える為に宗教が生まれて、こういった教えを信じる事で恐怖を和らげていたんにゃ」

「難しい……でも、なんとなくわかる」


 皆も死について思う事があるのか、パカル王に視線を戻していた。


「しかし残念だにゃ~……。このお面も本当は翡翠ひすいだから緑にゃのに、魔力のせいで白くなっちゃっているにゃ。アクセサリーも全滅にゃ~」


 ここは白い森ほどではないが、普通の土地より魔力濃度が高いので、宝石は魔道具の白ダイヤと同じ白色に。金属も白魔鉱にレベルアップしているので、美術品として扱うには微妙だ。

 わしは残念がりながら持ち帰るかどうか悩んでいたら、写真を撮っていたメイバイがコチョコチョして来たので顔を向ける。


「にゃに~?」

「あそこニャ。ミイラの足元にも白い宝石が何個か落ちてるニャー。ドクロっぽくないかニャー?」

「ホントにゃ……クリスタルスカルの一個目かにゃ??」


 これはさすがに悩む必要もなく、持ち帰ってもいい物だろう。わしはメイバイに尻尾を掴んでもらい、石棺の中に落ちないように宝石を拾う。


「まだニャー?」

「にゃんかいっぱいあるんにゃ。ちょっと右にズレてにゃ~」

「わかったニャー」


 その宝石は複数あったので根こそぎ拾い、石板のような物もあったので少し目を通してから回収して、引き上げてもらう。

 そしてリータと一緒に蓋をゆっくり元の位置に戻して、広いところに移動して話し合う。


「クリスタルスカル、全部揃っちゃったにゃ……」

「五個で全部ですか?」

「石板に書いてあったから、たぶんにゃ……」

「じゃあ、探す必要ないのですね!」

「そうにゃんだけど~~~」


 リータが嬉しそうにしても、わしはガッカリ。時の賢者が探せと言っていた物が全て揃っていたんじゃ、なんだか納得がいかない。宝探しも楽しそうかと思っていたんじゃもん!


「なんで全部あるんニャー?」

「その石板を読んだらわかるにゃ~」

「私が翻訳してあげるニャー!」


 石棺の中にあった石板にも日本語が書かれていたので、わしは持ち出したわけだ。それをメイバイに預けると、一度読んで租借してから英語で語る。


「クリスタルスカルを探せと言ったが、見付けるのは大変だと思い直し、鍵となる五個をここに入れておく。それと、早く来てくれる事を望む。by時の賢者……だってニャ」

「にゃにがしたいんにゃ~~~!!」


 意味不明。時の賢者のやりたい事がさっぱりわからないわしが叫ぶと、皆もウンウン深く頷くのであった。


「一旦、地上に戻ろうにゃ~」


 なんだかドッと疲れたわしが地上に戻ろうとしたら、リータに尻尾を捕まれた。


「あそこにも、日本語が書かれていますよ?」

「にゃに~?」


 帰り道になって初めてわかる壁に、時の賢者のメッセージが書かれているので、リータが翻訳してくれる。


「結局、誰も来なかった……。by時の賢者。なんだか哀愁がありますね」

「だろうにゃ。行こ行こ」


 哀愁云々はもうどうでもよくなったわしは、適当に相槌して外へ出るのであったとさ。



 ちょっと建物の中で時間を使い過ぎたので、外に出たらもう夕方。さっさと野営の準備をして、夕食を開始する。


「それにしても、時の賢者様……なんだったんでしょうね?」

「にゃんだろうにゃ~? わし達をからかってるのかにゃ??」


 おそらく時の賢者は、東の国周辺の人には尊敬されていたと思われるが、ここへ来て伝わっていない人となりが垣間見れて、変わった人間だったのではないかと話が弾む。


「ダーリンの予想は、からかってるってだけ?」


 わし達の話の内容は時の賢者を馬鹿にするような事ばかりなので、イサベレは少しムッとしているように見える。


「う~ん。石の聖地に行ってみにゃいことにはにゃんとも……でも、そこで誰かを待ってたってのは、文章から見て取れるにゃ」

「ん。それは同意する。誰を待ってたと思う?」

「たぶんわしのようにゃ転生者だとは思うんにゃけどにゃ~。わしの興味の惹く文章にゃったし、楽しませようとアトラクションでも用意してくれてるのかにゃ? にゃはは」

「それは同意できない」


 わしが笑うとイサベレは卑猥な手付きで近付いて来るので、メイバイに抱きついて身を守る。


「ま、時の賢者が向かった先はわかったんにゃし、のんびり行こうにゃ。他にも遺跡はあるんにゃよ~? 天空都市にゃんて、ひょっとしたら人が残ってるかもにゃ~」

「写真映えする遺跡はいいニャー」

「天空都市って、響きがいいですね~」


 わしの旅行プランは、メイバイもリータも行ってみたいとなったので、決定。石の聖地に着くまで、寄り道しながらわし達の旅は続くのであった。

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