372 再々出発にゃ~
猫の街に帰ると、ゴシップ好きの双子王女にイサベレとの関係を根掘り葉掘り聞かれ、わしは何も無いと言うが、イサベレが嘘を言う。
あの激しい夜なんてない! 抱き合ったのも抱き締められただけじゃ! 裸の付き合いなんて、皆も一緒にお風呂に入っておる! リータ達は一緒にいたんだから、そんな事は無かったって知ってるじゃろ! 睨まないで~!!
ようやくイサベレとの関係を断ち切り、食堂で冒険の話をすると、皆は目を輝かせて聞いていた。
「凄いですわね……」
「まさに大冒険ですわ……」
「よく生きて戻れたにゃ……」
わしが喋り疲れてお茶をすすると、双子王女達は言葉に詰まりながら感嘆の声を出していた。
「てか、ワンヂェンは東の国から帰って来てたんにゃ」
「いつの話をしてるにゃ~」
どうやらワンヂェンの出張は一週間程度だったらしく、わし達より早くに帰って来たようだ。とりあえず労いの言葉を掛けてあげてモグモグ。だが、食べてないで続きを話せと言われて、モグモグしながら双子王女と話す。
「まぁ一番の発見は、黒い森の中に、人間が生き残っていた事だにゃ」
「そうですわね。でも、その生き残りを連れて帰ってよかったのですの?」
「オニヒメは別口にゃ。その里の元に置いておけないから、連れて来たにゃ」
「角が生えている事は関係していますの?」
「そうにゃ。オニヒメは……」
それからオニヒメの話をして、イサベレの生死の話に移る。
「「と、言う事は……」」
「イサベレは、子供を産んでも死なないにゃ。女王に連絡してやれにゃ」
「「イサベレ~!」」
双子王女はイサベレに抱きつき、わんわんと泣いていた。どうやら双子王女も、かなり気に掛けていたようだ。とりあえず話が終わったようなので、モグモグしていたらワンヂェンが邪魔をする。
「それでオニヒメちゃんはどうするんにゃ?」
「まだ旅は終わってないしにゃ~……ワンヂェン。しばらく世話は任せたにゃ」
「うちにゃ!?」
「新しい魔法を教えてあげるから、お願いにゃ~」
ワンヂェンに新しい魔法を教えると言ったら、ふたつ返事で了承してくれた。
だが、ワンヂェンだけでは少し心配なので、ヤーイーとシェンメイにもお願いしておく。もしもオニヒメが暴れても、筋肉猫のシェンメイなら、なんとか抑えられるはずだ。
もうしばし旅の話をし、お昼が済めばワンヂェンには念話、オニヒメには回復魔法を教えてあげる。
念話は、ワンヂェンが思っていた魔法と違っていたのか、こんな魔法じゃ話が違うと文句を言われたが、オニヒメに回復魔法を教えてあげると、治療院の人数が増えるから、それはアリかと悩んでいた。
オニヒメの実力は、おそらく旅に出る前のイサベレぐらいだと予想はつくので、本来ならば攻撃魔法を教えるのがベストなのだろうが、わしの居ない間に記憶が戻って暴れられても困るので、安全な魔法で人の為になってもらおうという策だ。
いまのところ、わし達のマネをするぐらいしか思考が出来ていないので、街に残しても大丈夫だろう。餌付けも効いているから、エミリとも仲良くなれそうだ。
それから夜になってもわし達の冒険談は続き、双子王女も職員も一緒に、居間で雑魚寝する事となった。
翌朝は、皆で寝坊とはいかず、双子王女に朝から叩き起こされた。本当に叩き起こされた。て言うか、双子王女の力ではまったく効かないので起きなかった。だからリータに叩き起こされた。
あとで聞いた話だと、わしは双子王女に顔を踏まれてゴロゴロ言っていたので、浮気していると思って叩き起こしたらしい……。どう見てもイジメられているんだから、助けて欲しい……
起きてしまったものは仕方がない。朝ごはんを食べたら、オニヒメの事はリータ達に任せ、コリスと追いかけっこ。
ラサの街に着くと、センジと話し合う。ひとまず野菜の実物を見せて、試食もしてもらった。
「どうかにゃ?」
「見た事がない食材ばかりですね。これなら売れると思いますけど、価格が難しいです」
「あ、値付けはホウジツに頼むから、珍しいって事だけでいいにゃ。野菜関係はセンジが強いからにゃ」
「信頼していただいて有り難う御座います。しかし、よくこれだけの種類を集めて来ましたね」
「ああ。新婚旅行に出たって聞いたにゃろ? その先で人に出会ったから、いっぱい手に入ったにゃ」
「人ですか!? 凄い発見ですね!!」
「まぁにゃ。でも、まだ旅の途中にゃから、詳しい話はまた今度にゃ。その時は、もっと面白い話やお土産を持って来るからにゃ」
「いま聞きたいです~」
「ごめんにゃ~。これあげるから、もう少し我慢してくれにゃ~」
そう言ってわしは、白い木彫りの猫を置いて、ラサをあとにした。
次の目的地はソウの街。揉み手のホウジツと面談すると、お酒や野菜を取り出し、試食をしてもらって話を聞く。
「面白い味の物が多いですね」
「センジも見た事がないと言ってたにゃ。それを元に、値付けはよろしくにゃ~」
「センジさんが知らない食材ですか……金の匂いがぷんぷんします! 任せてください!」
「ついでに言うと、東の東、黒い森の中で出会った人間から買い取ったにゃ」
「なんですって!?」
「と言う事は~?」
「プレミア半端ないッス!!」
「にゃははは。まぁ売れなきゃ意味がないからにゃ。ついでにこれも売れないか考えてみてくれにゃ」
ホウジツの前に、黒と白の木彫りの動物を大量に取り出してみた。すると、ひとつひとつ手に取り、ホウジツは目を輝かせる。
「素晴らしい!!」
「にゃ? そんにゃにいい物にゃの?」
「これ見てください。ノミの跡も無ければ、ヤスリの跡もありません。どうやって作ったのかもわかりませんよ!」
う~ん……専門外じゃから、さっぱりわからん。たしかにつるつるじゃけど、それがいいのか? 大量に押し付けられたけど、売れるなら、それに越したことはないか。
「そんにゃにいい物にゃら、オークションでも開いてくれにゃ」
「そうですね……そのほうがよさそうです。あとは、その人々の特徴なんかも、価格の吊り上げに役立ちそうですので、詳しく聞かせてくれますか?」
「そうだにゃ~……耳が長いから、耳長族か、エルフか……」
わしの案に、エルフがいいのではないかとまとまり、近々東の国でオークションを開く事になった。とりあえず、エルフの里で手に入れた物は全てホウジツに預け、次の話に移る。
先日の旅で戦闘機が故障してしまったので、
そうしてコリスと一緒に猫の街に転移すると、さっそく戦闘機の修理に取り掛かる。硝子魔法で窓を装着し、土魔法で翼を作り、鉄魔法を使って黒魔鉱でコーティグ。魔道具も紛失していたので、それも取り付けたら完成だ。
コリスはわしの作業を見ていたらしいが、終わった頃には寝息を立てていた。なので、コリスを専用のカゴに入れて大ジャンプ。居間にて寝かし付ける。
それからキッチンに行って、エミリに撫でられながら今日の晩ごはんは何かと尋ね、手伝っているリータ達には、オニヒメの居場所を尋ねる。
オニヒメは治療院に居ると聞いたので、役場の隣の建物にお邪魔する。
「にゃ! オニヒメも手伝ってるんにゃ~。偉いにゃ~」
「えらいにゃ~」
わしが治療院に入ると、オニヒメは怪我をした猫耳族の少年の治療をしていたので、頭を撫でて褒めちぎったら、嬉しそうな顔をした。
「オニヒメちゃんは天才にゃ~。うちの教えた事を、すぐに覚えたにゃ~」
ほう……ワンヂェンが褒めるなら、魔法の才能はピカイチじゃな。出来ればわしも、オニヒメの成長を見たかったのう。
「もうじきごはんも出来るし、帰ろうにゃ~」
「にゃ!? もう数人残ってるから、シラタマも手伝ってにゃ~」
「ワンヂェンの仕事にゃんだから、もちろん断るにゃ」
「にゃ……」
わしが即座に断った瞬間、ワンヂェンが文句を言おうとしたが、その前にオニヒメの念話が聞こえて来た。
「てつだってにゃ~」
「にゃはは。オニヒメに言われたらしょうがないにゃ~」
「にゃんでにゃ~!」
今度はオニヒメのお願いを即座に引き受けたら、ワンヂェンがツッコミを入れた。そりゃオニヒメはわしの孫みたいなものだから当然だけど、わしに人数を回さないでくれる?
ワンヂェンは、わしに怪我人を押し付けるので、仕方なくちょちょいのちょいで治す。途中からオニヒメがわしの治す姿をジックリ見ていたから、怪我ごとの魔法の使い方をレクチャーしてあげた。
けっこうな人数が居たので、こんなに怪我人がいるのと聞くと、狩りや田畑に出ていた者が、昼と夕刻に集まるから、その時間は猫の手も借りたいんだとか。今日は貸してやったけど、明日からはワンヂェンの手で我慢して!
怪我人がいなくなると役場に帰り、エミリの美味しいごはんを食べながら、冒険談を催促されてモグモグ喋り、お風呂に入って就寝になる。
そして翌朝……
「今日、出発するんじゃなかったのですか?」
「ゴロゴロ~」
「もう休憩は十分したニャー」
「ゴロゴロ~」
わしは新婚旅行の再開を急かす、リータとメイバイと戦っていた。撫でられながらも、わしは断固として動かない!
「リータとメイバイは昨日休んだからいいけど、わしは各所で働いていたんにゃ~。明日には動くから、今日はゆっくりさせてにゃ~」
「エルフの里でも、後半は寝てたじゃないですか~」
「そうニャー。寝すぎニャー」
「眠たいんにゃから、頼むにゃ~。二人の膝枕で寝かしてにゃ~」
こう言えばリータとメイバイは折れてくれるから、わしは予定通り、この日は惰眠を
翌朝は宣言通り、猫の街を立って、最後にマーキングした場所に転移。そこから戦闘機で万里の長城みたいな場所に戻る。
その跡地を空で辿り、鳥が近付くと地上に降りて走り出し、出来るだけ戦闘を避けながら東へ向かうが、壁は途切れてしまった。まぁ無いものは仕方がない。少し調査して、先へと進む。
それから二日後、戦闘機の窓から、ついに海が見えた。
「海です!」
「やっとニャー!」
「空からだと、まだ距離があるにゃ~」
「そうですけど、文献に書いてあった通りですよ!」
「文献に、嘘は無かったと言う証明ニャー!」
ふふん。二人は珍しく興奮しておるな。長い旅じゃったから、わからんでもない。いや、わしも興奮しておる。二人が騒ぐから、冷静になってしまっただけじゃ。
あの先に島があるのか……。黒い森の中にも人が居たんじゃから、海を越えた先にも間違いなく人がおるじゃろう。
「さあて、今日は海までがんばって行こうにゃ~!」
「「「「にゃ~~~!!」」」」
リータ、メイバイ、コリス、イサベレの、気の抜けた掛け声を聞きながら、旅は続くのであった。
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