037 出発だにゃ~
我輩は猫又である。名前はシラタマだ。二つ名はチートジジイではない!
先日、女王に外出許可をもらう為に試験を受けたが、そのせいでみんなのわしを見る目が変わってしまった。なんとか恐怖心を取り除く為に、愛想振り撒きキャンペーンの真っ最中じゃ。
効果の程はさっちゃん120%、女王100%、ソフィ60%、ドロテ……マイナス20%ってところか。てか、ドロテの
外出は、女王に許可をもらったので試験から三日後となった。これはさっちゃん暗殺犯の準備期間じゃ。来てもらわんと困るからのう。
場所はさっちゃんの強い希望で、北に馬車で二日掛かる、ベネエラと言う街に決まった。なんでも大きな湖のある街だそうだ。
さっちゃんはまだ暑いから泳ぎたいとのこと。命の危機が迫っているのに、遊びたいとはさっちゃんらしい。
女王に頼んでいた兄弟達に掛かっていた魔法も解いてもらった。兄弟達に掛かっていた魔法は契約魔法と言うものらしい。
この国ではその昔、人間の奴隷によく用いられたらしいが、今では犯罪者への罰と、ペットやハンターが戦闘に飼う獣に使っていると言う。文化レベル的に、まだ奴隷がいると思っていたが、意外と人権意識があるみたいじゃ。
契約魔法を解いてもらったんだから兄弟達に帰ろうと言ったが、わしの望みは聞いてもらえなかった。わしが城に来た事で、食事のグレードがアップした事が裏目に出てしまった。
でも、一度は戻る事を約束してくれたので、そのまま森に帰す予定だ。それと人間に攻撃できるようになったので、自分に向かって来た人間以外は攻撃するなと強く言っておいたが、どうなることやら。
さっちゃん暗殺はこの三日間、準備が忙しかったのかストップしていた。このまま暗殺犯は諦めてくれたら嬉しいのじゃが、そうは問屋が卸さないだろう。
極力、名のある暗殺犯でも大量に雇って、破産してくれるのを望もう。
敵襲はなかったが、みんなの機嫌を取っていたら、あっと言う間に三日が経ち、馬車はベネエラへと出発した。
ベネエラに向かうメンバーは、わしとエリザベス、ルシウスの三猫士。さっちゃん、ソフィ、ドロテの愉快で無い仲間達。それに加え、伝令役に王国魔法使いのアイノ。
アイノは騎士と違って身軽な服装をしている。おさげ髪にローブを着ているのでトンガリ帽子を被らせたら魔女っ子になりそうじゃ。
魔法も、攻撃魔法をそこそこ使えるみたいだ。通信魔道具は便利そうだから、今度、どうやって作るか聞いておこう。
顔合わせの時に、変身した人型を見せたら「かわいい」と抱きついて来よった。人(猫)なつっこいのか馴れ馴れしいのか、すぐに敬語から子供に話すように「猫ちゃん」と喋り掛けてきた。かと言って、ソフィのように堅いのも嫌じゃしのう。
しかしこの城の人間は、妖怪猫又に寛大なのは嬉しいが、もう少し警戒をした方がいいと思う。
王女一行の旅としては異例な人数の少なさだが、
それに現地に着けば、王族専用のお屋敷に多少なりと人がいるから生活には困らないとのこと。食事はどんな物が出るのかと今から楽しみじゃ。
次なる食事に想いを馳せて、わし達一行はベネエラに向かうのであった。なんだか目的変わった? まぁいいか。
「揺れるにゃ~」
「馬車ですからね。そのうち慣れますよ」
やっぱり、馬車は遅いし揺れるし苦手じゃ。わしの作った車なら速いし揺れも少ないのじゃが……囮中じゃし、目立つ物は使えないな。使ったら暗殺犯なぞ、ブッち切ってしまうしのう。
馬車の中なら、柔らかそうなソファー完備じゃから少しはマシそうじゃが、見張りで中に入れんし……こんな時はこれじゃ!
「テレレ、テッテレー。揺れ軽減ネコハウスにゃ~」
うん。そろそろ青い猫に怒られそうじゃし、やめよう。
「シラタマ様、それはなんですか?」
御者台で馬を操るソフィが、わしが次元倉庫から出した物について尋ねて来る。
「この中に入ればこんにゃ揺れも、ものともしない優れ物にゃ」
「はあ。シラタマ様はおかしな物を持っているのですね」
ソフィの言い方は気になったが、わしは黙ってネコハウスに潜り込む。
屋根も付いているから強い日差しもなんのその。日焼けはお肌に悪いからのう。毛で見えないけど……
「うむ。余は満足にゃ……あ~。お客さんにゃ~」
「あれは行商人等ではないですね。どうしますか?」
前方には、二十人程の盗賊が丸太を置いて、道を
「強引に突破してもいいけど、埋めて来るにゃ。ちょっと待ってるにゃ」
「埋める?」
わしは馬車を止めるように指示を出すと、馬車から飛び降り、盗賊に向かって猫型のまま、一直線に駆けて行く。別に盗賊が好物で、猫一直線になっている訳では無い。
「なんだ?」
「毛玉が転がって来るぞ」
「ギャハハハ」
「いや、違う……なんでこんな所に!」
「ホワイトダブルだ! 気を付けろ!」
人(猫)を毛玉って笑いよった! これだから盗賊という輩は……前の盗賊もわしを見て笑っておったが、そんなに変なのかのう? 人(猫)を笑ったんじゃ。それなりの仕打ちをしてやるわい。
わしは速度を上げ、盗賊の隙間を抜けて真ん中に来ると、わしを中心に【突風】を繰り出す。盗賊達は道を空けるように吹き飛び、わしの土魔法が炸裂する。
「にゃにゃにゃにゃ~【落とし穴~】」
道の両脇に、突如、深さ6メートルの大きな落とし穴が出来て、盗賊達は一網打尽に落ちていく。
「「「ギャーーー!」」」
「ぐ、足が……」
「くそ! 何が起きた!」
盗賊共は怪我をしたみたいじゃが、全員生きてるみたいじゃのう。さてと……仕上げじゃ。
わしは土魔法で盗賊達の周りの土を操作する。盗賊達は、わしが何をしようとしているかを理解したのか騒ぎ始める。
「おい! 何しやがる」
「ここから出せ!」
「ま、待て!」
「話しを聞け。このタヌキ!」
「やめろ~~~」
数分後、盗賊達は地面から顔を出した街道の花となった。
ギャーギャーうるさいのう。それよりタヌキって言った奴はどいつじゃ! この愛らしい姿の猫をタヌキと見間違うとは、もう眼はいらんじゃろう。
わしは睨み、タヌキと呼んだ盗賊を探す。すると盗賊達は目を逸らし、静かになった。
くそ! わからん。問い詰めたいが、猫の姿では喋れない。念話は人数が多いから使うのはしんどい。とりあえず、さっちゃん達を呼びに行くか。
わしは小走りで馬車に戻ると皆に迎えられ、さっちゃんから順に感想を述べる。
「シラタマちゃん、すご~い」
「シラタマ様、お疲れ様です」
「猫ちゃんの魔力凄いのね。それにモフモフだし」
「全員生き埋め……あわわわ」
「全員生きてるにゃ! あと、モフモフは関係無いにゃ!」
「あれで生きてるの?」
「アイノは城に応援を呼ぶにゃ」
「あ、そうだね」
「人数は二十二人、埋まっている事を忘れずに伝えるにゃ」
「オッケー」
アイノは馬車の中に入り、通信魔道具を使って城と連絡を取る。わし達も馬車に乗り込み、盗賊の埋まっている場所まで進む。
「あの人数に念話は辛いから、ソフィとドロテは尋問を頼むにゃ~」
「はっ!」
「わかりました」
「わし達は暇だし、お昼にするかにゃ?」
「シラタマちゃん、ここでお昼にするの?」
「花も咲いていてキレイにゃ」
「全然キレイじゃない!」
「冗談にゃ」
わしも、こんなムサイ男共の前では食欲は湧かん。まだ事情聴取に時間が掛かりそうじゃし、盗賊の武器は掘り起こしておこう。これは、わしの取り分じゃ。
わしは土魔法と鉄魔法を操作して、剣を地中から引っ張り出す。そうして武器を次元倉庫に仕舞おうとした時に、ソフィが話し掛けてきた。
「その武器を、どうするつもりですか?」
「盗賊の財産は倒した者の物にゃ。だからこれはわしの取り分にゃ」
「いえ、シラタマ様は騎士の任務中ですので、盗賊の武器等は国庫に納められます」
「そ、そんにゃ~」
「規則です。数は控えておきますから、収納は頼みます」
「え~~~!」
「規則です」
目がマジじゃ。ソフィのケチッ! それにいつからわしは騎士になったんじゃ? 猫じゃぞ?
文句を言っても仕方ないし馬車に戻ろう………な、なんじゃと? わしの特製ネコハウスに、エリザベスが寝ておるじゃと?
「エ、エリザベスさん。そこで何をしてるんじゃ?」
「寝てるのよ。なに?」
「そこはわしの場所なんじゃが?」
「こんな気持ちいい寝床、私にこそ
「いや、それはわしの……」
「うるさいわね~。あんたの物は私の物よ」
エリザベス~! どこのガキ大将イズムを引き継いでおるんじゃ!
「シラタマちゃん。どうしたの?」
「エリザベスにわしの場所取られたにゃ~」
「あら。かわいそうに。よしよし。モフモフ~」
さっちゃん……それは触りたいだけじゃろう?
わしがさっちゃんに撫でられていると、ソフィーとドロテが戻って来た。
「シラタマ様、聞き取りは終わりました」
「どうだったにゃ?」
「顔を隠した男に頼まれたそうです。話を聞く限りでは、見付けるのは難しいですね」
「そんな怪しい男から、よく仕事を受けるにゃ~」
「金払いが良かったみたいで前金で半分。残りは成功したら受け取る予定だったそうです」
「失敗したし、もう接触はないでしょうね」
「わかったにゃ。ここは王都からの応援に任せて進むにゃ」
「「はっ!」」
盗賊を撃退したわし達は再び、ベネエラに向けて馬車を走らせる。
むう……ネコハウスを取られたからまた揺れが……うぅぅ。
「シラタマ様、お怪我でもなさったのですか?」
「ネコハウスをエリザベスに取られたにゃ~」
「……でしたら、私の膝に乗られますか? 少しは揺れが抑えられるかと……」
なんじゃろう? ソフィはえらく照れながら言っておるが……べっぴんさんにそんな言い方されると、わしも照れて乗り辛い。
そもそも人として若い女子に膝枕させる訳にはいかん。いや、猫だからセーフじゃ!
「お言葉に甘えるにゃ」
わしはモソモソとソフィの太股に登る。するとソフィは、わしを優しく撫でる。撫でられたわしはゴロゴロと声が漏れる事となった。
柔らかい……それにいい匂いもする。撫で方も優しい。ここは天国か? あ、天国なら行った事あったな。アレを天国と言うならじゃけど。
「シラタマ様の毛は、モフモフして気持ちいいのですね」
「そうなのかにゃ~?」
「そうですよ」
う~ん。ソフィも触りたかったのかな? 顔も珍しく緩んで、優しく見える。普段もべっぴんさんじゃが、今のソフィは格別じゃのう。
「ソフィは、にゃんでわしを様付けで呼ぶにゃ?」
「それはサンドリーヌ様のペットですから当然です」
「ペットじゃないにゃ。友達にゃ」
「そうなんですか?」
「だから、そんなに畏まらないで欲しいにゃ」
「いえ。サンドリーヌ様の御友人なら、なおの事です」
「ソフィは堅いにゃ~。そんなんじゃ、婚期を逃すにゃ~」
「い、いま……な、なんとおっしゃいましたか?」
「にゃ、にゃんでもないにゃ~」
お~。こわっ。地雷を踏んでしまった。この話は禁句じゃったか。
「ソフィ。そろそろお昼にしよう……」
わしとソフィが話をしていると、馬車の中からアイノが顔を出した。
「あ~! 猫ちゃんとソフィがイチャイチャしてる~」
「そ、そんなことしてません!」
「し、してないにゃ~」
「二人で言い訳なんて、ますます怪しい! サンドリーヌ様~」
「待て!」
「待つにゃ~」
この後、さっちゃんに浮気だなんだとこっぴどく怒られた。
なんでじゃ~~~!?
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