359 大発見にゃ~!!
戦闘機が謎の攻撃を受けて墜落し、皆の無事を確認してからわしが戦闘機を飛び降りると、大勢の生き物が木の間から現れ、驚きのあまり固まってしまった。
ひ、人じゃ……人じゃ~! 男も女も、全員メイバイと同じくアジア系の顔。服装は緑色の軍服? どこかで見たような……中国の人民服みたいな服装じゃな。
しかし、全員耳の形がおかしい。……エルフ? 皇帝みたいに横に長い……
まぁ今は見た目は置いておこう。話し掛けてみるか。誰ひとり武器も持っていないし、敵意は無いのかな? いや、強い殺気と戸惑いが感じられるな。
戸惑いの理由は謎じゃ……うん。わしが猫だからじゃ! と、ツッコンでいる場合じゃなかった。
ひとまず挨拶からじゃ。
「ハローにゃ~」
「×**##××!?」
「××#*#×*×#??」
わしは気さくに声を掛けてみたが、反応はあるけど、何を言っているかわからない。
あれ? 言葉が通じない……。この世界は英語を使うんじゃないのか? てか、怒ってるのかな? 早口で捲し立てるからさっぱりわからん。でも、どこかで聞いた事があるような……
わからんもんは仕方がない。念話を使ってみよう。狙うは、一番偉そうな無精髭の男と、優しそうで綺麗なお姉さんでいいじゃろう。
「あ~……ちょっといいですかにゃ?」
わしが二人に念話で話し掛けたらキョロキョロとしたあと、わしに焦点を合わせる。
「頭の中で声がした……」
「そうにゃ。わしが語り掛けているにゃ」
「この化け猫がか!?」
お姉さんは不思議そうにわしを見て、無精髭の男はわしを化け物呼ばわりする。だが、そんな反応は慣れっこのわしだ。冷静に話を進める。
「オッサン! 化け猫とは失礼にゃ~!!」
いや、ちょっと腹が立って、怒ってしまった。
「オッサンだと~!!」
「お姉さんはかわいいと思うにゃろ~?」
「う~ん……まぁ……見た目は?」
「見た目だけじゃないにゃ~。撫でても引っ掻いたりしないにゃ~」
わしが猫を被って……元々猫のわしが、かわいさを振り撒いて交渉していたら、戦闘機からメイバイとリータが顔を出した。
「シラタマ殿~? まだ降りちゃダメニャー? え……」
「うそ……人がいます……」
その声にオッサン達が反応し、何やら騒ぎ出したので、わしはリータに指示を出す。
「リータ! コリスを出さないようにしてくれにゃ!」
「は、はい!」
「メイバイは! ……ややこしいかにゃ?」
「なんの事ニャー!」
猫耳の事じゃけど……わしよりマシか?
「まぁいいにゃ。降りて来てくれにゃ」
「納得できないニャー」
そうしてメイバイはぷりぷりしながらわしの隣に立ち、わしの頭を撫で撫でする。そのせいで喉がゴロゴロとを鳴ってしまうが、そのままお姉さん達に話し掛けてみる。
「にゃ~? 化け物だったら、人間にゃんかに撫でさせないにゃ~」
「しかし……」
わしの念話で二人の警戒が少し和らいだが、よけいな奴が戦闘機から顔を出してしまった。
「コリスちゃん! 待って!」
「モフモフ~。まだ~?」
「化け物よ!」
「やはり敵だった!」
コリスがリータの制止を聞かずに顔を出すと、戸惑いが消えて、明確な殺意が飛んで来る。
「待て! 待つにゃ! わし達は闘う意思は無いにゃ~!!」
「化け物は排除する!」
わしと話をしていた不精髭のオッサンは聞く耳持たず。腰を落として拳を構える。
「だから話を聞いてくれにゃ~」
「死ね~!」
オッサンは、一瞬でわしの目の前に現れて拳を振るう。かなり速いスピードであったが、人間としてはだ。
わしはひょいっと避けて、メイバイ達に指示を出す。
「メイバイは戦闘機に戻ってにゃ。みんにゃもそこから出ずに、隠れているにゃ~!」
「わかったニャー!」
メイバイがダッシュで戦闘機に飛び込むと、ハッチが固く閉じられる。ガラスは無いが、いざとなったらリータの【光盾】で塞げば黒魔鉱の外装と相まって、簡単には壊せないだろう。
メイバイが戦闘機に走って行ったあとも、オッサンの攻撃は続き、わしはパンチキックの嵐をぴょんぴょんと避けて、説得を繰り返していた。
「聞いてにゃ~」
「聞こえない!」
「ぜったい聞こえてるにゃ~」
「うるさい!」
「ほら~。お姉さんもにゃんか言ってくれにゃ~?」
「私に言われても……」
「助けてにゃ~」
わしが「にゃ~にゃ~」叫びながら避けていると、一人ではとらえられないと察したオッサンは、五人の男を呼び寄せてわしを囲む。
「すばしっこい奴だが、これで終わりだ」
「どうしたら話を聞いてくれるんにゃ~?」
「聞く必要はない!」
「じゃあ、一騎討ちをしようにゃ?」
「ハッ。囲まれたら、急に
「別にこんにゃの、数の内に入らないにゃ」
「強がっていても、もう遅い。お前達、一気に仕留めてやれ!」
「「「「「おう!」」」」」
オッサンの指示を聞いた五人は、ジリジリと距離を詰める。
はぁ……どうしてこうなった? わしが何か悪い事をしたと言うのか? あまり力を見せびらかしたくなかったが、致し方ない。やっちゃおう。
わしがニヤケ面から真面目な顔に変わった瞬間、場の空気が変わり、それに耐えられなくなった一人が飛び込むと、残りの四人も同時に拳を振るう。
わしは最初に飛び込んだ男にネコパンチ。するりと包囲も抜けてしまう。
強さ的にリータ達とほぼ変わらないので、一般人を相手にする時より五倍ほど強い力で殴ってみたのだが、男は腹をさする程度で倒れてくれない。
その攻撃で、わしが弱いと勘違いした男達は、また一斉に飛び込んで来た。
かなりのスピードであったが、わしに掛かれば飛んで火に入る夏の虫だ。さっと避けて、今度は十倍ほど強めたネコパンチを五回放ち、その輪を抜けた。
「にゃ~? 数にならなかったにゃろ?」
「うそ……」
「我が里の精鋭が一瞬で……」
精鋭か……たしかに、人間としては強かったな。リータ達と同レベル。オッサンに関して言えば、その上を行っておる。これも長い間、黒い森の中で生活しているからじゃろうな。
「それで、まだやるにゃ?」
「当たり前だ! 俺の命に懸けて里を守る!!」
「あの~……最初っから言ってるんにゃけど、まず話をしようにゃ。敵意はないと言ってるにゃ~」
「化け物の
う~ん。頭が固い。猫耳族と初めて会った時の事を思い出してしまうわい。いや、ご先祖様効果があったから、まだマシじゃったか。
わしが考え事をしている間もオッサンは拳を振るい、かする事もしない。蹴りも放つが、わしはそこにはいない。後ろに回り込んでポテチをポリポリしている。
オッサンは、わしがポテチをポリポリしているのが気に食わないのか、怒りに任せて攻撃が雑になって来た。
そんな中、お姉さんがわしの味方になるような事を言い出した。
「隊長。猫さんは、本当に敵意が無いように見えますが……」
その声に、隊長と呼ばれたオッサンは振り返って怒鳴る。
「リンリー! 化け物の味方をする気か!!」
「味方と言うより、隊長の攻撃は当たらないので、話し合って帰ってもらう方向に持って行けないかと……」
「このムカつく猫に、一発入れない事には俺の気が済まん! 見ろ! 何か飲んでほっこりしてやがるぞ!!」
あら? オッサンは激オコじゃな。リンリーって子と話に夢中になっていたから休憩していただけなのに……。じゃが、いまの言い分じゃと、一発殴らせたら話し合いをしてくれるのかな?
どうせ痛くないじゃろうし、一発ぐらいもらってやるとするか。よっこいしょ。
わしが立ち上がって膝に付いた
「ぐふっ……」
その突きで、わしは両膝を地面につける。そう、演技だ。いや、演技のつもりだった……
な、なんじゃ? 超痛いんじゃけど……胸から背中に何かが通り過ぎた。違う……内側から何かが破裂したような……
「ハッハー! どうだ! 化け物を討ち取ってやったぞ!!」
わしが攻撃の威力に驚いていると、オッサンは嬉しそうに声をあげる。その声に、わしはイラッと来るが、大人の対応で話し掛ける。
「一発殴らせてやったんだから、話をしようにゃ~」
「う・そ・だろ……」
「にゃにが?」
「俺の内気功を喰らって、まだ生きているだと……」
「超痛くてビックリしたにゃ」
わしの発言で、オッサンは目をパチクリしながら質問する。
「……それだけか?」
「まぁそれだけにゃ。それで話を聞いてくれるかにゃ?」
「仲間も殺されているのに出来るか!」
「殺してないにゃ~。ちょっと腹を殴っただけにゃ。いきなり襲い掛かって来たのはそっちなんにゃから、わしを怒るのも筋違いだからにゃ?」
「そんなわけは……」
「もういいにゃ! オッサンとは話にならないから、リンリーさんだったかにゃ? 向こうでちょっと話をしようにゃ~」
「え、ええ……」
「リンリー!」
ひとまず全体から殺気が消えたので、リンリーを誘ってティータイム。テーブルの上に乗せたケーキと紅茶をご馳走してあげた。
「美味しい……」
「にゃ~? わし達は敵じゃないにゃ」
「まぁあなたはこちらから仕掛けても、終始対話を求めていたから敵ではないと思うけど、大きな白い獣もいたじゃない? 危険だわ」
「ああ。あの子はわしの妹分のコリスにゃ。そしてわしはシラタマにゃ。それでわし達の目的はだにゃ」
長い説得から、短いわしの説明。最後は長い質疑応答となり、リンリーは次々と質問して来る。
それはケーキじゃ。そっちの黒いのはチョコじゃ。紅茶も初めてじゃと? もっと甘い物を寄越せじゃと? そんな事より、わしの話を聞いておったか?
リンリーはお菓子の質問ばかりして来るので、目的を思い出させてやったが、おかわりはまたあとでじゃ!
「私達以外に人間が生き残っているのにもビックリだけど、森を越えて来た理由が新婚旅行って……」
ようやくリンリーは話に戻ってくれたが、わし達の目的に驚いているようだ。
「わしも人が居てビックリしてるにゃ。出来れば、リンリーの住んでる所に泊めて欲しいんにゃけど、ダメかにゃ?」
「私の里に?」
「あの黒い乗り物は飛行機と言って、空を飛ぶ乗り物なんにゃ。それが壊れたから、修理が必要にゃ。ここだと、いつ獣に襲われるかわからないにゃ~」
「その黒い物は乗り物だったの!?」
どうやらリンリー達は、戦闘機を黒い鳥が落ちたのだと思って狩りに来たようだ。そこから得体の知れない生き物が現れたから、代わりに狩って帰ろうとしたらしい。
「ふ~ん……食べ物に困っているのかにゃ?」
「いえ。去年までは辛かったけど、なんとか乗り切れて、今年は豊作だったからそれほどよ。ただ、ここは動物が少ないから、貴重な栄養源なのよ」
「じゃあ、宿泊費で獣を払うにゃ。にゃんだったら、塩や砂糖を払ってもいいにゃ」
「本当!?」
「獣にゃら、腐るほど持ってるからにゃ」
「ちょっと待ってて!」
リンリーは慌てて立ち上がり、オッサン達の元へ向かおうとするが、振り返って質問して来た。
「ところで、西には立って歩く猫がいっぱい居るものなの?」
「そうにゃ。普通に歩いているにゃ」
「そう。じゃあ、話をして来るわ」
「にゃ……」
信じたの? わしの渾身のギャグじゃったのに……。ツッコミが無いのは寂しいのう。
リンリーを見送ったわしは、何か物足りなくてモヤモヤするのであったとさ。
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