358 また落ちたにゃ~


 黒い森の中で、建物や瓦礫を発見したわしは、戦闘機の降りられそうなポイントを探して着陸する。

 外に出ると、すぐに調査に取り掛かりたかったが、コリスがわしを抱きかかえて離さないので、お昼の準備をして食べ始める。


 やはり損傷が激しいな。残っている建物は極僅ごくわずかじゃ。しかし建物は建物でも、外壁っぽいか? 建物以外に、壁が所々に残って、西から東に続いておる……

 なんの為に作られたかわからないが、空から見ても長そうじゃったし、万里の長城みたいじゃな。まぁそんなわけはないじゃろう。

 さっさと食べて、調査に取り掛かるか……はて? わしの弁当がからなんじゃが、もう食べ終わっていたかのう? いやいや。


「コリス~。お腹すいてるからって、わしの物まで食べたらダメにゃ~」

「モフモフがぜんぜん食べないから、いらないとおもったの~」

「……食べたかったからにゃろ?」

「えへへ~」

「しょうがないにゃ~」


 弁当は諦めて、わしは適当な食べ物をモグモグしながら、リータ達と調査方法を話し合う。


「とりあえず、この周辺を調べてから、東の方角に進んでみようにゃ」

「わかりました。でも、こんなに長い区間に建物なんて、なんの為に作ったのでしょう?」

「さあにゃ~……にゃにかから守る為に、土地を隔てたってのはにゃんとなくわかるけど、それ以外の目的はにゃ~」

「きっとご先祖様が作ったニャー!」

「にゃはは。それだと面白いのににゃ~。まぁ可能性は低いだろうにゃ~」



 そうしてデザートまで平らげたわし達は、外壁の調査に取り掛かる。


 まずは残っている建物。扉があったであろう場所から入るが、中は荒れており、人が歩くには危険すぎるので、体重の軽いわしだけ入って階段を上る。

 いまにも崩れそうな階段を慎重に進み、二階に上がると薄暗いので光の玉で照らし、床に開いた穴を避けて歩く。

 二階でも階段を見付けて歩を進めるが、辿り着けずに床が抜けてしまった。


「「「「あははは」」」」


 ドスーンと落ちたわしは瓦礫に埋もれ、皆に笑われて恥ずかしくなる。


「笑わなくてもいいにゃ~」

「だって~。みんなで落ちて来るんじゃないかと話してたら、落ちて来たんですもん」

「シラタマ殿はドジなところがあるからニャー」

「ドジじゃないにゃ~。思ったより床がもろかったんにゃ~」

「はいはい。それで何か見付かりましたか?」

「むぅ……適当に返事したにゃ~」


 リータとメイバイの言葉にわしがヘソを曲げると、皆で撫でながら慰めてくれるけど、撫でたいだけじゃろ? ほこりが舞うからって、もうやめたし……


 それから気を取り直して建物の調査を再開したが、特にめぼしい物も見付からずに、屋上に出た。


 ふぅ~ん……なるほどのう。三階は見張り台で、二階から壁の上を移動できたんじゃな。落ちないように柵もあるし、床も整備されてたっぽい。東に向けて、この壁が続いていたんじゃろうな。本当に万里の長城みたいじゃ。

 ほとんどが崩れてしまっているから、完全修復するには難しいじゃろうな。完全な姿を見たかったが、わししか作業員がいないんじゃ面倒じゃ。目に焼き付けて、先に進むとするか。


 わしが屋上から飛び降りると皆が駆け寄り、感想を聞くので見たままを伝える。遠い昔に思いを馳せているのはわしとメイバイだけのようだが、何者が作ったのか気になるのか、リータとイサベレも興味があるようだ。


 着陸した場所の調査が終わると東に向けて走り、残っている建物を見付けると少し調査して先に進む。

 瓦礫の上を走るので、若干、移動距離が減ってしまう。しばらく走っていると、目新しい物も見付からなくなって来たので、戦闘機に乗って空からの調査に変更。

 空から見れば、長い距離の壁だったと見せ付けられて、わし達の話が弾む。だが、イサベレから鳥の驚異が迫っていると聞いて、すぐに着陸する。


 そこから走って東に向かい、数匹の獣と出会っただけで、今日の探索は終了。夜営の準備に取り掛かり、ぺちゃくちゃと夕食を済ませて、「にゃ~にゃ~」とお風呂を済ませる。

 わしが「にゃ~にゃ~」と言っていたのは、もちろんセクハラを受けて泣いていたからだ。もう泣き寝入りだ。



 そして翌日、地下に掘った穴からい出したわし達は、準備を済ませて空を行く。

 鳥が近付けば地上に変え、獣と出会えば戦ったり追い払ったりし、虫が迫れば空に逃げ、壁の上から移動しないように進む。


 相も変わらず、わし達は騒ぎながら東へ進み、昼食を終えて戦闘機で移動していたら、リータが何かを見付けたようだ。


「アレなんて変わっていません?」

「アレにゃ?」


 わしはリータの指差す南の方角を眺める。


 ほう……白い木の群生地が四ヶ所、近い場所に集まっておるな。その中に黒い森がある。黒い森が生まれた理由はスサノオから聞いたからわかるが、白い木の条件はいまだに正確な理由がわからん。

 魔力が関係しているのは確実なんじゃが、その魔力が、何故、そこに溜まるのかも謎じゃ。

 しかも、今回は四ヶ所が隣接して固まっている。こんなに近くに集まるなんて、確かに珍しいのう。


 皆と相談した結果、空から近付いてみようとなり、わしは南に機首を向ける。その場所に近付くにつれて、白い木の群生地が、今まで見た中で一番大きな群生地だと見て取れる。

 皆も感嘆の声を出して眺めていたが、その声は驚きへと変わった。


「にゃ……」

「シラタマさん……アレって……」

「煙ニャ! 煙が見えるニャー!」

「人が……いる?」


 そう。白い木の群生地の中にある、黒い森の真ん中から煙が上がっていたのだ。これには、リータとメイバイに続き、普段表情を変えないイサベレまでもが驚きの表情となった。


「大発見ですよ!」

「生き残りを見付けたニャー!」

「ま、待つにゃ。落雷かにゃにかで、木が燃えているだけかもしれないにゃ」

「でも、そんな音、最近しなかったですよ?」

「獣が魔法を使って燃やした可能性もあるにゃ」

「あ……ご先祖様も使っていたニャ……」

「まだ人と決め付けるには、情報が少ないにゃ。ちょっと危険だけど、あの場所に向かうって事でいいかにゃ?」


 わしの質問に皆は頷き、煙の上がる場所への探索が決まった。


 そうしてしばらく空を進むが、黒い木も背が高いので、煙の正体はなかなか確認が取れない。しかし、森が焼けたような状態は見て取れないので、近付けば近付くにつれて、人が火を起こしている可能性が高くなって来た。


 わし達は期待が高まり、機内は興奮状態になる。しかしその時、イサベレが大きな声を出した。


「ダーリン! いますぐ左に避けて!!」

「にゃ~?」

「早く!!」

「う、うんにゃ。これでいいかにゃ?」


 イサベレが珍しく焦って指示を出すので、言われるままに、左に機首を振る。すると、南にある白い木の群生地がキラッと光った。

 その直後、戦闘機の右側をエネルギー波が通り過ぎた。


「にゃ、にゃんだったにゃ!?」

「まだ来る! 次は右!!」


 先ほどのイサベレの指示は正しかったので、わしはすぐさま機首を振って移動する。今度はいきなり戦闘機を傾けたので、リータ達が浮き上がってしまった。

 機内はさっきまでの和やかな雰囲気は無くなって緊張感が高まり、また南からエネルギー波が放たれる。


「東からも来る!」

「わかったにゃ!」

「あ! 西からも……」

「にゃんだと~!?」


 そこからは、白い木の群生地三ヶ所からエネルギー波が放たれて、右へ左へ、上や下へと機首を振り、戦闘機はほとんど錐揉きりもみ状態で空を行く。

 リータ達は「キャーキャー」と悲鳴をあげ、コリスにしがみついて揺れに耐えようとするが、右へ左へ体が流れる。

 わしはコックピットに乗っているから固定されて問題無いが、戦闘機のすぐそばをエネルギー波が通り過ぎるから、皆にかまっている余裕が無い。

 エネルギー波は大きく、おそらく一発喰らえば、戦闘機は墜落する。逃げるように進行方向を変えたいが、連続して放たれるエネルギー波のせいで、その余裕も無い。


 それでもなんとかエネルギー波を避けて、北にある白い木の群生地上空に入ると、イサベレから待ったが掛かる。


「進むな!」

「む、無理にゃ~! にゃんかヤバイにゃ??」

「下! 下からも来る!!」

「うそにゃろ!?」

「避けて~~~!!」

「こんにゃろ~~~!!」


 イサベレの叫びに応え、わしは戦闘機の横に【突風】を当て、強引に機体をずらす。その直後、エネルギー波は垂直に通り過ぎたが、安心している暇は無い。

 四ヶ所から、次々とエネルギー波が放たれ、錐揉みしながら飛ぶが、一手、悪手を打ってしまった。


「「「「キャーーー!」」」」

「にゃ!? 翼が……」


 下から来るエネルギー波を避けた瞬間、東と西から同時に放たれたエネルギー波を避けきれず、左翼に当たって折れてしまった。


 や、やっちまった……まさか黒魔鉱の装甲を一発で打ち破るとは……いやいや、考えている暇は無い!


「き、緊急着陸にゃ! 衝撃に備えろにゃ~~~!!」


 わしは風魔法を機体にぶつけてバランスを取り、エネルギー波を掻い潜り、高度を下げて行く。すると、ギリギリ白い木の群生地を抜け、黒い木に衝突し、へし折りながら、戦闘機は墜落する事となった。

 その衝撃でガラスは割れ、地面に着くと戦闘機は転がり、ようやくスピードが落ちた頃に黒い木とぶつかって、ひっくり返って止まるのであった。



「ふぅ……。にゃんとか着陸できたにゃ。みんにゃは無事にゃ?」

「無事で~す」

「なんとかニャー」

「わたしもだいじょうぶ~」

「ん。痛かったけど、無事」


 リータ、メイバイ、コリス、イサベレの声を聞いて、わしはため息をつく。


「はぁ……また墜落しちゃったにゃ」

「「プッ……」」


 わしが愚痴を言うと、リータとメイバイが小さく吹き出した。


「「「「あははははは」」」」

「にゃははははは」


 それに釣られて、全員大爆笑。緊張の糸が切れてしまったので、致し方ない。それに人間、怖い思いをしたあとは、笑ってしまうものだ。わしは猫じゃけど……

 だが、何者かが攻撃して来た危険な森だ。笑っている時間も無いので、土魔法を使って戦闘機の上下を戻してハッチを開ける。

 皆には、安全確認を済ませたら声を掛けると言って、わしは戦闘機から飛び降りた。


 そうして探知魔法を使おうとしたその時、木の間から生き物が続々と現れ、わしは驚きのあまり、固まってしまうのであった。

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