243 猫と人の接触にゃ~
「「ゴロゴロ~」」
リータとメイバイに、撫で続けられていたわしとワンヂェンであったが、ついに行動に移す。
口で話すとハモってしまいそうだったので、念話で話し掛け、和解してから暴れる。
「「離すにゃ~~~!!」」
「あ、ダメです」
「暴れちゃダメニャー」
「「ゴロゴロ~」」
わしはリータの締め付けで失敗。ワンヂェンは力が弱いのか、メイバイから脱出出来ないみたいだ。わし達は一時脱出を諦め、「ゴロゴロ」言いながらチャンスを待つ。
そのチャンスは予想通り、早くに来た。リータとメイバイの、ぬいぐるみ交換だ。この瞬間が来るのをおとなしく待っていたと言う訳だ。
二人から同時に引き離された瞬間を狙って体を揺すり、同時に脱出。距離を取り、背中を丸めて臨戦態勢。
「「シャーーー!」」
威嚇の声をあげる。
「あ……調子に乗り過ぎました」
「ごめんニャー。戻って来てニャー」
わしとワンヂェンは目配せし、頷くと、ゆっくりとリータ達に近付く。だが、メイバイが動いたので、また離れる。
「もう何もしませんから~」
「絶対触らないニャー」
わし達はその言葉を信じてゆっくり近付く。だが、わしだけメイバイに捕まった。
「騙されたにゃ~!」
「騙してなんかないニャー」
「そうですよ。私達はワンヂェンさんに言っていたんですよ」
「そうにゃの?」
リータの言葉にワンヂェンが信じようとするので、わしは二人の本性を暴露する。
「ワンヂェン。騙されるにゃ! 絶対、捕まるにゃ~」
「二人は近付いて来ないにゃ~」
「にゃ……助けてにゃ~」
「なんで私が抱くのは嫌ニャ? ひどいニャーーー」
どうやら二人は真実を語っていたようだ。なので、メイバイに抱かれたわしはワンヂェンに助けを求めるが、メイバイを泣かせてしまった。
「にゃ!? 泣くにゃ~。そう言う意味じゃないにゃ~」
「シラタマが泣かしたにゃ~」
「ごめんにゃ~。泣きやんでにゃ~」
……あれ? なんでわしが謝っておるんじゃ。二人にぬいぐるみ扱いされているのが嫌で、逃げていたはずなんじゃが……
「許すから、ずっと抱かせて欲しいニャー」
え? 許された。わしが悪いことしたのか? また泣かれても困るし、ぬいぐるみになるしかないのか。
「わかったにゃ……ゴロゴロ~」
わしはさっそくメイバイの膝の上で撫でられ、ゴロゴロ言わされる。そんな中でもワンヂェンとの会話を再開する。
「ワンヂェンさんも、猫なんですね。シラタマさんと違った毛並みで気持ち良かったです」
再開しようとしたが、リータに取られた。
「猫だにゃ~。でも、シラタマと違って撫でられるのは苦手にゃ~」
わしも苦手なんじゃが……
「シラタマ殿も最初はそうだったニャ。でも、慣れてきたら気持ちいいって言ってたニャ」
いや、そんなこと、一度も言ったことないんじゃけど……
「そうにゃんだ……でもにゃ~」
ワンヂェンに騙されるなと言ってやりたいが、メイバイにまた泣かれると困る。ここは違う話を振るか。
「それでどうにゃ? 人族の子供、大人と触れ合ってみたけど、参考になったかにゃ?」
「どっちも撫でられてばっかりにゃ~」
「子供達はあんなもんにゃ。この二人は……わしで慣れてしまっているからにゃ。普通はここまで撫でて来ないにゃ」
街の住人の、わしに対する接し方を説明していると、リータとメイバイも加わる。
「そうですね。シラタマさんと初めて王都を歩いた時は、凄い騒ぎでしたけど、近付いて来ませんでしたね」
「他の街や国に行った時は、もっと凄かったニャー。剣も向けられたニャー」
「懐かしいにゃ~」
「そんな中で、よくそのまま歩けたにゃ~」
わしが行ったいろんな街での出来事を聞いたワンヂェンは、呆れているように見えたので、補足しておく。
「わしが初めて歩いた国は、みんにゃ優しかったからにゃ。だからかにゃ?」
「この国はどうにゃろ……」
「さっきも言った通り、ワンヂェンには猫耳族っていう強い味方がいるにゃ。そう心配しなくても大丈夫にゃ」
「でも、巫女様って呼ばれるのはにゃ~」
「それにゃら、違う国に行くかにゃ? わしの住んでいる国にゃら、ワンヂェンも受け入れてくれるにゃ」
「それも面白そうにゃ~」
「まぁこの国が落ち着いてから考えようにゃ。出来るだけ協力するにゃ~」
「ありがとにゃ。協力と言えば、変身魔法はどうなったにゃ?」
変身魔法? ……あ! 教える約束しておった!!
「忘れてたにゃ~」
「ひどいにゃ~!」
「いまから教えてもいいんにゃけど……魔力量が足りるかどうか、わからないんだよにゃ~」
「そんにゃに必要にゃの?」
「かなり必要にゃ。維持にも必要ににゃるから、ちょっと見させてもらっていいかにゃ?」
「見るって、にゃにするにゃ?」
「水魔法を九割の魔力を乗せてやって欲しいにゃ」
「わかったにゃ~」
わしとワンヂェンはシェルターから外に出て、お堀に移動する。関係ないリータとメイバイも何故かついて来た。お堀に着くと、さっそく水魔法を使って水の玉を出してもらう。
ワンヂェンは呪文を呟くと、大きな水の玉を作り、お堀に落とした。
う~ん。魔法が得意と言っていたが、こんなもんか。まぁ直径8メートルもの水の玉を作れれば、人間からすればトップクラスじゃな。猫じゃけど……
じゃが、これでは足りない。発動は出来ても、維持であっと言う間に魔力が枯渇する。
「どうにゃ?」
「魔力量は多いかにゃ? けど……」
「足りないにゃ~?」
「足りないにゃら、増やせばいいにゃ。いい魔法を教えてあげるから、屋上に移動しようにゃ」
また階段を上り……は、面倒臭かったので、皆を風魔法に乗せて、一気にショートカット。屋上で吸収魔法を教える。ノエミには教えたくないので、酒瓶を遠くに投げておいた。
ワンヂェンは簡単に教えるだけで吸収魔法をマスターしたが、リータとメイバイは出来ないと泣き付く。仕方がないので、もう少し詳しく説明している間に、ワンヂェンはワンランクアップ。わしの出した土の玉を魔法で吸収させる。
少し時間が掛かったが、これもクリアー出来たので、あとは長時間維持できるように練習を言い渡す。
リータとメイバイも、なんとか使えるようになったけど、吸収率が悪いのか、わしの作った土の玉を吸収して消す事が出来ていない。こちらも自主練習を言い渡し、その間に猫耳族の宴に顔を出す。
宴の輪に加わると、もう太陽が落ち掛けていたので、お開きになって片付けに取り掛かっていた。
ウンチョウとコウウンの話し合う場に入り、今日は使えそうな家で、軍を休めるように指示を出し、会議は明日すると言ってシェルターに戻る。
シェルターに入ると、皆、順番にお風呂に入ってもらい、大人組と晩酌。明日は忙しいので、軽めの飲み会で解散する。
シェンメイは子供達と寝ると言うので、女の子部屋にご案内。ワンヂェンは悩んだ結果、撫でられる心配のない車のソファ-で寝る事となった。
翌朝、目を覚ますと、二人に撫でられてゴロゴロ言っていたらしく、ワンヂェンにうるさかったと文句を言われたけど、しらんがな。
ワンヂェンにポコポコされながら朝食を済ませたわしは、ウンチョウが使っている家にお邪魔する。
「おはようにゃ~」
「おはようございます」
「みんにゃ、食事は済んだにゃ?」
「はい」
「じゃあ、シェルターに移動しようにゃ。武器は、わしが預からせてもらうけど、いいかにゃ?」
「どうしてですか?」
「シェルターの中には、人族の子供がいるにゃ。信用してにゃいわけではないけど、念の為にゃ」
「そうですか……わかりました」
わしはウンチョウとコウウンの剣を預かると、二人をシェルターの中に入れる。門を抜けると子供達が農作業をする姿があり、ウンチョウとコウウンの顔が少し曇った。
わしは二人の顔色に気付いていたが、そのまま建物に入り、食堂に案内する。食堂には事前に集ってもらっていた、大人組とワンヂェン、シェンメイが席に着いている。ちなみにケンフは、軍服から、普通の服に着替えている。
「さて、にゃにから話そうかにゃ?」
「よろしければ、この施設の事を聞きたいのですが……」
「ああ。そうだにゃ。ここは……」
ウンチョウの質問にわしは答える。この街跡に着いた時、子供達が身を寄せあって生活していたこと。それを見兼ねて、わしが強固な建物を建てたこと。そして、子供達にシェンメイが
「シェンメイが、そんな事を……」
「ウンチョウやコウウンからしたら、裏切り行為に見えるだろうけど、許してやってくれにゃ」
「「……はい」」
「まぁこれからわしが行う事は、この施設と同じにゃ。みんにゃにごはんを食べさせて、雨風の凌げる家に住んでもらうにゃ。それは猫耳族、人族、関係なく、等しく行うにゃ。わかってくれたかにゃ?」
「「はっ!」」
「他に質問が無いにゃら、帝国軍の動向を教えてくれにゃ」
「はっ! 私が……」
コウウンが立候補し、説明を始める。
帝国軍は帝都を出発し、三日進軍して山の
残念。穴が塞がった事を知られたか。帝国軍一万が留守なら、この戦争も楽じゃったのに……しかし、何故バレた?
あの場に居た者は、全員捕らえて王のオッサンに届けたから、残党は居なかったはずじゃ。念の為、可能性を潰しておくか。
「ノエミ。通信魔道具で、王都に連絡取れるかにゃ?」
「いいえ。山が邪魔だし、遠過ぎるから無理ね。一度試してみたけど、使えなかったわ」
「そうにゃんだ。もし、使えるようにするにはどうしたらいいにゃ?」
「……山の頂上に中継地点を作るとか? 定期的に魔力の補給が必要になるから、この方法も難しいわね」
頂上なんて、万年雪が積もっておるし、滞在するにはかなりの制約があるな。通信魔道具の線は消えたか。
「ケンフ。あのトンネルは、何日あれば通過できるにゃ?」
「パンダに馬車を引かせて二日です。普通の馬車だと、おそらく、その倍は必要かと……」
「にゃるほど。それにゃら、にゃんで穴が塞がったのがバレたにゃ?」
「おそらく、補給物資を運んでいた者が連絡を取ったと思います。たしか、二日遅れでトンネルを抜けると聞いていました」
略奪だけでは
トンネルが塞がったと聞いて、掘削作業。その後、もう一度進軍させるのに、兵の鋭気を養わないといけないから、一旦、引いたってところか。
「あの……王よ。よろしいでしょうか?」
わしが考え事をしていると、ウンチョウが話し掛けて来た。
「どうしたにゃ?」
「その者は帝国軍に詳しいみたいなのですが、何者ですか?」
「ああ。ケンフは元帝国軍人にゃ。兵士としてトップクラスみたいだったから引き抜いたにゃ」
「「なんですと!?」」
あら? さすがに帝国軍と聞くと、嫌悪感を
「ケンフはわしの犬にゃ。にゃ?」
「ワン!」
「わしの犬を傷付けたなら、どうにゃるかわかるにゃ?」
わしが殺意のこもった冷たい視線をウンチョウとコウウンに向けると、二人はゴクリと唾を呑み込む。
「と、言うのは冗談にゃ。ケンフは今のところ、猫耳族を手に掛けた事がないにゃ。もちろん、猫耳族を助けずに
「王がそのように望むのならば……」
「俺もかまいません」
「じゃあ、お互い握手にゃ~」
立ち上がったウンチョウとコウウンがケンフに歩み寄り、握手を繰り返す。その光景は、猫耳族と人族との和解の握手なので、本来ならば感動ものなのだが、わしは思う事がある……
言葉と態度が裏腹! 二人ともケンフに殺気を放ち、手を握り潰さんばかりに握手をしておったぞ。ケンフの手は大丈夫じゃろうか?
「ケンフ……大丈夫にゃ?」
「キャインッ!」
犬設定は今はいいから、痛いなら痛いと言え!
ウンチョウ、コウウンと握手をしたケンフは、手を痛そうにしながら席に着くのであったとさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます