279 犬と猫は反省するにゃ~


 大蟻のクイーンを倒したわしは、文句を言うコリスを宥め、残っていた黒蟻を斬り捨てた。


「ほい。終わったぞ」

「むう……モフモフ、ぜんぜん手伝ってくれなかった~」

「わっ! ポコポコするな~」


 コリスのポコポコは素でドコンドコンじゃから、一気に埋まってしまいそうじゃ。リータ達のマネをしておるのか? これからはやらないように懇願こんがんしておこう。


「危ない時には助けたじゃろ?」

「そうだけど~」

「それにあまり手を貸すと、お母さんにわしが怒られてしまう。だから、コリスも頑張って戦おうな?」

「……うん。わかった~」

「それじゃあ、みんなを助けに行こう。コリスはあっちのザコをお願いするな。終わったら、美味しい物を食べさせてやるからな」

「おいしいもの!? がんばる~」


 コリスは餌に釣られて駆け出し、大蟻を次々と叩き潰す。わしは反対側を走り、あまり見ないように斬り捨てて進み、リータ達の戦闘を見守る。


 黒蟻二匹には、ケンフとシェンメイがタイマンであたって、ザコはその他が対応しておるのか。黒蟻と比べるとケンフ達の強さは、ややケンフ達が上か? じゃが、大きいから戦いづらそうにしておるな。

 わしが加勢してもいいが、それでは二人は納得せんじゃろう。わしが相手をすると、一瞬でかたが付くしのう。



 わしは大蟻を斬り裂きながらコリスと合流すると、リータ達の戦闘に加わる。


「ただいまにゃ~」

「あ! シラタマさん。もう終わったのですか?」

「そうにゃ。残りのザコは、わしとコリスで相手するから、リータ達はケンフ達に助太刀に行ってにゃ」

「わかりました。では、私とワンヂェンさんがケンフさんの応援を。メイバイさんは、ノエミさんを連れてシェンメイさんを手助けしてください」

「わかったニャー!」


 皆が別れて黒蟻に向かうと、わしとコリスは皆の戦闘に邪魔が入らないように、大蟻を倒していく。


 ケンフの戦っていた黒蟻は、合流したリータの盾を崩せずに、ケンフの抜き手とワンヂェンの風魔法で斬り刻まれて沈黙する。

 シェンメイの戦っていた黒蟻は、メイバイの素早い動きと、ノエミの風魔法に翻弄ほんろうされ、隙をついたシェンメイの大斧に、一刀両断で斬り殺された。


 ボスクラスが倒れると掃討戦に移行。わしとコリスはバラバラに走り、リータ達は、黒蟻と戦ったパーティで大蟻を駆逐する。

 地上が片付くと、次は地下。と言っても、中に入るのは勇気がいるので、見えている穴に【火の玉】を入れて蓋をする。大蟻の蒸し焼きが完成するまで時間があるので、ここで休憩にする。



 テーブルセットを出して皆に飲み物を渡すと、わしは大蟻を次元倉庫に入れる為に走る。それが終われば、お待ちかねのランチだ。


「みんにゃ。お疲れ様にゃ~。今日は巨象のサンドイッチとスープを召し上がれにゃ~」

「「「「「いただきにゃす」」」」」


 皆、食べ物を口に入れると、あまりの美味しさに驚きの顔を見せ、むさぼり食う。当然お代わりを欲しがるので、もうひとつだけ渡す。まだ何か起こるかもしれないので、動けなくなると支障が出るからだ。


 だから、コリスがいっぱい食べてるのをうらやましく見ないで! コリスは体が大きいんじゃ! シェンメイも大きいけど、いつもそんなに食べてないじゃろ!


 食事が終わると食休み。飲み物を片手に、リータとメイバイの質問に答える。


「地下の大蟻はどうするのですか?」

「前回は動物達の手伝いがあったからにゃ~……今回はもったいないけど、埋めてしまうにゃ」

「食べ物に変わるから、なんとかならないニャー?」

「二人とも、中に入ってなかったから知らにゃいだろうけど、地下は迷路みたいになってたにゃ。この人数で手分けして探しても、一日や二日で、全てを回りきれないにゃ」

「それじゃあ仕方ないですね」

「諦めるしかないニャー」


 わし達が話をしている横では、シェンメイとケンフがコソコソと話をしている。


「前回は三人で戦ったのよね? この大群相手に、よく生きて帰れたわね」

「それに俺達が苦戦していた黒蟻より強いのも、何匹もいたんだろ? 我らの王は、俺達が思っているより化け物だったんだな」

「あの顔を見ると、信じられないわね」

「本当に……」

「顔で判断するにゃ~!」

「「あ……」」

「そう言うのは、聞こえないところでやってくれにゃ~」

「「す、すみません!」」


 わしが無駄に傷付くから、陰口ならせめて声のトーンを押さえてくれ。誰がとぼけた顔をしてるんじゃ! ……そんなこと言ってなかったか。


「にゃったく……二人は元気そうにゃし、この奥の巣にもついて来るにゃ?」

「え……今日ですか?」

「いまからはさすがに……」

「冗談にゃ。ここさえ潰せばしばらくは大丈夫にゃから、暇が出来たら攻め込もうにゃ」

「「はっ!」」

「それと探索班も作らないとにゃ~。この国に大蟻は多く居ると思うから、それも課題にゃ~」



 話が済むと【玄武】を作り出し、巣の上を走り回らせる。ドタドタと走る超重量の亀によって、穴があった場所は地盤沈下を起こして大穴へと変わる。そこに【玄武】を座らせて土に戻すと、陥没した土壌が完成した。


 【玄武】が消えると、今度はノエミとワンヂェンがコソコソと話をしている。


「あの魔法を私も使えたら……」

「あの大きさじゃ、うち達でもさすがに魔力がもたないにゃ~」

「そうね……あ! 皇帝と戦った時に似たような魔法を使っていたわよ」

「どんなのにゃ?」

「1メートルぐらいの氷の猫よ。それで三倍はある火の鳥を撃退していたわ」

「猫のシラタマが猫を作ったにゃ!?」

「そうよ。しかも撫でていたわよ」

「プッ。にゃははは」

「だから~。そう言うのは、わしの聞こえないところでやってにゃ~」

「「「「猫魔法、教えて(にゃ)~」」」」


 ノエミとワンヂェンは、わしの魔法を教えて欲しいと言って来るが、猫魔法なんて存在しない。猫の形を動かしているだけだ。

 二人にまざってリータとメイバイも教えてくれと言って来たが、しらんがな。全員でポコポコされても、難しいからわしが教えられない。


 大蟻の駆除が終わったので、ここには用が無くなったので飛行機を取り出し、皆を乗せる……


「もう、ポコポコはやめて乗ってくれにゃ~」


 ずっとポコポコされていたわしは、皆を乗せる為に今度教えると約束させられた。手形まで取られる念の押しよう。ワンヂェンと同じだけどよかったのかな?



 皆が乗り込むと飛行機は離陸して、すぐに着陸する。そして、全員を降ろしてしまう。すると、不思議に思ったリータが尋ねて来た。


「シラタマさん。ここは?」

「東の国と繋がるトンネルにゃ」

「高い壁に守られているから見えないニャー」

「まぁわしも砦があるから、そう思っただけにゃ。ケンフ。ここがトンネルかにゃ?」

「はい。掘るのに獣が邪魔になるので、囲っています」

「中で人が騒いでいるみたいにゃけど、どうしたら開けてくれるかにゃ?」

「空からあんな物が降って来たら、驚くでしょうね。俺が掛け合ってみます」

「頼んだにゃ~」


 ケンフが砦の門に近付くと、弓を構えた兵士が顔を出す。その兵士に大声で帝国は負けたと伝えたら、どよめきが起こる。さらに猫が王様になったと聞くと、笑い声が起こった。ケンフが殺気を放つからやめて欲しい。


 しばらくして勝手口が開くと兵士が出て来て、王のわしに謁見えっけんする。


「ブッ! 猫のぬいぐるみが服を着てる~! ぎゃはははは」


 その発言にわしは腹が立ったが怒る事もせず、声を掛けようとしたら、ケンフが兵士をぶっ飛ばしやがった。

 そのせいで、砦から弓矢が飛んで来る事態となってしまった。


「ケンフ~。どうしてくれるにゃ~」

「も、申し訳ありません。この責は俺にあります。このケンフ。命を懸けて、砦を落として参ります」

「そんにゃのいらないにゃ~。……もういいにゃ。わしが出張るにゃ」

「いえ。シラタマ陛下のお手をわずらわせるわけには……」

「ケンフに任せたら、よけいこじれるにゃ~」

「ク~ン……」


 わしの言葉に、ケンフは尻尾を垂らして落ち込む。尻尾が無いのに尻尾が見えるように振る舞うとは、忠犬にしてもほどがある。


「ひとまず、リータ、シェンメイ、ケンフ、ノエミ、ワンヂェンで、弓矢の中を耐えてくれにゃ。その間に、わしが制圧して来るにゃ」

「私は何するニャー?」

「メイバイは、コリスを見ていてくれにゃ~」

「う~ん……」

「頼むにゃ~」

「わかったニャー」

「それじゃあ、行っくにゃ~」

「「「「「にゃ~~~!」」」」」


 わしのお願いを聞いた皆は、飛んで来る弓矢を盾で防いだり、攻撃で叩き落としたり、魔法で防いだりしながら砦の門に向かってジリジリ進む。

 わしはその隙に、門とは離れた場所に移動して壁に飛び乗ると、弓士を峰打ちで斬り伏せる。素早く走りながら弓士を全員倒したら、内部に飛び降りて斬り掛かる敵も峰打ちでねじ伏せた。


 そうして砦内が静かになると門を開き、仲間を招き入れる。


「ケンフ。この砦の責任者を探してくれにゃ。これはケンフにしか出来ない仕事にゃ。頼んだにゃ」

「ワ、ワン!」


 ケンフは返事らしき声を出すと、尻尾を振りながら走って行った。わしが苦笑いでケンフを見送っていたら、リータがわしのそばに寄って質問して来る。


「シラタマさんが、全員気絶させるから悪いのでは?」

「いちおう聞いたんにゃけど、答えてくれにゃかったにゃ~」

「本当ですか?」

「猫、嘘つかないにゃ~」

「……本当みたいですね」

「そろそろ、わしの心を読む方法を教えてくれないかにゃ~?」

「そ、そんなこと出来ません!」

「絶対できるにゃ~!」

「モフモフ攻撃~~~!」

「にゃ!? ゴロゴロ~」


 わしの尋問を、リータは撫で回して回避しようとする。それでも質問すると、メイバイを召喚して激しい撫で回しを受ける事となった。

 わしが股間をガードしながらゴロゴロ言っていたら、ケンフが砦の責任者を引き摺って現れた。なので、心を読むスキルの謎はうやむやにされてしまった。



「で……わしが王様にゃけど、異論があるのかにゃ?」


 水をぶっかけて起こした砦の責任者、リェンジェにわしは問い掛ける。


「い、いえ。申し訳ありませんでした! 私の命は差し出しますので、部下の命だけは、どうか助けてください!!」


 リェンジェは大声で謝罪を述べながら土下座する。


「あ~。今日は王様が代わった事を伝えに来ただけにゃ。いざこざはあったけど、不問にするにゃ」

「え?」

「部下思いのお前は気に入ったにゃ。もうしばらくここに滞在して砦を守って欲しいんにゃけど、頼めるかにゃ?」

「私、一人でいいのなら……」

「一人にゃ?」

「実は、この砦には食糧がありませんので、帝国からの連絡も途絶えた事もあって、もう数日したら部下を帰そうかと考えていたのです」

「食糧があったら、部下も残ってくれるにゃ?」

「え?」


 わしは、会話しながらも顔を上げないリェンジェの肩を掴んで起こし、優しく笑って見せる。


「連絡が遅くなってすまなかったにゃ。なにぶんわしは、この国にうとくてにゃ。ここの砦に気付いたのも、昨日だったにゃ。亡国の命に従い、よく今日まで守ってくれたにゃ。ありがとうにゃ」

「い、いえ……」

「食糧にゃらわしが十分に用意するから、どうかわしに仕えてくれないかにゃ? お願いにゃ~」

「……寛大な処置をとっていただき、さらに敵国であった私を評価していただき有り難う御座います。私は王様に仕えさせていただききますが、部下には家族のいる者もいますので、少し説得の時間をいただけないでしょうか?」

「そうだにゃ……それで足りなくなるにゃら、他から補うから言ってくれにゃ」

「はっ! はは~」


 リェンジェが再度土下座をするので、わしは引き起こし、今後の話に移る。次回来るのはいつになるかわからなかったので、食糧を一ヶ月分渡し、通信魔道具を繋げるようにしたので、何かあれば連絡するように告げて砦をあとにした。


 その機内では、反省して小さくなるケンフと……


「コリスちゃんが、シラタマ殿が全然手伝ってくれなかったって言ってたニャー」

「反省してください!」


 反省してスリスリするわしの姿があったとさ。

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