619 ワイルドライフにゃ~


「にゃはは。ま、驚いているところにゃんだけど、座って酒でも飲んでくれにゃ」


 酋長しゅうちょうが驚き過ぎているので念話でテーブルに着くように促したが、座り方がわからないらしい。なので、わしが椅子を引いて実演したら、恐る恐る座ってくれた。


「コップも持ったにゃ~? では、わし達の出会いにかんぱいにゃ~」

「「「「「かんぱいにゃ~」」」」」

「「「「「かんぱいにゃ~?」」」」」


 原住民が驚きながらわし達と同じ挨拶で始まる飲み会。と言っても、寄り道しただけなので、リータ達はお茶とジュースだ。


「シラタマさんもお茶ね」

「まだ夜じゃないから早いニャー」


 わしの飲もうとしていた酒は、リータとメイバイに取り上げられたので、わしもお茶だ。


 酋長達は一口飲んだ酒のうまさに驚き、恐る恐る口に入れたサンドイッチにも驚いて、がっついて食べる。そうして酒も料理も一瞬で無くなると、同席しているわしに物欲しそうな目を向けて来た。


「落ち着いたみたいだにゃ。それじゃあ自己紹介にゃ~」


 お互い名乗って、わしが酋長みたいな仕事をしていると説明すると、カンザ族と紹介された部族の者達にめっちゃ疑われた。なので、建国記念日のアルバムを進呈。これでわかってもらえるだろう。


「人が絵に閉じ込められている……なんだこの人数は……それにウサギ……」


 いや、キャパオーバー。写真の時点で動きが鈍り、盆踊りの人数に驚愕の表情を浮かべ、大量のウサギカーニバルでは魂が抜けた。


「そうにゃ。数万人の人間をまとめるのが、このわし。あ、シラタマ王にゃ~! ……聞いてるにゃ?」


 わしの決め台詞はまったく決まらない。魂が抜けているところにやっても効果はゼロだ。仕方がないので全員分の魂を捕まえて、体に戻してアンコールするのであったとさ。



「てか、メシばっか食ってないで、そっちの暮らしも聞かせてくれにゃ~」


 酋長達は、わし達の暮らしはお腹いっぱいなので質問は来ない。その代わり食ってばかりで、話すらしてくれない。

 エサを没収すると言ったらやっと聞かせてくれたが、今まで出会った原住民とたいして変わらない暮らしなので面白味に欠ける。

 ウサギ族の情報も出て来ないし、時の賢者も砂時計も知らないようなので、ここは面白い伝承や神様は居ないかと聞いてみた。


「ふ~ん……全身金色の鳥にゃ~」

「『雷を呼ぶ者』と呼ばれている神鳥だ。集落の中央にある木像にも、お姿は彫られているのだ」

「にゃるほどにゃ~。ちょっとだけ、集落の中を見させてくれにゃ。これ、あげるからにゃ」

「おお! 好きに見て行け!!」


 お安いソードをあげたら、酋長はご満悦。案内までしてくれるので、質問しながら歩く。

 基本、わし達はカンザ族に変な目で見られるけど、一番はわし。だって猫が歩いているんじゃもん。コリスを仲間に引き入れたいところだが、巨大リスはさすがに怖がるだろうから変身を解くわけにもいかない。


 集落では食事を作っている人が居たので、つまみ食いをさせてもらって料理風景をパシャリ。あまり美味しくないから、カメラ係のメイバイもシャッターを切る回数が少なかった。

 集落の中央には木製のトーテムポールが立っていたので、リータやメイバイ達とわいわい喋る。


「これが『雷を呼ぶ者』ですか……」

「金色じゃないニャー」

「うちでは、これのことをサンダーバードと呼んでいたんだけどにゃ~。雷と鳥は共通にゃけど、同じ物かはわからないにゃ。そう言えば、酋長が見たとか言ってたけど本当かにゃ~?」

「金色の鳥……高く売れそうですね!」

「お土産に狩って帰ろうニャー!」

「いちおう神様にゃんだからそっとしておこうにゃ~」


 神殺しをしたくないわしは皆を止めるが、神様なら見た事があると反論される。だが、三柱は別格。八百万やおよろずの神が居るから、鳥でも象でもマナティでも、信仰する者からしたら神様だと説得を繰り返すわしであった。


「シラタマさんは?」

「白猫教の神様ニャー!」

「わしは神様も王様もやりたくてやってるんじゃないんにゃ~~~」


 ついでにわしまで、リータとメイバイに神の末端に加えられてしまうのであったとさ。



 カンザ族には人数分のクッキーをプレゼント。「また来るかも?」と言って離陸する。目の前で戦闘機を浮上させたせいで、カンザ族には『雷を呼ぶ者』の使いじゃないかと噂が広まったらしい……


 そんな事とは露知らず、戦闘機の中ではわしを白猫様とあがめるリータ達。


 でも、それ、お経じゃからな? 死んだ人を送る言葉じゃからやめてくれ……


 リータ達はどこで覚えたのか「なんまいだ~。なんまいだ~♪」と歌っているので崇められている気がしない。お経って言ったら「じゅげむじゅげむ」に変わったし……ま、チューの約束は忘れてるみたいじゃし、まぁいっか。


 そうして東に進むこと一時間、ミズーリ州に入った所でオニヒメが大量の獲物を見付けたらしく、全員から降りろと責められて着陸。土煙を上げて近付く獲物の方向を見ながら、ぺちゃくちゃと喋る。


「大蟻でしょうか?」

「それにしても大きくないかニャー?」


 リータとメイバイは、経験の中から大群を引き連れる獲物を当て嵌める。


「あれは……たぶんバッファローだにゃ」

「「バッファロー??」」

「牛にゃ。季節によって、大群で移動するんにゃ」

「あれが全部、牛なんですか!?」

「牛だと殺しにくいニャー」


 うちでも牛を飼っているので、珍しくリータとメイバイは殺す事を躊躇ためらう。もちろんわしだって……


 バッファローって、うまいんじゃろか? 一匹ぐらい味見したいな。


 牛なら食べてみたくなってしまった。ここのところ魚料理が多かったから、アメリカンビーフを見たから仕方がないのだ。食用は違う品種じゃけど……


「ちょっと行って来るにゃ~」

「じゃあ私も……」

「私も行くニャー!」


 皆やる気がなさそうだったので、一人で行こうとしたらゾロゾロ続く。そしてバッファローの進行方向の前で待っていたら、茶色の絨毯が迫って来た。


「あ、ロデオって遊びがあるんにゃけど、やってみにゃい?」


 なんだか全員、バッファローを一匹残らず狩り尽くしそうなぐらい怖い顔をしていたので、ちょっとクールダウン。

 バッファローが目の前まで来たら、一緒に走って並走。そしてタイミングを計って背中に飛び乗る。


「にゃはは。上手くいったにゃ~」

「わっ! ダメ、暴れないで」

「リータは下手だニャー」

「メイバイさんのそれ、違うくないですか?」


 わしは体重が軽いので、バッファローに乗っても静かなもの。

 リータはまさにロデオ。荒れ狂っていたが、首を絞めて大人しくさせた。

 メイバイは、乗り方が変。バッファローの背中に立ってバランスを取っているので、リータにツッコまれていた。


 ちなみにイサベレもメイバイ派。アレで楽しいのかさっぱりわからん。

 オニヒメはわしと同じように上手く操っているから、ちょっと楽しそう。

 コリスだけは逆。そりゃ、ほぼ同じサイズなので、バッファローに飛び乗ったら重さに耐えられず潰れてしまった。なので、担いでわし達を追って来ている。


 コリスが楽しくないと言うので仕方がない。わし達はバッファローの群れから離脱するのであった。


「にゃんでみんにゃもお持ち帰りしてるにゃ?」

「シラタマさんが持って帰って来たからです」

「私もニャー」


 全員一頭ずつ、絞め殺したバッファローを担いで離れたのであったとさ。ちなみにコリスは二頭だったけど……



 バッファローはすでに息が無かったので、わしの次元倉庫行き。今晩のおかずにする予定だ。

 そうしてバッファローの群れの最後尾を見送ったら、その後ろには違う動物が現れた。


「どうやらピューマに追われていたようだにゃ」

「バッファローの子供が捕まりそうですよ?」

「これぞ、ワイルドライフだにゃ。弱肉強食にゃ~」

「あっ! 黒くて大きいのが居るニャー!」

「メイバイさん! ズルいですよ!!」


 弱肉強食のトップは、猫パーティ。競い合って黒いピューマに走り寄り、一番先に辿り着いたメイバイが簡単に倒していた。残りは黒くないピューマが七匹。ボスをられて気が立っている模様。

 リータ達も皆殺しにしようとしていたので、わしは止める。だって、ピューマはネコ科だから、わしとちょっと似てるんじゃもん。


 ピューマには、狩り立てホヤホヤのバッファローを二頭プレゼント。黒いピューマだけ次元倉庫に入れて立ち去った。



 戦闘機で少し進めば、そろそろ夕暮れ。キャトハウスを出したけど、外でバーベキュー大会だ。


「うん。美味しいですね」

「噛みごたえがあるニャー」


 解体して焼かれたバッファローは、さっそく胃袋へ。リータとメイバイは美味しいようだ。


「筋っぽくない?」

「うん。硬いよパパ」


 逆にイサベレとオニヒメには不評。バッファローは身が硬いと意見が分かれている。


「コリスはにゃん点?」

「星みっちゅ! ホロッホロッ」


 採点の甘いコリスに聞いても皆は納得しないらしい。ぶっちゃけバッファロー肉は、常人からしたら硬いと思う。わし達だから、簡単に噛みちぎっているのだ。


「ちょっと筋肉質だからにゃ~。帰ったら、エミリに美味しくしてもらおうにゃ~」


 文句を言う者も居たが、バッファローを丸々一頭と追加の違う料理を食べたら、今日は露天風呂にキャッキャッと入る。満天の星の下なら、こちらのほうが断然楽しい。


 こうしてアメリカ大陸横断二日目は、楽しい気分のまま夜が更けて行くのであった。

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